44話 ゲーム少女は報酬をもらう
真っ暗闇で周りの様子も懐中電灯の光のみである地下駐車場。ズズンとオスクネーが倒れてドロップアイテムが表記される。
『ライトマテリアル(大)、ストリングスマテリアル(R)』
勿論、取得アイテム3倍は働いているので3個ずつである。経験値は望外な4であった。多すぎるねとあきらめ顔の遥である。はてさて、まったく援護をしてくれなかった静香さんはどこかなと気配感知を行う。
そうすると、奥に別の部屋があったのだろう。鉄のドアが開いており、そこの奥に静香がいることを感知した。てくてくと静寂が包み込んでくる地下駐車場をぶらぶらと懐中電灯片手に移動する。
そうして中に入ると静香がいたのでジト目でその様子を眺める。
「何をしているんですか? 静香さん」
なんでこんなところに金庫があるんだろうと疑問に思う。部屋には血がこびりついた金庫がいくつもおいてあったのだ。
そして、置いてある金庫をこじ開けんとする静香の姿もあった。映画でよくみる主人公を裏切ってお宝を回収しようするヒロインの姿、そのまんまである。
はぁ~と溜息をついて肩を落とす。
「あまりにも似合いすぎなシーンですよ、静香さん。自分の姿を鏡で見ることをお勧めします」
やったぜ、ついに気の利いたことを言ってやったと、心の中で快哉を叫ぶゲーム少女である。
ぼさぼさの髪の毛を払うように手でのけて、今まさに焦って金庫を開けようとしていた静香はジト目のゲーム少女に気づいて、立ち上がり飄々と返答してくる。
「随分早いお着きなのね? あのサラリーマンは退職したのかしら?」
「はい。仕事に疲れて後は悠々自適な田舎暮らしでもするみたいですよ」
皮肉げに口元を笑みへと変えて、実際には可愛らしい背伸びした笑みになるゲーム少女である。そしてハードボイルドをやろうとしている二人であった。
◇
「どうしてこんなところに金庫があるんです?」
こんなところに不釣り合いすぎると、当たり前の疑問を口にする。
「ここの金庫はグールたちがこの周辺の会社から持ち出していたのよ。たぶん退職金をもらおうとしていたんでしょう」
ふふっと妖艶に笑って静香は答えてくる。確かに見てみると壁から物凄い力ではがされたのか、コンクリがついているような凹んだ金庫も見える。
「でも、開けてはいないみたいですね? この金庫」
「そうね。多分貯蓄が趣味だったんでしょう」
まだまだハードボイルドを続けてくる静香である。
「なら、もう必要ないですね。というか、これが目的だったんですね?」
ジト目になり遥は静香に問い詰める。貴金属が大好きな女武器商人らしいのだ。美人でいつも主人公を騙す女盗賊に転職したほうがいいかもしれない。
「ジト目も可愛いです、ご主人様。皮肉げな笑みをもういっちょお願いします」
わくわく顔で今日はたくさん傑作が撮れましたと、サクヤがシリアスをぶち壊す。たしかに可愛いレキのジト目は可愛いだろう。おっさんだと近眼かと思われるぐらいだ。
「勿論、発電機が目的よ? この金庫は偶然に見つけたのよ。どこかに仕舞いこんでいるのは知っていたから、ついでに探してみたの」
そこに発電機もあるでしょう? と静香は部屋の奥に指を指す。確かに奥には災害用であろう発電機が置いてあった。珍しい会社である。発電機をおいている会社はなかなかあるまい。国営の官庁絡みだったのであろうか? そして目立つ大きさなので探す必要がない。
「そうですね。では発電機を稼働させて帰りますか」
まぁツッコミを入れても無駄だろうと呆れた顔をする。
「勿論、金庫も開けていくでしょう?」
にやりと笑ってこちらに尋ねてくるので、勿論ですと答える。開けないという選択肢など、お互いに最初から無いのである。
初めて電子操作と鍵開錠を使うなぁと考えながら遥は金庫を開けることにした。電子パネル式でも指紋認証付きでも関係ない。ゲーム少女がぽちりと押していくだけでがちゃりと解除される仕様なのだ。
そのまま、鍵穴にピンセットを入れてみる。勿論、現代の金庫はピンセットなどで開けられるわけはない。執事の人形がカチャカチャと金庫を数分で開けられる時代とは違うのだ。
だが、ピンセットを差し込み、カチャカチャと音を立てた後に金庫はあっさり開いていた。鍵開錠はどんな金庫でもピンセットで開けられるのだ。電子ロックは電子操作で開錠確実である。実にゲーム仕様で助かります。
「お嬢様は多芸ねぇ。一緒に金庫破りでもしていく?」
簡単に開けたゲーム少女を見て、目を丸くして驚いている静香。こんなしょぼいピンセットで開けることができるとは、さすがに思わなかったらしい。
「金庫破りはリターンのわりに、ハイリスクなのでお断りしますよ」
可愛く小柄なゲーム少女は肩をすくめて返答する。実際の金庫なんて意外と中身はしょぼいものだと考えている。通帳などしか入っておらず現金などは入っていない可能性が高いのだ。脱税目的以外は普通は銀行に預けるだろう。
「残念ね、さて中身は何なのかしら?」
興味津々で開けられた金庫の中身を確認しようと静香は身を乗り出す。なんのかんの言っても興味津々なので遥もちっこい体を負けじと乗り出して見てみる。中身が銃のパーツしかなかったら、絶望してしまうかもしれない。
しかして、中身はありがちな物であった。
「有価証券と札束、そして貴金属にハンコその他のごみね」
数個ある金庫を開けてみたが、全部同じような中身であった。伝説のアイテムが入っていることは無かったらしい。
「それでは、私は貴金属。お嬢様は札束でいいかしら? 有価証券は焚き付けに使う?」
確認してくる静香に、わかりました、それで問題はありませんと遥もその分け方にうなずいた。戦ったのは遥というか、頑張ったゲーム少女であるので、この金庫群は遥に権利があるんじゃないかとも思うが、まぁ、そこまでこだわるつもりもない。
罠にかけられた感じもしたが、ミッション発動、そしてクリアでレベルも12になったことを確認している。報酬にスキルコアも手に入った。文句はないのである。
きっとこの女武器商人は、会うたびにクエストをプレゼントしてくれる厄介なキャラなのではないだろうかと遥は考えた。ミッションが発生するのは大歓迎であるのだ。何しろ敵を倒しても経験値はカスである。
こういうキャラはゲームでよく見るよね。そして面倒なクエストだけど報酬がいいんだよねと、すっかり静香を厄介なクエスト発生キャラとして扱うことに決めたゲーム少女であった。
◇
それからしばらくして発電機を稼働させて、遥たちは外に出た。途中でグールが現れることもなく帰り道は平穏であった。
「発電機はあれで大丈夫なんですか?ドアが閉まっているだけですけど?」
壊されるのではないだろうかと、遥は質問したが静香はあっさりと答える。
「大丈夫よ。もう発電機を守る主もいないし、地下駐車場に入り込む化け物も、命をもたない発電機を壊そうとドアを開けることもないでしょう? まぁ、壊されたら残念だけど」
「なるほど、そんな感じですか」
後は雑談をしている間にようやく外に出られた二人である。
差し込む太陽の光が眩しいと目を細める二人。まるで映画のワンシーンのようだ。
「お帰りなさいませ。ご主人様」
うぃーんがちゃんうぃーんがちゃんと駆動音をたてて、アインが近づいてお迎えの挨拶をしてくる。
駆動音がせっかくのシリアスさをかき消していた。
「多少のゾンビやグールがきましたが、問題ありません」
アインが答えてくるのを、多少ってどれぐらいだろうとも思う。もしかしたら、この周辺は全滅しているのではなかろうか? 操作をしているサクヤなら簡単そうだ。
「さて、お嬢様、大量の財宝を集め終えたから乾杯の宴でもする?」
「いえ、今日は疲れましたので帰ります」
「あら、つれない答えね。それじゃ、また今度会いましょう」
静香が言ってくるが首を横に振りお断りする。怪しい妖しい美女のお誘いはノーサンキューなのだ。
久しぶりの激闘に遥は大いに疲れたのだ。もう帰って宴を広げたい、そして見知らぬ人と宴は広げたくない。気心のしれた人間のみでいいのだ。会社の飲み会などはなくなればいい。無礼講といいつつ、部下の発言を注意して聞いていたり、上司にペコペコ頭を下げながら、お酒など飲みたくない。
酔ったふりをして、ナインの頭をたくさんナデナデしようと考えながら帰途につくのであった。




