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コンクリートジャングルオブハザード ~ゾンビ世界で遊びましょう  作者: バッド
25章 戦争をしてみよう

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415話 狐と遊ぶゲーム少女

 人々は世界が震えていると畏怖しながら力の奔流を受けて、波打つような風が流れる空を眺めていた。戦場にあるまじき隙を見せていたが、力の波動を感じるのかサルモンキーたちの動きも鈍い。


 その源、元大阪城廃墟の空では天使みたいな可愛らしくて保護をしないといけないと思わせる愛らしい美少女と、妖艶でありながらも清楚さを持つ美女が浮かんでいる。

 

 お互いに特に殺気も見せずに相手を見つめているのが違和感を伴うであろうか。何故ならばこの二人を中心に発生している力の奔流を受けて風が発生しているのに、確実に戦うのだとわかっているにもかかわらず、殺気を見せないのだから。


「さてさて、どうしても戦わないといけないであるのかえ?」


 妖艶なる美姫がたおやかに笑みを見せると、天使はコクリと素直に頷いて眠そうな目で決定事項を伝える。


「貴女を倒すことは決定事項です。なぜならば貴女は有名な悪女らしいですので」


「風評被害ですわ。妾を疎ましく思うものが流す流言飛語、女神殿にはわかって欲しかったのですが」


 ホホホと頬に手を当てて、悪意をまったく見せずに困った表情で目を潤ませる美女。人間が見たら確実に同情をしてしまう清楚な美女がそこにはいた。


 だが、レキには通じない。それが全て演技であると理解しているからだ。おっさんの場合は通じまくって篭絡されちゃうかもしれないが。おっさんは美女、美少女、幼女には弱いのだ。女性に弱すぎるおっさんであった。でも、おっさんは皆そんなもんだよね。


 なので、レキは静かなる声音で、淡々と事実を告げるように予想した相手の正体を口にする。


「古くは妲己」


 その言葉に対峙している美女はピクリと眉を動かして


「華陽夫人に続き」


 ニマァ、と美女は半月に口を笑みに変えて


「玉藻前」


 クスクスと笑い始める美女。そこには正体を見抜かれたと楽しそうな笑みになるが


「木になるブドウが採れないからと、あれは酸っぱい葡萄だと言っていた、酸っぱいブドウの狐」


 え? と小首を傾げる美女。


「恩返しをしようとして撃ち殺されたごんぎつね」


 え~、とまだそれ続くのと困惑する美女。


「最近では中年のおっさんを甘やかす幼女狐! 私は全て見抜いています!」


 ビシッと指を美女へと指さしてドヤ顔になるレキではなくて遥。漫画でみたことあるんだよ、なんて羨ましいと


「その正体は狐ですね!」


 しかも途中で狐と口にしておきながら、狐と再度宣言するアホっぷりを見せるゲーム少女であった。いつでもレキと入れ替わることが悪い方向に走っていた。


「待ってくださいまし。そこまで追求しておいて、ただの狐ですかえ? え? 途中から変なのが混じりましたよ? なんで玉藻の前からイソップの狐へとなるのですか? おかしくないですか?」


 戸惑い慌てふためく美女。ぴょこんと狐の耳とお尻から九尾をだして、ほらほらわかりますよねとアピールもしてくる。


「良いじゃないですか。最近九尾ってどこにでも出てくるんですよね。正直レア度ではシュウの方が上です。と、いう訳で色々な属性を混合した狐ということで一つ」


 ゲーム少女の脳内でしか理解できないことを平気で口にする遥。そろそろレキへと変わったらどうだろうか。シリアスが音をたてて崩れていくのだが。


「困ります。神族の名付けは強制力がありますからね。私の名前は」


「コンちゃんにしておきましょう。こんにちは、コンちゃん」


 美女の言葉に被せて、コンちゃんという狐にありがちそうな名前を付けようとする遥であるが、その名付けを弾き返したように美女の周囲で一瞬光が弾け飛ぶ。


「ご主人様、駄目ですよ。自我を持ち概念がある程度固定されている敵には、全く違う意味の名付けは無効なんです。なので、コンちゃんみたいな名前は無効ですよ」

 

 サクヤがモニター越しに、初心者では名付けは無理なんですとドヤ顔でふんふんと鼻を鳴らして言ってくるので、その内容に納得する。なるほどね、そういう仕組みなのね。


 ずっと不思議であったのだ。サクヤが必ず出会う敵に名付けを行うと宣言することに。見た目そのまんまの敵は名付けなんかしなくても問題はないはずなのに、執拗にサクヤは名付けをしてきた。


 最初に遭った黒騎士を黒ゴブリンと名付けたように、意味があったのだ。世界の理にその存在を決めるために名付けをする。新しい生物には新しい名前を。古くからの伝説上の概念にも受肉した強き名付けを。


 そうして世界を作っていたのだと、遥は内心で納得していた。まぁ、サクヤが神だとは認めないけど。ダメダメな変態メイドで良いのだ。私がそう名付けておこうと内心で思う鬼畜なおっさんである。


 そして今は自分も名付けができる力を持っていると本能で理解していた。


「ふふふ、残念ながら今の名付けは失敗したようですね。新しき神では名付けをすることもできませんか」


 遥の内心を知ってか知らずか、にやりと笑う美女。そこには悪意を感じたが、薄っすらとホッとした感情も混じっていた。本当にコンちゃんになったらどうしようかと焦っていた美女である。


「仕方ないですね。では改めて、白面金毛九尾の狐でしたっけ? 長いから九尾の狐。きゅーちゃんにしておきましょう。そう名付けました」


 その瞬間、世界の理は目の前の美女を九尾の狐、きゅーちゃんにした。えぇぇぇぇっと驚愕の表情になるきゅーちゃん。


 えぇぇぇぇっと驚愕の表情になるサクヤ。


「酷いです! 名付けは私のアイデンティティなのにっ! 悪意と死を振りまく九尾の狐きゅーちゃんを撃破せよ! exp85000 報酬? が発生しました! もう酷いですよ~」


 え~んとマジ泣きして、顔を覆うサクヤ。まずい、本当にマジ泣きしていると慌てる遥。ちょっと領分を超えてしまったかもしれない。


「ごめんごめん、あとでなにかお詫びをするから」


「わかりました、遂に一線を超える気に」


 サクヤが泣くのを止めて、瞬時に嬉しそうな顔になり何かを言ってきたが、今は戦闘中だからとスルーをしておく。もうサクヤがなにか言っているが聞こえません。たぶんBGMだろう。


 そして、サクヤ以上に泣きはしないが、怒る存在が目の前にいた。


「ふざけるなぁぁぁぁ! 妾をきゅーちゃんなどと名付けおって! これだから神族は勝手気ままなのじゃ!」


 怒り心頭、顔を真っ赤にして怒鳴るきゅーちゃん。ごめん、本当にきゅーちゃんと名付けることができるとは思っていなかったんだよ。でもきゅーちゃんは可愛い名前だから良いよね?


 全然良いと思っていないきゅーちゃん。ほとんど消えているシリアス度が無くなるので、九尾の狐、玉藻と一応内心で名付けておく。もう名前は決まったから変えるのはほとんど無理だけどね。


「殺すっ! 新参者の神族なんぞ妾の敵ではないわ!」


 軽く仰ぐように手を振る玉藻。その瞬間、玉藻の周囲に100メートルはありそうな火球がいくつも現れた。ゴウゴウと燃え盛り当たったら、確実に灰になりそうなレベルだ。


『狐火 火球乱舞!』


 狐火のレベルではない大きさの火球を手を振り、こちらへと向かわせる。


 空気はその高熱により蜃気楼のように歪み、側にいるだけでもその熱で焼けるだろう火球がミサイルのような速さでレキを焼き尽くさんと迫りくる。


「ようやく戦う気になってなによりです」


 レキは小さく笑うと、天使の羽を大きく広げて、迫りくる火球へと相対する。自分の小柄な体躯など何回も焼き尽くすことができるいくつもの火球だが、デフォルトで無表情であるレキは微かに楽しそうにしていた。


『アイスレーザー多連装』


 遥が火球に向けてレベル6の氷動術、アイスレーザーを放つ。煌めく絶対零度のレーザがいくつもレキの周囲から生まれて発射される。


 周囲の空気を凍らせて、ダイヤモンドダストを作りながら火球を貫き、一瞬の内に吹き散らすが


「けぇっ」


 消えていく火球の中から玉藻が現れて、いつの間にか手にしていた剣を振るってきた。


 美女に見合わぬその剣速、人間には風が吹いたとしか思えない程の速さを見せて振られるその剣撃にレキは冷静に半身になり手を掲げて合わせる。


 いかに速度が速くとも合わせることは難しくない。レキの体術は極まっているのだ。


 振り下ろされる剣へと、前へと踏み出して左手の甲を押し当て受け流す。敵が受け流されたことにより体勢を崩したところで左足からの蹴りを胴体へと入れる。


 常にこの攻撃にて敵へとダメージを与えてきた、脆弱そうに見えて凶悪な少女の一撃であったが、ふわりと布団でも蹴ったような柔らかい感触が返ってきて、玉藻は後ろに吹き飛ぶ。


「む? なかなかやるのですね」


 ダメージを受けながされたと理解してレキは吹き飛んだはずの玉藻を見つめて問いかける。


「そうかえ? 護身のために多少なりとも覚えてきた技ですよ。私一人蹴り殺せない貴女が未熟なのではないのかえ? 幼い女神殿」


 玉藻はふふふと不敵に妖艶に笑いを見せて煽ってきた。そこにダメージは全く見えない。この狐が半端ではない体術の持ち主だと悟る。


 ほぉ、と感心する遥。珍しく敵がこちらを煽ってきた。常に毒舌にて敵を煽るレキへと煽ってきた敵は極めて珍しい。


「そうですね。私はまだまだ未熟です。なので、これからも強くなっていきたいと思います」


 レキはその煽りを平然とした表情で受け流して、さらなる戦闘に備えて身構えて言う。


 その言葉に違和感を感じたのか、玉藻は目を細めてレキを睨む。


「………強くなる? そのようなことが………」


 疑問を抱いたが、かぶりをふって玉藻は戦闘を続行することにした。違和感を感じたが、倒せば問題はないのだ。そして大妖である自分であれば可能であると考えてもいた。


「大妖が妖術を見て、死んでいくが良い。『妖術焔の蝶』」


 指をちょいと動かしただけで、玉藻の周りにメラメラと燃え盛る手の平サイズの蝶が無数に生まれた。小さいながら、その炎も先程と変わらぬ熱を持っていると理解するレキ。


「それそれ、今度は消すことが可能かえ?」

 

 炎の蝶の群れは、玉藻の声を合図にまるで刃が飛んでくるように、向かってきた。今度は無数の蝶。炎の塊である蝶、その無数の蝶たちの数は簡単に囲まれて燃やされるだろう多さである。


『アイスウェポン アイススワロー』


 対抗して遥は無数の氷でできた燕を作り出す。キラキラと氷の身体を輝かせて、燕たちが蝶へと迎撃に向かう。


 お互いの術がぶつかり合い、炎と氷が弾け飛び消えていく。幻想的でありながら、死を思わせる美しい光景が空中に生まれる中で、再び剣を構えて玉藻がレキへと突撃してくる。


 その姿を見て、レキは違和感を感じる。僅かに玉藻の姿が揺らいでいたのだ。しかも、なにもない空間も揺らいでいる。


「はっ!」

 

 涼やかな声で横薙ぎに振るってくる玉藻を前にレキは両手を掲げて、対抗する。横薙ぎの剣を叩き落として掌底を入れようと考えたのだが揺らぐその姿に戸惑いを見せてしまう。

 

 だが、戸惑いは一瞬であった。横薙ぎに振るうその攻撃を無視して、その剣撃の真下に同じように揺らいで迫る箇所へも合わせる。


 右手で目に見える横薙ぎを、左手で目に見えないが揺らぐ空間へと押し当てるようにするレキ。


「むっ!」


 だが、そのどちらも合わせようとした手がすり抜けて、目を見開き驚く。


 どちらかが幻惑と考えたが見抜けないので、両方へと対抗をしたのにどちらも幻惑だと理解したのだが、既にそれは遅かった。既に両手にて受け流そうとしていたため、すり抜けたことにより体勢が崩れていた。


 それを狙っていたのだろう、レキの右から弾け飛ぶ炎の蝶の群れの一匹が変化して狐が現れて剣を振るってきたのだ。


 その剣は滑らかに横薙ぎで振られ、瞬時に攻撃を回避するべく後ろに下がるレキであったが、肩当てに当たり抵抗を見せずに斬られてしまう。


 肩にも攻撃を受けて、血がパッと流れるレキ。遥もその光景に驚きを見せる。アテネの鎧は強靭な装甲だ。それは超常の力にて鍛えられたはずであるのに、まったく意味を見せずに簡単に斬られたからだった。


「ふふふ、驚きましたかえ? この殺生剣は斬るものを殺します。神族の纏う鎧すらその力を殺されて、たんなる布切れと同じ力しか持たなくなるのですよ」


 石でできた剣を見せびらかしながら、得意げに語る玉藻。


「なるほど、だから肩当てが石化したようになっているのですね」


 レキはちらりと斬られた箇所を見ると、その箇所は石化したように神々しい光を失い力を失くしていた。


「もちろん、神族すらも心の臓を貫けば殺すことができる逸品です。さあさあ、妾の力を思い知りましたか」


「まだこれではわかりませんね。きゅーちゃんのまぐれ当たりかもしれませんしね」


「ではまぐれ当たりと思われないように気をつけましょう」


 玉藻は薄らと笑い、姿を空中に沈み込ませるように消えていく。


 レキはその様子に眉を顰める。レキの看破は物理も超術もレベル8だ。それなのに見抜くことができない。いや、先程もそうだったが看破はしており、揺らいで見えるのだ。そのため、そこにいると判断できるのだが………。


「レキ、敵は幻惑の使い手、しかもこちらが看破してくることに気づいているみたいだ、だからわざと幻惑も揺らがせて、どれが本物かわからないようにしているんだよ」


 チッと舌打ちして遥はレキへと忠告する。なるほど玉藻は幻惑の使い手でも凄腕なのだろう。さすがは伝説の九尾の狐、見抜かれている可能性を考えて、それでも完全には見抜かれないだろうと考えて、自分も作りだした幻惑も全て僅かに揺らがせて、どれが本物か見抜かれないようにしている。


 これはかなり厄介な敵である。今までの脳筋の敵とは違うと警戒をする。


「さすがは有名な狐さんですね。その腕は先程の子豚さんとは違うということですか」


 脳筋な相手ならば、正面から叩き潰すだけだが、これは厄介だと遥と同じくレキも思う。


「褒めて頂けて嬉しいですわ。それそれ」


 レキの周囲には炎と氷のぶつかり合う衝撃による空間の蜃気楼のような揺らぎ、その中で隠れるように揺らぐ玉藻が再び目の前に接近してきて連続で剣を振るってくる。


 レキも対抗するべく、今度は受けないで身体を柳のようにゆらゆらと揺らしながら見切ろうとするが


「むむっ」


 目の前の狐が振るう剣を躱したと思ったら、再び右横から剣を振るう狐が出てきた。レキは高速での移動をして鋭角に斜めに回避して、素早く拳を入れようとするがすり抜けてしまう。


 そのまま後ろから炎弾が飛んできて、回避しきれずに攻撃を受けて吹き飛び空中を飛んでいく。


 体勢を立て直すべく、急停止したレキの頭上に玉藻がいつの間にか待ち受けていた。


「はあっ!」


 レキの頭上から蹴りを叩き込んでくる玉藻に急停止して、動きを止めていたレキは直撃を受けて砲弾が落下するように地上に落ちる。


 廃墟ビルを突き破り、壊れた家屋に突き刺さり隕石が落下したように土埃を舞い上がらせてめり込むレキ。


 クレータが作られて大きな穴を作り出したレキ。それを余裕の表情で空からふわりと舞いおりて地面へと足をつける玉藻。


「ホホホ、どうやら搦め手は苦手の様子。どうですか? 降参なさりますか?」

 

 自分の優位を悟った玉藻が笑いながらそう告げてくるのを聞きながら、んしょ、とレキは穴から這い出す。


 体についた汚れをパンパンとはたきながら、玉藻を見てレキは答える。


「そうですね。今までで一番面白い相手かもしれないです。褒めてあげます、狐さん。コーンと嬉し鳴きをしても良いですよ」


 未だに余裕を見せる女神を見て、玉藻は疑問を口にする。


「………なぜそなたは笑っているのですか? 命の危険でありんすよ? 負けているのですよ?」


 その言葉に、レキは顔をそのちっこいおててでペタリと触った後に、今気づきましたと、ふふっと可憐な笑みを見せて


「たしかに笑っていましたね。そうですね、強者と戦えることが楽しすぎて思わず笑みを浮かべてしまいました」


 楽しい戦いとなりそうだと、傷つきながらもレキは笑い、拳を掲げて構えなおすのであった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 更新ありがとうございます。 次も楽しみにしています。 [一言] 一線を越えるのは遥でおなしゃす サクヤの名付けは意味があったんですねぇ 一度も失敗してないことを考えると、まだまだレキは強…
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