表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
コンクリートジャングルオブハザード ~ゾンビ世界で遊びましょう  作者: バッド
24章 妨害を取り除こう

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

392/583

387話 おっさんと腹黒令嬢

 眼下では散発的にタタタと銃声が聞こえる。もはや聞き慣れた戦闘音が耳に入り、窓の外ではビル内に隠れていたのだろう飛び蜘蛛をツヴァイたちパワーアーマー隊が撃破している。小さな見かけよりも危険な化物なのでツヴァイたちが先導して、後方からゾンビやグールを防衛隊が殲滅していっていた。


「未だに戦闘は続いている中で申し訳ないですな、水無月さん」


 本日はくたびれたおっさんなぼでぃになっている遥。皺のないノリのバリっと利いたナインがアイロンをかけてくれたスーツを着込んで目の前の老人へと声をかける。


「気にすることはない。このようなこともできぬとあれば上に立つ人間として相応しくないからな」


 水無月志郎がニヤリと笑いながら答えてくる。その腰には懐かしの流水刀を佩いていて、戦闘もできるとアピールしていた。まぁ、たしかに初期に手に入れた武器なのに流水刀は今でも現役の防衛隊装備を上回るパワーをもっているのだ。


「私もついてきて宜しかったのでしょうか? お邪魔にならなければよろしいのですが」


 同じくついてきていた大和撫子な穂香。


「お祖父ちゃんが水無月シティを将来預かる者としてたまには前線も見ないといけないと言ってきたんだから良いんじゃない?」


 ニヒヒと笑う快活な僕っ娘の晶。


 四人がいるのはドラゴンフライ改。即ち空中強襲艇であり、現在は三重県の詩音がいるホテルへと一路向かっているのであった。


 水無月シティを預かる者としてねぇと遥はその話を聞いて考える。お爺ちゃんは民主主義反対派なのだろうか? 資産があり人脈もあり行動力もあるのであれば、権力がついてくるのは民主主義でも王政主義でも同じことだ。企業のお偉いさんって貴族だよね? と聞けばほとんどの人はそうだねと答えるに違いない。


 そこは皆にお任せである。自由にやってください。水無月公爵とか名乗っても別に大樹としては止める気はない。それどころか面白そうですねとサクヤが新たな設定とスカスカの台本を書き始めるに違いない。


「本来は水無月さんに来てもらうのは筋違いであるのではないかと懸念しているが、大量の美術品なのでね。一人の鑑定士だけではその評価を信頼するのは難しいと言われて数人の鑑定士を呼んでいるのだよ。もちろん、崩壊後にはそんな職業はない。そんな余裕もないですしな。なので、方々から美術品を鑑定できる方々を呼んでいる次第でね」


 席にもたれかかりながら説明をすると、お爺ちゃんはうむうむと頷いて納得するように口を開く。


「聞けば大量の美術品とか。しかも接木シティにある美術品の量よりも多いとか? それならば持ち主の懸念もわかろうというもの。ただ………」


 お爺ちゃんは鋭い眼光を遥へと向けて懸念を告げる。


「おかしい話だ。こんな辺鄙な場所に美術品が大量に置かれてるとはな。美術館というわけではないのだろう?」


「そうですね。美術館は保管ができなくて駄目になった絵画は大量にありますし、大樹の優先順位的に美術館、博物館は上の方にある。あそこは宝物庫のようですからな。そこでの個人の所有は認めていません。ですが、今回はホテルの地下というわけです。完璧とは言えませんが、しっかりとした保管をされています」


「ふむ………。怪しい話だ。相手もそれは自覚しているのだろう? 大樹としてはどうするのだ?」


 恐らくは犯罪が関わっているのだろうとお爺ちゃんが尋ねてくるが、遥は肩を竦めてかぶりを振って言う。


「相手は市井松詩音という少女です。その少女が言うには地下は父親が管理していた場所とか。なので何が入っているかも知らなかったと」


 ふっ、とニヒルに口元を曲げて、アヒルみたいな口元にはなっていないよねと思いながら遥はお爺ちゃんを見る。まぁ、知らないなどという話はないだろう。ならばなぜそのホテルに偶然にいたかという話だ。いや、たぶんホテルにいたのは偶然なのだろうが、宿泊客はともかく、その従業員の中で銃の扱いに長けている者たちは怪しいというか真っ黒だと思う。


 お爺ちゃんもその話を聞いて、呆れた表情になる。


「なるほど、若いのになかなかのやり手ということか。厄介な相手だな、ナナシ殿はどうするつもりなのだ?」


 いつも通りの和服姿のお爺ちゃんは腕を組みながらナナシの返答を待つ。


 その答えは既に出ているので、なんともないように答える。


「別になにも。どうやら少女は犯罪に関わっていないと自分自身で信じているようです。悪意が薄いのですな、白でも黒でもなく灰色というわけです」


「それは犯罪に関わっているという証明ができないので放置するということでしょうか?」


 穂香が多少不満顔になり口を挟む。犯罪者ならばそれなりの対応をしないといけないのでは思っているのだろう。


「あ~、お姉ちゃん。たぶん崩壊前の犯罪なんて立証は無理なんじゃないかな? だって殺人とかでも、もう無理だよ? ゾンビに殺されたかもわからないし、窃盗なんて言ったら物資調達をしている人たちも当てはまるしね」


「その通りだ。ようはこれからの動きを注視しておけば良いというだけだ。大樹としての対応はそこまでだな」


「うむ………。現実的な対応となるとそこまでか。歯がゆいが仕方ないな」


 晶が鋭く穂香へと自分の意見を伝える。その根拠も。お爺ちゃんも納得はしていないだろうが頷く。


 多少空気が悪くなった感じがするなぁと遥は苦笑するが


「監視はつけておきますよ。そこまで大樹も甘くはないのでね」


 地下に隠れて盗賊ギルドとか作られても困るので。その場合は正義のモフモフ娘が天誅に行く予定。


 今は鍛えるために瑠奈は若木シティへと引っ越しをしているのでちょうどよい。それに謎のエージェントも潰しに行くのは確実だ。


 だが、あの少女がそんなことをするとは思えないんだよなぁと推測する。たぶん、もっと巧妙にやるのではないのだろうか。そんな予感がするのでしっかりと監視はしておかないとねと思う遥であった。


「ナナシ様。そろそろホテルへと到着致します」


 考える遥の耳にコックピットから放送がかかるのであった。


 そろそろ詩音がいるホテルへと到着する時間だった。


          ◇


 ホテルには従業員を20人近く後ろに立たせて、脇に執事のセバスを置いて詩音が待っているのが見える。


 ヘリが着陸して、着陸時の突風に髪を煽られながら詩音はじっと降りてくる人間を待っていた。


 こういうのは最初が肝心だと詩音は今までの人生で理解している。ヘリが来てから迎えに行くのではなく、既に待機していれば相手の評価も少なからず上がろうというものだ。今日は梅雨にもかかわらず、雨は降っていない。曇り空なのでいつ降るかはわからないが。


 正直、雨が降っていた方が良かった。多少の雨に濡れながら、それでもお出迎えするために待つ健気な少女というのは点数が高い。しかも美少女であるならばなおさらだ。


 ローターのないどんな原理で浮いているのかわからないヘリのドアが開く。ヘリ一つとってもこれだ。防衛隊とかいう新たな国の軍人に多少俯きながら不安そうな表情で尋ねたら、面白いほどペラペラと喋ってくれた。


 曰く、世界崩壊後に復興を行うために作られた世界規模の財団。


 曰く、化け物たちから身を隠し、ほそぼそと未来が見えないまま暮らしていた自分たちを救ってくれた救世主。


 曰く、崩壊前にはありえないレベルの技術革新をした驚異の科学技術を持つ集団。


 その財団が日本が滅びた後の主導者らしい。日本に愛国心を持っていても滅んだ世界では既に過去のものだと大樹という国ができても気にせずに人々は暮らしているらしい。


 当然だろう。有象無象の民衆など、上がすげ替わっても気にしないに違いない。自分たちの生活が安全で豊かな暮らしをできていれば満足なのだから。


 だが、詩音は有象無象の民衆の中に消えてしまう予定などさらさらなかった。これは成り上がるチャンスだ。2年という遅れがあるが、いくら技術革新が行われて優れた兵器を持っていても扱うのは人間であるのだ。それに人材も枯渇しているだろう。船舶業界の令嬢も良かったが、それ以上の立場へと成り上がるチャンスだと心躍る。


 野心に満ちた内心は面には出さずに大樹の人間を待ち受けると、数人の男女が降りてくる。


 一人は中年で目つきが冷酷そうな光を放ち、高級そうなスーツを着る男性。その雰囲気からエリートだとすぐにわかる。それになんとなく怖さも感じる。まだヘリの前にいるというのに、心が警戒するように警鐘を鳴らしていたので、油断できない相手だと気を引き締める。


 一人は時代劇の侍のような着物に袴姿に刀を腰に佩いた老人。こちらも鋭そうな目つきで歳をとるということが、自分を鍛えるといったことと同様だと思わせる御仁。


 次の二人はなんだろうか? 巫女服を着こんだ女性たちだ。コスプレには見えないが………。一人は艶やかに伸ばした黒髪とお淑やかそうな温和な雰囲気を見せる女性。


 一人は同じく巫女服を着こんでいるが快活そうな元気がありそうな女性だ、ニコニコと微笑むその姿を見ると元気を貰える人間も多いだろう。


 この最初の出会いが重要だ。話に聞く限りではナナシと呼ばれる中年のエリート男性が大樹の幹部らしい。私の容姿を十二分に使い、気に入られようと詩音は4人へと近づき微笑むのであった。


           ◇


 遥は近づいてくる腹黒少女を見て、オブラートぐらいなら貫けるかもしれない眼光で相手を見る。


 詩音はにっこりと可憐そうに、そしてどことなく不安そうな表情でこちらへとスカートを持ち上げてカーテシーをする。カーテシーで良いよね? カーテンじゃないよねと遥はアホなことを考える。


「ようこそいらっしゃいました。市井松詩音と申します。今回は救助をして頂き、しかも美術品についての我儘を通していただき一同感謝の言葉もございません」


「私の名前はナナシ。横の御仁が水無月志朗殿、水無月シティを有する方ですな。そしてその孫の水無月穂香さんと晶さん姉妹」


 水無月家族を手で指し示しながら自己紹介をする。水無月家族も頷きながら頭を下げる。


「そして気にすることは無い。救助は復興を目的とする大樹では当たり前のことだ。そして自分の利益をできるだけ確保したいというそちらの言い分も理解できるからな」


 つまらなそうな表情で上の立場っぽく偉そうに言う。正直、そんな偉そうな感じはいらないんだけど、演技スキル様がそう動くのだから仕方ない。おっさんは自分よりも演技スキルを信じます。おっさんの地位は演技スキル様より低いのであるのだ。


「ありがとうございます。では、一休みをしてから話し合いということでよろしいでしょうか?」


「そうだな、こちらとしても問題はない。やはり危険な地域を軍に守られているとはいえ移動してきたから、水無月の方々も疲れているだろうしな」


「ふむ………。そうだな、一休みをしてからの方が鑑定しやすいだろう。儂たちも問題はない」


 お爺ちゃんも頷いたので、ホテルへとぞろぞろと歩いていく。鑑定かぁ、鑑定スキルってないんだよねと遥は思う。


 歩く途中で、お爺ちゃんが苦笑しながら小声で声をかけてくる。


「あの少女はどうやらかなり頭が良いな。自分の容姿も理解しているのだろう、言葉もはきはきとしており好感が持てる。………このような場でなければの話じゃが」


 お爺ちゃんの言葉に遥も苦笑交じりに同感だと頷く。


「これから取引をするのに、あの不安そうな表情でそれでいて言葉も詰まらずにはきはきと挨拶をして、横の大人にこれで良いのか確認をすることもない。自分に自信があるのでしょう」


 おっさんは騙されないのだ。これまでの経験が生きているのだ。本当に生きているのかは不明だが、崩壊後の2年間でそのような人間は山と見てきた。皆必死だから、生きていくのに必死だから、気合いをいれて媚びを売ってくるのだ。


 その中でも彼女はかなりの才能を持っているのか、はたまた演技に自信があるのかがわからないが、今までの人間の中ではうまい方である。おっさんの演技スキルなしよりも遥かに上手いだろう。


「ですが、私的には行動を統一するべきだったと考えますな。お淑やかでできる人間か、不安そうな表情を見せるなら横にいる執事をチラチラと見た方が効果が高い」


「やれやれ、お互いにこういう応対に慣れてしまっているようだのう。仕方ないとはいえ因果なものじゃ」


 首を横に振りながらお爺ちゃんが変わってしまった自分に対して苦笑をする。


 おっさんも変わったもんだと内心で頷く。特に一番変わったのは美少女へと変身できることかな。


 変身できることを変わったことというのは、お爺ちゃんが言うこととはまた違うと思われるが、遥は本気でそう思っていた。相変わらずな斜め方向に考える遥である。


「私たちも騙されておりませんのでご安心を。お爺様」


「う~んと、ちょっと怪しいよね。これが崩壊前に出会ったパーティーとかの会場なら気にしなかったかもだけど」


 穂香も晶もうんうんと頷きホテルの中へと入る。


「ふ、そうだな。そこならば疑問を口にすることもなかったか」


 パーティーってなぁに? 忘年会とかかな? おっさんはホームパーティーとか誘われたことというか、周りでやる人もいなかったよ? このブルジョワめと内心で嫉妬をしちゃう心の狭いおっさんである。


 レキの時にも案内されたレストランへと移動する。もちろんエレベーターで。


 簡易的にホテルに発電機を備え付けたのだ。撤収後は回収予定だが、しばらくはここを拠点に徘徊する化物たちを撃破していく予定でもあるので。


 薄汚れていた窓ガラスなどもレキで来た時と違い綺麗になっており、掃除を頑張ったとわかる。レストランには数人の従業員がいて、お客は一人しか見られなかった。


 どうやら兵士たちは他の場所を食堂としているらしい。通路には何人もの兵士が行き交う姿が見えたのに、ここは特別扱いをしている模様。


「遅いわよ、ナナシさん。私は待ちくたびれたわ、お嬢様は早々に帰還しちゃうし」


 お客というか静香がのんびりとコーヒーを飲みながら、こちらを見て文句を言う。チビシリーズは傍には見えない。どうやらかなりのダメージを負って、しかもリリス粒子を枯渇させたのでメンテナンスらしい。それにレキが帰還しないとおっさんが来れないのであるからして。


「お帰りになっても全然かまわなかったのだがね。君が残ると言い張ったそうじゃないか」


 クックッとダンディかもしれない笑いを見せて遥が静香に言うと、唇を尖らせて反論する静香。


「まだ、報酬を貰っていないもの。市井松さんは私が貴金属を引き取るといっても認めてくれないし、貴方たちの到着を待つしかなかったのよ」


「強欲もいい加減にしないといけないな。どうせ安い値段で買い叩くつもりだったのだろう?」


「救助費用を含めて、相殺する形での値段よ? 全然安くはないわ」


 飄々と買い叩こうとしていたことを悪びれることもなく認める静香。罪悪感はまったくないらしい。そりゃ、ヒュプノスも精神攻撃ができないはずである。おっさんと同じく静香もぼったくることに対して気にしないタイプであるからして。


「申し訳ありません、静香さん。個人での救助費用を求められましても………。軍隊として活動するのならばしかるべき方から費用を請求されると考えていましたので」


 詩音が頬に手をそえて、申し訳なさそうに答えるが、その内容はしっかりとしたものなので、油断できない。


「さて、では一休み後に美術品を見せてもらおうか」


 面倒くさいけどねと思いながら遥は意見を言う。周りの面々も追随して頷くので問題は無さそうだ。


 でも絵画の中にサクヤが書いた落書きがあっても気づかない程の審美眼しか私はないけどねと、自信満々そうな表情を見せながら思うおっさんであった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
物理法則が可笑しくなった世界で、それに対応した秘密で謎の技術組織が国を経営してる。 ゲームなら自作自演で世界を壊した組織(組織のトップが)と思われても違和感ないんだよぁ。 怪しむ人が居ても黙ってるの…
[一言] みんなしっかりと考えて会話していて魅力を感じますね
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ