409話 大樹艦隊の総司令なゲーム少女
瑠奈には用事があるのでと伝えて、てってことレキは皆と別れてブリッジへと移動をしていた。瑠奈は食堂に、シスたちは第三格納庫へとそれぞれ別れて行く。
瑠奈は粗食が続いていたので、食堂でたらふく食べるつもりだろう。シスたちは、第三格納庫に新型戦車を受領しに向かい、ブラックショルダー隊専用新型四脚戦車には俺たちが乗ってやるよと絡んでくる軍人たちとひと悶着ある予定である。
なんだかシスたちの予定が変な気がするが気のせいにしておこう。ドライたちは張り切って、ちっこい幼女の体で、肩をいからせて、おうおう、アタチたちが新型に乗ってやるでつよ、新参者がせんよ〜きなんざ、百年早いでつ。と様々なセリフを熱中して練習していたしね。
その後はシミュレーションルームにて、仮想戦闘をしてシスたちが軍人たちをボコボコにする予定だ。そうして、お前らやるじゃないかと感心した軍人たちと握手を交わして仲良くなるまでが流れである。
現実ではテンプレはなかなか起きないのだ。専用機として支給された兵器を奪おうとする軍人などいないのだからして。
だから用意してあげたのである。私って優しいなぁとサクヤと共同して夜なべをして作り上げた台本を思い出して、無邪気にニャフフと口元をニマニマさせて笑う美少女であった。
アホ二人を混ぜたらどれだけ酷いことになるのか証明しているかもしれない。
◇
「とうちゃーく」
鈴の鳴るような可愛らしくて幼気な声をあげてぴょんとブリッジに入るレキ。その姿は愛らしすぎて、垂涎ものなのでレキ以外にはありえないだろう。そういうことにしておこう。中の人なんていないのであるからして。
「お帰りなさいませ、マスター」
可愛らしく頭を下げて、ニコリと微笑むナイン。周りのツヴァイたちも嬉しそうに挨拶をしてくるので、やぁやぁ、お疲れ様ですとちっこいおててを振って、機嫌良く司令席へと子猫のようにぴょんと座る。いつの間にか軍の青い制服に着替えており、かんたいそうしれいかん、とひらがなで書いてあるタスキをかけていたりするので芸の細かい美少女であると言えよう。
「お帰りなさいませ、ご主人様。明日屋元帥はどこに置いておきましょうか?」
可愛らしく頭を下げて、ニコリと微笑むサクヤ。手に持つリアルすぎて不気味な明日屋人形をこちらに見せながら尋ねてくるので、ハンガーにでもかけておけばと答えてから、つれないご主人様も興奮しますと新たな変態の扉を開く銀髪メイドを放置して、四季へと目配せする。
そのアイコンタクトを受けて、コクリと頷くツヴァイたち。私が説明します、今のは私に向けてウインクしたんですと、またもや実に不毛な争いをツヴァイ同士でしてから、争いに勝ちボロボロになった四季が中央にホログラムを映し出す。
もういつものことなので動じません。
どうぞ、マスター。暑くなってきましたのでアイスカフェオレを作りましたと、いつも尽くしてくれるナインがコトリと机に置いてくれる。
置かれた水滴の光る美味しそうなカフェオレを紅葉のようなちっこいおててで包み込み、ストローでチウチウ吸いながら聞く態勢になるレキ。無邪気な美少女にしか見えないが、レキならば暑いし戦闘はまだないので、体力を温存しておきますと、ベッドで寝ているので、ゲーム少女に戻すしかないのが悔しいところだ。
「では司令からの情報を元にした攻略作戦、ア、バナナ、クウ攻略作戦の説明を始めます」
真面目な表情で語りだす四季。攻略作戦名がかっこいいと、ご満悦な遥とサクヤ。ネーミングセンスが古すぎる二人であった。
チロンチロンと地図は目まぐるしく移り変わり、街壁と城壁が映る。両方共分厚い50メートルはある厚さの壁である。しかも戦国時代の石垣壁に見えるが、見た目とまったく違うのだ。
「この壁はダイアモンドを超える超常の硬度を持つ特殊な壁となります。詳しく言うと、硬さだけではなく、空間模倣能力つきですね。壁の厚さとその硬度を上空にも地下にも同じように模倣して、不可視かつ同等の力を持つ壁として映し出し力を発揮します。そのためにこの壁を突破するのは難しく、内部からは力の塊として模倣しているために攻撃を透過し、外からの攻撃は防ぐ。なかなか考えられている壁だと言えます、マスター」
金髪ツインテールをなびかせて、ナインが口を挟む。クラフト系なので説明もしたいのだろう。ウキウキといつもとは違う張り切りを見せていた。
「私のパンチで破壊できちゃったけど、実はそんな凄かったんだ。地盤沈下だと思ってくれたかなぁ」
突破するときに、安易にパンチで破壊したゲーム少女である。実は地下にもその力は及んでいたならば地盤沈下はあり得ないので、敵はおかしく思ったであろう。
「司令、そのことですが敵の動きが鈍すぎます。恐らくはこの壁の力をあまり知らないのでは?」
身を乗り出すようにして、金色のヘアピンをピカピカと光らせなら、四季がこちらへと身体を寄せて説明してくる。ナインに説明の場を取られたのが悔しい模様。
「ボスは複数いるみたいです。どうも武器の種類、術の精妙さに大きな差がありますよ」
ハカリが四季を横から押しのけて、頭の上のウサギリボンをブンブンと振りながら口を挟んでくるので、もうそのコントには動じないオリハルコンの意思を持つ遥はちんまい腕を組んで推察する。
「スコープモンキーはかなりの雑なロボットだったよ。サルモンキーたちも低位のはいつものモンキーガンや、モンキーナイフ。生きる戦車や装甲車、高射砲にミサイル搭載車も数はいたけれど、火薬式でありその火力は推して知るべしだったんだ」
「そうですね、ご主人様。その威力の弱さと数だけはいる様子から派手な戦争劇ができると私たちで台本を作ったのですし」
机に置いてある遥の飲みかけのアイスカフェオレをさり気なく手に持ち、ウヘヘと美女がしてはいけないニヤケ顔をしながらサクヤが同意する。その後にストローを舐るようにしてカフェオレを飲むが、既に新しいストローにすりかえておいたのさ、と手品師遥はひらひらと手に持つ自分のストローを見せながら言う。
「まぁ、あんまりイージーモードでも若木シティの軍に悪い影響が出ちゃうしね。ソロで四国やら九州を攻めに行っても困るし。それだけの規模に軍は膨れ上がっているから」
イージーモードで戦っている悪影響しかないおっさんの言なので説得力は大変効果があるだろう。
懸念の一つを解消しようと、激戦地大阪での戦いを作ったのだ。本当は私たちだけで戦っても良かったのだが。
「さぞや、派手な戦いになると思いますよ、ご主人様。今回の影の主役のコマも張り切っていますし」
そのストローを下さいと手を伸ばしながら伝えてくる変態銀髪メイドの言うとおり、部屋の隅っこで可愛らしい幼女が台本を片手に練習をしている。
「ノドカちゃん、もう一回でつ。アタチの死ぬ場所はセンジョーだときめていたのさ、ばかむしゅこ」
「死んじゃだめでつよ。このばかじじ〜」
学芸会で主役を貰ったんだとばかりに頑張るコマ。そして周りで他の幼女たちが練習のお手伝いをしているので、癒やされちゃう。頑張ってね、コマちゃん。
「壁や要塞砲、そして隠された大阪城巨大ソーラーレーザー砲。地下にも強力な兵器が隠されている。これが懸念だから絶対に被害を出さないようにしないとね」
周りを見渡しながら多少真面目な表情で告げる。
「普通の戦闘での被害はできるだけ皆さん死なないようにと祈るしかないけれど、まぁ、火薬式なら改造して若木軍に支給したフィールド装甲タイル付きバトルスーツは貫けないだろうし、もしも貫かれたらそこは仕方ない。即死以外は回復できるし、傷薬をしっかりと各自持っていくように説明をしっかりとしておこう」
と、サクヤを見ると頷いて明日屋元帥の演説に混ぜておきますと答えてくる。
「ここのボスは生産系で間違いないよ。たぶん数の多さで制圧地域を増やし、力を増してきたんだ。そこに加わったボスたちがいる。恐らくはスティーブンの部下の高位の生産系ボスと、強力な人間の個体に対抗するための戦闘特化のボス」
キリリと眉を寄せて遥はどっしりと椅子に凭れるようにしたけれど小柄な幼気な体格なので、ちょこんと可愛く椅子に収まって
「これ、テンプレだから間違いないよ。スティーブンは厨二病だし」
身も蓋もないコトバを吐くのであった。お互いに厨二病なので考えがわかってしまうのだ。ちなみに優れた知力を持つおっさんなので、自分が厨二病だとは考えていない。優れた知力から生み出された名探偵も真っ青な推理力で予想したのだと、フンスと得意げに息を吐いていた。確かにそのアホぶりに名探偵は真っ青になるだろう。
まぁ、たぶん間違っていないと思われるので暖かい目でナインやツヴァイたちは見守るのであった。
◇
シスは食堂にて食事をしていた。目の前には歴戦の兵士といった体格の良い、古傷だらけの強面な男性たちが目の前に座っている。
ちょっと怖いです……。シスはゴクリと久しぶりのコーンスープをスプーンで掬い、口に運びながら思っていた。
久しぶりの牛乳の味が口に広がり、体が温まる。甘みが微かにして、コーンが口のなかでプチプチと弾けながら喉を通っていくのをじっくりと味わいながら現実逃避をしたかった。
「やるじゃねえか。まだまだ荒削りだが超電導戦車を仮想とはいえ操縦して俺らとそこそこ戦えるなんてよ」
ガハハと笑いながら、食え食えとでっかいスペアリブを押し付けてくる。
「じ、自分たちが勝ったのですから、そこそこ戦えるなんて言い方は間違いであります」
勇気を振り絞って強面の兵士たちへと反論する。この人たちとシミュレーションで12対12の戦車戦で戦ったのだ。あれは凄かった……本当に戦車に乗っている感触がして、リアル過ぎるその様子に私は思わず楽しんでしまった……。反省。
そこでこちらが6両を大破、2両を大破させられたところでゲームは終わったのだ。あ、ゲームじゃなかった。
それなのに、そこそこ戦えるなんて、こちらが勝ったんだからずるいと、思わず口を尖らせて不満そうにしてしまう。いけない、いけない、私はクールな軍人崩れ。ブラックショルダー隊の隊長なのだから、子供っぽい表情は浮かべてはいけない。
「ふふん、確かにあんたらが勝ったよ。それは間違いないね」
荒くれ者のこの人たちに混じっている女兵士が頬杖をつきながら、こちらを見てニヤリと笑う。
「だけれども、実戦となると違うのさ。戦場の空気を知っている兵士が勝つんだよ。シミュレーションではわからない経験というやつさ」
むぅ、この女兵士は大柄で化粧もしていない荒くれ者に見える人なのに、いちいちその言葉がその姿とあって格好良い。小柄な私では無理だ……。
「なにを言ってやがる。俺たちだって、サルモンキー共の下で2年近くゾンビやらグールと仲間を喪いながら戦ってきたんだ。その言い分は見当違いだな」
仲間の男性がいつの間にか手にしたビールを片手に、多少の酔いを見せながら反論する。いつの間にお酒なんか……。
「やれやれ、戦いのイロハってのはな、ゲームみたいに同数対同数でもないし、よーいどんで始まるわけでもない。まぁ、そこをいくら言っても新米は解らない、か」
「私たちは力を持っています。この力があれば敵がいくら来ても相手ではありません」
ここはビシッと隊長らしく言っておかないと。レキ殿は隊長を代わるように指示を出してきたが、私が隊長なのだ。譲らずに隊長を続けることにしたのだから、それらしく信頼できる様な隊長を見せるのだ。
「……う〜ん。その力を使って、私たちを圧倒できなかったろ? まだまだヒヨッコである証拠なんだ」
むぅ、と内心で図星をつかれて動揺する。このうさぎ耳なのにわんちゃん三号という名前の装備なら圧倒できると自信満々であったのに、意外やこの人たちは強かった。
今はウサギ姿を解除しているけれど、装備している時はまるで兵器をどう動かせば良いかを本能的に理解できたのに。
でもシミュレーションだから、あんまり力を発揮できなかったのであろうか? あんなに恥ずかしい格好なのに。
味方が死なないようにしないといけない。これから戦争が始まるのだと思うと手は震えるし内心で不安が沸き立つ。
仲間も同じ気持ちなのだろう。予想以下の結果となってしまったわけだ。
その様子を見て、目の前の兵士は口元を曲げて、親指を折り曲げて、なぜか目元は優しく提案をしてきた。
「お前らはまだまだヒヨッコだ。だが、基本性能は俺達よりも遥かに高い。だからこそ、数日後に始まる戦争まで訓練してやろうじゃないか。死なないようにする戦い方ってやつをな」
私たちは顔を見合わせて迷う。どうしようか? 皆も教えてもらうか、決めかねている。だって私たちが勝ったのだ。勝った相手に教わって、成長するのかな……。
「いいんじゃね〜の? 俺は戦い方を教わる方に一票だぜ。独学だとどこかで壁にぶち当たるぞ。きっと基本を習った方がいいと思う。この人たちは最初からそのつもりで絡んできたんだろ、どうせ」
と、いつの間にかそばにいて、置いてあるスペアリブに齧り付きながら瑠奈殿が言ってきた。
え? 最初から? と、私たちは驚いて相手へと視線を向けると、どこか恥ずかしそうに頭をかいて照れていた。どうやら瑠奈殿の言ったとおりらしい。驚いちゃったよ……。
「そのとおりだ。俺たちは教導をしているチームだからな。レキ様に頼まれて、絡むふりをしたんだよ。どうだ? 本当にタメにならないか、今度はなんでもありでシミュレーションするか?」
「むむ、次も自分たちが勝つのでありますよ」
「果たしてそうかな? それじゃ今度はトラップから潜伏までなんでもありでやろう」
不敵な笑いを見せる兵士の問いかけに私たちはもう一度戦った。
そして教わることに決めた。偵察から潜伏、奇襲方法、戦術の基本を。
なぜならば、次は完敗したからである。相手を一両も撃破できずに、こちらは半分やられたので。
その後、数日間という短い時間だけれども、色々なことを学んだのだった。
どうも見た目ではわからないことはたくさんあると学んだ。特にレキ殿は、少し、なんというか、適当な感じがしたので、しっかりと私たちを鍛える為の手配をしてくれるなんて思ってもいなかったのだ。反省……。
そんな短いけれども、充実した訓練を数日受けたあとに、戦争は始まったのだ。
大阪府を取り戻す戦い。
レキ殿と瑠奈殿は既に大阪府に再び潜入しに行って、私たちは格納庫で専用機に乗っている。既にカラーリングは脚を黒に、胴体は灰色に変えた。
「いつでも行けます。四脚戦車しっぺい太郎、出撃準備よし!」
一人で操作できる驚きの戦車に搭乗して。
でも戦車の名前はかっこ悪いです……。
なんでしっぺい太郎なんだろう。脚はついているけれども、頭は意味がないとつけられなかったのに。なので、戦車に脚がついているだけなんだけれどもね……。
なんというか、うさ耳、ウサギの尻尾に下着もつけることができないレオタード姿という、悪意をそこはかとなく感じるんだけれども……。いえ、これは悪意ではなくて、悪戯心を感じるんだけれども。
とりあえずは、絶対に外にこの姿では出ないし、この戦車の名前もブラックハウンドと皆で決めた。
そうして私たちは戦車を操り、戦場へと飛び込むのであった。




