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コンクリートジャングルオブハザード ~ゾンビ世界で遊びましょう  作者: バッド
27章 国と対決しよう

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453話 呪縛される少女

 佐々木 すずはどこにでもいるありふれた少女である。一つ普通とは違うところをあげるとすれば、鷲宮わしみや しゅうの恋人であるという事だろう。


 そして、これは私がスティーブンになった頃の話だ。


 ボブカットの髪型にして、少しだけ茶髪にしていた。高校では少し探せば同じ髪型の子が簡単に見つかるだろう。成績は理数系が得意で文系はすこし苦手。赤点をとるほど頭は悪くないが秀才とも言えない。


 平凡な顔つきとだと言うと、美少女でしょうと言われるが、そこまで顔立ちは平均値を集めていない。平均値となれば絶世の美少女になるとは修君の言葉だ。私のことをのんびりとした目をしていて癒やされるね〜とは私をマスコットのようにしてからかう友人の言葉。


 まぁ、どこにでもいるお洒落に気を使うようになってきた普通の高校生。それが佐々木鈴という少女だった。友人もそれなりにいて楽しいが、将来を憂いて難しい話なんかしない。その程度の友人たち。


 でもそんなものだろう。だって私は高校一年になったばかりなんだから。それでも違うのは彼氏もちだということ。


 それも幼馴染であったから、なんとなく付き合っている。しゅー君は好きだし、将来までは考えられないが、それでもなんとなくこのまま付き合って結婚までいくような、自分で言っていて恥ずかしいような感じの、そこまで考えても問題はないと思う彼氏だ。


 一つだけ悪い癖がある人だけれども。


「だからね、鈴。最近の世界の流れはおかしくなっているんだよ。聞いてる?」


 しゅー君を見ながらそんなことを考えていたら、お〜いと、こちらの顔を覗き込むようにしゅー君が声をかけてきた。相変わらず男の癖に顔立ちが女性みたいに綺麗な幼馴染だ。今まで男に告白されたことはないと言うが、怪しいと私は思っている。


「あぁ、ごめんごめん。なんだっけ? トラックに轢かれたら転生できるか、だっけ?」


 ボンヤリとしていたのを気づかれないように、気を取り直して聞き返す。


「僕の話を聞いていなかったね? それはこの間の話。今の世界は異常気象に始まって、少子化や様々な種の絶滅、それに世紀末がすぎても、終わらない悲惨な話の漫画や小説! おかしいと思わないかい?」


「最後は関係ないんじゃないかな〜。それにそういうのは、偉い科学者さんたちが対応策を考えてくれるよ、で?」


「気が抜けるなぁ。きっとそろそろダンジョンができたり、異世界から兵士が侵略にくると思うんだ。そう思わないかい?」


 今の私たちは部屋にいる。私の部屋だ、私はベッドに座って足をプラプラさせる。


 そうして冷たい視線をこのアホな彼氏に向けて言う。


「それがこの保存食? そんなくだらない理由でこんなに箱買いした訳?」


 しゅー君の部屋は驚きの隣だ。家が隣同士で窓を開けると50センチも離れていない。故に隣同士の部屋扱いで良いと思う。その幼馴染は先程ダンボール箱を窓越しに送り込んで来たのだ。しかも5箱も。


「違うんだ、そろそろ異世界が……いや、ごめんなさい。本当は一箱の予定だったのに、桁を間違えて注文しちゃったんだ。どうりで母さんがこんなに無駄に買ってと怒ると思ったよ」


「クーリングオフは〜?」


 たしか一週間だか、二週間以内なら返品できるはずだ。よく知らないけど。


「それがさ、いざ非常時用の保存食を見るとさ、返品するのももったいないなぁって、ちょっとちょっと、なんで僕の部屋にダンボール箱を入れようとしているの?」


 呆れた理由を聞いて、私は邪魔な荷物なだけのダンボール箱をしゅー君の部屋へと戻そうとしたが、懸命にしゅー君は防衛してきた。


「もぉ〜。どうせおばさんに返品しろって言われたから、私の部屋に隠そうとしているんでしょ? こんな荷物を隠していることがバレたら私まで怒られるじゃん! 捨て捨て」


「大丈夫だよ、おばさんにはステータスオープンと呟いたら、ステータスが空中に浮かんだから危機感を持って、非常食を買い込んだって、説明すれば」


「病気だよ、そんなの! そんなアホな理由で話せるか! しゅー君、そろそろうちのママも怒るからね? 付き合いを止めろって言われたらどうするの? 一応私の彼氏だよね?」


 私が頬を膨らませて、怒っていますと表情で教えようとすると


「大丈夫だよ。僕は勉強も運動もできるから。高校も進学校だしね」


「私も同じ学校だから、しゅー君の凄さは知っているけどさぁ〜」


 このアホな彼氏は勉強はできるし、運動も得意だ。惜しむらくは常にこの世界がつまらないと口癖のように言っており、厨二病でもあることである、


 才能の無駄遣いを地で行く男子だった。これでも私の彼氏なんだけどね。


「わかった! それじゃあ明日のデートは僕の奢りで良いよ。それでどう?」


 パンと両手を顔の前で合わせて頼み込んでくるしゅー君。瞳をうるうるすると私よりも可愛いかもしれないので少し嫉妬をしてしまう。


「しょうがないなぁ、でも、何日も隠せないよ? どうするのこれ?」


「う〜ん、物置に分散して隠そうと思うんだ。たぶんバレないよ、何しろ色々と他にもダンボール箱が置いてあるし」


「悪知恵だけは働くんだから〜。そろそろ厨二病は卒業したら?」


 その答えに呆れてしまうが納得もする。分散させて物置にしまえばバレないかもしれない。けど賞味期限が切れたらどうするつもりなんだか。


「そうだね、そろそろ高二病になろうと思うんだ。ほら、やっぱりリアリティが欲しくなってきたんだよね、最近」


「変わっていないから! アホ!」


 考え込みながら言ってくるその内容に呆れて、私は枕をしゅー君に投げつけるのであった。


 それが世界が崩壊した日の前日だった。極めて呑気に私たちは明日も同じ日が続くと考えて、気楽に話していた。


          ◇


「この世界は崩壊した……。世界はもう終わりだよ……」


 荒れ果てた家に隠れ住んでいる私は縄で動けないように縛っている彼氏をボンヤリと見つめて、その言葉を聞いていた。


 私の部屋には空のペットボトルや非常食の残骸が転がっている。


 しゅー君はいつもの面影はなくなり、目は白目になり口からはヨダレを垂らして……。


 身体が崩れていた。髪は白髪になり、肉が剥がれて骨が見えており、それでも死なずに、ゾンビへと変わっていた。それでも意志があり、周囲が意志を無くしたゾンビに成り果てる中で強靭な意志を保っていた。


「こんなの……映画でしか見たことないよ……。どうすれば良いのしゅー君?」


 こういう困った時に頼りになるしゅー君もゾンビになり、私を傷つけないように縄で縛って欲しいとお願いされたので、縛っている。


 両親もおじさんおばさんたちも家には帰ってこない。周囲にはゾンビたちが徘徊して、私はしゅー君が用意していた保存食を食べて生き延びていた。だけれども、未来は絶望的だった。しゅー君もいつ意志を無くすかわからないし、私は外へと出る勇気はない。


 生存者たちの悲鳴が昼に夜に聞こえてくる中で、私一人で外出できる訳がない。ガタガタと身体を震わせて、体育座りで部屋の隅で日々を過ごすだけだった。


「聞いてくれ、鈴……」


 呻くような嗄れた声でしゅー君が声をかけてくるので、恐る恐る視線を向ける。正直、ゾンビとなったしゅー君を見るのは辛い。でも一人でいる勇気もない。ないない尽くしだ。


「なに、しゅー君?」


「こ、このゾンビ化はウィルスとかじゃない……」


「ウィルスじゃない? ウィルスじゃなくても、呪いとかでも結果は同じだよ……。皆がゾンビになっちゃってる!」


 金切り声をあげて、慌てて口を噤む。声でゾンビが集まってきたらまずい。


 しゅー君はボロボロの肉体を震わせて、かぶりを振る。


「違うんだ。僕の深い闇が声となって聞こえるんだ。それが世界を変えろと言ってくる。人を殺せと常に叫んでいるんだよ」


「意味がわからないよ? どういう意味?」


「この声は僕の心の闇だ……。きっとこの心にあった身体へと僕はなると思う……」


 苦しむように言ってくるしゅー君の言う意味がわからない。どういう意味だろう? このごにおよんで、厨二病?


 戸惑う私へと、不気味な白目となった瞳で私を見ながら伝えてくる。


「この進化を……進化と言って良いのかはわからないけれども、利用する。君を助ける身体へと変えようと思う。世界を変える姿へと。それはきっと明日になる。その時に僕はいないと思うけれども」


 まるで息ができないように、喘息の人でもあるように、息を切らしながら


「世界を変える。君が選択するんだ、ライト、ニュートラル、ダーク。分岐は3つある。きっと君ならば神を作れるはずだ。いや、僕とキミならばできるから……信じて欲しい。きっとこの世界で僕たちだけが世界を救えるはずだ………」


 言い終わって、疲れたようにうつ伏せになり、そのまま身動きを止めてしまうのであった。


 その後に私がどんなに話しかけても、もう二度としゅー君は口を開いてくれなかった。まるで全ての力を使い果たしたように。


          ◇


 次の日。私はドアが叩かれる音で目を覚ました。体育座りで寝てしまったせいか身体の節々が痛い。


 ドンドンと激しく叩かれる音に、慌てて目を完全に覚まして、恐怖を覚える。まさか両親ではあるまい、これだけ激しく叩かれる理由は一つだ。


 なぜかゾンビに見つかったのだ。どうしてだろう? なぜだろうと考える。だが、それどころではない。いずれドアを壊してゾンビは入ってくるだろう。


 いや、メキメキと音がしているので時間はない。


「どうしよう、どうしよう。しゅー君、私どうしたら? しゅー君?」


 助けを求めて、しゅー君へと声をかけようとして戸惑う。しゅー君がいない。縄が外れており床へと落ちている。そしてしゅー君の姿がない。


「しゅー君? しゅー君?」


 慌てて姿を探すがどこにもいない。縄が外れて、どこかに行った? でも私を置いて行くなんて不自然だと思う……。


 玄関ドアがメキメキと砕けて、ガランとドアが落ちる音が聞こえてきた。


「うぁァ〜」


 ペタペタと床を引き摺るような足音が聞こえてくる。まずいまずい、入ってきた!


 恐怖で心臓が鷲掴みになり、部屋のドアからなるべく離れようと、床を這うように移動する。


「た、助けて。しゅーくん……」


 小さく呟きながら、クローゼットに隠れようとするとコツンとなにかが手に当たった。


「な、なに? 本?」


 黒い本、A4ぐらいの大きさのまるで、まるで……。


「しゅー君が作ったことのある黒歴史の本にそっくりだ……」


 たしか、去年に作っていたやけに凝っていた魔法の本だ。悪魔の書とか言っていたけれども、ゲームの写真や説明書きを書き込んでいたのを覚えている。


 それがどうしてこんなところにと不思議に思う間もなく、私の部屋のドアもドンドンと叩かれ始めた。その勢いはあっという間にただの薄い板でできているドアを破って、手が破った隙間から伸びてきた。


「こないでっ! こないで〜!」


 思わずその本を手に取り、盾にするように掲げる。


「うぁ〜」


 ゾンビがドアを完全に砕いて中に入ってくるのと、本が闇色に輝くのは同時であった。


 部屋を黒い光が照らし、本が開きペラペラとページが捲られていく。そうして、ページが止まると足元に魔法陣が発現する。


 ゾンビが襲いかかってくる中で、魔法陣からなにかが飛び出してきた。ゾンビを掴み投げ飛ばす。


 部屋から勢いよく投げ飛ばされたゾンビは壁に叩き潰されて動きを止めた。死体であるためにしぶといはずのゾンビをなぜかあっさりと倒したことに、呆然としてしまう。


 魔法陣から現れたのは


「ミノタウロス?」


 ブルルと獣の息を吐いて、3メートルぐらいの大きさの二本足の牛の化物。有名すぎて、私も知っているやつだ。


 開かれていた本を見ると、そのページにはミノタウロスと書いてある絵と説明書きがあった。


「これ、魔物を呼び出せるの? まさか……」


 ペラペラとページを捲っていくと、最後に三体の神様が書いてあった。唯一の神と書いてあるのに、三体いる……。しゅー君らしいというか。


「女神のゲーム、私もやっていたから意味がわかるよ……」


 三体はそれぞれライトロウ、ニュートラルニュートラル、ダークカオスと書いてあり、必要DPが書いてある。ペラペラと見ていくと一枚目には現在のDPと入手DP、ミノタウロスのページには必要DPが書いてある。


「ミノタウロスが10000DP………。どういう意味だろう? ポイントなのはわかるけれども……倒したゾンビから手に入れたDPが1? それで神様は……」


 最後のページを見直して、呆れてしまった。


「何これ、72億DP? しゅー君……これ創らせる気ないよね。それにニュートラルニュートラルは神様が自由に世界を作っていく、ダークカオスが世界を破壊して破滅的な世界を作り直す。ライトロウが世界に正義と秩序を与える。これ、選ぶ属性決まっているよね……」


 そう思いながら本を手に抱える。どうもしゅー君は抜けているところがある。厨二病だからだろうか。


 それにしゅー君はどこに?


 どちらにしても、この本は役に立つ。しゅー君からの贈り物ならば大事にしないといけない。神様を呼び出すのは不可能だろうけど……。


 この本とミノタウロスがあれば、とりあえず命は助かるだろう。ゾンビならば相手にはならないはずだ。


 ただゾンビは数が多い。倒したらDPが手に入るみたいだけれども、使い方の説明文が欲しい……。


「とりあえず、ここから脱出しなくちゃ。ミノタウロス、私を守って……、な、なに?」


 手に持つ本が再び輝く。その邪悪そうな黒い光は私を覆っていき……。意識を私は失った……。


 次に目覚めたときには、無数のゾンビが倒れ伏しており、ミノタウロスが返り血で血みどろになりながら立っていた。


 その様子を見ても、恐怖も感じずにおどけたように私は口を開いた。


「なかなかやるね、ミノタウロス。これなら安心だ、と言いたいところだけど、僕を守るには魔法系の悪魔が欲しいところだね」


 なにか意識がボンヤリとしている……。なにか私ではないような気がする……。ううん、僕と言っていたっけ……。


 何をしなくてはいけないんだっけ……。そうだ、神様を創り出さないといけないんだった。


「さて……ダークポイントを手に入れないと碌に行動できないな。ゾンビを倒しても微々たるものだし、手に入れる方法を考えないとね」


 なぜか身体の調子が良い。何日も部屋に閉じ籠っていたのに、やけに清々しい。どうもお腹も減らなく、病気にもかからなくなったと自然と自分の身体を理解する。


「名前……。そうだ、僕には名前が必要だ。この世界を決定づける人物の名前が。この世界の方向性を決める人物としての名前が」


 姿見の鏡を見ると、僕の姿は大きく変わっていた。しゅー君が昔にコスプレしていた姿にそっくりだ。白髪でおさげにしており、アルビノのような赤い目と白い肌、中性的な顔立ち。たしか、この姿の時に名乗っていた名前があったはず……。


「スティーブン。そうだ、スティーブンと名乗ろう。僕に相応しい名前だよね。これから世界を作り直す偉人として相応しい」


 そうして僕の長い旅は始まった。私へと戻るその日まで……。

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― 新着の感想 ―
しゅう君は彼女を助けるのが思いが歪んだのか?それとも厨二的精神が軸だったのかどっちだったんだろう? 女神で転生なゲームが元ネタならニュートラル一択なんだけどね。
[一言] ほんと迷惑なおとこだった
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