458話 式神は危険だと思うゲーム少女
鷹はバサリと翼をはためかせて、レキへ近寄る!
と、いうことはなく毛づくろいをクチバシでせっせっとするだけであった。
「あれぇ? なんでナナシさんのところに飛ばないのかなぁ?」
晶がコテンと首を傾げて、そのボーイッシュな髪をはためかせながら、疑問を口にする。
遥も心底安心した。まさかレキへと飛んできたら、事故が発生するところだったぜと、内心で冷や冷やしていたりした。鷹が素直にレキの元へと来たら、悪霊が取り憑いているぞと、周りの修験者たちにおっさんはお祓いされていたかもしれない。世界のためにはその方が良かったかも。
だが、なんで鷹は動かなかったんだろうと不思議そうにしたらら、ちゃんと戸隠が教えてくれた。
「真名ではないからだ。ナナシと言う男は真名を隠しているので、鷹は動かなかったのだろう」
「朝倉遥様の所へ飛んでいってください」
それを聞いた穂香がレキへと聞こえないように小声で呟き、速攻で鷹を飛ばそうとする。
今度こそ事故かな? 鷹は爆発しちゃうかな? とゲーム少女は警戒するが、やはり晶の鷹と同じように毛づくろいを始めてしまうのであった。
「あら? 真名で飛ぶのでは?」
躊躇なく鷹を飛ばそうとする姉妹に少し怖さを感じる遥。ヤンデレと大和撫子って個人的には似合うので。
そして、戸隠は顎に手をあてて苦々しい表情となる。
「………本来の名前を言ったが飛ばなかったのだな? 恐らくは防護術、もしくはそれと同様の防御用兵器を備えているのだろう。大樹の奴らは神秘も科学で解明しているからな」
ゲーム科学は最強なのでと、レキは胸を張る。なんだかよくわからないけれど大丈夫っぽい。安心しました。
「ご主人様、普通に探知系なのでレジストしたんですよ。私たちは伝書鳩は使えないようですね」
耳元にこっそりと、どうして鷹が来ないのか囁くサクヤ。ついでにパクリとレキの可愛い耳を甘噛みしてくるので、新たに作ったウニを額へとアクセサリーとしてつけてあげる。いだっ、とサクヤが頭を抑えるけれども心配はしない。ダメージを受けるほどサクヤの額はヤワではない。
というか、だ。
「これ、駄目ですね。駄目ですよ、ストーカー垂涎のアイテムになっちゃいます。他にも色々と悪用が……悪用はできないんでしたね」
勾玉というか、ライトロウ系の術しか使えないので悪人が使おうとしても反応はしない。
でもこういうのは抜け道というのが必ずあって、ストーカーは使える可能性大。なぜならば愛からきている行動だからね。
決して褐色少女や巫女姉妹がバンバン使いそうだとか考えていない。相手の場所がわかってしまう、GPSも真っ青な力を持つと気づいちゃったのだ。
「ふむ……たしかにそのとおりじゃな。面倒じゃが作られる鎖の数も決まっていることだし、登録制にしておくかの」
さすがは老僧。無意味に年をとっている訳ではない。そしてゲーム少女は量産して文房具屋に12枚500円パックの式神折り紙を置こうと思っていたが断念することにした。楽しそうだったんだけど、ストーカーを量産されても困るので。
「と、すると天使教の人たちにも配るんですが、数は全部で1000個程度にしておきますか。ちょっと便利な伝書鳩屋さんといった感じですかね」
あんまり楽しそうな使い道はないかなぁと思ったが
「通信機能を消してペット用とか無理かな?」
「う〜ん、半日で消えるペットは子供はギャン泣きしますよ。少なくとも私はギャン泣きする自信があります」
晶が式神の使い道を提案してくるが、たしかにペットは良い考えかもしれない。半日で消えなければ。可愛らしいペットが半日で消えるとか、全然癒やされないと思う。
「そうですね。そうなると使い道は電報代わりにしかなりませんか」
頬にそっとたおやかな所作で手をそえて、残念そうに穂香が言う。電報代わり……一気に残念アイテムに早変わりだね。
「うむ、現代社会では式神は使い道があまりないかもしれんのう。儂らの術も軍隊には必要あるまいて。儂らは本来の形に戻るだけだのぅ」
老僧が笑いながら伝えてくる。あまり式神に固執はしていない模様。戸隠も苦笑はしているが、使えない発言をあまり気にしている様子はない。これが信仰心の篤い宗教の人なのねと、密かに感心しちゃう。
もしおっさんが式神を使えないと言われたら、絶対に有効な使い道を考える。パーティーからよくも追い出したな、きっとざまぁしてやるぜとか考えるのは間違いない。後者は少し意味不明かも。
「実は治癒系も儂たちは使えんからな。ゲームなどと違って便利な術は少ない。精々雨乞いや豊穣、そして周囲の瘴気の浄化といったところか」
「まぁ、術を使えるのがおかしかったんじゃ。これからは以前通りにするだけじゃな」
戸隠が腕を組んで告げて、老僧も同意して頷く。周囲の修験者たちの中には、残念そうにしている人たちがいたので、気持ちはよくわかります。異能を捨てて平凡な生活に戻れるのは主人公とそのヒロインたちのみ。普通は術を使いたい。こんな面白いことはないからね。
「それならライトマテリアルの結晶ができる地域を常に浄化してくれませんか? 人々が入ると負の力により結晶は溶けちゃうんですが、常に浄化されれば消えないでしょうし」
遥は浄化と言う言葉にピンときた。それならば清らかな場所でライトマテリアル鉱山が作れるかも。水無月家の裏山とかね。まぁ、水無月家は自力で浄化作業をするだろうけど。他にもそんな場所はたくさんあるのだ。
「金になりそうな話ということか。相変わらず人間は業が深い。浄化すらも金に換えようとするのだからのぅ。ただ儂らも檀家がいなくなって、宗教法人も課税対象になっているから暮らしができるようにしないとならんか」
「ライトマテリアル……その響きだけで神秘をエネルギーに変えているとわかるが仕方あるまいて」
老僧も戸隠も苦笑はしているが断りはしなかった。周りの修験者たちも安心していた。これから先どうやって暮せばよいのか考えていたので。
天使教も同じような鉱山を持つことにしようっと。……遥かな未来にライトマテリアルは神の恩寵ですとか言って、宗教団体が独占するような事態になりそうな予感もするけど……。そんな未来を気にしてもね。
「では、話は終わったようだし、儂らは明後日の準備をすることにする」
「あぁ、慰霊祭の準備ですか」
戸隠たちの言葉に確認する。慰霊祭、明後日から三日にかけて行う行事だ。お盆に合わせたのだ。四季たちがいつの間にか準備していたのだ。おっさんは普通に仲間はずれにされていたのだ。
「そうじゃな、大樹は天使教推しだと思ったが、そうではないようで助かった。大金を貰った…。ゲフンゲフン、慰霊祭代として貰ったしの。とりあえずはひと安心じゃて」
「生臭坊主に聞こえるなぁ」
晶が頭の後ろで手を組んで、笑いながら呆れたように言うが
「仕方あるまいて。神社仏閣はそのほとんどが崩壊しておるしの。再建するだけの金もないし困っていたのじゃよ」
「大樹からはかなりの金額を喜捨して貰った。社の建設からなにやら金はいくらあっても足りん。世知辛い世の中だ」
嘆息しながら話す二人。
老僧と戸隠の話に気になったことを確かめる遥。小首をコテンと可愛らしく傾げて問いかける。
「まだ勾玉教を続けるんですか?」
「いや、あれは仕方なく方便として使っていたからな。これからは元に戻るだけだ」
勾玉教は終わりらしい。とくに宗教としての教えもなかったようだし、妥当なところだと思う。というか、そんな適当な宗教でよく京都を治めていたね……。
「なるほど、頑張ってくださいね。それにしても慰霊祭ですかぁ」
明後日から始まる慰霊祭。どことなく街も落ち着かない様子を見せている。慰霊祭は始めてだし、当然だろう。
「まぁ、各宗教ごとに集まり、それぞれのやり方で死者を弔う」
ではな、と戸隠たちはぞろぞろと皆去って行った。これから忙しくなるみたい。
それを見送って、遥も水無月姉妹へと顔を向ける。
「さて、私たちも帰りますか。なかなか面白かったですし」
「そうですね。レキさん、私たちのお店に寄りませんか?」
「そうそう、お店でご飯でも食べようよ。最近顔を見せていなかったでしょ? あそこはレキちゃんのお店でもあるんだからさ」
穂香が寄り道をしようと誘ってきて、晶がちっこいおててをぎゅうと握ってくるので、笑みで返す。
「久しぶりに顔を出しますか。若木シティも久しぶりですし」
はぁい、と素直に頷く。最近忙しかったから全然若木シティへは顔を出していなかった。京都旅行が長かったので。あと、美少女からのお誘いを断ることなんてできません。おっさんの選択肢にはありません。
そうして三人はてこてことおでん屋さんへと歩いていくのであった。サクヤは慰霊祭の準備がありますのでとにこやかな笑顔で帰って行った。嫌な予感しかしないが、そこは信用しなくてはいけないだろう。でもサクヤだしなぁ。
◇
てこてこと街の中を歩いていく。街は以前とは違い少しばかり騒がしい。それに慰霊祭が目前に迫っているので、人々はその話ばかりしている。新たに来た人たちは、物珍しそうに街を練り歩いてもいた。
「そういえば、京都の生存者たちは皆さん若木シティへ来たんだね」
晶が街を見渡しながら聞いてくるので
「そうなんです。本当は京都や大阪での復興をするつもりだったんですが、大阪は何もないですし、京都は上下水道が少し大変なことになっていましたので、とりあえずはそこらへんを再設置したあとに、移住することになりました」
本当は京都に住みながら復興をしてもらうつもりだったんだけどね。12万人という人口を甘く見ていました。シムなゲームみたいにポチポチとアイコンを押下するだけでは上下水道とか電気を復興するのは無理だったのだ。住民が極めて邪魔だった。
接木シティもインフラを回復するのは大変だったそうな。京都はそれに加えて、歴史的建物も直したいから、一旦全員退去して貰ったらしい。
らしいと他人事なのは、四季やハカリをはじめとするツヴァイやドライたちから聞いた内容なので。おっさんはどうしているの? おっさんは家でジャグジーバスに入ったり、ナインのお酌でお酒を飲んだりして寛ぐという重要な仕事があります。
「京都や大阪は初期の計画と違って、志願者を移住させることになりました。なりましたといっても、最初から住んでいる人々は生活基盤ができているので、結局最近救助できた生存者たちになると思いますが」
「今も様々な細かい物や色々な野菜などを作れば売れる状態ですものね。チャンスとばかりに移住をする人々は多いでしょう」
遥の言葉におっとりとした口調で穂香も同意してくれる。微々たるものではあるが借金もある人たち。京都の生存者たちはお金があるので支援を受けつつ田園をやりたい、元から住んでる場所でもう一度やり直したいという考えから志願するだろう。そんな人々が移住をしていく予定だ。
「う〜ん、段々と昔みたいな暮らしに戻るのかなぁ?」
晶が未来を考えながら、問いかけてくるがそれは違うだろう。
「晶、残念ながらすべてが戻る訳じゃないわ。なにせ化物は徘徊しているし、人々は化物に殺された縁者のことを忘れない。昔みたいに戻るのは遥かな未来よ」
穂香が現実的な未来を推測するが、たしかにそのとおりだ。人口は一割以下になった。世界全体では日本はまだ生き残っている方だ。なにしろ可愛らしい女神が救っていっているから。
たぶん世界全体では数%に人口はなっている。けれども……冷たいようだが、どうでも良い。これが主人公ならば生存者たちを救おうと頑張っているだろうが、おっさんは自分のペースで救ってるだけだ。罪悪感も持てない。力を持った者の義務? その考えはたんなる押しつけだと思うので。
「これが神になったということなのか……」
少しシリアスな雰囲気で呟くが、おっさんがたんに怠惰なだけである。自己弁護には頭が回るおっさんであった。
「慰霊祭ですか。少し遅い感じもしますけど」
穂香が少し考え込みながら言う。たしかにそのとおりだけど、仕方ないのだ。
「日本が譲渡されて、正式にこの日本地区は大樹の物になりました。これを機会に慰霊祭を行うというのが那由多代表の考えみたいですね」
「他の地域、外国とかでは慰霊祭は行わないの?」
晶の問いかけに、コクリと頷く。外国なんて知らないと。言わないけど。
「こんなに落ち着いた環境は日本地区だけですので、他は慰霊祭どころではないです。日々の暮らしに懸命なんですよ」
たぶんね。きっとそうだと思います。嘘は言っていない。大樹は絡んでいないので。私は一つの地域を制圧するだけでいっぱいいっぱいです。でも、様子だけでも見ておくべきかしらん? まぁ、ファフニールとの戦いが終わったあとに考えようっと。
面倒くさいことは延び延びにするおっさんがそこにはいた。
「そっかぁ、島国だからこそ日本は他よりも解放が進んでいるから、落ち着いているんだね」
「そうですね。まぁ、そんなことを考えても意味ないですし、日本だって未だに全てが解放された訳ではないのですから落ち着いたという表現は違うと思います」
晶の言葉に否定を込めて告げておく。中国、四国、九州地方に沖縄とまだ残っているのだからして。
「これからも戦いは続きます、でもとりあえず慰霊祭ができれば、人々の意識が崩壊前の生活から今の生活になったと切り替わるのではないでしょうか」
「では、明後日の慰霊祭は重要なイベントですね。私も巫女として頑張る予定です」
フンスと息を吐いて、頑張りますと張り切る穂香。胸を張るのだが、最近大きくなったかな? 巫女服で胸を張るのは少しだけエッチィのでちょっと止めたほうがいいかも。言わないけど。
「とりあえずおでん屋は一休みだね。ただいま〜っと」
「ただいま〜」
「私もただいま〜」
おでん屋に到着したので、ドアをガラガラと開けて入る。以前と違って、少しだけ広くなって立派になっている。
「そういえば従業員は雇わないんですか?」
「う〜ん、どうしようか迷ってはいるんだよ。ほら、お嫁に行ったらあんまり仕事できないかもですし」
「そういえば、は、ナナシ様も最近見ませんね」
なにか知らない? と遥を見てくるのですっとぼけておく。あと、お嫁さんはどこに嫁ぐ予定なのかな?
「京都で少しだけ一緒に行動しました。でも、その後はわかりません。あの人は忙しいので」
「私たちが癒やすから、顔を出してって伝えておいて欲しいな。できればレキちゃんと一緒に」
「そうですね。その方が良いですし……。ところで京都で一緒に? 危険なことをしていたんですか? 京都の話、そういえば聞いていませんでした。レキさん?」
ガシッ、と肩を掴まれて迫ってくる穂香。目の前に綺麗な穂香の顔が近づいて照れちゃう。チュウをしても良い距離だよ? でも大和撫子な穂香の顔が少し怖いです。やっぱりヤンデレかしらん。
「わかりました、わかりました。では、私の華麗なる潜入から話しましょう。かっこいい謎のエージェントの話から」
穂香を抑えつつ、椅子へと座りお話を始めることにする。
「夏だからおでんじゃなくて焼き鳥だけど、少し焼くね」
晶が焼き鳥を焼き始めて、ジュウジュウとお腹がすく音を聞きながら京都の話を始めるのであった。
初たちの話はどうしようかと迷いながら。女子高生から男子高生にキャラを変えとこうかしらん。
くだらないことを考えながら、遥は京都の話をするのであった。




