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コンクリートジャングルオブハザード ~ゾンビ世界で遊びましょう  作者: バッド
27章 国と対決しよう

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445話 剣聖再び

 巨大な構築物、神々しい力を持つ社は大きく揺れていた。その震えはまるで社の力が消えていくように。いや、文字通り消えているのだ、我が主君の力により。

 

 自分はこの社が完全になくなり、その力が主君へと移るまで門を守れば良い。それが自分の役目なればと老人は勾玉の鎮座する間の門前に立ちはだかっていた。


 既にこちらを抑えようとしていた者たちは片付けた。あとは待つのみだと刀を握り佇んでいると、見覚えのある男がふらりとこちらへと現れた。


「カッカッカッ。縁は巡り、我らは再び戦う宿命にあるか」


 その姿を見て、楽しそうに剣聖上泉信綱は笑う。その笑いは獰猛な笑みであり、獲物を見つけた、いや、ライバルを見つけた喜びに満ちていた。


 ふらりと現れた男は以前とは違う強力な力を持つ刀を持っており、こちらに気づくと苦笑いを浮かべる。


「再び戦うのが宿命か。私としてはもうたくさんであったのだがな」


 以前に朝倉遥と名乗った剣豪はそう言って、鞘から刀を抜き放つのであった。上泉信綱の命を断った男が再び目の前にいる。その宿命を喜び、上泉信綱は刀を構えて


「さて、拙者の名前は上泉信綱。化生の身ではあるが、いま一度戦いを挑もう」


「私の名前は朝倉遥。残念ながら化生に用はない。その扉の先に進ませてもらおうか」


 朝倉遥も身構えて、再びの宿命の戦いは始まるのであった。


          ◇


 社の揺れは激しくなり、パラパラと屋根から木片が落ちてくる。遥の目にはマテリアルを急速に失っていく社の姿がよく見えた。このまま放置していれば、社は完全に消えてしまうだろう。


 そんなことは……そんなことは……凄い都合が良いよねと時間稼ぎをする気満々なおっさんである。


 こんな神聖すぎる社はいりません。もう少し観光スポットになりやすい建物が良かったよと思いながら、想定外のモノが目の前にいたので、密かに嘆息する。


 会いたくない人物ナンバーワン、上泉信綱が刀を構えて嬉しそうに笑っていた。


 おっさん的には全然嬉しくない、なんで感知に引っかからなかったの? 封印されていたから? そうですか、なるほどね。


 疑問はあっさりと自己完結しつつ上泉信綱へと問いかける。


「随分この間とは違うみたいだな。纏う力が様変わりしているようだが?」


 ミュータントのステータスを全開にしている上泉信綱は見かけは人間のままだが、遥には完全に別の生き物に見えてしまう。


「そっちも面白そうな刀を持っているじゃねぇか。恐ろしい程の神気を発しているぜ?」


「だろうな。だが、所詮はただの刀だ。斬ることぐらいしかできない」


「カッカッカッ。言うねぇ、そのとおり、後にも先にも刀は斬ることしかできねぇ。お前さんは良いことを言うねぇ」


 心底楽しそうに笑いながら、刀をこちらへと向けるように中段の構えをとる。そうして死を予感させる物理的な力もありそうな視線を遥に向けて


「では参るぞ」


「仕方あるまい。相手をしよう」


 遥も梅干しを食べたがごとく渋い表情で答えるのであった。


 おっさん的には凄い嫌だけどね。なぜ、レキに交代してこなかったのか心底後悔しています。立ち去る姿も格好良いよねとか思って、総理たちと別れるんじゃなかった。


 そして、私の忠実なるメイドたちはどこに? あの柱の影でワクテカとした表情でカメラを抱えている女性だったり、柱から覗いている幼馴染みたいなヒロイン枠の行動をとっている少女たちとは思いたくない。そう、思いたくない。


 たぁすけてぇ〜! まったく私を助ける気ないでしょう君たち!


 上泉信綱はやる気満々だ。すなわちおっさんが倒すことになるし、その場合はクエストクリアの経験値が手に入らない。


「やれやれだぜ」


 床を踏み込み、人の見える速度を凌駕した速さで迫りくる上泉信綱を遥は視認して、自然と疲れたように呟いてしまう。


 今度こそ勝つのは難しいよねと思いながら。


         ◇


 遥の目の前で上泉信綱はまさしく神速と呼べる速さで袈裟斬りをしてきた。刀が一瞬光り、風切り音のみしか一般人ではわからないだろうが、おっさん+7となっている遥にはなんとか視認できる。

 

「ふっ!」


 こちらへと振り下ろす剣撃を息を吐き、なんとか天叢雲で受け流しながら、身体を横へとずらす。間合いを僅かにとって、翻して横薙ぎで振られる相手の太刀を受け止める、が


「ぐうっ」


 その恐ろしい人外の怪力により吹き飛ばされてしまう。転ばないように足を踏ん張ると、ガリガリと木の床を削りながら靴の底が削られていく。これは買い直さないといけないレベルだねと思いながら、追撃してくる上泉信綱へと向き直る。


「シッ」


 まるで狼が獲物に食いつくように前傾姿勢で迫ってくる上泉信綱は、チャキリと刀を構え直して、銃弾のような勢いで突きを繰り出す。


「チッ」


 舌打ちをしつつ、遥は繰り出される突きを見極めて、刀の先端へと自らの刀を軽く合わせるように突く。チンと音がして刀の軌道が変わるが、上泉信綱はすぐに引き戻して、連続で突きを繰り出してくる。


 その連続突きへと、頑張って刀の先端へと合わせていき、軌道を変えていき防ぐ遥。金属音がまるで楽器のようにリズミカルに鳴り響き、死の輪舞は続いていく。


 防いだあとには、すぐに上泉信綱は刀を引き戻すが、その剣から繰り出させる風がかまいたちのように力を持って、おっさんの肌を斬り裂く。


 マジですか、なんで風が物理的な力を持っているの? チート、お爺ちゃんチートだよ、それ。私も風の追加ダメージをいれられる刀が欲しいと現実逃避をしちゃう。


 だが気づいたこともある。そうだよね、よく漫画とかで見るよと遥は気づいたことが。


「カッカッカッ。拙者は既に人外の力を持っている。なればこそ、そなたが攻撃を防ぐことが信じられん。あれからさらに腕を上げたな!」


「そうだな……以前よりは強くなった。貴方の言う通りだ」


 約レベル2分ぐらい強くなりましたと内心で思いながら、遥は身体を沈めて、横薙ぎに大きく天叢雲を振るう。だが無論のこと、そんな大振りに上泉信綱は当たるはずもなく、軽々と後ろへと大きく飛び退いていった。


 躱しきったその老人の様子に、遥は安心の吐息を吐く。そうして、上泉信綱へと静かな声音で告げる。


「貴方は以前より弱くなった。もはや剣聖とは呼べないな」

 

 その予想外の言葉に上泉信綱は眉を顰めて遥へと苛烈な視線を向ける。


「拙者が弱くなっただと? 化生に堕ちた我が身なれど、なればこそ人では拙者には敵わぬ」


「自分ではわからないのか……そうだろうな、だが私は理解した。剣の道から外れた貴方ではもはや私の相手ではないと」


 静かにそう注げて、ヒュンと素振りをすると上段に構えておっさんは上泉信綱へと告げるのであった。


          ◇


 対峙する二人。剣聖対くたびれたおっさん。名称では剣聖の方が圧倒的に勝っているが、勝負はどちらに転ぶかわからない。


 上泉信綱は目の前の剣士を注意して観察する。化生の身となった自分。圧倒的な身体能力はあらゆるものを斬り裂けた。その自分へと弱くなったと告げてくる男を警戒して見つめる。


 刀を構えているにもかかわらず、自然体に見える凄腕の剣士。拙者が弱くなったという言葉に嘘は感じられない。そして、もはや負けぬとの宣言にも。


 不可解だった。人の身で拙者の攻撃を防ぎ、なおかつ勝つと言う人間。本当に自分は弱くなったのだろうか?


 だが、すぐにその答えはわかるだろう。かの好敵手の雰囲気が変わったからだ。以前に受けたあの技を繰り出すつもりなのだろう。


 だが、その攻撃は見せてもらった。負けることはあり得ぬと考えて、その自分の傲慢さに苦笑をする。命を賭けた戦いであるのに、余裕のある自分が。圧倒的な身体能力により、相手を無意識に見下してしまう自分が。


 それでも残念ながら人の身では遠く自分には敵わない。そう考えて身構える。


『奥義剣聖』


 その言葉と共に朝倉と言う剣士が放つ殺気が刃へと変わり、無数の死を齎すであろう突きとなり向かってくる。


 しかして、上泉信綱はその攻撃を見切っていた。僅かなブレと放たれる突きに伴う風の流れ。人外たる自分にとっては造作もない。放たれる突きを迎え撃つこともせずに、最後の一撃がくるのを待つ。


 想定どおり幻想の刃は身体を貫いていくが、その攻撃は傷つけることはない。


 卑怯であれど、これが人外となった自分の力なのだと苦々しく思いながら。


 その自分へと朝倉は声をかけてきた。つまらなそうな声音で


「そうだろうな。そうくると思っていた、そしてそれこそが貴方の限界を示してしまった。人外なればこそ、か」


 と、呟くように伝えてきて、僅かにその身構える姿を揺らすとまるで空気に溶けるように消えていく。


「なっ! なにが?」


 気配が消えて、迫りくる殺気の刃もなくなり瞠目する。いったいなにがと考える暇もなく、朝倉の言葉は続いた。


『秘奥剣聖』


 人外の感知能力を全開にするが、どこにもその存在は見えなく、殺気も感じない。無心の刃が迫るのではなく、男の存在自体が消えていた。


 そして静かに秘奥と呟かれたその言葉を耳にして


 上泉信綱はいつの間にか、その首を斬られてしまうのであった。その一撃は自然であり、斬られることが当たり前のように。抵抗することも許されずに。


          ◇


 ゴロンと上泉信綱の生首が床に落ちて、闇色の血が胴体から吹き出してドサリと倒れ込む。


 ふぃ〜、と上手くいったねとおっさんは汗を拭った。パワーはないけれども、新たに手にいれた技を駆使したのだ。


「見事だ……今度は拙者の完敗だな……」


 上泉信綱の生首が口を開き、悟ったような穏やかな表情を浮かべる。未だに生きているのはさすがである。おっさんのダメージだと滅するのに時間がかかるみたい。


 なので答え合わせといこうかなと、上泉信綱へと返事をする。


「貴方は力に溺れてしまった。以前の貴方ならば身体能力に任せた見切りを行うなどは決してしなかっただろう。人外の感覚に頼りすぎたな」


 遥が大きく横薙ぎをした時に、以前ならば上泉信綱は見切って僅かに下がるのみで、無駄な回避をしなかっただろう。だが、人外の身体能力に身を任せるままに、無駄に大きく飛び退った。


 この爺さんは自分の身体能力を完全に把握していないと、あの時に理解したのだ。そのために新たに手に入れた属性変更スキル、『自然に溶け込もう』、を剣聖技に合わせて使ったのである。


「そのとおりだな……。その刀の力はあれど、人の身で拙者を倒す技を使えるとは……。身体能力に頼るとは、たしかに拙者は弱くなったか。カッカッカッ」


「人の身であった方が強かった。ただそれだけだ、さらばだ、剣聖よ」


「人の身であれば……。さらなる精進は人の身でないと駄目であったか。剣の道はやはり奥深い……」


 会話をしていた上泉信綱の身体がキラキラと輝き浄化されていく。


「輪廻の果てに、このような人生が待っていたとは、これだから人は面白い。さらばだ、新たなる剣聖よ」


 最後の言葉を口にして、満足げに上泉信綱は消えていったのであった。周囲をキラキラと粒子が舞い散り、おっさんはフッとクールに笑った。


「ねぇ、経験値は無いの? もしかして剣聖の宝珠だけ? ボーナスアイテムとかエクストラスキルを手に入れましたとか無いのかな?」


 振り向いて、忠実すぎて戦闘支援をまったくしてくれないメイドたちへと問いかける。


「ご主人様、剣の道を極めんとする剣聖上泉信綱を撃破せよ! exp0、報酬剣聖の宝珠を手に入れました! おめでとうございます、もちろん経験値は手に入りません。エクストラスキル。メイドを労わろうを手に入れました!」


 サクヤがてこてこと柱の陰からでてきて、うふふと楽しそうな笑みでクエストクリアを告げてくる。やったね、全然嬉しくないよ。


「というか、エクストラスキルじゃなくて、たんなる願望だろ! ねぇ、最近サクヤはさぼりすぎじゃない? 私と同じぐらいにさぼりすぎじゃない?」


「お疲れ様でした、マスター。今の戦いは見事でした、エクストラスキル、私のチュウを手に入れました。チュッ」


 真っ赤なリンゴのようにほっぺを赤くしながら、精一杯背伸びをして、遥の頬にチュッとキスをしてくれるナイン。むぅ、これが報酬なら問題ないねと、いい歳をして照れるおっさん。そろそろ事案にした方が良いだろう。


「お疲れ様でした、マスター。今の戦いは見事でした。エクストラスキル、私へとチュウを手に入れました。どうぞどうぞ」


 ニヤニヤとしながら、サクヤも悪乗りして頬をつきだしてくる。なのでたまにはやり返すかなと、頬にキスをする遥。


「ギャー! なんで照れないで平然とした様子でキスをするんですか! このエッチ!」


 ピャアと叫び、飛び上がるように驚くサクヤ。フハハハ、たまにはやり返さないとねと遥が笑おうとしたが


「マスター。もちろん、私にもですよね、どうぞ」


 ナインも頬を突き出してくる。美女なサクヤなら事案にはなりにくいので特に戸惑うことはないが、見た目少女なナインさんだと……。


 冷凍光線が今にもナインさんから放たれそうなので、サクヤがカメラを構えようとするのを防ぎつつ頬にキスをするのであった。


 もはやおっさんの勝利の報酬としては破格であると決まった瞬間である。もうこれ以降もおっさんがクエストクリアしても報酬はいらないだろう。とりあえずはおっさんが美少女にキスをするシーンはむさ苦しいのでモザイクをかけたら良いと思います。


「とりあえずはこの先に進むしかないのかな」


 気を取り直して、サクヤたちへと問いかける。未だに社はゴゴゴと震えており、力を無くしている。たぶんこの先にスティーブンがいるのは確実。ボス戦が待っているのだ。


「そうですね、テンプレですがスティーブンがなにかをしているのでしょう」


「サクヤの言うとおりだと思うよ。この場合は何通りかテンプレパターンがあるんだけれども……戦いは避けられないか」


「マスター、激戦となりますので注意してくださいね」


 二人の言葉に強く頷くおっさん。推理しなくても、強敵が待っているのは確実なので


「とりあえずはメモリーテレポートで拠点に帰ろう。セーブ、ボス戦前はセーブが基本です」


 おっさんでは戦えないしねと、拠点へと戻るヘタレっぷりを見せるのであった。さすがはおっさん、石橋を叩いて、やっぱり危ないからと渡らない強い心を持っていた。もしかしたら最強なのかもしれない。


「あと30分ぐらいは余裕がありそうな感じがしますしね。ちなみに今は入っても、相手は急いで儀式を完成させるので同じ結果にしかなりませんよ」


 平然とした様子で相手の動きを完全に見切っている鬼畜な銀髪メイド。


「カフェオレを作りますね、アイスにしておきますかマスター?」


 ニコリと可愛らしい笑みで休憩を勧めてくる金髪ツインテールメイド。


 おっさんのヘタレな選択肢を驚きもせずに受け入れるメイドたち。さすがは崩壊後は付き合いが一番長い二人である。以心伝心っぷりが凄い。


「スティーブンが何をするのかはわからないけれども、とりあえずは一休みしよう。メモリーテレポートッと」


 超能力を発動させて、拠点へと戻るおっさん一行。そのノリはゲームのボス戦前とまったく同じであった。


 そうして帰宅したおっさんは一休みをしてゴロゴロしたあとに、そろそろ時間かなとレキへと変わり、社へと舞い戻る。


 可愛らしい少女が決戦では絵になるんだよと、二人のメイドと共に。

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― 新着の感想 ―
純粋な武芸者が人外の力で実質弱体化、それを悟ってそれでも勝負と結果に満足しながら消えていく いいよねこういうの
やっぱ、この話大好き!! 「さらばだ、新たなる剣聖よ」 ここ好き!! かっこよすぎてビビる
[一言] 推しが死んじゃったけどカッコイイおっさんを見れたから満足!
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