465話 プールではしゃぐゲーム少女
広いプールであった。正直、この人口には合わないかもしれないほど広い。擬似的ではあるが砂浜が広がり、プールサイドも土っぽく見えて滑ることはない。極めて海に近く波もあるし、流れるプールや、ウォータースライダー、そしてのんびりと日光浴ができるヤシの木が生えた浜辺という海外のような場所まである。
真夏の日差しが照らす中で元気に少女たちは擬似的なものだが、浜辺に仁王立ちしていた。
「ふぉぉぉ! プールレッドリィズ!」
「てやっ! プールブルーレキ!」
「きゃー! みーちゃんはプールグリーンです!」
「おほほほ、プールイエローきゅーこ!」
プールに来たら狐耳と尻尾をつけた金髪ロングの可愛らしいコスプレ幼女がいたので、すぐに仲良くなって一緒に遊ぶことにしたのだ。ごく自然に友人になりました。きゅーこは子狐? 子狐が幼女になるのは世界の理でしょう。
そしてポーズを取る四人はセパレートタイプの水着を叫ぶ色と同じ色で着込んでいる。残念ながら、皆はぺったんこだ。どことは言わないが。
「叶得さん、プールピンクの出番ですよ、さぁ、同じ仲間としてポーズを」
「な、か、ま? どこらへんが仲間なのかしら? 言って良いわよ、遠慮なく言って良いのよ、レキ」
レキの言葉に被せて、怒りで口元を引き攣らせながらアイアンクローでレキの顔を掴む般若叶得。答えはわかっているくせにと、言いたいがさらなる怒りを買いそうで言わないことにしておく。
「あははは! そりゃ、決まってるじゃ〜ん。アタシとは違うとこでしょ」
黒のビキニを着ている英子が、胸の前で腕を組んで強調しながらニヤリと勝者の笑みを漏らす。むにょんと柔らかそうな胸が目立ち真夏の日差しの中で健康そうで、なおかつエッチィ。
そして遥は凄い英子は英雄だねと恐怖を知らない少女に感心しちゃう。エッチィとか感想を言うのは遥しかいないのでレキと呼ぶには無理があるので仕方ない。
ガルルと猛犬のような唸り声をあげ始める猛獣少女。いつでも襲いかかる準備は万端な模様。もはや、英子は風前の灯火、さようなら英子、貴女はなかなか良い人でしたと合掌をしようとしたら
「ありゃりゃ、レキちゃんはっけーん!」
「あれ、レキちゃんたちも来てたんだね」
と、椎菜と結花もやっほーと手を振りながら、てこてこと近寄ってきた。どうやら騒いでいたので気づいたらしい。
「こ、こんにちは~です、おねーちゃんたち」
椎菜の後ろに隠れるようにして、光が小さく手を振ってくる。
「こんにちは、椎菜さん、結花さん、光さん。皆さんも来ていたんですね」
ニッコリと笑って遥は挨拶を返す。光と一緒にいるところをみると、仲良くなったらしいので、他人事ながら嬉しく思う。
えへへと光がはにかむように笑って、椎菜が頭を撫でてあげるのをみて、本当に姉妹みたいだなぁとほんわかとしちゃう。
「うん、私たちも今日のイベント目当てで来たんだ〜」
にっかりと元気そうに笑う結花なので、不思議に思い首を傾げながら聞いてみる。なにかイベントなんか用意したっけ?
「主上様、本日のイベントは四季が用意してましたよ?」
コソッと近づいてきて、耳元にこしょこしょと言ってくるきゅーこに、なぬ? と初耳な内容に戸惑いながら嫌な予感がする。四季が用意した?
「マジですか? えっと、椎菜さん、どんなイベントですか?」
「えっと、チキチキ騎馬戦で勝者になろう。勝者は本部に2泊3日の豪華リゾート旅行、だね。三人一組が参加の条件だね」
「へー、全然知らなかったです。いつの間にそんなイベントが……」
偶然、こっちは六人、もしかしてきゅーこは人数合わせのために来たのだろうか。疑いが心に巣食う。疑いというか、確信だけど。というか、離れた場所でカメラを持つ盗撮銀髪メイドの姿が見えるんだけど。
「ふぉぉぉ! 妹よ、頑張ろう!」
「んじゃ、こっちはきゅーこたんと、かなたん?」
英子が後ろ手にニヤリと笑う。もう参加は決まっている様子。たしかに面白そうなので、別にいっか。
ポロリはないよ? だって悲しいけれど、レキの胸はポロリができるほどの山脈はないからね。
と言う訳で、チキチキ騎馬戦に参加することになったゲーム少女であった。
◇
擬似浜辺には大勢の人々が集まっていた。ワイワイと楽しそうにゼッケンが書かれた騎手を二人の人間が乗せている。
遥とリィズが足役。そして騎手はみーちゃんである。
「みーちゃん頑張りまーす!」
ブンブンと手を振って興奮して頬を赤くするみーちゃん。前足リィズ、後ろ足はレキである。おっさん? おっさんはプールの藻屑で良いだろう。
「ん、私たちは無敵だから大丈夫」
「頑張りましょう、みーちゃん」
リィズと遥もふんふんと鼻息荒く同意する。この大勢が楽しそうに集まっている様子にモチベーションはMAXである。だってプールって良いよね、子供は。大人だと日焼けとか疲れるからとか色々理由をつけていかなくなるのだ、特にくたびれたおっさんは。
そして、物凄い卑怯なグループでもある。優勝間違いなしであるので、さすがに手加減は必要だろう。他の面々も張り切っている様子が見える。
「妾の力を見せるときでしょう、ホホホ」
ペシペシと尻尾を振って、楽しげな幼女モードなきゅーこ。
「こら! 尻尾が痛いでしょ!」
「なんだかぁ〜、本物に見えるよねぇ、その尻尾」
素肌にペシペシとふさふさの尻尾が当たるので、痛がる足役の叶得と英子である。いくらふさふさでも勢いよく素肌に当たると意外と痛い。そして、尻尾がお尻から生えているようにも見えたりする。
「あ、あの、光もいきまーす」
椎菜と結花を足にして騎手は光である。おどおどとした様子で周りへと小さく叫ぶので
「光ちゃん、頑張りましょう!」
「そうそう、勝てる勝てる」
と、椎菜と結花が応援をするほのぼのさを見せるのであった。
「謎のポロリ職人も行きますよ!」
なんだか、騎手が銀髪メイドなグループもワキワキと手を動かして叫んでいたりもする。
「うぅ、おかしいでござる。あのアミダくじはイカサマではござらんか?」
「同意するでニンニン。口車に乗るのではなかったです」
足は謎のくノ一二人な模様。誰かはさっぱりわからないけれども。謎なので。
他の人々もわくわくとした表情で騎馬戦の準備をして、いまかいまかと始まるのを待っている。そこへマイクを持った司会が元気よく話し始めた。
「はーい! 皆さん長らくお待たせいたしました。まさか3日前に告知したイベントにこんなに人が集まって頂けるとは思いませんでした。ありがとうございます。そして司会は謎のくノ一こと霞でお送りしま~す」
ノリノリでマイク片手にくるくると身体を回転させてプールサイドで話し始める霞。水着はおとなしい蒼のワンピースタイプなので意外である。シノブと朧に謎の変態銀髪メイドもそのスタイルを隠さないようにビキニなのに。というか、銀髪メイドは際どすぎない? 紐かな?
「え~、皆さんにお配りしたヘッドバンドと指輪なんですが、指輪から懐中電灯みたいに光がでま~す。その光は有効範囲2メートル! ヘッドバンドにその光を3秒当てるとヘッドバンドが青から赤くなり、その人はゲームオーバーです。そしてこれが重要なんですが、一番最後に残っていた人が優勝ですが、準優勝はより多く人を倒した人となります。他にも色々と賞が用意されていますので、お楽しみくださ~い」
ブイッとポーズをとって霞が告げると、周りの人々はおぉ~と気合を入れた声をあげる。元気一杯でノリノリな人々たちだ。若木シティは江戸っ子気質なのか祭りを楽しむ人が多い。もしかしたら天使教が関係しているかもしれないけれど。あれは祭りを楽しもうというサークルだしね。
「参加賞はその指輪でーす。懐中電灯として持ち帰って使ってくださいね。ではでは、プールに入ってください、スタートです!」
拳を突き出して、人差し指をたててニカッと太陽のような笑みを浮かべて霞が宣言すると、笛がピーとなった。
プールの騎馬戦始まりである。
◇
遥とリィズはムフフと笑って、周りを見渡す。周りには人々がレキだと気づいて集まっていた。指輪をこちらへと向けて倒す気満々である。
「むぅ、有名人はこれだから困る。3姉妹揃って有名人」
フンスと息を吐き得意気に口を開くリィズであるが、水がちょうど波立っており口の中に入っちゃう。ワププと慌てるリィズを見て、キャッキャッと笑って妹も頷いて言う。
「そうですね、みーちゃん頑張ってくださいね」
「むふ~。みーちゃんにお任せ! バッタバッタと倒すんだから!」
ちっこいおててを振り回して、指輪をピカピカさせるみーちゃん。それを微笑ましく見て遥は思う。
これはおっさんがしていたら、確実に事案だよねと。逮捕確実だよねと。
おっさんが水着の幼女の騎馬の足になるなんて誰も許さないだろう。というか、なろうとした時点でアウトだ。
周りも水着の女性ばかりである。レキになれて一番嬉しい時かもしれないと、くだらないことを考えるのであった。おっさんにとってはくだらないことではないかも。
「とやー!」
銀髪メイドがバッシャバッシャとこちらに勢いよく近づいてくるのが見えた。指輪を掲げる様子はなく、レキを掴もうと手をワキワキとさせているので、なにをしたいのか一目瞭然である。もはや、サクヤの考えなんか簡単にわかるのだ。
というか、ちっこいリィズと私とじゃ水から頭しか突き出ていないので地味に苦しいかも。背が小さいことがデメリットになっている。
「みーちゃんいただき~」
犯罪者のような叫びをあげながら、すぐ側の少女が襲い掛かってくる。やっぱり幼女なのでみーちゃんの知り合いっぽい。頑張れと足のお父さんが叫んでいる。
「たあっ! 超能力水しぶき~」
脚の背が小さく、みーちゃんはおててが水へとつけられることを利用して、バッシャバッシャと近づいてくる幼女へと水をかける。
相手は両親ぽいのだが、背が高いというか普通の大人の背丈なので、騎手の幼女はプールの水まで手を伸ばせない。
「きゃあっ、わぷぷ」
やめて~と、笑顔で嫌がる幼女。手で顔を抑えるが、みーちゃんは気にせずバッシャバッシャと満面の笑みで水をかけている。
「今です、指輪を使ってくださいみーちゃん」
遥がそれを見て合図を送ると、みーちゃんは勢いよく首を縦に振って懐中電灯を照らす。少し当てるとピカッとヘッドバンドが赤く光った。
「あ~。やられちゃった~」
がっかりとする幼女。始まったばかりなので残念そうだ。
「おっと~。早くもやられた人がいたようです。その方は残念賞のプールでのレストラン1000円お食事券をプレゼント~。レストランで美味しいかき氷とかソフトクリームを食べてくださいね~」
霞が盛り上げるために、マイク越しに状況を説明する。
「今度一緒にあそぼ~」
みーちゃんが天使の笑みで相手へと話しかけるので、うん、と頷いてまたね~と幼女は手を振って去っていった。
「微笑ましい光景ですね~! あそことは違って」
霞が笑いながらある一角を指さすと、銀髪メイドときゅーこが激しい戦いをしていたりした。二人とも超能力は使ってはいないが………。
「きしゃー! ちょっとそこのモフモフマフラー、そこをどいてください!」
きゅーこを邪魔だとばかりにどけようと押しのけようとしているサクヤ。
「ふふふ。妾を倒さないとこの先には進めませんよ」
おにょれっ、とサクヤが指輪を閃かせる。光がきゅーこのヘッドバンドに当たると思われたが
「ブラジャーバリアー! でありんす!」
サクヤのブラをひょいと取って、懐中電灯の光を防ぐ悪辣なきゅーこ。それを見て、サクヤが慌てふためく。
「ぎゃー! 私のスタイル抜群の胸が見られてしまいます~。もう世界一の美乳の私の胸が~!」
胸を手で抑えて、慌てるサクヤへと反応したのは褐色少女であった。口元を引き攣らせて怒りの表情を浮かべて手を伸ばす。
「なに? 私の敵ねっ! わざとでしょ? わざとでしょ! きしゃー」
サクヤへと般若の形相で襲い掛かる叶得であるので
「足役が動いたら駄目でありんす! きゃー!」
可愛らしい声をあげて、叶得が足役を放棄してサクヤへと襲い掛かったので崩壊してプールに落ちてしまうきゅーこであった。
バシャーンと水に落ちてしまい、襲い掛かられたサクヤも水の中へと落ちてしまった。
「もぉ~。ちょっと酷すぎませんか? ポロリもあるよ、は私以外の人がやってもらう予定でしたのに」
「あぁ~。もぅ、グダグダじゃね?」
サクヤが襲い掛かってくる叶得をいなしながら嘆き節を口にして、英子は呆れてしまいプカプカと水に浮くのであった。
「くっ! やはりアホのサクヤ殿では無理だったでござる」
「しょうがないですね………。あみだくじのイカサマ方法を考えましょうニンニン」
シノブと朧も争うサクヤと叶得を見ながら嘆息するのであった。
「おっと、ポロリもあって男性陣は大喜びだ~」
霞がマイク片手にやっぱり司会にしておいてよかったと内心で思いながら叫ぶので、サクヤたちへと男性陣が注目してしまった周りのカップルや夫婦は喧嘩になってしまうかもしれなかった。
しばらくわいわいと騎馬戦は続き、残るはオロオロとうろついている少女と、全ての戦いに勝利した猛将だけとなる。
「あわわわ。椎菜お姉ちゃん、いつの間にか私たち以外はレキお姉ちゃんたちだけになってますよ?」
おどおどと言う光。あわわと口元に手をあてて慌てながら椎菜たちへと声をかける。ありゃりゃと椎菜と結花は苦笑をして光へと教える。
「たまにあるんだよ、こういうのだと。ドッヂボールでも目立たない娘が最後まで残っていたりね」
「うんうん、あとはレキちゃんを倒せば優勝だね。全然倒していないから準優勝は無理だし。頑張って!」
「あわわわ。了解しました。光、突貫します!」
とおぉ~と、可愛い雄叫びをあげる光。それを見て、みーちゃんはムフンと胸を張る。
「王者なみーちゃんが相手をするよ。とつげき~」
「ん、リィズ、身体強化発動!」
ふんふんと鼻息荒くリィズが決戦だと身体強化を行う。遥の目には超常の力がリィズを覆ったことが見えた。
それを見て、慌てて止めようとするが
「駄目ですよ、お姉ちゃん。ここでそれは」
「ふへ? ふぉぉぉ~」
人外の踏み込みで加速を水の中でしようとするとどうなるか? 当然水が抵抗となり、大きな波がたって
「きゃー」
「がぼぼ」
「あう~」
自分たちの巻き起こした波に巻き込まれて吹き飛ぶ三人娘であった。きゃ~と、漫画なら目をぐるぐるさせる感じでバラバラに水へと落ちてしまう間抜けな最後を見せてしまった。
「おぉ~。凄いね、さすがレキちゃんたち。テンプレを知っているよね」
それを感心しながら椎菜は見て
「だね~。ここであれをもってくるとは」
「えっと………。えっと………。あれぇ?」
結花もケラケラと楽しそうに笑い、光はあれれと首を傾げて不思議がるのであった。
「これで優勝は決定~。織田光ちゃんおめでとう~」
ぶんぶんと手を振って、しょうもない終わり方を誤魔化す霞であったりもした。
なんにせよアホな騎馬戦はこれにて光の優勝で幕を閉じたのである。
◇
カラスがカァカァと鳴く、陽が落ちてきた夕方にてこてこと皆で帰る遥たち。
「ん、楽しかった。これで後は高校受験に集中できる」
「高校受験? あぁ、来年は高校生ですか~」
リィズが夕焼けに顔を照らされながら笑みを浮かべて、来年のことを言う。そっか、そろそろそんな時期なんだと遥は思う。
「月日の流れるのは早いですね。もうお姉ちゃんは高校生になるんですか」
「体格は全然変わっていないから小学生でも通じるとアタシは思うけどね~」
英子がリィズを茶化して、隣で歩いている叶得が眉をピクリと動かしたりもするが。
「みーちゃんも来年は3年生だよ!」
リィズと遥とおててを繋ぎながら、ご機嫌なみーちゃんが教えてくれる。
「まぁ、仕事をしている人間はあまり年月の移り変わりを感じないかもだけどねっ」
叶得がそう言って、英子も苦笑交じりに頷く。たしかに働くと年月の移り変わりは歳をとるだけでしか感じないのかもしれない。おっさんもそうだったので。日々の仕事で月日は過ぎていくのであるからして。
「まぁ、良いんじゃないですか。月日が流れるのは速いようで遅いということで」
ゲーム少女は今日が楽しければ良いのだと、にっこりと花咲くような微笑みを浮かべるのであった。未来のことは未来の自分に任せようといつもの如く適当に考えながら。
それに本当にリィズは成長をしているのかも最近不安であったりもするのだが、それはもう少し後で考えようとも思っていたりした。




