424話 広がりし庭の内容を決めるゲーム少女
はぁ〜、と深くふか〜くため息を吐く美少女が自宅の庭で佇んでいた。天使の輪っかができる艷やかなショートヘアの黒髪、眠そうな目は宝石のように輝いており、桜のような色の小さな唇、ぷにぷにほっぺで、小柄な身体の見た人が保護したくなるような子猫のような幼気な可愛らしい美少女。朝倉レキである。
以前と違うのは神々しい黄金の粒子が絶えず身体から湧き出しているところだ。おっさんだとフケでしょう、汚いなぁと言われるかもしれないが、美少女なので神々しさしか感じない。
レベル70になったせいか、おっさん+7になったせいか、粒子が生み出されるようになったのだ。
「レキの状態だと、扱いが難しいね、自分のぼでぃなら全然問題ないんだけど」
「レキぼでぃですと、どうしてもコントロールが緩むみたいですね。でもご主人様ならできるでしょう?」
サクヤが当然できるでしょうと聞いてくるので、軽く頷く。おっさん時も粒子が生み出されるびっくり人間みたいになったが、完全に把握してあるので、たとえ死ぬ寸前でも粒子が漏れることはない。だが、レキぼでぃだとコントロールが完璧ではないのか、粒子が漏れ出るので、少し気をつけないといけない。
少しでわかるように、レキは簡単に粒子が漏れ出るのをすぐに抑えた。レキで良いよね、こんなに神々しいんだし。神々しくなくても可愛らしいので問題はないはずだ。きっとレキならばびっくり人間とかも呼ばれないに違いない。天使とか女神と呼ばれるだろう。
そうして厳かに女神な美少女は口を開く。
「拠点レベル9って、広さが半径1万キロ? ちょっと地球の四半分ぐらいはあるよね? なに、この神域はお皿のような世界なの? 亀や象に支えられた世界なの?」
やっぱり遥で名称は良いだろう。間抜けっぽい発言なので。
ステータスボードの拠点マップは真っ白な地図が映し出されていた。真ん中あたりが多少色がついており、遥の住んでいる場所周辺だとわかる。
大樹は10キロほどの横幅を持つ幹に育っており、樹上に街が作れそうというか、たぶん作れる程の大きさになっていた。巨大すぎます。そのため、おっさんの豪邸がうさぎ小屋どころか、アリの家みたいに小さく感じて悔しがる心が狭い遥。
ただ、あとは以前からある部分以外はなにもない。真っ白な床のみが続く世界だ。遥の住む周辺以外、青空すらもない。たんに白い世界が続いていた。
そう、酔いから醒めたら拠点レベルがアップしていたのだ、合わせて大樹もレベルアップしている。おっさんの知らない間に。
いつもの如く、サクヤとナインに騙されて、拠点レベルアップシーンを見逃してしまったおっさんであった。まぁ、自業自得とも言える、自ら火の中に飛び込んだようなおっさんであったので。火ではなくて美少女の膝枕だったので、仕方ないかもしれない。おっさんなら飛び込むよね?
そして気づいたら、アホみたいな広さに拠点が成長していたのだった。
「マスター、これからはこの世界を作らないといけません。どういう世界を作るかはマスターの自由ですよ。チュートリアルというやつです」
ナインがニコリと楽しそうな笑みで声をかけてくるので、マップを見ると水やら土に山やら沼とか荒れ地とか砂漠とアイコンが横にあった。これを使用して作っていくらしい。凄いゲームっぽい。
森林がないのは、植物を遥が作らないといけないからだ。生物もないのは同じ理由。そして、この広さでチュートリアル? だが、おっさんはこういう経験はたくさんある、無論ゲームの中だけど。
「なるほど、美味しい作物や家畜を作り出さないといけないんだね。大きい牧場と畑みたいなものだね」
ウンウンと納得する遥。広大ななにもない世界の創造を一気にスケールダウンさせてくるゲーム少女であった。さすがおっさんだ、物事を矮小な見方に変えるのに定評がある。
苦笑しつつナインは頷く。まぁ、それに近いものなので特に問題はないと考えたのだ。
だが、そこで珍しく可愛らしい顔を困った表情へと変える子猫のような美少女。
「実はさ、シムのゲームで惑星を作るアース系は唯一苦手だったんだよね」
唯一と言い張るゲーム少女。ストーリーモードのシムなゲームとかも苦手な分野だが、そこはスルーしておく。
それよりもアース系は苦手なのだ。シムなアースのゲームとはなんぞや? と若い人ならば首を傾げて疑問に思うだろうが、それは惑星を一から作るゲームであった。なんと、岩地だけで何もないところから彗星を突撃させて、水を作り海を発生させてアメーバを大量に作ったら、それが様々な種族に進化していき遂には宇宙文明へと育てていく、まさに神視点のゲームであった。
遥も楽しんでやろうとした。しかしながら、いつも海をつくってアメーバを増やしたあとの火山を噴火させて大地を作るところで終わっていた。だってアメーバがなぜか全滅するんだもん。
おっさんらしい、不器用なゲーム進行であったが、現実でそれをやると困ってしまう。仕方なくとりあえず考える。
「そうだなぁ、まずは中庭と外庭を区切ろう。広がる前の200キロ範囲の庭を内庭」
ポンポンとマップを押下して、プライベートガーデンと適当ネーミングをつける。ここは許可された者しか入れないようにしておく。
「んで、周りはすべて海にして、気候は面倒くさいから地球と同じということで、北がちょっと寒い、南がちょっと暑い、東と西は四季に溢れた場所にしておいて」
とりあえずはマップに書き込んでいく。まずは下書きが必要です、おっさんだと豆腐職人の技が披露されるので。
「あとは海の上に大陸や島々を作りたいけれども、どうしようか?」
「そうですね、浄化作用を考えると海は6割は欲しいです。あとは大陸や島々で埋めればいいですよ、グラフで海の%を出すので、それを見ながら作れば良いかと」
ナインがアイスカフェオレを手渡してくれるので、アイテムポーチから椅子を出して座る。そうしてちっこいおててで包み込み、考えながらアイスカフェオレをちぅちぅと吸う。美少女レキの考えながらカフェオレを飲む姿は可愛らしい。
う〜んと、迷うが美味しい食べ物も食べたい。そのためには家畜や作物は必須だ。
それならばと、遥は思いついたことを書くことにした。
「内庭にはレベル4〜6の作物や家畜、外庭には3レベル以下のを用意しよう。あと収穫時にドライたちが傷つかないようにできる?」
ふむ、とマスターの言葉を耳に入れて、ナインは考え込む。家族が傷つくのは絶対に嫌なマスターなので考えないといけない。
というか、その答えは簡単である。
「作られし生命体は私たちとアイン、ツヴァイたちやドライたちへの攻撃及びそれに準ずる行動は無効になると決めておけばよいのです」
「それさぁ、抜け道が必ずあって下剋上されちゃうやつじゃない? 神の支配を抜け出すんだとか物語ができそうなパターンだよね」
どこまでも小心者で臆病なおっさんなので、油断しないのだ。というか、そういうパターンたくさん見てきたし。
う〜ん、と頬に手をあててナインは考える。たしかに微粒子レベルだが、ドライたちは危ないかもしれない。ツヴァイたちならば問題ないが、ドライたちは弱い。
そのため、高レベルの家畜を作ると、抜け道を利用してやられる可能性はある。心配しすぎだとは思うが。
マスターの不安は絶対に排除しなくちゃと、尽くし系のナインは考える。考えて思いつく。
「それに加えて、この神域では家畜や植物からの攻撃を1万分の一しか受けない空間にしておきましょう。その設定は簡単です。そこの設定画面で行ってください」
ゲーム仕様のマスターなのでこんなこともできたりする。ナインは微笑んでそう伝える。
「マジですか、なになに、プレイヤー及びパーティメンバーへの攻撃を減衰する。おぉ、状態異常無効と即座に拠点で復活もある! さすがだよナイン。私はこういうものが欲しかったんだ」
「神域はマスターの思い通りの場所となります。進化の方向性や繁殖、文明などの暮らしなどには介入できませんが、他は自由自在です」
「大丈夫、大丈夫。今のところ知性体を作る気はこれっぽっちもないから。知性体への進化を禁ずるもオンにしておこう、あと進化も無しね。レベル15になったら強さも限界になるもオンにしてと」
キャッキャッとゲーム気分で楽しむ美少女。膨大な設定があり、すべてをイージーを超えてヌルゲーにする設定へと変えていく。
正直、ヌルゲーにする程ゲームはつまらなくなるが、現実なので全然問題ない。
「おっと、プレイヤーやパーティーへの攻撃無効もオンっと。レベルアップ時のスキルポイントは自動割り振りで最高スキルレベル3に設定。限界突破? 覚醒? いらないね、オフと」
次々と住む者には極悪な設定にしながら、ふんふんと鼻歌を可愛らしく口ずさみながら、ポツリと尋ねる。
「ねぇ、拠点がレベルアップしたのは私が神聖視されたからかな? 大樹が成長したのも合わせてタイミングが良すぎるし」
モニターを操作しながら尋ねるその表情は後ろにいるサクヤとナインにはわからない。力を使えば見れるだろうが、そこまでするつもりもないだろうと、微笑みながら返答するサクヤ。
「ご主人様、そのとおりです。既に明晰なるご主人様なら理解していると思われますが、レキの姿時のご主人様を人々が神聖視することで条件が満たされました。即ち、チュートリアル世界を創造しようが解放されたんです」
ムフンと胸をぽよんぽよん揺らしながら、得意気な表情で説明をする銀髪メイド。
新たなるステージに入ったということなのだが、ちょっとおっさんには面倒くさい。それと気になることがある。
「ねぇ、おっさんは神聖視されていないのに影響されているよ? というか、本当に神聖視されているのか………少し若木シティへ行くのが怖いんだけど? このあと皆で海に遊びに行く予定なんだけど」
もしかして友だちから壁を作られたらどうしようかと、少し不安になっちゃうゲーム少女である。
「それは皆さんと会わないとわかりませんよ。それに兵士たちが中心なので、他の皆さんは大丈夫ですよ、マスター」
ナインが慰めてくれるけれども、どうかなぁ。あの狐との戦いは少しばかりやりすぎた感じもあるんだけれども。神聖視……レキが神聖視されてもおっさんは影響を受けない、という訳ではない。真の姿のおっさんもしっかりと影響は受けたのだ。というかレキ以上に。
例えるならばアイドルは稼ぐけど、売り出している会社の方がウハウハで儲かる感じ。おっさんはその社長というわけ。実にいらない会社だから倒産してほしいと皆が祈るかもしれない。
考えても判明するのは皆に会った後だし仕方ないねと、とりあえず放置しておくことにして、モニターを見ながら話を変えることにする遥。
「それじゃ、それはおいておいて、やっぱり家畜はふぁんたじーな動物とか植物を食べたいよね。熱々のお肉のサラマンダーや、常に冷たいアイスビーの蜂蜜、やばい美味しそうな生物がたくさんあるよ! 植物も桃源郷の桃から、ジャイアントトータスとか」
おぉ〜、と様々な生命体が一覧に表示されているので驚く。というか黙り込む。
「……ねぇ、作れる生命体の種類が億単位なんだけど? ちょっと多すぎるんだけど? もう少し少なくても良いと思うんだけど」
驚いたあとにうんざりしてしまったゲーム少女。というか誰でもうんざりするのは間違いない。現実だと当たり前の数の種類なのだから文句はいえないけれども。
「マスター、もちろんすべてを作る必要はありません。ここに食物連鎖パックがありますよ。これならば作りたい生命体を作る際にその生命体の食物連鎖に必要な他の生命体も自動で作られます」
「おぉ〜、これならば安心だね。なんでも作れるから好き放題にできるね。それじゃあ、まずは内庭の家畜だけ作るね。外庭は環境から考えたいし」
ていっ、とボタンを押下すると黄金の粒子が集まり、一羽の鶏へと変わった。
「コケー」
創造された鶏はポコンと卵を産むと、バッサバッサと羽を羽ばたかせる。
「こけー?」
可愛らしくメンバーの鳴き声を真似て、コテンと小首を傾げて、いきなり卵を雌鶏が産んだよと、てこてこと見に行く小柄な外見詐欺美少女。ひょいと卵を手にとって
「ふわぁ! これ黄金だよ? え? 黄金でできているよ?」
マジですかと、まじまじと卵を見つめる。ちっこいおてての中にある卵は黄金の殻であったので驚いちゃう。
「今のはなにを作ったんですか、マスター?」
微かに小首を可愛らしく傾げて、ナインが尋ねるので
「えっと、レベル6の黄金の鶏。人形作成スキルレベル10だときゅーこの時にわかったけれども、素材を使えばレベルを決めた生命体が作れるんだね」
いきなりレベル6の家畜を作った遥。ちなみに食物連鎖パックは使っていない。ナインに教えて貰ったけれども、もっとふぁんたじーな環境を決めないといけないしね。そこまで自由自在に作れるのならば、ふぁんたじーな環境にしてみようと考えたのだ。
そして、家畜単体で大丈夫なものを創造したのだ。その中でも黄金の雌鶏に注目したりする。
「自由自在ですよマスター。きゅーこを創造した時点で自由自在に作れます。ただし、自由自在といってもステータスはツヴァイたちとかと同等以下になりますが」
「自分を超えるものができるのならば、自分を改造すればよい話だもんね。なるほど、それで黄金の卵は美味しい?」
そこが重要なのだ。あと、重要なのは静香には秘密にしておくことかな。聞いたら最後、どんな手を使っても侵入しようとするだろうし。
「もちろん美味しいですよ。その卵なら黄金のオムレツを作れます。早速作りますか?」
「うん、私は100羽程の雄鶏と雌鶏を作ってからいくよ」
とやっ、と神話レベルの鶏をそこらへんにいる鶏のように創造していく。わかりましたと、ナインはいくつか卵を貰ってから家に戻りますねと答えて、創造されては産んでいく卵を数個回収してから帰っていった。
「では私たちは鶏小屋に入れてきますね」
どんどんと創造される鶏たちを運んでいくツヴァイたち。農業、牧場専門のツヴァイたちなので、なにかと助かっている。
「黄金の牛、黄金の羊、黄金の豚も番で作成! というか、レベル6は全部黄金の名称なのね」
わかりやすくて良いかと、どんどん作っていく。
「黄金の米に、黄金の野菜シリーズに果物っと。これだけあれば完璧かな? でも全部レベル6になっちゃうなぁ……。レベル1から3も作っておこうっと」
ふんふんふ〜んと、どしどし作る。繁殖もするしたくさん作ればあとは増えて楽だ。神域の作物成長度は某牧場を経営する物語レベルの速さだし。家畜もそうなのかしらん? でも家畜はあのゲームでもそんなに早くは増えなかったような記憶がある。それと同じだろうか?
「ご主人様、お酒も作りましょう。お酒。ご主人様の好きな日本酒」
サクヤが悪魔の囁きをしてくるので、遥も小さいお口を笑みに変えて頷く。
「そうだね、料理レベルは9だしレベル4までは美味しくツヴァイたちが作ってくれるし。それ以上なら自分で作れば良いしね」
「ふふふ、お代官様も悪よのぅ」
「お主もな、越後屋」
ムフフと笑い合って悪代官ごっこをする子供な二人。
その二人へとご飯ができましたよ〜、ナインの声が聞こえたのでてこてこと、家に戻る。もはや、貴女たち何歳ですかと聞かれたらしらばっくれることは確実であるだろう。
家へと戻る途中で立ち止まり、遥は真剣な表情になり、珍しく不安に駆られる。神聖化の概念が確定したということは少なからず私を神と考えている人々ができたはず。
となると、本当に皆は大丈夫かなぁと考えてしまうのだった。




