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コンクリートジャングルオブハザード ~ゾンビ世界で遊びましょう  作者: バッド
22章 冒険少女になろう

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377話 超能力少女対狂気なる博士

 風を切るとはこういった駆け足のことを言うのだろうか。小柄なひ弱そうな少女が同じぐらいの大きさの身体をもつ少女をお姫様だっこをしながら道路を駆け抜けていく。


 あり得ないその速さに道路を歩いていた人々は驚き足を止める。少女ではあり得ないその速度を見て、瞠目してお互いの顔を見合わせて、なにが起こったのか注意を払うのだ。


 人間離れした身体能力を持つ者がいるのは大樹本部では当たり前である。だが、その身体能力を使って動くことは危険なことだと一応禁じられているのであるからして。


 なのに、自分たちが知らない人間が駆け抜けていくのを見て、何事かが起こったと判断したのである。


「なにか面白いことが起きているみたいでつ」

「今日のアタチたちは歩くだけの役のはずでつが」

「なにか面白いことが起こっているみたいでつ。アタチたちも参加するでつよ」

「変身はもう明日にならないとできないでつね」


 駆け抜けていくリィズの耳には聞き取れない距離でワイワイと話し合う人々を尻目に小さな森林へと入って行くのであった。


          ◇


 てってけと雑草を蹴散らしながら、小石をひょいと躱して走るリィズに千冬はお姫様だっこをされてゆらゆらと身体を揺らされながら、少し焦って問いかける。情報では普通の娘だと聞いていたのに、全然普通ではないのでさすがにおかしいと。


「あの、そろそろ降ろして貰っても大丈夫です。私も走りますから」 

 

 リィズはその声を聞いて、立ち止まる。ぶらりと金色のおさげが揺れる中で千冬に対して頷きながら降ろす。


「ん、わかった。それじゃここからは気をつけて歩いていく」

  

「ふへぇ、ありがとうございました。凄いんですね、リィズさん」


「リィズで良い。リィズも千冬と呼ぶ。良い?」


 見惚れるような可愛らしい笑顔でこちらを見てくるリィズに千冬はコクリと頷き思う。やはりパパさんと血が繋がっているのではないのだろうかと。少女モードの雰囲気がそっくりである。特に可愛らしさとか、アホっぽいところとか。


 地味におっさんに対して酷いことを考える千冬。正しい認識だが。


 リィズはリィズでこの少女に思うところがあったので、ジッと見つめる。


「あの、なにか?」


 見つめられていることに気づき、小首を傾げて不思議そうな表情を浮かべる千冬。不思議そうなというか、気づかれたかな? 気づかないほうがおかしいと思うのでつが。


「ん、なんでもない。それより急ぐ。追手が来た」

  

 道路を挟んで赤信号を待っている黒服たちが木と木の間から、垣間見えるので、真剣な表情になる。礼儀正しい人たちぽいが、先程の構えは堂が入っていたので。


 すぐに振り返りながら、千冬を促して旧通信設備へと歩き出す。ガサガサと雑草を踏み分けながら、邪魔な小枝を払い除けて千冬に事情を聞くことにする。なんだか超能力者とか言っていたし、リィズの仲間なのかしらんと。


「千冬はなんであの黒服に追われている? どこの組織の者?」


 組織の者というのは決定だ。黒服でガタイの良い男たちは悪の組織で決定だ。リィズの法則ではそうなっているからして。


 リィズを窺うよう恐る恐る話す千冬。生えすぎた小枝を屈んで避けながら、事情をぽつりぽつりと話し始める。

 

「私、超能力者候補生なんです……。人類の未来を変えることができるって言われて候補生になりました……。でも……あんまり私は素質がなかったみたいで、段々と訓練が過酷になってきて逃げ出したんです」


 ワッと顔を手で覆い、悲劇のヒロイン的な嘆き方をする千冬。


「訓練がキツイのは当たり前。候補生になったら頑張るべき」


 リィズはなんで訓練が過酷になったから逃げ出したんだろうと不思議そうな返答をする。それは千冬にとっては想像の埒外だった。


「でもマラソン20キロを毎日とか、スクワットとか訓練メニューが凄いんです!」


「リィズもそれぐらいしてるけど?」


 それがなにか? と心底不思議そうな表情になる。この娘は何を言っているのだろう? 戦いに赴くためには訓練は必要なのに。


 リィズの返事に言葉が詰まる千冬。パパさんとは違うところがあるみたいだ。そこでハッと気づく。先程の動きは訓練されたものだったと。努力という言葉が嫌いなパパさんの姉らしくないと。


「えと……リィズも強くなるために修行をしているんですか?」


「もちろん。超能力の練習から、体術を鍛えてスタミナをつけるために走り込む。機械を操れるように叶得のところに綾と一緒に勉強をしにいってるし。それとおでん屋もしてる。高校は推薦が決定した」


「はぁ〜、それは凄いですね。……えと、それに加えておやつタイムがいつも梅昆布なんです。私は嫌いなのにっ」


 こりゃ駄目だと予想以上の努力家であったリィズに感心して、説得を諦めて最後に冗談を言う。もうこれは終わりだと思って。

 

 そうしたら顔を覆う手を掴んできて、ぎゅうと握ってくるリィズ。


「それは脱走しても仕方ない。リィズも甘味がなくなったら力を喪うと思うし」

 

 ウンウンと頷くリィズを前に、やはりパパさんの姉であったかと、再度認識を改めてしまう千冬であった。


          ◇

 

 しばらく歩くと旧通信設備が前に現れた。古い建物なのだろう、錆びついたシャッターに窓ガラスは木板で塞がれている。コンクリートの壁には雨跡が所々に残っており汚れていた。


 立て札が地面に刺されており、関係者以外立入禁止と書いてある。いかにもな感じの場所であった。


「こっちです、こっち」


 てこてこと千冬は迷いもせずにドアの前に行くと、ドアノブに手をかける。だが、グイグイと回しても鍵がかかっているようで開くことはない。まぁ、廃墟なら当たり前だろう。


「えっと、どこかに入れるところがあれば良いんですが」


 リィズは千冬の様子を見ながら、ドアノブを見る。古いタイプのドアノブだ。それでもちゃちゃっと開けるような技術はリィズにはないけど。


 それにその必要もない。


「待って、すぐ開ける」   


 ドアノブを掴み、自らの力を入れ少しだけ流すように集中する。振動でドアノブが震えて、中の鍵がクルリと回転する音が微かに聞こえた。


「まさか……超能力!」


 その様子に今度こそ千冬は驚きの表情を浮かべた。今のは超能力だ。話には聞いていたが、現実を曲げるほどの力はないと聞いていたのに。


 ムフンと頬を得意気に紅膨させて胸をはって答える。


「リィズは超能力を一番練習した。最近はメキメキと腕が上がっている。いつか妹と一緒にいれるように」


 その言葉に真剣味を感じて、見直す千冬。どうやらただの人間ではなさそうだと。


「それじゃ入りましょうか。この奥に通信機はあります」


 てこてこと先導して中に入っていく千冬。


 リィズもそれを追いながら中を確認していく。何もないガランとした部屋だ。広々とした部屋で天井はプレハブだったのか穴が空いて光が差し込んでいる。なにかの倉庫のようでもあり……。そこで嘆息して思う。やはり予測していた通りのようだと。


 てこてこと、なぜか広々とした部屋の真ん中に進む千冬。

 

 あとから続くリィズを見て悲しげに口を開く。


「えっと、すいません。実はですね……」


 バッと手を突き出して、千冬の言葉を止めるリィズ。何を言おうとしているのか見当はついている。


「リィズを騙していた。そうでしょ?」


 その言葉にギクリと身体を震わす千冬。さすがに気づかれていたかと。まぁ、バレバレな感じもしていたし。仕方ないなぁと謝ろうとしていた千冬へとさらにリィズは告げる。


「天然超能力者の私を捕まえるために近づいた。全ては陰謀だった」


 リィズは全てを見抜いていた。初めて通路の角から現れたときにもわざとらしかった。まるで、リィズを捕まえる勢いの体当たりであった。


 黒服たちも捕まえると言いながら、リィズの反応を気にしていた。まるで逃げられたら困るというように。千冬を見ている黒服はいなかった。


 そして誰もいない人里離れた建物への誘導がトドメだ。


「廃墟の筈なのにガラス片も、ゴミも何もない。それに廃墟の通信機が稼働している筈がない。マテリアル製品でなければ通信機はつかえないのだから。微小なライトマテリアルで通信機を作ったけど、数メートル範囲のごくごく短波でしか通信できなかった。昔の通信機なんか稼働していても動くことはない」


 それは即ち謎の組織がリィズを捕まえようとしている陰謀だと看破していたのだ。


「リィズの目は節穴ではない」


 朗々と全てを見抜いていたと得意気に話すリィズを前に、千冬は寒波が来たよと冷や汗をかいた。まったく見抜いていないし、節穴どころか節穴が空く壁すらないと思われる。


 でも、たしかに辻褄は不思議にも合っていると思われる。理由付けすれば大体は辻褄って合うんだと新しい発見をした千冬がそこにいた。


 最初に謝らなくて良かった。この先はまだ準備中なので、少しだけお待ちくださいと伝える予定であったのだからして。


 次の展開を変更するのかしらんと、モニターを注視する千冬。


 フンフンと鼻息荒く、全ては見抜いていたのですと得意げな迷探偵リィズ。

 

「そのとおりじゃっ! よく見抜いたな、天然超能力者よ!」


 そんな二人が佇む中で、老人の嗄れた声が響き渡った。


           ◇


 薄暗い部屋の片隅から、老人が姿を現す。ニヤリと悪そうな笑みを浮かべて、狂気を目に宿して。


 暗がりから出てきて、ボロボロの天井から射し込む光が老人と後ろに続く黒服たちを照らし出す。


「誰?」


 その答えはなんとなく理解できるが、一応確かめておく。


「儂か? 聞いて驚け! 儂はそこの量産型超能力者の生みの親! 超能力の権威、クーヤ博士とは儂のことよ! そこの量産型は候補生であったか」


 フハハハと高笑いするその様子にデジャヴを感じる。否、思い出す。記憶にある自分の父親を。

  

 この男は父親とそっくりであった。超能力を信じて、その力を解明することに自身の全てを懸けている。そうして自分が歴史に残る偉大な人物になると信じているのだ。

  

 悲しい思い出を記憶から久しぶりに浮かび上がらせてため息を吐く。


「天然超能力者、無上リィズよ! 貴様の名前は知っている。信じられないことに施術なしで、事象を置換させるほどの超能力を使う者。儂の元へ来い! 貴様の力を増幅してみせよう」


 両手を掲げて悪魔的な高笑いをするクーヤ博士へと、真剣な表情で哀しみを含めて答える。


「貴方みたいのを知っていた。超能力に全てを懸けていた。そして超能力を自分の権威の箔付に考えていた愚か者」


 首を横に振りながら、半身になり身構えて


「今のリィズは荒須リィズ。無上ではないし」


 拳を構えて、クーヤ博士へと冷たい視線を向ける。


「レキの姉だから、そんな話には乗れない。そして、そんなことを言う人は痛い目にあってもらう」


 そこにはまるでレキのような少女が立っていた。雰囲気が似ていた。力は比べ物にならないだろうが、それでも戦士の空気を漂わせていた。


 クーヤ博士は一瞬優しい目を宿すが、直に狂気なる目つきへと変わって忌々しそうに叫ぶ。


「この本部では量産型は使えないが、それでも手駒はあるのだ! この少女を捕まえろ!」


「はっ!」


 後ろに立っていた五人の黒服たちは、その言葉を合図に突っ込んでくる。連携がとれるように、それぞれがバラバラに囲むように肉迫してくるが、リィズは冷静に黒服たちの動きを確認してから大きく踏み出す。


 最初の一人が、想定外に突撃してきたリィズの動きに戸惑いを見せて体勢を崩すのをリィズは見逃さない。組み手にて何度もやっていることを繰り返すだけだ。


 シュッと風を巻くような音と共に胴体へと鋭い突きを入れようとする。だが、鍛えられているのだろう。すぐにガードをするために腕を掲げる黒服へと突き出す拳を開いて、その腕を振るい掴む。子供の体格なので、下から掴むようにして、ダンッと右足を踏み込み、掴んでいる手を開いて押し付けるようにする。


「うぐっ!」


 手のひらから振動波が流れ出て、黒服の身体を駆け巡ると、その衝撃で力が抜けたように倒れ伏してしまう。


 次の黒服たちへと、踏み込んだ右足に力を込めて身体を前傾に押し出すようにする。右足から巡る空気は振動して小爆発を起こす。


 その勢いで人外の速度で踏み込むリィズ。男たちの間を通り抜けながら、さらに身体を沈み込ませて、くるくると回転し掌底を次々にお腹へと入れていく。


 己の立ち位置がわからぬほどに、身体が揺れて次々と男たちが力を抜かれたようにドサリドサリと二人倒れる。


「くっ! このっ!」


 あっという間に三人がやられるという想定外の流れを見て、一般人どころかベテラン兵よりも鋭い動き、躊躇いをみせずに攻撃するその様子から、かなり鍛えられており、しかも超能力で身体能力が底上げされていると理解する黒服たち。


 ちらりとアイコンタクトをとり、両側から攻撃する。いかに人外の力になっていても、まだ連携した兵士ならば倒せると考えたのだ。


「でやぁっ!」


 だが、横から千冬が飛び出してきて、片側の黒服へと体当たりをする。


「なっ! 良い役をっ!」


 裏切っていたのに、最後に味方をするという羨ましい役をする千冬に思わず愚痴る掴まれた黒服。


 その一瞬の間にリィズは拳を突き出してきた黒服へと、その突き出してきた腕を擦るように自分の腕で合わせる。


 擦られた腕は実際には擦られていなかった。リィズの腕のまわりに振動波が覆っており、痺れたように身体が震える。


「シッ!」


 その場でジャンプして、クルリと回転蹴りを見事に叩き込むリィズであった。


「くそっ! 離せっ! 離せよこいつ!」


 最後の一人となった黒服が焦りを見せて、千冬を離そうと身体を掴む腕に力を込めるが、既に遅かった。


「ふぉぉぉぉ!」


 ふわりと三度飛翔したリィズの飛び蹴りを顔に受けて、仰け反るように吹き飛ばされて気絶するのであった。


「これでもう貴方一人」


 キッ、と視線を向けて告げる。


 あっという間に黑服たちを倒したリィズを見て、後ずさり恐れ慄くクーヤ博士。


「こんなことが……あり得ない。信じられない。なんの施術も受けていない人間がこれ程とはっ! どうだね、リィズ君。良かったら儂の元にこんか? きっと強くなれる! レキなどよりも遥かに!」


「断る。それしか選択肢はない」


 間を空けずにきっぱりと答える。


「リィズは自分の力だけで強くなる。それか妹からのプレゼントで」

  

 結構ちゃっかり者のリィズであった。


「……そうか。それならば、無理矢理に連れて行く!」


 クーヤ博士は懐から老人には似合わぬ速度で射出型スタンガンを取り出して、引き金を弾く。


 リィズはこの動きを予測していた。小物に相応しい足掻きをするだろうと既に右手に力を込めていたのだ。


『振動波!』


 リィズのちっこいおててから超常の力が生み出される。空間が振動して波となりスタンガンをその威力で弾き返して、クーヤ博士まで命中する。超常の振動波で軽く身体が震えて力が抜ける。


「ぐうっ! これ程とはっ! だがまだだ、まだ終わらんよっ! 儂の夢のために」


 再び懐へと手を入れるクーヤ博士。


「貴方の夢は子供を糧にしないと辿り着けないのですか?」


 クーヤ博士の後ろから冷たい声がかかり、ギクリと身体を硬直させて振り向くと


「残念ながら人間としても、元警官としても見過ごせませんね!」


 いつの間にか後ろに立っていたナナのパンチがクーヤ博士に突き刺さり、吹き飛ばされるのであった。


          ◇


 大勢の私服警備隊が黒服やらクーヤ博士を捕まえて連行していく。なぜか普通のおばちゃんとかの姿だが私服で警備していたらしい。


「キリキリ歩くでつ」

「この話を黙っていまちたね」

「クーヤ博士はぐるぐる巻きの刑でつ」


 私服警備隊の話す声は聞こえないが、クーヤ博士たちが苦々しい表情で連行されていくのを見て、腕を組んでナナは安堵の息を吐く。


「もぉ〜。リィズが来ているってホテルマンから聞いて急いで探しに来たんだからね! 危ないことをしたでしょ!」


「ん、正義のためだから仕方ない」


 悪びれる様子もなく答えるリィズに、頭をポンポンと叩いて苦笑混じりに怒るナナ。


「リィズ、私が騙していたの許してくれる?」


 そこへオズオズと千冬が近づいてきて尋ねてくるが もちろん大きく頷く。


「当たり前。今度は一緒に遊ぶ」


「ありがとう、リィズ!」


 リィズを嬉しそうに抱きしめる様子を見て嘆息するナナ。これでは怒るに怒れない。


「まぁ、クーヤ博士を捕まえることができたからいっか」


「ん。悪は滅びる運命」


 千冬に抱きしめられながら得意そうに言うリィズ。


 こうしてリィズの最初の冒険は幕を閉じたのであった。

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― 新着の感想 ―
[一言] クーヤ博士の声が高梁碧ボイスで脳内再生されていく
[一言] かっこいいですわー!
[良い点] 更新ありがとうございます。 次も楽しみにしています。 [一言] 当初の台本が気になるでし
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