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コンクリートジャングルオブハザード ~ゾンビ世界で遊びましょう  作者: バッド
25章 戦争をしてみよう

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406話 熱帯インゲーム少女

 熱帯というのに相応しい陽射しがギラギラと差し込み。初夏であるのに、真夏を越えている気温であり、歩く人々は暑そうに汗をびっしょりとかいている。


 まぁ、暑そうにしているのは人間だけだ。異形の怪物たるサルモンキーたちはこの気温が一番心地よいのだろう。機嫌がよさそうに人間を繋いでいる鎖のリードを引っ張って歩いていた。


「ウッキー」


 道端にもなぜか生えているバナナの木を指差すサルモンキー。言葉を操ることが無いので最下位のサルモンキーだとわかるが、最下位でも一般の人間はサルモンキーにすら勝つのは難しいのであるからして。


 なので引きずられていた男性は諦め顔で疲れた足を引きずって、木に足をつけて登ろうとする。しかし、もはや体力も限界なのか、よろめいて木に寄りかかってしまう。


 その様子を見て、サルモンキーは歯茎を見せる程に口元をめくりあげさせて嗤い、リードを引っぱりながら、空いている手に力を込めて振りかぶった。

  

 いつも通りに人間の骨を折る音が聞きたいと、醜悪な笑みへと変わって。


「へい、バナナの配送。毎度」

  

 どこからか声がしてきて、ビクリと肩を震わせて周りを確認するサルモンキー。その表情には恐怖が、そばの男性は目を輝かせて。


 お互いまったく反対の表情になるが、それには理由があった。


 ブンッ、音がしたかと思ったときには、バナナがビュンビュンと回転しながら飛んできたのだ。


「ボンギッギッ」

  

 ざくりとバナナが頭に命中して倒れ伏すサルモンキー。その様子を見て慌てて周りのサルモンキーたちは銃を構えて周りを索敵し始める。


「ゲリラ戦だキー! 人間共め、なんと小癪な奴らだウッキー」


 そうなのだ、隊長モンキーが周囲を血走る目で確認しながら、苛立ちを隠さずに怒鳴るが、最近急に人間共のゲリラ活動が活発化してきたので、サルモンキーたちはかなりの数を削られていた。


「ざまあみろ! サルモンキー共め、人間の恐ろしさを知ったか、このやろう!」


 木に寄りかかっていた男が今までの鬱憤を晴らすべく怒鳴り散らす。その声を黙って聞いているサルモンキーたちではなく、すぐにモンキーガンを男へと向ける。


「ウッキー?」

「キーリ?」

「煙っキー!」


 途端に周りからモクモクと煙が吹き出してきて、見えなくなった。


「ざまあみろ! 猿め!」


 逃げだした男性の声が遠くから聞こえてきて、サルモンキーたちは歯噛みをして悔しがる。


 煙が晴れた頃には、そこには誰もおらず、鎖で繋いでいた人間たちにも逃げられて、ただポツンと三つの段ボール箱があるだけで、怪しいところは見つけることはできないのであった。


          ◇


 サルモンキーたちが地団駄を踏んで遠ざかるのを見ながら段ボール二号が口を開く。


「なぁ、くノ一部隊は大丈夫なのか? 見つかっていないのかよ? 派手にやっているけれど」


「まぁ、この大阪にはざっと6万人の人々が生存しているので、助けても焼け石に水ですが、それでも見つからずに行動していますよ」


 あれはバナナ手裏剣ですね、あとでスタッフがまずいと言いながらも食べましたと言わないといけませんとアホなことを述べる一号。


「それに噂が広まっているのであります。人間たちがゲリラ戦を強いてきて革命を狙っていると」


 三号が興奮気味な口調で言ってくるが、そのとおりであった。今や面白半分で人間を痛めつけるよりも、自身の命を守るために銃を持つサルモンキーにナイフをぶら下げているサルモンキーと、警戒するのに一生懸命であった。


 先程のサルモンキーはアホなサルモンキーの中でも、群を抜いてアホであったのである。即ちおっさんと知力でいい勝負をするサルモンキーであった。


 頭空っぽなサルモンキーたちは、一つのことしか集中できない。そのため、警戒したら他のことを気にしなくなっていたのであるからして。


「しかし、サルモンキーたちは本当に猿知恵だったんですね。街があるように見えて、これは酷いです」


 一号が呆れたように感想を言うが、そのとおりであった。なにせ、店が数軒あるがそこではバナナしか売っていない。売ってるというか、単に配っているだけだ。高位のサルモンキーたちは知恵があるが、ほとんどのサルモンキーたちは知恵がないので、不味い原種のバナナを食べては皮を道端に放り投げて汚している。


 そして誰も片付けないバナナの皮を首輪をつけられた人間たちが掃除をしているのだ。知恵のあるサルモンキーたちが少ないがために、人を使っていると理解した。


「頭空っぽなサルモンキーたちに操られる人々……。屈辱的であり、自分の力のなさを思い知らされて、周囲は高く聳え立つ街壁と広大な水堀に囲まれて逃げることもできない。絶望の都市ですね。しかも食べ物が原種のバナナ、こんな支配の仕方もあるんですね」


 足りない人材を奴隷にした人間で賄って、しかも悲惨な環境なのでその苦しみからなる負の感情も大きかっただろう。特に拷問などで人間を苦しめることもしないで、このように地味な絶望を強いられる世界もあるのだと、一号は感心した。


「でもよう、その程度だったら大樹の軍なら制圧できただろ? 敵は地域制圧を中心にしていたみたいだったし」


 先に進みましょうと、段ボール部隊がてこてこと先に進む中で、そんなことを二号が言ってくるので、同意する。


「たしかにその時はろくに兵力もない軍隊として、大樹軍はあっさりと倒したでしょう。ですが、サルモンキーたちへと知恵を与えた化物がいるみたいですね。見てください、これ」


 三号が自動車レベルの速さで動く二人についていけなくなったので、二階建てバスですねと、可愛らしい声音で一号が三号を上に乗せて走っていたが、途中で停止して前方を指し示す。


 そこには200メートルはありそうな要塞砲が設置されており、いくつもの高射砲やミサイル搭載車両、周囲にはサルモンキーたちと、尻尾が生えていて、フロントカバーが開いてキバを覗かせる生きる装甲車やギロギロとライトを目のように動かす獣のような戦車が警戒にあたっていた。


「経験から言うと、ここのボスはサルモンキーではないですね。要塞砲の出来や、装甲車や戦車が強力すぎます。ブリキ玩具のスコープモンキーとは違ってちゃんと作られていますので」


 多摩戦争で敵が使ってきた兵器も同じような感じであったのだ。あれはかなり強力な兵器であった。アホなサルモンキーでは、ここまできちんとした兵器は作れない。たぶんもっと強力なボスがいるのた。


 空中にも、多数の何かが密かに見えない形で浮いているのがわかる。見えないのはたぶん空間内に潜行しているからだ。懐かしのスカイ潜水艦であろう。


「しかしサルモンキーたちは2000匹程度しか、いないであります。防衛するにあたり不利なことは間違いないはずです」


 三号がようやく不安定な段ボール箱の上から降りてきて、ぜぇぜぇと恐怖で息を切らしながら言ってきた。自動車の速さで走る段ボール箱の上に置かれるなんて、道もガタゴトと揺れるし、落ちたら死にそうなので恐怖でいっぱいであったのだ。


 その言葉は弓師からも聞いた。確定情報みたいに話していたので、なるほどたしかに街のサルモンキーたちだけ見ればその程度ではあるが……。


「たぶんサルモンキーたちは2万匹はいます。街に蔓延るサルモンキーたちはカモフラージュ、もしくは頭空っぽなサルモンキーたちを大量に自由にさせるのを嫌がったか……。たぶん、両方でしょうか」


「馬鹿な! そんなはずは……だって、そんな大軍をどこに隠しているんですか? 食料は?」


 三号が動揺から驚きの声をあげる。2000程度だと思っていたから、過去にも反乱が起きたのであって、2万いたら反乱すらも考えてはいなかっただろうから。


 鉄パイプを手に持ち、銃を持った大軍からなる兵士とは戦いたくない。しかも敵は銃を撃つのに躊躇もないのだから。


「違うんです、シスさん。思い違いなんです。まぁ、この風景を見たら勘違いするのは当たり前なんですが、ミュータントの眷属はそもそも食べ物を必要としないんです。負の力を吸収すれば維持できるので、制圧地域にいるだけで問題のない存在なんですよ。この街が汚れきっていないのは、清掃を人間たちがしているからでもありますが、それ以上に排泄をサルモンキーたちはしないからなんです」


 ゾンビは食べるときもあるけれど、食べなくても存在しているでしょう? との一号の言に三号はたしかにそうだとハッと気づいた。たしかに獣臭くて散らかってはいるが、たんに埃っぽいだけだ。排泄をしないなら汚れることも少ないと、今さら気づく。


「なので、食べ物は嗜好品の類なので、必要がなくても食べているだけなんです。感知したところ、この地下にはいくつか施設があって、命令がなく、自由に行動も許されていないサルモンキーたちはそこで動かずに佇んでいるだけですね」


 ちなみにレキもトイレには行きませんよと、昔のアイドルのようなことを言うゲーム少女。いらん設定にこだわる遥であったりする。実にしょうもないおっさんだ。


 その言葉に息を呑む三号、無論、トイレに行かないアイドルの話ではない。サルモンキーたちの想定以上の数の多さに対してである。


「自分たちだけで倒し尽くすのはかなりの時間がかかりそうでありますな……」


 要塞砲の基地には多数の人間たちも働いている。疲れた足取りで、奴隷とはこういうものだと絶望に打ちひしがれる表情が、周りには何人もいる。


 人々を助けるには地味なゲリラ戦しかないのだと、肩を落としかける三号であったが、ふと、二号の言っていた内容を思い出す。


「瑠奈は先程変なことを言ってませんでしたか? 大樹って何でしょうか? 軍?」


「大樹の軍ではなくて、大義の軍ですね。軍は私と瑠奈さんのふたり」


 すかさずフォローを的確ではないが行う遥。しなくても良かったフォローをするので、場を混乱させるのは間違いない。


「二人で人間たちを助けたいと思います。それに、ここの地域の配置もわかりましたし」


 なんでもないように言いながら、要塞砲を眺めている一号。いいなぁ、かっこいいので、ミニチュアとして欲しいなぁと考えていた。子供のようなことを考えつつもゲーマーなので、この大阪府の戦力の配置に気づいていた。


「なにか隠していませんか? 一号?」


 段ボールにもぐりこみながら不審な声音になる三号。


「この段ボール箱だって、凄すぎます。エアコン付きのカモフラージュシステム搭載の段ボールなんてみたことがないんですが? 一介の改造人間が作れるとは思えないのですが」


 段ボール凝り過ぎである。


「大丈夫です。私は一介の改造人間ではないので。そして段ボール箱の改造なんて、チョチョイのチョイですよ。それにバックアップしてくれる喫茶店の店員さんもいますし」


 ドヤ顔で胸を張りたいが、ちっこい身体をますますちっこくさせて段ボール箱に隠れているので仕方なく声だけで伝える一号。


「どれだけ喫茶店の店員は万能なのか、自分は凄い不思議なのですが……」


「まぁまぁ、すぐにわかりますよ。クーヤ博士はシスたちを改造できるとのことなので、すぐに迎えに来るでしょう。そうしたらわかりますよ、きっと」


「はぁ……」

 

 生返事で返す三号。本当に信じて良いのかしらんと思い始めたのは極めて普通の感覚の持ち主であろう。喫茶店の店員万能すぎでしょう、巨大ロボットから軽食まで用意する喫茶店なのだろうか。


「それにしても、ほとんどの兵器は火薬式、要塞砲は新技術なのかビームっぽいですね」


 フンフンと遥は眺めている兵器群を見渡す。火薬式……、崩壊前ならばいざ知らず、ほとんどの兵器は火薬式……。


 考え込む遥に二号が顔を覗かせて尋ねてくる。


「なぁ、戦力の配置がわかったって本当か?」


 二号というか、瑠奈はわからないので、コテンと不思議そうに首を傾げて尋ねてくる。全部回らないで近くを偵察しただけで戦力の配置がわかる?


「えぇ、ここのボスは戦略シミュレーションは初心者だったのでしょう。大坂城を中心に戦力を均等に分けて周囲の防衛に当たらせているんです。ペントハウスから見たときもそんな感じを受けたので気にはなっていたんです」


「ん? 良いんじゃないか? それなら万全だろ?」


 完璧な布陣じゃんと瑠奈は小首を傾げて言うが、その言葉に三号ことシスはピンときた。


「瑠奈、違うんです。狭い地域ならば良いですが、大坂府は狭いようでいて広い。二万程度の兵士じゃ、たとえ兵器群を使っても守りきれないのは明白。防衛網が薄すぎるんであります」


 シスは瑠奈へと懇切丁寧に、フンススと鼻息荒く説明する。もしかしてミリタリーオタクなのだろうか?


「この場合は戦力は数か所に集める程度にしておいて、各所に連絡もすばやくできる兵士を備えた監視所を用意しておくのが普通なんであります」


 ほほぉ〜、と感心する瑠奈。なんだか二人共凄いなと尊敬の念を込めて見てしまう。特にレキのことを。アホだと思っていたのにと。


 おっさんらしくない考えだが、ゲームで散々な目にあってきたのだ。均等に戦力を分けると、見た目は凄いかっこよいが、実際はスカスカで各個撃破されてしまうだけであった。


 せっかく均等に5000ずつの兵力を城に固めて分けておいたのに、バンバン攻められてゲームオーバーになったものだ。たった5000では雑魚だったと悔やんだおっさんである。このおっさんは悔むことが多すぎる、というか、学習しない生き物である。くたびれた目おっさん科とか。新種族かもしれない。


「そして要塞砲を使えなくしておけば、あとは戦争ですね。瑠奈さんは三号とコンビを組んで一緒に戦闘でしょうか」


 段ボールから紅葉のようにちっこいおててを出して、要塞砲の土台を見ると、地面にガッチリと鉄のボルトで動けなくされていた。


 なので、むふふと可愛らしく悪戯を思いついた子供ような含み笑いをして、手刀へと指をピッと揃えて伸ばす。


「てい」


 そうして可愛らしい掛け声を発して、横薙ぎに神速で手を振るう遥。ピシリと一筋の光が要塞砲の基部に走った。


 周りの面々は遥が振りかぶった音しか耳に入らずに、一瞬風が周囲に巻き起こったとしか思わず、キョロキョロと不思議そうに周りを見たが、それだけであった。


「何をしたんだよ?」


「土台を斬りました。今は見た目もわかりませんが、砲を発射した瞬間に要塞砲は後ろに飛んでいきますよ。むふふ」


「あの50メートルはある鉄の塊を斬ったのかよ。さすがは女神だな」


 簡単そうに言う遥を見ながら瑠奈は舌を巻く。斬れたかどうかわからないが、たぶん斬れているのだろう。


 少なからず戦争になったら、この要塞砲は使うだろう。その場合の反動により要塞砲が倒れることになる。見かけからはわからないのがタチが悪い。まさか基部が斬られているなんて思いもよらないだろう。


「さて、私はちゃっちゃっと他の要塞砲に同様の細工をしてきますね。というわけで二人はペントハウスに戻ってください。そろそろクーヤ博士も来ますし」


 それじゃあ、と手をあげて止める間もなく、てってけて〜と鼻歌を歌いながら移動をする段ボールトラック。呆気にとられる二人。


「しょうがない、戻るか」


 まぁ、レキの突然の行動には慣れているので、瑠奈はシスを誘って帰ることにした。


「遂に私も改造人間に……。頑張ります! あ、いえ、自分も頑張ります!」


 無理をしているなぁと、苦笑しながら瑠奈はシスと連れだって帰るのであった。


          ◇


「サクヤ、私は凄いことを思いついたよ。これは傑作になる予感がするよ!」


 フンスフンスと鼻息荒く段ボール箱は移動しながらサクヤへと声をかける。


「ご主人さま! 全力で私もサポートしますね!」


 遥の様子を見て、これは楽しそうですねと、常にはないやる気を見せる銀髪メイド。その様子を見て、久しぶりのサポートだねと、ニヤリと遥も悪っぽく笑みを浮かべるのであった。いたずらっ子な可愛らしい少女にしか見えないが


 そして二人が組むと碌でもないことしか起きないのだが、それに気づいていたのは優しく二人を見守るナインだけであった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 宗教家と一緒に来た奴隷商達にブチ切れて全員国外追放した勢力を模した集団が奴隷使いまくってるってすんげー皮肉だな!
[良い点] 更新ありがとうございます。 次も楽しみにしています。 [一言] 嗜好品なのかぁ 猿の反乱とか起きないかな?
[一言] 猿がゾンビと同じように食事は要らないって言われるの、ちょっと?ってなりますね。
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