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コンクリートジャングルオブハザード ~ゾンビ世界で遊びましょう  作者: バッド
24章 妨害を取り除こう

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378話 霧深き森を探索するゲーム少女

 一寸先も見えないとは、このことだろう。目の前には霧が生まれており、少しの先も見ることができない。梅雨入りしているとはいえ、霧が生まれるのは朝方の寒い時期だ。しかし、今の時間は曇ってはいるが、それでも真昼である。普通の平原で一面を覆う霧などあり得ない筈であった。


 そんな場所を見ながら佇む黒髪のショートヘア、天使の輪ができて艷やかな髪、眠そうな目であるが、その瞳は宝石のような輝きで、ちっこい桜の花びらのような唇、小柄で子猫を思わせる庇護欲を喚起させる美少女。誰もが可愛らしいと思う朝倉レキだ。あにゃくにゃはなんとかというおっさんがいるらしいが放置でよいだろう。


 霧を見ながら周りを確認していくが、普通の霧ならすぐに消えるのになぁと嘆息する。


 通常ならば消えるだろうというところではあるが。


「ご主人様、過去の亡霊が漂う霧に沈む大地を開放せよ。exp70000、報酬:? が発生しました。そして、この地域のエリア概念は霧。立ち入る生命体の弱体化が起こるみたいです」


 久しぶりの探索に対して、サクヤが嬉しそうにクエストが発生したことを告げてくる。まぁ、その気持ちはわかるかも。脱線しまくって事故になる勢いで、最近は探索をしていなかったので。


 軍を中心に動いているので、あまりゲーム少女だけが進むということはしていなかったので。


 委任、優秀な将軍がたくさん手に入ったら、委任で侵攻お願いしますのスタイルなのだからして。極めておっさんらしい、他人任せのスタイルである。


 だが、今回は軍は役に立たないみたいだねと、遥は霧を見ながら思う。


「イーシャ、収容された兵士はどうかな? もう治った?」


 新たなモニターを開き尋ねると、映ったイーシャが困ったように伝えてくる。


「治癒は終わりました。精神攻撃を受けた者も、トラウマを植え付けられた者たちも治癒済みですが……。精神、身体と共に極限まで疲労しています。その為、一週間は病院暮らしですね」


「そっか〜。ドローンを使用しての偵察だけだったのに、まさか回収できなくなって、直接中に入っちゃうとはね……」


 はぁ、とため息をついちゃう遥。本日は美少女レキぼでぃで三重県を探索に来たのであった。その前に手始めとして、防衛隊に偵察を任せたのが失敗だった。いつもならば自分で探索に行くのだが、強い力を感知しなかったし、雨がシトシト降っていたのでドローンを利用しての偵察を若木防衛隊に任せたのだ。


 断じて雨だからという理由で任せたのではない。理由の9割程度でしかないのだ。


 しかし力を感知しないのは、敵が弱かったからではなくて、大規模な妨害の力が働いていた模様。三重県から和歌山を覆っていると思われる程の大規模な妨害の力であったので、大規模すぎて気づかなかったのだ。


 そうして防衛隊は映画の最初の犠牲者のようになった。回収した兵士から聞き出したところ、どうやら自分の死んだ両親とか友人が出てきて悪夢に誘うらしい。


 ドローンが行動不能になり、兵士たちは回収できないかと霧の中に入って行ったのだ。唯一の救いは完全密閉型の装甲車と共に入ったことだろうか。


 霧の中に踏み入り数十分もしないうちに、意識が朦朧となり動きを止めた外の随伴兵を見て、慌てて装甲車の搭乗員が回収して撤退したのだ。どうも霧が原因の模様。


 霧の中には無数のゾンビやらもいたので駆除しながら進んでいたと報告にはあるので、動きを止めたらそのままゾンビたちの食事へとなっていただろうことは簡単に予測できる。


 これは遥にとって、久しぶりの失敗であった。ひとつ間違えれば死者が出ていたかもしれない。慢心していた自分に対して反省をする。


 久しぶりの失敗じゃないでしょうとか、常に慢心していて自由に遊んでいるでしょうとかの意見は無しでお願いします。


 多少なりとも落ち込む遥へと、イーシャの映るモニター画面横から仙崎が顔を突き出す。


「すまない、姫様。慢心していた、ドローンを使う意味を考えれば、足を踏み入れてはならないと考えて良いところだった。想像力が欠如していた」


 申し訳なさそうに語りながら頭を下げる仙崎。今回の出来事でかなり後悔しているとわかる雰囲気だ。


「まぁ、こちらも指示に完全に従うとは考えていませんでしたし、ドローンは高価ですから、回収したいのは当たり前かもしれませんね」


 おっさんも同じことになったら、あれは高いんだよと取りに行く可能性は大。だって本当に高価なのだからして。


 簡易フィールドと敵を感知するレーダー、地形を解析する機能などなど、ドローンには多彩な機能をつけている。


 しかも探索のためというその仕様から、たくさんばら撒いているのだからして。一機で崩壊後の兵士の月給になります。それが全て回収不可だとまずいと考えてしまったのだろう。正直いうと優先順位を間違えている。命が一番大事でしょ。


「お二人のせいではありません。兵士たちは危険な戦場にいると考えて装甲車も随伴したのですから、危険度は許容範囲でしょう」


 慰めてくるイーシャに、まぁ死人が出なかったから良いかと、あっさりと気を取り直す遥。仙崎もバツの悪そうな表情で頭をかいているのが見えた。


「今後は力を広範囲で感知しなくても注意するように本部には伝えておきますね。通信終わり」


「これを機会に本部の情報部にうちの人間も……」


 なにか仙崎が言っていたがスルーである。情報部? ゲーム少女一人が強そうな場所は確認してくる零細企業なのだ。情報部なんていないのだ。誰だ、変なことを言ったのは。たしかに大樹なら存在しても良いだろうけど。


 たしかに女スパイはいるかもだけどね。今も目の前に。


「まぁ、良いでしょう。で、静香さんはなにか見えました〜?」


 少し先行して霧の中にいる静香へと可愛らしい声音で声をかける。今回は静香との探索ミッションなのだ。美味しいところしか持っていかない女スパイなので、ちゃんと働いて貰おう作戦である。


 別に元安土城の宝物庫にあった貴金属を全て持っていかれたからなんていう理由はない。ないったら、ないのだからして。少しは私も欲しかったです。


「そうね、両親が幻影として出てくるわね。私の結婚を気にしていたわ」


 てこてこと霧の中から静香が現れて、ひょいと肩をすくめるのだが、微かに眉を顰めていて、少し苛立ちが顔に表れているので珍しい。明らかに霧の影響なのだろうことは間違いない。


「それと過去の死んだであろう友人たちが、金持ちになったのだから奢れよと言ってきたわ」


「はぁ〜、あまり怖そうには見えませんね。ちょっとうざいぐらいですか?」


「そうね、この世を憎んでいるような黒い穴となって血を流している目や、内臓をぶち撒けながらうめき声を上げて引き摺るように歩いてくるぐらいだしね」


 それは本当に結婚やら飯を奢れと静香に迫っているのだろうか? なんだか少しおかしいよね? そして飄々とそのことを口にする久しぶりのハードボイルドな女武器商人だ。


「それはトラウマものですね。ですが精神攻撃は受けていない?」


「えぇ、元々私はその手の攻撃は効かないし、アベルとカインにも新装備をさせているしね」


 出てきた霧へと視線を向ける静香。その視線の先を遥も追うと霧の中から、フヨフヨと浮いている二機がやってきた。


 デフォルメされた一メートルぐらいの大きさのちびシリーズだ。重装騎士と軽装騎士の格好をしており、背中のバックパックの上にドームを積んでいた。たぶんドームが新装備なのだろう。


「静香さん、いつになったら量産型を販売するんですか? 私は今か今かと待っているのに」


 私も欲しいですと、目をキラキラさせて、少し頬を不満そうに膨らませて尋ねる可愛らしい美少女がそこにいた。


「けっ! 姐御に頼んでも無駄だぜ。分体じゃないとAI機能が作れないらしいからな」


 憎まれ口を叩く軽装騎士ちびカイン。デフォルメされているので玩具にしか見えない。


「主殿の言うとおり、我々の背負っているドームがマインドジャマーをしているはずなのだが……なぜ、主殿は過去の幻影を見るのだ?」


 不思議そうな声音で言う重装騎士のちびアベル。なるほど、背負っているドームが様々な妨害や探索装置になっているのだと理解する。


「量産型の販売は諦めたわ。それよりたしかにジャマーは働いているのに幽霊が見えるのはおかしいわね。しかもアベルもカインも幽霊を探知していないと言うから、これは私だけにしか見えない精神攻撃の類いなのは確実な筈なのに」


「ふむふむ。この霧に幻覚症状を引き起こすなにかがあるのでしょうか。たしかにダークマテリアルの力は感じるのですが」


 う〜んと、コテンと首を傾げちゃう。難しい問題だと。


「名案を思いつきましたよ、静香さん。少し待っててください」


 ポムと手をうって、ナイスアイデアを引っ張りだす。ゲーム少女がナイスアイデアと言ったときには碌でもないことは確定のはずだが、もちろんまったく自覚症状は無いので、お医者さんから末期ですねと言われるのは確実である。


「サクヤ〜。ヘルプミー」


 名案だった。間違いなく名案であった。


「仕方ありませんね〜。私しか頼りにならないなんて」


 フンスと息を吐いて、豊満な胸をぽよんと揺らしながら得意げな表情になるサクヤ。


 調べるというコマンドを持っていないと思われるゲーム少女なので仕方ない。たぶん遥のコマンド表示はバグっているのだろう。その代わりに他人に尋ねると言う怠惰なコマンドが表示されているので活用する面倒なことは嫌いなゲーム少女であった。


「この霧はナイトメアの分体ですね。なので、ここの敵は悪夢見させるナイトメアと名付けました。そして精神攻撃無効でも幻覚が見えると言う話ですが当たり前です」


「当たり前? なんで当たり前なの?」


「この霧はナイトメアの分体でもあり、人の意識に眠る罪悪感を映し出す鏡なんです。鏡を覗き込めば、なにかが映るのは当たり前ですよね?」


 サクヤのわかりやすい例えに感心しちゃう。何ということでしょうか、遂にサクヤが戦闘用サポートキャラとして目覚めたというのだろうか。


「罪悪感の塊が本人に映し出されて、心を弱くしたあとに精神攻撃をしてくるのがナイトメアの特徴ですね」


「なるほど、それならば前段階の罪悪感のみが映し出される。しかも死んだ人を映し出すようにしているというわけか」


「う〜ん、他のことは鏡には映し出しにくいですしね。ドラマチックな物語が絡む映像なんて、相手が見るのをやめればおしまいですし。やはり一瞬で精神を弱くするのには死んでいる大事な人が一番手っ取り早いんです」


 ふむふむ、それならば静香が嫌がらせを受けるだけで大丈夫なので問題ないだろう。ダイヤモンドの心を持っているので傷つくことも少ない……と思う。


 何気に遥は静香の力を信用しているのだ。心が折れたら金貨でもあげれば回復するに違いない。なんと言っても初めて正式に眷属にしたミュータントなのだから。


 貴金属を与えておけば良いよね、簡単な眷属で良かった良かったとかは思っていない。思っていないったら、思っていない。初期の眷属だから銭が好きな亀ならぬ銭ゲバだねとか思っていない。


「お嬢様? なにか失礼なことを考えていない?」


 遥の様子に不審に思った模様。静香が疑いの表情で聞いてくるので、かぶりを振って否定する。


「初期は火のトカゲが良かったなぁ、とか考えていませんよ?」


「火のトカゲ? あれは弱点ばかり敵につかれるから使えないでしょ?」


 不思議そうな表情を浮かべるが、しっかりと懐かしいゲームの話についてくる静香を見て苦笑しながら、慌ててちっこいおててをぶんぶん振って誤魔化しも含めて話を続ける。


「それは違いまして、えっと本部からの解析結果を教えてもらいました。この霧は鏡でして、見た人の死人を親しい人にするそうです。弱体化したら精神攻撃を敵が仕掛けてくるみたいですね。鏡なので精神攻撃ではないというのが、なぜ静香さんが両親や友人の亡霊を見るかという答えみたいです」


 とっ散らかった内容を話すアホな美少女である。これを理解できる人間がいるのかというと、意外なことに静香はウンウンと頷き納得する。


 ええっ、それでわかるの? わかっちゃうのと自分で話しておいて驚くゲーム少女だが、そこそこ長い付き合いなので理解してしまうアホな美少女に慣らされてしまった女武器商人である。


「霧が鏡となり罪悪感を持たせる相手を映し出す。その相手を見て弱る心に敵が精神攻撃をしてくるということね?」


「おおっ! 私の正確にして端的な話を理解するとはさすが静香さんですね。敵に聞かれないように暗号にしたんですが」


 平然と嘘をつく美少女がここにいた。


 苦笑混じりに静香は腕を胸の前で軽く組んで問いかけてくる。


「それじゃ、霧を直に覗き込まなければ大丈夫というわけね。それなら、カメラ越しに見ていけば問題ないのね?」


「そのとおりです。もぉ〜、すぐに解決策を見つけちゃうんですから。もう少し探索をしてから解決策を見つけないと」


 プンスカと頬を膨らませて、唇を尖らせるゲーム少女。自分もそういう地味な探索パートは嫌いなのに、他人にはやって欲しいと思う非道ぶりであった。


「はいはい、苦情は本部の情報部に入れるのね。私は楽なところは楽なままで行くわ」


「私も楽なままで生きたいので、そこは同意します」


「それじゃ、なにか適当な装備を作ってもらって探索ね」


 話は終わりねと静香が言うので、少し興味深いからと遥は霧へと突撃する。その姿は面白いものを見つけた子供と同じである。


「てってけてー」


 可愛らしい声をあげながら、てこてこと小さな手足を動かして、ゲーム少女は霧の中へと面白半分に入って驚く。


 本当に一寸先は闇というか、霧であったからだ。これは五里霧中と言うのだろうか。少し楽しくなってしまうので、キャッキャッと可愛らしい楽しげな声をあげる。


「おぉ〜。山小屋に泊まった時の朝もこんな感じでした。本当に霧で少し先も見えないなんてあるのかと感心したものですが、ここはそれ以上ですね」


 幻想的な風景というのは、いつ見ても良いものだと感動する。崩壊前でも、こんな風景はあったんだけど。その時は山頂で霧の向こう側は切り立った崖であるという二重に怖い場所であったけど。


 霧と普通の平原の境界にいるからだろう。ゾンビの姿もなにも見えなかったので、わ〜いと両手を掲げて霧の中へと突撃を繰り返して、わぷっ、この感覚はなにか良いよねとしばらく楽しむ。


 実に子供らしい姿を見せる美少女なので、カメラドローンも動きを激しくして撮影していた。


「お嬢様〜? そろそろ帰るわよ。一旦この霧の中へと入れる装備を整えないとだしね」


「は〜い。今戻りま〜す」


 はぁふぅ、と楽しげに息をきらす振りまでしながら戻ってくるのを静香は困ったお嬢様ねと迎えながら、話しかけてくる。


「楽しんだみたいね。そんなに霧は楽しかったのかしら?」


「霧は非日常の中ではもっとも身近なものですからね。年甲斐もなくはしゃいじゃいました」


 テヘッと舌をちろっと出して悪戯そうに微笑むゲーム少女。実に詐欺師な遥だ。


「年相応に見えた気がするわ。ほら、戻るわよ」


 呆れた様子で肩をすくめる静香はクルリと振り返り、来た道を戻る。は〜いと遥は無邪気に答えてついていく。


「……お嬢様はなにが見えたのかしら?」


 歩く途中で静香が多少の興味を持って尋ねてくるが


「特になにも。私はあらゆる状態異常を防ぐ力を持っているんですよ」


「……そう。それなら良いわ」


 そのまま歩き続ける静香。ちらりと遥は後ろにある霧へと視線を向ける。


「なにも見えませんでしたね、なにも」


 呟くように囁いてゲーム少女も一旦帰還をするのであった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 遥が能天気すぎて見えてないのでは?
[一言] 何も無い(意味深
[一言] 遥がレキを通して見てるから直視してない扱いか?
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