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コンクリートジャングルオブハザード ~ゾンビ世界で遊びましょう  作者: バッド
24章 妨害を取り除こう

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393話 我らヌスッターズ

 田舎の地下駐車場とは広いものだ。お客はみんな車の移動が基本なので、停めるための駐車場がないと客はこない。そのために巨大化しているのが特徴だとリチャードはのんびりとアサルトライフルを肩にかけて歩く。


「発炎筒だ、リチャード」


 後ろを歩くエンリが指示を出すので、肩をすくめて腰に下げているいくつかの発炎筒から一つを手にとり


「ほれっ! 餌だぞ化物野郎」


 ぶんと勢いよく腕を振りかぶり、30メートルばかり先まで投げるとコンクリートの床に転がった発炎筒は迸る炎を噴出させて辺りを照らす。


「うぁ〜」

「がぁぁ」

「ボァァ」


 叫び声がするとその光に釣られて、車の影からのそりと死者たちが動き始めて光に集まる蛾のように発炎筒へと群がっていく。


 その様子を嫌そうに見ながらリチャードはかぶりをふって隣にいるベッカへと声をかける。


「なぁ、あいつらは発炎筒がケーキに刺さったろうそくにでも見えるのか? あんなに群がっていく理由が俺にはわからんね」


「わたし達がケーキ役かもしれないわよ。油断しないことね」


 幼そうな新米女兵士は、その見た目とはまったく違うふてぶてしい話し方でふふっと妖艶に笑う。これで妖艶な美女ならばモテて仕方ないだろうとは考えるが、幼そうなその顔立ちが邪魔をしているとニヤリと笑う。


「ベッカさんよ、その顔立ちでその言動だと怪しまれるぜ、なぁ、エンリ?」


「あぁ、そうだな。せっかくのナナシ様の好意を無為にして貰ったら困るな」


 エンリも発炎筒に群がるゾンビたちを見ながら、冷たい目で感想を言う。


「あら、ごめんなさい。まさか新兵役だとは思わなかったもので、ついつい素が出たわ」


 妖しげなその様子は誰かを思い出す。いったい誰だろう、謎だ、謎すぎる。


「それにしてもこのホログラムは凄いものね。触られないとわからないもの」


 バングルをパチリと押すと、幼げな新兵の顔は消えて、その下から妖艶な女性が出てくる。


 誰あろう五野静香、華麗なる女スパイであった。女武器商人という噂もあるかもしれない。でもそれは都市伝説だろう。


 自分の姿をしげしげと見て感心する。バングルの力で顔をホログラムで覆っており、バングルから読み取られる脳波により喜怒哀楽もちゃんと見せることができるという偽装用アイテムである。


 惜しむらくは触られるとホログラムなのであっさりとバレる。本来は敵から逃れるための迷彩用ホログラムを流用したものだ。


「情報部の装備って凄いものね。私にもこの装備をレンタルじゃなくて、譲って貰えないかしら」


 ニコリと僅かに首を傾げて尋ねるが、もちろんエンリの答えは決まっている。クソ真面目な表情で硬い口調で答えるのみ。


「駄目だ。お前はどんな悪用をするかわからないからな。それより真面目にやれ、お前ら。情報部の装備が通常兵士より良くても死ぬときは死ぬんだからな」


「へいへい、おかたいと情報部ではやっていけないと思うがね」


 リチャードはニヤリと笑うと、ゾンビたちの群れへと真剣な表情で目つきを鋭く銃を構える。


女兵士ウェーブさん、仕事が終わったらあとで飲みに行かないかい?」


「あら、私は新兵よ。女新兵は身持ちが固いの」


「そりゃ残念。そんじゃ、まぁ仕事を開始しますか」


 静香ことベッカが薄く笑って断るのを受けて、微かに口元を曲げると引き金を弾く。


 アサルトライフルの連射は、銃弾をばら撒く。一見狙っていない適当な狙いに見えたが、発炎筒に群がるゾンビたちの頭をほとんど正確に狙い撃ち倒していく。


「へぇ、軽い性格の割には正確な射撃ね」


「惚れたか? いいぜ、美人はいつでも歓迎だ」


「減らず口を叩くなリチャード。お客さんはこちらに気づいたぞ」


 エンリの鋭い声がかかり、そのとおりに群れが銃声に気づきこちらへと頭を向ける。暗闇の中で発炎筒に照らされるゾンビたちの顔は血まみれでいつ見ても不気味だった。


「リチャード、噛まれても血清はないからよろしくね」


「セバスの爺さんは俺たちのサインコードに何も思わなかったよな。やれやれ古き良きバイオなゲームを知らないとは世も末だ。せっかく部隊名もヌスッターズと名付けたのによ」


 残念そうにかぶりを振るリチャード。そんなリチャードの言葉にベッカはクスリと微笑む。


 ベッカとリチャード。もちろん仮の名前でサインコードと呼ばれるものだ。ウェスたちも同じコードなのでなにかツッコまれると思ってニヤニヤしていたが、セバスの爺さんは無反応だったので肩透かしを食らった部隊員である。


「既に世は末だ。リチャード、セントリーを使え!」


「あいよ! セントリーガン展開。目の前の敵を叩き潰せ!」


 背中に背負っていたトランクケースを目の前に縦に置いて、床を滑らせる。

 

 ガガッと、多少コンクリートを削るように進むとトランクケースが縦に割れてマシンガンが姿を現して迫るゾンビたちを狙う。


「対ミュータントタレット展開完了。感知範囲内にミュータントの存在を感知。攻撃を開始します」


 コンピュータ音声がセントリーガンから聞こえ、マシンガンが火を吹く。無人迎撃兵器、対ミュータント用トランク型セントリーガンである。


 タララと銃撃が始まり、その高速の射撃によりゾンビたちが次々と倒れていき、みるみるうちに数を減らすのを見ながらベッカが疑問を口にする。


「あれは威力が低すぎるわ。ランナーゾンビが限界、グールだと厳しいんじゃないの?」


「そりゃそうだな。無人兵器は基本的に同じ武器で人間が撃つより、ミュータントに与えるダメージが少ない。科学者は生命力が武器に上乗せされているために威力が変わると言っていたがな」


「だからこそ我々がいるんだ。漏れた敵を倒すぞ」


 エンリが銃を身構えると、リチャードもアサルトライフルで敵を再度撃ち始める。そうしてベッカへと視線を向けて


「なぁ、アンタはパワーアーマー乗りだと聞いている。生身の戦闘は大丈夫なのか?」


「あら? 心配してくれるのかしら。もちろん生身の戦闘なんて無理よ。なにしろ新兵さんだしね」


 赤いアサルトライフルをいつの間にか手に持って、ベッカはグールを中心に狙い撃ち始める。赤い弾丸が粒子を煌めかせながら、グールに向かう。


 グールは障壁を作り防ごうとするが、まるでできたての湯葉のように簡単に貫いてあっさりとグールを貫き、さらに後ろにいるゾンビたちも貫通していった。


「こりゃ凄え。武器部門の宝樹は伊達じゃないってことか」


「新型弾か。幾らで買えるか要相談だな」


 リチャードとエンリがアサルトライフルで敵を迎撃しながら驚きで目を見張る。グールを一撃で倒すどころか、後ろの敵も貫いて倒すなどマトモな威力ではない。


「残念だけど、これは非売品なの。この下に隠れている財宝を見たら気が変わるかもしれないけれどもね」


「それはあまり期待できないな。今回の任務は真っ黒な会社を作ろうとするやつらの仲間になるのが目的だ」


 エンリの言葉にふふっと妖しく笑みを浮かべるベッカ。正直、この女が新米の可愛らしいベッカ役なのはミスキャストだとエンリは苦々しく思う。どう見ても新米警官をもてあそぶ女スパイ役に見える。


「今回私が呼ばれたのは、ベッカとして仲間には入らずに、外との繋ぎを作る役目になるからでしょう? その任務中に財宝がいくらか無くなっていても仕方ないと思わない?」


「ふぅ……程々にな。儲けがなければ、俺たちを雇おうとも考えないだろうからな」


「そうそう、あの爺さんに見えるように金遣いの荒い奴らに見せかけるのは大変だったんだぜ。いくら金を使ったことやら」


 諦めがちでエンリは答えると殲滅を終えたゾンビたちの横を通り抜けて先に進む。リチャードはカラカラと笑いながら後に続く。


 地下を降りながら出てくる敵をキッチリと片付けて進んでいると上階から戦闘音が聞こえてくる。どうやらブラボーチームも敵に遭遇したようだと予測する。


 チラリとベッカがこちらを見て、なにかを確認するような表情を浮かべるので首を横に振り否定する。


「ブラボーチームも優秀だ。やられる事などあり得ない」


「そう? それなら良いけど信用しているのね」


「ハハッ、俺たちは言うなれば特殊部隊ヌスッターズだからな。潜入から戦いまで、お手のものさ」


 ベッカの言葉にリチャードがおちゃらけてみせるが、そこには信頼の様子も見えた。


「それに事故死の検証とかもしているのかしら?」


「それは相手によるな。今回の相手が事故死しないように気をつけるのも俺らの役目だ」


 ニヤリと笑うリチャードの笑みの裏に狡猾さを感じてベッカというか静香はどうやら一筋縄ではいかない人たちねと警戒をするのだった。


         ◇


 最下層に進むと、暗闇の中でもさらに暗かった。アルファチームは油断なくアサルトライフルを身構えながら先に進んでいたのだが、最下層の入り口でエンリが手を伸ばして制止する。


「待て、最下層だ。気をつけろ、空気が悪い」


 目の前にある地下駐車場は静寂に包まれていた。今まで進んできた中には必ずゾンビやナイトストーカーがいた。それなのにこの周辺にはその気配がない。


 ピリピリと痛いぐらいの静寂のなかで、緊張状態に入る三人。


「どう見る? 新米ウェーブさん?」


 危険な香りがする中でもおちゃらけるリチャードに呆れた様子でため息を吐きながらベッカは経験則から推測を口にする。


「もちろんボスがいるに決まっているわ。それにお宝の芳しい匂いも奥からしてくるわね」


「オスクネーレベルがいるってのか? まぁ、そんな奴等でも倒せる装備だがな」


 自信満々な様子のリチャードへと微笑み返してベッカは告げる。この先の展開も昔と同じことをするのよと。


「じゃあ私は後ろの雇用主が来る前に小部屋を見に行くわ。とりあえず少しの間はベッカは迷子になるのでよろしくね。きざな兵士さん」


 告げた内容にどういう意味だと尋ね返そうとするリチャードたちを尻目にダッシュをして中へと突入する。


 タタタと軽やかに暗闇を走る姿に驚くリチャードたち。駐車してある車の横を通り過ぎると、車からフロントガラスが割れて飛び蜘蛛たちがゾロゾロと這い出て来た。


「まずいぞ、ベッカ! 戻れ、罠だ」


 焦るエンリが叫ぶが、肩をすくめてワイヤーガンを取り出して最奥の壁へと打ち込む。


「ボス退治は任せたわ、兵隊さんたち。私は小部屋のお宝を確保しておくから安心して〜」


 妖艶な女スパイは笑みを浮かべると、シュルルと壁に食い込んだワイヤーを巻き取らせて、身体を浮き上がらせ奥へと消えていくのであった。


 消えていったベッカというか、静香を呆然と見ながらエンリがリチャードへと視線を向けて信じられないとばかりに口を開く。


「本当にパパさんの言うとおりになりまちた。あの女は本当に武器商人なんでつか?」


 ごつい体躯なのに、可愛らしい幼女の声を出すエンリ。


「エンリ、その姿で幼女言葉は禁止ね。絶対に禁止ね、破ったらおやつ抜きね。というか静香さんが財宝を前にして裏切らないわけないだろう? これをふじこちゃんの法則と言います」


 先程までのおちゃらけた様子でありながら、冷酷な裏の顔を持つリチャードはどこにもいなく、くたびれたおっさんの雰囲気を醸し出す。


 第三者が見たらいきなり何だ何だと混乱するだろうが、話は簡単。詩音を野放しにしたら危ないのでドライたち数人を新設する会社に潜入させることに決めたのだ。


 ついでに未だに入院しているので暇だからして、おっさんでもスキルを悪用できるようになったので、早速サイキックウェポンで作った兵士の体をゲームよろしく操っている遥であったりした。たぶん悪用であっているだろう、なにしろおっさんなので。


 未だに入院している理由? それは簡単な答えであり難しい答えだ。チョロインな水無月姉妹が看病しますとベッドから離れないので不自然に復活できない。それに対抗する褐色娘と可愛らしいナインもベッドに張り付いているのだからして。


 おかしいな? この歳になってハーレム? いらない、いらないよと思いつつ暇なので良いアイデアだとこの計画を思い浮かべたのだった。その中におっさんが混じることと、静香を入れることにしたのは致命的ミスかもしれない。


 精神世界で膝にちょこんとレキをのせて、インカムをつけてコントローラーを手に持ちおっさんはモニター越しに操っている。なぜかナインも精神世界なのに側にいてカフェオレを出してくれている。


 おっさんも色々できるようになったのだからして、リチャードロボ出動と言う訳。


 人形操作はお手の物。そしてロボットだと自我を持つかもしれないので、わざわざエネルギーの塊であるサイキックウェポンで使い終わったら消えるようにするおっさんである。家族に私以外男性はいらないのだよと。極めて心が狭く矮小であったりした。すなわちいつもどおりのおっさんであった。


 ちなみにおっさんの半分のステータスがサイキックウェポンで作れる人形の限界であったりする。


 そのために極めて雑魚であり、まさにおっさんの操る人形に相応しいが、そこは体術スキルと銃術スキルでカバーしている。スキルがあればおっさんだって達人レベルまではいくのだ。チートな高レベルスキルなのに、それでも人外に到達しないところがおっさんの凄いところである。

  

 まさに人形を限界まで操れるキングオブキングなおっさんだ。たぶん子供のパンチ一撃で倒されてしまうだろう強さを誇っている。


「セーブしたら、戦いを始めたいんだけど? ちょっとあの蜘蛛たち空気を読んでくれないかなぁ」


 空気を読むことは得意なのだ。忘年会とかでハイハイと答えて、二次会とかには絶対に行こうとしない力を持っているおっさんなのだ。だからあの蜘蛛も同様に空気を読んで欲しい今日この頃。


 あとセーブがないと初見はだいたい死んじゃうよと自信満々でもある。実に碌でもないおっさんである。


 30センチぐらいの大きさの蜘蛛たちは、蝿の羽根を広げて駐車場からドンドンと来る。空気を読まない飛び蜘蛛たちは口を開けてこちらへとなにかを吐く。


「エンリ、散れっ!」


 キラキラとした糸がレーザーのように飛んでくるのを見て、バッと床を蹴り、離れたリチャードロボは素早く指示を出すのでエンリも床を蹴りスライディングで車の影へと隠れる。


「飛び蜘蛛の斬糸は強いが本体の防御力はグールに劣る。倒していくよって……セントリーが私のしかない! もう弾切れに近いのに! ベッカぁぁぁぁ!」


 残り少ない弾倉に悲しく思うリチャード。ロボだからアイテムポーチが使えないのだ。そしてもう一つの使用していないセントリーガンはベッカが背負って行ってしまったと絶叫をする。あの女スパイは本当に碌なことをしない。


 渋々とセントリーを展開させて、二人はバラバラに車に隠れながらアサルトライフルを撃っていく。飛び蜘蛛は車体の下から、フロントガラスが割れた車の中から、柱の隅からどんどんと湧いてくる。


「天井にもいるぞ! 注意しろっ!」


 エンリが叫びながら天井に向けて発砲をすると、密かに近づこうとしていた飛び蜘蛛が撃たれてぽろぽろと落ちてきた。


「やれやれ、俺の相手は蛇だろ? どうして蜘蛛なんだ? それに悪趣味なインテリアすぎるぜ」


 リチャードは嘆息しながら天井を仰ぎ見る。そこには無数の蜘蛛の巣が作られており、ゾンビやグールなどが絡まり捕まっていた。食べられたのだろう、骨だけのものもたくさんいる。ゾンビたちは銃撃により衝撃を受けた蜘蛛の糸が緩み、その隙を狙い自分を捕まえている糸をちぎり落ちてくるのもいる。


「ちっ、奥からも来たぞ!」


 エンリが蜘蛛たちや解放されたゾンビたちを見ながら奥を見て忌々しそうに声をあげる。


 そしてドシンドシンと大きな足音と共にオスクネーが現れた。今までのオスクネーよりも二回りほど大きい体躯をしている。ここの主らしい。


「どうやら食料がたっぷりあったみたいで、だいぶ太っているぞ、やっこさん」


 素早く空になったマガジンを入れ換えたリチャードは車の影から飛び出して、反対側の奥にある柱へと駆けて隠れながら叫ぶ。


「俺たちは残念ながら毒入りだと教えてやろうじゃないか」


 エンリが不敵な笑みを浮かべて、楽しそうに笑う。


 セントリーガンが弾切れとなり、動きを止めるのを見てリチャードは嘆息しながら答える。


「血清はないと教えてやろうか。大丈夫、相手は蛇じゃないしな」


 そうして二人はボス戦に突入するのであった。 

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[良い点] 更新ありがとうございます。 次も楽しみにしています。 [一言] まさかの二重お遊戯とは
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