表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
コンクリートジャングルオブハザード ~ゾンビ世界で遊びましょう  作者: バッド
24章 妨害を取り除こう

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

402/583

396話 新通貨のお披露目をするゲーム少女

 世界の崩壊後、自然は以前の姿に戻ってきて、梅雨明けも早い。まだ6月の終わりであるのに、空は晴れ晴れとした青い空を見せており、空気は排気ガスの嫌な臭いはせずに緑の匂いが香ってくる。自然が普通にある世界、今のところはと言う前提がつくが。都会へと変わったらこの空気も変わって行くに違いない。


 そんな中で若木シティの人々は大勢で銀行の前に詰め掛けていた。ワイワイとお互いに興奮したように話し合いながら、自分の番がくるのを待っている。


「まさか新通貨が発行されるとはねぇ」


「随分綺麗な通貨らしいよ。少しだけ通貨を持っていたので交換しにきたんだ」


「それに円は少ししたら使えなくなるらしいよ。俺は有力者に顔が利くんだ」


 その内容は先日発表された新通貨発行についてである。那由多代表の演説があり、なんだろうと人々が耳をそばだてたら、なんと新通貨が発行されて円と等価交換されるとのこと。


 寝耳に水の驚きの内容であったうえに、噂によると円は近いうちに通貨としては使えなくなるらしい。亡国の通貨なので、使えなくなるのは当たり前だが、ついにきたかと慌てて交換しに来たのである。


「でも銀行カードのナンバーで交換する日を振り分けて決めてくれて助かったわ。これが決められていなかったら大混乱だったわね」


 と穏やかな声で美少女のレキに話しかけるのは蝶野母である。可愛らしい赤ん坊の息子を背負っている。


「可愛らしい赤ちゃんですが、外に連れ出して良いのですか?」


 まだ一歳と少しじゃなかったっけ? その歳で外に出して良いのかしらんと、子供をもったことがないレキなので少し不安げに聞く。病気になったらどうしよう? 触ったら壊れそうだと思う。


 レキのパワーなら鍛えられた兵士も粉々にできるが、手加減ができるので卵すら100メートルの高さから落ちてきても割らずに受け止めることができるけれど。


 それでも感情的には触ることも怖いレキである。怖がりなところでレキではないとばれるので、遥に戻しましょう。


 ふふっと不安げにオロオロしながら赤ん坊を眺める少女を見てクスリと蝶野母は微笑む。


「大丈夫よ、もうハイハイもできるのよ。赤ん坊って成長が早いの」


「むむ、成長が早すぎないですか? もしや中身は転生した魂が入っているとか」


 そんなに早くハイハイができるようになるなんてと、怪しい怪しすぎると赤ん坊を眺める小説を読み過ぎな遥である。赤ん坊を見ると転生した魂が入っているのではと疑うアホなゲーム少女であった。もしかしたらモブな主人公が転生しているかも知れない。


「ププッ、面白いことを言うのね。大丈夫よ、普通の赤ん坊だから。それに転生した魂がもし入っていても私の子供には変わらないわ」


 口元を抑えながら、そう答えて微笑む蝶野母の答えを聞いて、この人は善人だなぁと改めて思う。その心は子供を持った事がないおっさんにはわからない。


「バブーバブー」


 モニター越しに変態銀髪メイドがおしゃぶりをして横たわり赤ん坊プレイを仕掛けてきているが、きっと私は疲れているのだろう。いくらなんでも、こんなあほなことを戦闘用サポートキャラがしてくるわけがない。してくるわけがないのだ。


「てんせーって、なぁに?」


 遥の隣に立っているみーちゃんがコテンと首を傾げて尋ねてくるので、教えてあげる。


「転生とはチートな才能を貰った人たちが無双するために赤ん坊になることですね」


 適当すぎる説明をするゲーム少女。転生の説明が特殊すぎる内容だった。偏り過ぎであるので、コツンと頭を軽く蝶野母に叩かれちゃう。


「駄目よレキちゃん。それは空想の世界でしょ。転生というのは死んだ人が新たに生をやり直すべく記憶をなくしてまっさらな状態で生まれること。一部の宗教の教えね」


「ん〜? みーちゃん、よくわかんない」


 首を傾げて可愛らしい声音で答えるみーちゃん。相変わらず可愛らしい幼女だ。


 ほのぼのとした世界だなぁと、そんな様子を見て癒やされる遥であった。


          ◇


 銀行に円を新通貨と交換に来ている蝶野母とみーちゃん。それにコバンザメのようにくっついてついてきた遥。みーちゃんと久しぶりに遊びたいとウキウキしながらついてきたのである。蝶野母たちの順番がきたので、てこてことついていく。この少女の中身は何歳だっけ? 転生者よりもたちが悪いのは間違いない。


 受付は忙しいにもかかわらず、笑顔を忘れずにおじぎをしてくる。蝶野母はその様子を見ながら話をする。


「蝶野です。これがカードで夫の分と委任書でして……」


 受付に申請をしている蝶野母の邪魔にならないように離れることとする。みーちゃんとおててを繋いで店の隅にて待機だ。少しして封筒に入ったお金が手渡されるのでパラッと数を数えて問題ないことを確認終えたのか、こちらへと笑顔で帰ってきた。


「お待たせ。それじゃ帰りましょうか」


 外へと出口側から出ると、帰り道にはずらりと露店が並んでいた。わかりやすい商売だ、現金を皆は持っているのだから使いたくなるのは当たり前である。


「ありゃ、商売繁盛ですね、笹持ってこいという感じですか」


 遥はその様子を見て思う。商売人は本当に抜け目がない。


「それは、大樹が今回の新通貨お披露目に際して、赤ん坊も含めた1人10万マターの支給を現金でしたものね。当然財布の紐は緩めることになるから」


「たしかに凄いことですよね。なにか買っていきますか? なにしろ棚ぼたで手に入ったお金ですし」


「そうねぇ、お砂糖でも買い込もうかしら? 露店物じゃなくてね」


 口元に手をあてて、少し考え込んだ蝶野母は答える。日用品でも砂糖は高いので、こういう時に買っておきたいという気持ちはわかる。わかるけれどももう少し遊んでも良いんじゃと考える遥の内心を読んだように、望んでいた答えを告げてくる。


「屋台でなにか欲しいのあるかしら? 今日は奢っちゃうわよ? みーちゃんもなにか欲しいのあるかしら」


「わ〜い! みーちゃんはね、みーちゃんはね、綿飴食べる!」


 ぴょんぴょんと飛び跳ねて嬉しそうな笑顔になるみーちゃん。


「わ〜い! レキちゃんはね、レキちゃんはね、奢られるのは少し悪いので、自分で買いますね」


 ぴょんぴょんと飛び跳ねて遠慮しますねと笑顔で言うゲーム少女。


 ごく普通に奢りは結構ですよと断りを入れて、みーちゃんとおててを繋いで綿飴屋へとてってこ向かう。


 レキの答えを聞いて苦笑を浮かべる蝶野母。相変わらずの年若いのに優しい娘ねと、その無邪気な笑顔を見て癒やされるが、中身はいい歳をしたおっさんであるので本当に問題はないのであるけれど。


「綿飴一つ300マターですか。良心的ですね、二つくださいな〜」


 崩壊前にあったキャラクターの描いてあるビニール袋などはなく、割り箸にくるくると綿飴をつける、いわゆる素の状態で作っている。砂糖が高い今は原価率も少し高いかもだけど、それでも儲かるのだろう。


 んせと、アイテムポーチから現金を取り出そうとする遥であったが、それを制止して蝶野母がドーナツを出す。いや、違った、ドーナツの絵が書いてある千マターである。


「あいよ、毎度〜。お釣り400マターね!」


 店主は笑顔で綿飴をみーちゃんと遥に手渡して、お釣りを蝶野母に手渡す。


「いつもお世話になっているんだから、これぐらいはね」


 ニコリと笑う蝶野母を見て、仕方ないなぁと無邪気な笑顔でコクリと頷く。詐欺美少女は綿飴を奢られた。本当に詐欺かもしれない。


 それじゃあ、公園の噴水そばのベンチで食べましょうと蝶野母が少し歩いた先にある公園の中にあるベンチへと向かう。


 ベンチにポテンと座って、皆で綿飴を食べることにする。口に入れると溶けていき、ふわふわの感触と甘みがじわりと口に広がり美味しい。


「あま〜い! 美味しいね、レキおねーちゃん」


「はい。とっても美味しいですね」


 パクリと綿飴に顔を突っ込むように食べるみーちゃんが笑顔で感想を言う。綿飴で口元がベタベタになっているよと微笑みながら自分も食べる。とっても美味しい。特に愛らしい幼女と一緒に食べるのは癒やされると遥はホンワカと心が落ち着く感じ。


 まぁ、おっさんと食べるのとは比べ物にならない。おっさんが一緒に食べる相手だとみーちゃんは泣いちゃうかもねと自分で予想して、その予想に軽く落ち込んだりも……慣れているので特に落ち込みはしないや。


 キャッキャと笑い合いながら食べる中で、周りを見渡すと、人々が大勢同じように何らかの食べ物を口にして騒いでいた。たこ焼きやかき氷、焼きそばにベビーカステラなど、思い思いに食べている姿が見える。


 ビニールシートを敷いて、カンパーイとビール缶を打ち合って、おっとっと零れちゃうよと慌てて口につけたりして楽しんでいた。


 今回は特に祭りにはしていない。ということは補助金は出ていないので、安く買えるようなことはないのであるが、手元にお金があるので、ついつい買ってしまうのだろう。補助金が出ていないので売れるようにと屋台も色々と工夫をして声を張り上げて売っているので、補助金があるというのも一長一短だなぁと思う。補助金があると安く売れるので、あんまり売るための工夫をせずにすんだのだからして。


「モーツァルト、レクイエム歌いま〜す!」


 と、聞き慣れた声が聞こえてくるので、声のした方へと見てみると真琴が懲りずにマイクを持ってゲリラライブをしようとしている。


 歌詞を見て、ラジカセにスイッチを入れて音楽が流れ始める。その音楽に合わせて歌おうとしているが、なぜか立ったまま歌わない。なんだろうと小首を傾げて不思議に思うと、真琴は歌詞を振り上げて叫ぶ。


「こら、ディー! ドイツ語は私は読めねえよ! なんで全文ドイツ語な訳?」


 木の影に隠れながら様子を覗いていたディーがニヤリと笑い答える。


「それは綾に上げてもらった。私もドイツ語はわからないから」


「うむ、私も図書館からドイツ語原文のまま持ってきたからな。全く読めないと伝えておくとするよ」


 木の影から、白衣を着た少女がディーと同じようにニュッと身体を覗かせて偉そうに胸を張る。


 なるほど、モーツァルトはドイツ語だったっけ? レクイエムは映画で見たことあるよ、たしか死者の世界の使いがモーツァルトに歌の作成を依頼するんだっけ? というか、歌う部分なんてあったっけ? なんとなく真琴がからかわれている感じがする。


 実際は田舎の名士が頼んでいたらしいけど、それも本当かなぁと疑いを持っちゃったものだ。だって、死者の使いの方がロマンがあるし、名士が頼んだとバレるのもかなり未来の話だしね。そっちも捏造かもしれないと思うのだ。


 そしてトリオで漫才を始める三人なので、どこまでが仕込みかわからない。宴会をしている人たちもケラケラと笑っているし。アホなやりとりも計算済みなのかもね。


「ね〜、ママ〜。レクイエムってなぁに?」


 みーちゃんが蝶野母へと可愛らしく小首を傾げて尋ねる。どうやらみーちゃんはこの年頃によくある質問しまくる幼女になっているみたい。


 みーちゃんの頭を優しく撫でながら、柔らかい口調で蝶野母は教える。


「レクイエムというのは死んだ人を悼むための歌よ」


「死んだ人〜?」


 どうしてそれを今歌うのかも疑問に思ったみーちゃんにお札を見せながら語り始める。


「どうしてこのお札がケーキやドーナツかわかる?」


「美味しいから? お札を作る人が好きだからだ!」


 綿飴を持つ手を振り上げて元気よく答えるみーちゃん。みーちゃん正解です。なんということでしょう。この幼女は可愛すぎちゃうね。


 感心する遥とは別に、蝶野母はかぶりを振って否定をして答えを言う。


「ほら、金色のお札には少女が描かれているでしょう? この娘が好きな食べ物だったのよ」


 金色の一万マター札を見せながら説明を始める蝶野母は悲しげな表情をみせる。


「この女の子はだぁれ?」


 もちろん疑問に思うみーちゃんは尋ねると


「この娘たちは崩壊後当時に人々を守り、田園や鉱山を守りきって死んでいった量産された超能力者の少女たちよ。その少女たちを悼んで生きていたらこう育って欲しかったという想いも籠められてお札に描くことになったのよ」


「その女の子たちは死んじゃったの?」


 うるうると泣きそうな表情で眼に涙を溜めるみーちゃん。その少女たちが死んでいったと聞いて悲しく思ったのだろう。優しい幼女である。


「大丈夫ですよ、彼女たちは大樹の大義のために死んでいったんです。なので笑顔で天国にいるでしょう」


 だから泣かないでねと慌てる遥。天国というか、お札を刷り終わって、ふぅ、疲れたでつねと遥の差し入れたケーキやドーナツを頬張って幸せな表情を浮かべています。


 そうなの? とみーちゃんが目をこしこしと拭うが、蝶野母はぽすんとゲーム少女の頭に手をおいて優しく撫でてきた。


「そうね……。レキちゃんはそう言われて育ったのよね……。でも覚えておいてね。亡くなった少女の親はきっと悲しんでいるし、もしもレキちゃんが同じように死んじゃったら皆悲しむわ」


「私は死なないですし死んでも大丈夫ですよ」


 死んでも復活しますとフンスと息を吐いて明後日の回答をするゲーム少女である。そういう話とは違うのだが、自分基準で考えると死なないので、そう答えるアホな美少女である。もしかしたら知力はみーちゃんに劣るかもしれない疑惑が浮かぶ。


「駄目よ。そんなことを言ったら駄目。きっと大勢の人が悲しむし、私たちも泣いちゃうわよ?」


 蝶野母はそんな答えを出す哀れな少女を見て哀しく思う。大樹は罪な者たちを創り出したものだ。お札にしても、超能力少女たちを知らない人は死んだ人を悼むなんてと優しい国だと思うだろうが、その親は悲しみにくれているはずだ。


 そして目の前の少女も亡くなった少女たちを悼むわけでもなく、大樹の役にたったと喜んでいる。そういう教育を受けてきたのだろうが、それは間違いだ。


 何度も言い聞かせないと、その間違いには気づかないだろう。荒須さんのレキちゃんに対する話を聞いてはいたが、強くそれを意識した。


 無邪気な少女を操る大樹。たしかにこの崩壊した世界では強き人間は必要であったとは理解はするが、この少女の親はどう思っているのだろうか。常に危険な地域へと派遣されて戦う娘を思って。


 周りの人々が意識を改革していくしかない。ゆっくりと時間をかけて話さないと駄目だと思い、この可愛らしい少女の頭を優しく撫でるのであった。こうして見ると普通の可愛らしい娘なのにと。


 中身はおっさんで全然普通じゃないんですと教えてくれる人はもちろんいなかった。


 う〜ん、なにか返答をミスったみたいだねと、頭を撫でられながら遥が思っていると、モニター越しに赤ちゃんプレイをやめて呆然とした銀髪メイドがわなわなと肩を震わせていた。


「ななななな、なんでそんな話になっているんですか? どうしてちょっと良い話にすり替わっているんですか? なんで死んでもいない量産型少女を悼んでお札を作ったことになっているんですか? そういえば死んでいる少女たちがいると答えちゃいましたね……。サクヤ博士の話は? 私の偉大なる功績は?」


「偉大なるもなにも、なにもしていないでしょ。よくわからないけれど、新通貨発表の時にそんな噂が流れたらしいね」


「ムキャー! どうりでご主人様があっさりとOKを出した筈です! でも常にご主人様のことはお休みからお風呂まで全部見ているのにそんな行動は見られなかった……。はっ! ナイン裏切りましたね!」


 サクヤがストーカー発言をしつつ、ぎゃあぎゃあとうるさく喚きながら、すぐに真相に気づく。そういえば最近大量におやつを作っていたなぁと思い出したのだ。


「姉さん、私はマスターのご指示どおりにツヴァイやドライたちに差し入れただけです。その中でマスターの作ったおやつも加えはしましたが。その時になにかお願いをしましたが、なにをお願いしたかは覚えていませんね」


 しれっとした表情でちろりと小さな舌を可愛く出して、飄々と答えるナインの言葉を聞いて絶望に包まれて膝から崩れ落ちるサクヤ。


「わ〜ん! せっかくお札になると思っていたのに! 仕方ないですね、それなら各地に私の像を建てる計画を推進します!」


 全く懲りていないサクヤの泣き声とアホな計画を耳にして、クスリと悪戯そうに笑うゲーム少女であった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 同じ金額の新通貨なのにイラストバリエーションが何パターンもあるって事?
[一言] ほんとよくできた話の構造ですな。 勘違いで犠牲者はいないんだけど!
[良い点] この温度差が好き [気になる点] こんな道徳0点の返答が出て来るのも記憶弄られた影響なのだろうか
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ