463話 大樹の長くはなかった一日
クーヤ博士を光の粒子が包みこみ、その光がおさまった後にはまるで角切り餅を積み重ねたようなロボットが存在していた。
黄金の塗色をされているそれは5メートル程の大きさの機動兵器であり、背部には大型のバーニア、そして関節部分どころか、胴体の各所にスラスターが山のように取り付けられており、重装甲を無理矢理高出力のバーニアとスラスターで操作するように設計された物だとわかった。
「これは一般人でもKO粒子を使用できるように勾玉を解析して作成されたその名もGキング! そのお披露目が敗走に使われるとは屈辱だが背に腹は代えられん。儂はこのようなところで終わる人物ではない!」
スピーカー越しにクーヤ博士は叫ぶと、重々しい金属音をたててGキングは後退り、背中のバーニアを噴かせて黄金の粒子を纏わせながら飛翔する。そうして高速でこの場から離れていく。
「貴方という人は! 仲間を置いて逃げるんですか!」
ナナは怒髪天をついたように怒り叫ぶが、遠く離れていくクーヤ博士を見送ることしかできないので歯噛みをして悔しがった、だが那由多代表が逃げるクーヤ博士を見ながら語りかけてきた。
「クーヤ博士は優秀ではあったのだが残念だ。これを使い追いかけたまえ」
スッと手にしている銀色の腕時計のように小さなバングルを渡してくる。それを受け取りながら、ナナは戸惑うように聞く。
「なんですか、これ?」
「これは最近開発されたGシステム、先程の機体にも搭載されている貯蔵してあるKO粒子を操作できるバングルだ。宝樹のガンリリスを参考に設計された機動兵器が中に入っている。君ならこの機体を使いこなし追いかけることができると思っているのだが?」
その言葉にバングルを受け取り、腕を掲げると光の粒子がクーヤ博士と同じようにナナを包み込むのであった。
現れたそれは5メートルぐらいの機動兵器、着込んで操作するタイプであり、無論この大きさでは手足は届かないので、肘より上、膝より上までで自分の手足は収まっており、マニピュレータでロボットの手足は操れるようになっている。
深い蒼色で、背中にはウイングタイプの大型バーニアが搭載されており、展開型チェーンブレードが腰に4機ついており、右腕には高出力KOライフルを装備、左腕にはカイトシールドがつけられている。もちろんシールドはビームシールド展開可能である。
「それは試作品ながら、一般の軍人に配備するには高額すぎてボツとなった代物だ。その名はゼット! 荒須君、君ならそれを操り哀れな老人を確保できると信じている」
機動兵器ゼットの中に入ったナナは前面のモニターに映る那由多代表の言葉に強く頷いて、起動させると金属の唸る音が聞こえて、機体を銀色の粒子が薄らと包み込むのをみた。
「これ、脳波による補正システムが搭載されているのね………」
機体情報が右横に映り、操作方法が表記されているが難しいことはないと理解した。マニピュレータは忠実に手足を動かすし、バーニアなどは思考するだけで動くらしい。
「それじゃあ、あの博士を逮捕してきます!」
ナナの言葉に従い、ゼットのバーニアから銀色の粒子が噴出しはじめて、周囲へと突風が巻き起こる。
その勇姿を見て、那由多代表は微かに笑みへと口元を変えてナナへと依頼をしてきた。
「頼むぞ、荒須君。ゼットは君の思いに答えてくれるだろう、なぜならばKO粒子は人々の善の心が結晶化したものだからだ」
「はい、ゼット出撃します!」
バーニアの出力を全開にして、一気に加速して飛翔するゼット。空を切り裂くように飛んでいく機動兵器を見て那由多代表は小さく呟く。
「あたちもあれほちいでつ」
その呟きは誰にも聞かれなかった。周囲からはゼットに願いを込めて見送った老人に見えたので。
◇
百地はクーヤ博士の乗ったGキングを追いかけていくゼットを見送って苦笑をしてしまう。
「なぁ、那由多代表はこのクーデターの情報を手に入れてなかったと思うか? 本当にあの那由多代表が?」
蝶野たちが抵抗をやめた兵士を抑え込みながら、首を横に振り苦笑で返す。
「ないでしょうね、どうも杜撰な計画に見えますし。ナナシがなぜここにいないかも気になりますし」
「ですな。これは計画されたクーデターだったんでしょう。これを機に不満分子をおびき寄せるための」
その言葉に同意をする百地。蝶野たちと同じ考えだ、こんなクーデターを那由多代表が許す訳がない、想定通りであったのだろうし、このクーデターに加わった人間はどうも一般兵士が多く佐官レベルはいないようだ。
「特権階級かよ………。充分本部付きは特権階級になっていると思うが、貴族主義とかを抑えこむための見せしめってところか。えぐいことをしやがるぜ」
「まぁ、これが民主主義とかの訴えならば、また違う方法をとったと思いますよ、これで王政などという馬鹿げた思想を持つ者はいなくなったか、その考えを表にはださなくなるでしょうし」
「はぁ、俺はこういう腹黒い政治は本当に苦手なんだ、風来元総理が俺の代わりになってくれないかね?」
頭をガリガリとかきながら、疲れたように百地が愚痴を言うが、それを風来元総理が受けることは無いと認識してもいる。ポッと出の人間に若木シティの代表を務めさせるのは無理だ、無理なく移譲するにはそれこそ数年単位をみなければなるまい。
「我々は周りの意見を聞きつつ、本部からの無理難題を拒否していき、国民を幸せにする政策を行っていけばいいと思いますよ」
「本部からの無理難題は、見た目は無理難題に見えねえから困るんだろ。しょうがねぇなぁ、まったく」
疲れたように息を吐いて、百地は取り抑えている兵士が抜けだそうとしたので、頭をぽかんと殴る。
「さて、葬儀の続きをしようと思う、式を続けたまえ」
最後の銀の少女がレキに落とされたことを確認した那由多代表は乱れた襟元を直しながら司会へと命令をするので、人々は戸惑い気味ではあるが再び参列をするのであった。那由多代表の恐ろしさを再確認しながら。
◇
黄金の粒子を噴出させながら、空中都市からGキングは脱出して海上へ飛行をしていた。ナナはその様子をようやく視界に収めて安堵と共に疑問も浮かぶ。
「どうして海上に? 逃げるにしても陸まで機動兵器だけで行くつもりなの?」
どうやらゼットはウイングタイプのバーニアを飛行機のように大きく展開できることから、直進する際の速度はGキングを大きく上回っているらしい。だが、海上に逃げるとは予想外であった。
首を傾げて不思議に思っていると、モニターにクーヤ博士の顔が映りだす。憎々し気にこちらを見ながら。
「うぬっ! 誰が追跡してくるかと思ったら、小娘かっ! ………どこかで見たと思ったら儂をこの間逮捕した奴じゃな!」
「クーヤ博士! 投降をしなさい! これ以上どこに逃げるというんですか?」
「黙れっ! 儂にはまだまだ秘匿している基地があるのじゃ! こんなところでは終われん!」
Gキングがその手に持つライフルを追いかけているゼットへと向けて、引き金を弾く。
金色の粒子を放つビームがその銃口から撃ちだされて、空気を焼き紫電を発しながら向かってくるのでナナは慌てて軌道を変える。
「ウイングバインダーを格納、戦闘モード!」
高速で飛行していた際に展開していたウイングを格納して、旋回機能を高めた戦闘用へと切り替えてビームをぎりぎりでロールをしながら回避するナナ。
「なぜ邪魔をする? 儂は歴史を作る男になるのじゃ。人々を導き歴史書に燦然とその名を残し、最後は傍観者として正しく復興した世界を眺める。それが天才たる儂の役目なのに!」
ビームを連射しながらクーヤ博士は怒鳴ってくる。腕部や脚部のスラスターを噴出させて鋭角に機体を横滑りさせながらナナは回避していき
「天才? 少女を戦場へと向かわせて、罪悪感もなく笑顔でそれを見送る人が?」
「儂の研究が世界を救う! 偉大なる考えは矮小な者には決してわからん!」
ビームが命中コースに入ったので、ビームシールドを展開させる。黄金の粒子を伴うビームがシールドと激突して、その粒子を弾かせる。Gキングは急上昇をして、ゼットの頭上をとろうと雲海へと入っていく。
「少女を犠牲にする研究なんかではなくて、大人が化け物たちと戦える武器でも作っていればよかったのに!」
ナナも雲海の中へと上昇して突入する。モニターに映る視界が一面雲のみになり、Gキングがどこにいるかわからない。ナナは加速を緩めて、周囲を警戒しながら飛行する。
「武器などと! くだらないな!」
雲の中からGキングが飛び出してきて、その手に持つチェーンブレードを直剣モードに変えて勢いよく斬りかかってきた。
ナナはライフルを向けるが、ブレードにより斬り裂かれて二つに分かたれてしまう。壊れたライフルを投げ捨てて、こちらもチェーンブレードを腰から抜き出す。
直剣モードへと変更させて、Gキングの連続攻撃を防ぐ。クーヤ博士は両手にチェーンブレードを持ち薙ぎ払いから袈裟斬りと連続で斬りかかってくるので、盾でいなしつつナナも剣を振るう。
「武器がくだらない? 何を言っているの?」
クーヤ博士の言葉に戸惑い問いかけると、クーヤ博士は狂気に支配された醜い笑顔で告げる。
「誰が新型の銃を作ったからと歴史の教科書に載せる? 貴様は飛行機を作った人間は知っているかね?」
お互いが剣を振るい、ぶつかり、切り払いながら雲海の中を飛行していく中でクーヤ博士が問いかけ返してくるので、ナナはそれは有名であろうと答える。
「ライト兄弟でしょ? それが?」
「ならば、ジェット機を作った人間を知っているかね? 名前がすぐにでてくるかね?」
その言葉にクーヤ博士の言いたいことをナナは理解した。その醜悪な考えに吐き気を覚える。
「そうだ、その通りなのじゃ! 最初に革新的な物を作った人間は有名だ、しかし、その物をいくら改良しても、革新的な物へとさらに改良しても、有名にはならん。精々歴史の隅っこにのるぐらいじゃ」
「そんなことで? そんなことで少女たちを超能力者へと変えようと思ったの? 歴史書に名を残すために超能力者の研究をしたの?」
ブレードが交差して粒子をハラハラと撒き散らし、お互いが押し合う中でナナは怒りを覚えて確認する。
「そんなこと? それが重要なのじゃよ。二番目ではダメなのじゃ! 一番でなくては! 儂は超能力者を作った人間として永遠に歴史書に大きく残るのじゃ。世界を救った人間としてな。それが儂の望みなのじゃよ!」
Gキングの角張った重装甲の胴体から、格納されていた隠し腕がビームソードを伸ばしてゼットに斬りかかる。
慌てて下がるナナであるが、ゼットの左手を斬り裂かれてシールドごと落ちていく。
「貴方という人は!」
素早く加速させて、蹴りをその胴体に入れると、隠し腕はその威力に曲がり破損してバチバチと火花を散らす。
「天才たる儂の考えなのじゃよ。目立たぬように陰に隠れる娘とは違う!」
Gキングは急下降して雲海から抜けていく。ナナもゼットを加速させて追いかける。
雲海を抜けていくと、真っ青な海が広がっていたが、そこにポツンと小型の空中艇が浮かんでいるのが見えた。30メートル級の空中艇であった。
そこに向けてGキングはバーニア吹かせて、逃げていく。
「あの船で逃げるつもりだったのね! 逃がさない!」
ナナもゼットのウイングを展開させて加速させる。
ゼットが追いかけてくるのを確認したGキングが空中艇の甲板へと移動しながらライフルを向けて連射をしてくる。光条がいくつも空気を切り裂いて飛来してくるのをみたナナは自身の力を高めて右手を掲げる。
「来て、武士斬り!」
その言葉に空中から呼び出された武士斬りが瞬間移動をして現れて、ゼットの右手に収まると向かってくるビームへと振りかぶる。ビームは槍とぶつかり合い、その威力を打ち消されてしまう。
「なにっ! ビームを弾いたじゃと! ゼットにそんな機能が?」
ビームが弾かれたことにより、戸惑い混乱するクーヤ博士にナナは叫ぶ。
「貴方にはわからない! この粒子は人々の善なる力が結晶化しているんだって、那由多代表は言ってた! 醜悪な考えに染まっている貴方には決してこの力がわからない!」
十文字槍が銀色の粒子を集束させて光り輝く。その光に照らされたGキングは突如として動きを停止させてしまう。
「な、なぜだ。粒子が力を失くしている? 善なる力だとでも言うのか! 動け、動くんだGキング! なぜ動かん!」
ガチャガチャとマニピュレータを動かし叫ぶクーヤ博士だが、なぜかGキングは操作を受け付けないことになっていた。
『槍技 ピアッサージャベリン』
ゼットが手にしている槍は銀の巨大な槍へと変貌していた。超常の力にて槍に力を集めたナナは咆哮しながら投擲した。
その投擲は暴風を巻き起こし、海を抉るように、空間に穴を開けるように飛んでいき、Gキングへと命中する。ピアッサージャベリンはGキングの頭を貫き甲板へと叩きつけて縫い付けるのであった。
Gキングの頭部が吹き飛び、下の胴体部分も火花が散り、戦闘が不可能と判断してハッチが開く。
ハッチが開き、その中には泡を吹いて気絶しているクーヤ博士の姿があった。
ゼットは甲板へと降り立ち、指を突き付ける。
「クーヤ博士、貴方を拘束します! これで貴方の野望も終わりです! 空中艇の船員も降伏してください!」
ナナの強い言葉に、モニターに船員らしき者が映り
「了解だ。既にナナシ殿から秘匿した研究所は確保したので降伏するように勧告があった。我々は降伏を決めている」
と、肩を竦めて答えてきたのであった。
「そっか………。それじゃ、一件落着ですね!」
ゼットに乗ったナナは一安心して安堵の息を吐く。どうやらあの男は先手をうっていたらしいので小憎らしいが、それでもクーヤ博士を拘束して満足である。この男は拠点が無くなっても逃がせば他の場所で活動しそうであったので。
空中艇の甲板にて陽射しを受けて、ゼットは装甲を輝かせて戦いの終わりを感じるのであった。
◇
空中艇の艦内では、モニターに映らない部分で幼女たちが集まっておしゃべりをしていた。
「凄いでつ! あのおねーさんはほとんどアニメの主人公とおんなじ行動をとりまちた」
「でも最後はウイングを展開させて突撃して欲しかったでつよね」
「クーヤ博士を殺さないことが凄いでつ………。パパしゃんが優しい主人公気質だと言うのも理解しまちた」
こそこそと面白かったと嬉しそうにお話をするドライたち。この映像は皆に見てもらおうと編集を始めるのであった。
マル秘と書かれた映像は多くのドライたちやツヴァイたちが楽しんでみる映像となる。
そしてどこかの幼げな少女がリィズお姉ちゃんに見てもらったりもする。それはもちろんナナにばれて、羞恥の叫びが響き渡ることになるのだが………。まぁ、それは後日の話である。
その後、銀の少女たちの葬儀は恙なく終わり、慰霊祭後のお祭りで皆は楽しむことになった。
が、この事件により警察組織がそろそろ必要だろうと提案がなされて、またもや忙しくなるおっさんがいたとかいないとか。




