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コンクリートジャングルオブハザード ~ゾンビ世界で遊びましょう  作者: バッド
24章 妨害を取り除こう

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380話 ゲーム少女の霧の中の拠点訪問

 てこてこと歩いていく。霧の中で方角がわからないかと思いきや方位磁石を使用して、なにか目印を見ながら移動しているので、きっちりとこの場所を探索する手順は確立しているらしい。


「この霧は方位磁石が使えるんですね。まったく考慮していませんでした」


 方位磁石を見ながら移動する詩音に感心したように声をかける遥。久しぶりに方位磁石なんて見たよと物珍しそうに眺めちゃう。方位磁石なんて見たのは小学生時代が最後だったろう。


「それではこの霧の中をどうやって移動なさるつもりだったのでしょうか?」


 詩音が不思議そうに尋ねてくるが、すぐに答えに気づいたようでふむふむとこちらの防護服姿を見つめる。


「ただの防護服ではなくて、最新の技術が使われているのでしょうか? ハイテク機器ならば、簡単に地図などが表示されるとか?」


「残念ながらこの霧では電子機器での探索が上手く動作しないの。これはただの霧ではないとわかっていたけど、ここまで酷いことになるとは思わなかったわ」


 この防護服がハイテク機器の塊だろうと見抜いたつもりの詩音へと、静香がわざとらしくかぶりを振ってみせる。この防護服はカメラアイ以外もフィールド発生装置とかも導入されているので間違いではない。


 ただ私たちは脳筋パーティーなので、最終的には酷いことになるだろうけどねと自覚がありすぎるゲーム少女である。


「浮いているそのロボットも含めて、どうやらかなりの技術革新があったのですね。私たちは取り残されてしまったのかしら」


 あらあらと上品な仕草で頬に手をあてて困ったように言う詩音。美少女がそういう仕草をするの極めて保護欲をかきたててしまうが、静香は軽く肩をすくめてなにも答えなかった。


 ゲーム少女は詩音の真似をして、あらあらと頬に手をあてようとして防護服が邪魔でできなかったので、もうこれは邪魔だから脱ごうかなとか思っていた。


 二人の様子を見て同情がひけないと理解したのだろう。軽く苦笑して、再び歩き始める。


 しばらく歩いて、霧が薄れてきた。山裾へと入り込んだのだろう。白い壁が遠くに見えるのでたぶん結界が霧を消しているのだ。ここらへんは僅かに浄化範囲に入っていると思われる。


 周りの風景が薄っすらと見えてくると、周りは廃墟となっている街並みの中であった。目の前には、たぶんホテルかなにかだろう20階建てのビル。なぜホテルと判断したかというと、元は自動ドアであった広々とした玄関ロビーの横にホテル名が書いてあったからだ。


「市井松ホテル。なんと詩音さんの名字と一緒ではないですか」


 名字がホテル名なんて凄いと遥は詩音に問いかける。お金持ちだったんだなぁと。持ち家と広大な庭と言い張る土地を持っている遥は、自分のことは棚にあげて感心する。


 だってホテルですよ、ホテル。自分の名字をホテル名にするなんて、凄いお金持ちだ。でも冷静に考えると、自分の名字をホテル名にはしたくないかも。なんとなく恥ずかしいし。


「フフ、うちは船舶業をしておりますの。最近は不景気で多角事業をしようとホテル事業にも手を出したんですのよ」


「はぁ〜。それは凄いですね。大金持ちではないですか」


「それほどでもありません。玄関ロビーは車を詰めてバリケードにしているので出入りができませんの。こちらにハシゴがあるので、申し訳ありませんがそこから入ってくださいませんか」


 あくまでも上品な仕草を崩さない詩音は、おっとりとした声音でお願いをしてくるので、わかりましたとあとに続く。どこの地域でもやることは一緒だなぁと、初期の若木シティを思い出して懐かしく思いながら、んしょと梯子を懸命に登る。


 お子ちゃまには縄梯子はきついのですよと、またいつもの悪い癖を見せる。即ち弱々しい謎の美少女だ。常にアホの美少女と見られてもめげない心だけは感服して良いだろう。


 ホテルの中は案外と綺麗であった。混乱はしてもなんとかゾンビたちから防衛した模様。廊下も片付けられていて、人々も薄汚れてはいるが、なんとか生きているようであった。


 中へと入ると、すぐに周りを人々が取り囲んでくる。武器を身構えるわけでも、襲いかかるわけでもなく、久しぶりの生存者を見に来たのだ。たぶん先行して帰った人が言いふらしたのだろう。


 男性たちが周りを取り囲み、女子供は遠くから眺めてくる。子供がドアの影から手を振ってきたので、遥もちっこおててで振り返すが珍しく警戒を解いてくれない。

 

 ゲーム少女と女武器商人を眺めてヒソヒソ話をしては、チビシリーズを見て驚きの表情となる。たしかにチビシリーズは普通なら驚くのは間違いない。若木シティで子供たちに最近は玩具として扱われて追いかけられていたりするが、さすがにここでは驚かれるだけだ。

  

 まぁ、バーニアも使わないで、普通にふよふよ浮いているのだから、どんな技術が使われているのか興味津々になるのは当然だと思う。遥も気になるが、どうせゲーム仕様だ。深くツッコんではいけないことは理解している。


 今まで出会った生存者と同じく薄汚れた服装であるが、あまり体臭はしないところを見ると、周りの森から薪でも作って体を洗っているのだろうか。多少やせ衰えてはいるようだが、まだまだ元気そうだ。


 そしてアサルトライフルを持っている人々が見張り役なのだろうか、外を油断なく見張っていた。どうも自衛隊員には見えないがどこで手に入れたのだろうか。


 多少なりとも疑問に思うことができたが、まずは絶対にやらないといけないことがある。


「ていっ」


 かぽんと防護服のヘルメットをとって、んしょんしょと可愛らしい声で懸命に防護服を脱ごうとして座って頑張る子供のような可愛らしい美少女。


「こ、子供?」


 周りの人々がどよっと驚きの声をあげる。美少女なレキちゃんですよと、ニコリと微笑みかける遥。だってレキの笑みは最強なのだ。


「まったく悪戯好きなんだから、仕方ないお嬢様ね」


 呆れたような声音で静香も防護服を脱ぐ。おぉっと、静香を見た人々は再度驚いてしまう。


 声から女性だとは判断していたが、まさか美女と美少女だとは思わなかったみたいである。くたびれたおっさんが出てくるよりはマシであろう。その場合はがっかりした表情に皆はなるに違いない。おっさんもそう思うので簡単な推測だ。


「二人共女性じゃないか!」

「しかも美女と美少女だ」

「エージェントらしいが、あんな子供が?」

「ロリババアかもしれないぞ」


 最後の発言者には、しっかりと若いんですと言っておこうと決心するが、その前に詩音が話しかけてくる。少なくみてもレキの幼げな姿を見て驚いた筈なのに、それを表に出さずに。


「探索任務お疲れ様です。救助隊ということでよろしかったでしょうか?」


 周りに聞こえるような大きさの声量で話しかけてくるので、救助隊が来たんだよと人々に教えたいのだろう。なかなか抜け目がなさそうな少女だ。


 でわでわ、同じく抜け目がない美少女レキの出番ですねと、久しぶりの謎のエージェントをしようとワクワクと目を輝かせて口を開こうとする懲りない美少女であったが


「ムギュ」


 静香に頭を強く抑えられてしまう。なんですかと抗議の声をあげようとしたら、こっそりと小声で言われる。


「ここは私が交渉するわ、お嬢様。貴女が交渉すると混乱して、混沌として、碌でもないことになるしね」


 と、風評被害と思われる内容を提案してくる。それは間違いです、常に私は生存者のために動いているのだからして。だけれども、静香の怖そうに光る眼に黙っちゃう。美女の鋭い視線には弱いんです。おっさんの唯一の弱点かもしれない。


 たくさん弱点があるにもかかわらず、そんなことを考える遥をおいて、静香が詩音に対して返答を試みる。


「ふふっ、そうね私たちは救助隊の先遣部隊といったところかしら。すぐとは言わないけれど、ここにも救援隊がくるわ」

  

 モデル立ちをして、妖しい笑みを浮かべる女武器商人。映画などでよく見る女スパイにしか見えないが、周囲の人々はその返答に安心して、歓声をあげてお互いで話し合う。


 良かった良かったと騒然となる中で、詩音が両手をお淑やかに顔の前で合わせて、にこやかに笑みを見せてくる。可憐な表情は薄汚れた様子でも充分に可愛らしいが、残念ながらその笑みに見惚れるのは、レキたち以外の周りの人々だ。


「本当に良かったですわ。その言葉が本当なのは、貴女たちの身綺麗な様子が物語っていますもの。その姿とそこのロボットたちが、百の言葉よりも説得力がありますわ」


「それはどうも。私たちはここを拠点にして色々と活動をしたいのだけれどもよろしいかしら? もちろん宿泊料は払うわよ」


 静香もにこやかな微笑みを浮かべて答えるが、妖しさが増すだけであると遥は呆れて眺める。美女とおっさんの格差以外にも、格差ってあったんだね。


「なんだか失礼なことを考えていない? お嬢様」


 ジロリと遥を鋭い視線で見つめてくる静香。この人はエスパーかな? あ、エスパーだった。でもテレパスは持っていなかったような。


「いえいえ、静香さんはいつも美人だなぁと思っていただけです」


 ワタワタと目を泳がせて答えるので説得力はゼロであろうが、特にツッコミはいれずに詩音へと視線を戻す静香。


「いえ、助けて頂くのですから、勿論無料で、とお答えしたいのですが、私どもも物資の欠乏で苦しいので、多少なりとも物品でいただけたらと……。大変申し訳ないのですが」


 ごめんなさいと悲しそうな哀れに感じる表情で頭を下げる詩音の様子は周りの人々の同情を買うのに充分であった。庇うように周りの人々が詩音へと声をかけているのを遥は眠そうな目で見るだけであったが。


「なんというか……まだまだ子供なのに人心掌握術にたけていそうですね」


「そうね、私たちの周りでいうと木野みたいな感じね。木野よりも優位なのは、美少女というところかしら。彼女はあの歳で自分の容姿の使いかたを熟知しているわ」


 こっそりと小声で話す遥と静香。どうやら同じ考えに至ったらしい。これまでも海千山千の者たちに揉まれてきた二人である。こんな演技には騙されないのだ。おっさんの場合は揉まれていないでしょう、茶番を楽しんでいたでしょうとか言われそうだけれども。きっと気のせいである。


「それじゃ色々と質問があるし、話し合いといこうかしら。どこか休める所はあるかしら?」


「それならば三階のレストランがよろしいかと。もうレストランとしては稼働はしておりませんが」


 静香と詩音は話し合いながら、レストランというところへ案内される。いや、遥も同じように案内されているのだが、なんとなく蚊帳の外にいるみたいなので、私もなにか言わなきゃと考える。


 常に邪魔しかしないので考えない方が良いはずなのに考えてしまうゲーム少女。そうだとピコンと頭の上に壊れた豆電球が仄かに光ってしまった。


 そのまま考えの思いつくままに口にする自由なる美少女。


「怪談! そろそろ夏に入りますし、怪談はありませんか?」


 フンフンと息を吐いて興奮した様子で、アホなことを尋ねる遥なのだが詩音は驚いたことに動揺を見せずに、子供をあやす口調になる。


「はい、残念ながらこのビルは四年前に建てられた新築なので、そういった話はないのですわ」


 ありゃま、残念ですとしょぼんとする、頭を撫でて慰めてあげないとと思わせるゲーム少女。


 そして、精神年齢で詩音に負けているのは確実だ。誰に勝っているのかと言われれば、産まれたばかりの赤ん坊には勝てますよと言い張る予定の素晴らしい精神を持つゲーム少女でもある。


「ですが、現在進行形で起こっている怪異があるんです」


 多少おどろおどろしい口調に変わる詩音の言葉で、餌を前にした子猫の如く、すぐに復活してピョコンと立ち上がっちゃう。もう期待で胸がワクワクとして、話の続きを聞きたいと思うが、詩音はそのままレストランへと足を運ぶのであった。


 待って〜、その怖い怪異を教えて〜と保母さんについていく幼女みたいにてくてくとついていくゲーム少女。


「少しは抑えてね、お嬢様」


 苦笑いを浮かべて静香も続くのであった。


          ◇


 レストランは元は外の景色を一望できるようになっていたのだろう。山裾の丘っぽい高台に建設されているので、崩壊前は良いホテルだったのかもしれない。


 現在は広く大きな窓ガラスにはガムテープやら、木の板で補強されており、見る陰もない。


 テーブルは遥たちが座る席は一応拭いたのか、綺麗であるが他の卓は椅子がテーブルにのっており埃も見えた。遥たちの座る席は真ん中においてあり、周囲を人々が囲みどんな情報も聞き逃さないようにとしていた。


 正直威圧面接だよねと、内心で周囲を見ながら思うが静香は周りには人がいないように振る舞っているのを見て、遥もそうしなくちゃいけないのねと、無関心を貫くことにした。


 テーブルにつくと、なんと執事服を着込んだナイスミドルの老人が現れて、トレイに持ったコップをそれぞれに置いてくれる。


「白湯で申し訳ありません、お嬢様方。既に砂糖も欠乏しておりまして」


「執事! 執事ですよ、静香さん。私は初めて見ますよ!」


 ねぇねぇ凄いね、おねーちゃんと言いそうなアホな美少女であったが、それよりも早く詩音が口を開き、先程の話を続ける。


「既に物資は欠乏してまして……お客様へお出しするにはお恥ずかしい限りですが」


 詩音が申し訳なさそうな泣きそうな微笑みという器用な表情をすると、周りが慰めようとするが、それはもう見たんでとゲーム少女はドカンと大きな音をたてて、テーブルにどでかいトランクケースを置く。


 今まで防護服以外はなにも持ってなさそうな少女がいきなりなにかを取り出したので、どこに持っていたんだとか、なにを出したんだと戸惑う人々へと


「白湯も美味しいですが、ここはコーヒーにしましょう。私は話の途中で眠くなったら困るのでカフェオレでお願いします。あ、それはトランクケースごと差し上げるので、どうぞ」


 遥はニッコリと無邪気な笑顔で、トランクケースをどうぞと詩音に手渡しする。トランクケースは最近、叶得が作った生存者救済ケースだ。保存の利く食料から医薬品、毛布や何やらの詰め合わせで軍で探索時の標準装備とされた。もちろんゲーム少女も便利なので数百個買ってアイテムポーチへ入れてある。


「は、はぁ……。あ、ありがとうございます?」


 静香へと貰って良いのですかと、戸惑いながら視線を向ける詩音。別にいいわよと静香が手を差し出すのでありがたく頂く。


 パカンと開けたトランクケースには米から始まり、調味料や調理用野菜や燻製肉などが入っていて、息を呑む詩音。


「これで少しは大丈夫でしょうか?」


「はい! ありがたく頂きます! セバス、貰ったコーヒーを早速お出しして!」

 

「かしこまりました、お嬢様」


 丁寧に頭を下げて厨房へと向かう。急に元気になった詩音を見て、やはり餌付けは最強だねとニコニコしながら思う。


 詩音は佇まいを変えて、先程までは静香に視線を向けてばかりで、ゲーム少女にはあやすような微笑みしか向けていなかったのに、今度は平等に見始めてきた。


 どうやら、この少女は見た目と違い、秘密があると考えたのであろう。


「セバス! やはり執事はセバスですよね! 本名ですか?」


「いえ、あだ名です。執事になったのでセバスというあだ名をつけたら、本人も面白がったので。本名は高橋一郎です」


「……残念です。やっぱり本名にセバスチャンと名前をつける奇特な親はいませんか」


 チェッと、舌打ちする遥。たしかにセバスチャンなんて有名な名前をつけたら、子供は確実にグレる。それか執事になる。


「それよりもこのトランクケースのお礼から申し上げますわ」


 ゴクリとツバを飲んで詩音は真剣な表情になり


「この地域は呪われています。絶対に夜にサイレンが鳴り響いたら外に出てはいけません」


 え? どこのサイレンかな? ゲーム? と首を傾げてしまうゲーム少女であった。

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― 新着の感想 ―
未来ならロリババアと言われても仕方ないんやけどな。 ちょっと早かっただけやと思う
[一言] 誰かと思えばゾンビ客船の一族か。 まぁ、専門家なので最初から気づいてましたけどね。 えぇ、気づいてましたとも。
[一言] サイレンと言ったらあの人!
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