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コンクリートジャングルオブハザード ~ゾンビ世界で遊びましょう  作者: バッド
22章 冒険少女になろう

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364話 ゲーム少女は結界を調べる

 普通の田舎道、既に人の手が入らなくなって久しく田んぼはその姿をただの雑草が繁茂する空き地へと変えて、手を入れられることのなくなった森林は鬱蒼と無秩序に広がっている。


 そんな崩壊した世界にはありがちな風景に、いつもとは違う光景が目の前にはある。


 眼前にはキラキラと輝く白い神秘的な壁が広がっていた。ドーム状にこの壁は広がっているらしいがレキが周りを確認するに、地平線の彼方まで続いており、愛くるしい顔で空を見上げれば高く大気圏をも超えていそうな感じがする。


 そんな壁を見ながら、キリリとレキかもしれない美少女は後ろを振り向いて苦言を呈した。


「静香さん、シリアスな雰囲気にしたいので、高笑いをしながらお城を掘り起こすのやめてもらえませんか? まったくシリアスな雰囲気にならないので」


「ふふっ、仕方ないわ。こんな大きなお城だもの、宝物庫に何が眠っているか期待するだけで高笑いになってしまうのよ、お嬢様」


 フンフンと鼻息荒くシャベルを持って、地下空洞を埋めるように崩れて大地に沈んでいる巨大であった城の残骸へ期待の目を向ける静香。


 元魔王城、落盤事故でもあったのか地下空洞に沈んでしまい、敵のボス、推定信長はトラックにはねられたのか、レキと会わずに死んでいった。有名どころなのに消えていった悲しきキャラであるが、それは放置して問題は沈んだ城である。


 絶対に宝物庫があるわよ、金銀財宝間違いなしねと静香が出張ってきて配下のチビシリーズたちと城を掘っていた。驚いたことに重機よりも早い速度で掘っていく人外武器商人。


 えっほえっほといつもの妖艶な美女のイメージをかなぐり捨てて、ねじり鉢巻を頭にして、工場のおっさんが着るようなシャツにボンタンズボンを履いていた。どうやら社会的イメージよりも、金銀財宝の方が重要な模様。即ちいつもどおりの財宝を前にしたポンコツ静香である。


「アベル、カイン! 絶対に私たちが宝物庫を発見するのよ! あそこの重機は邪魔だから故障してもらいなさい!」


 なんだろう、静香の行動がダークミュータント時代と全然変わらないけど……。あと地味に宝物庫を掘りそうだからとライバル視して重機を破壊しようとしないでください。周りの作業員が困った表情を浮かべているでしょ。


 まぁ、仕方ないか。目にせぬ財宝を前に頑張る静香は放置して、白い壁の方に話題を戻す。シリアスな雰囲気は諦めました。


「んで、この白い壁はなぁに? たしかに硬そうだけど」


 レキの可能性が微粒子ほどはあるかもしれない美少女が後ろにいるサクヤへと尋ねる。なんだか凄そうな壁であるけれど。


「そうですね、見る限りには以前砂漠のオアシスとなっていた元皇居と同じですが……それよりも遥かに強力な物です。古代から脈々と続く聖域の概念が結界と化していると思われます。さすが京都、古都と呼ばれる地域なだけはありますね」


 周りの目があるからか、ふざけた様子は見せずにできる美女として語るサクヤ。たぶん自分で作ったイメージを保護するつもりなのだ。たしかクーヤ博士の娘にしてレキを作った天才科学者とかそんな感じのキャラだったはず。


 まだ、詳しい設定を噂としては流していないので、事前の仕込みなのだろう。あと、コマンドー婆ちゃんたちには会わないように気をつけてね。喧嘩はゴメンだよ。


 そんなメイド服を着込んで、天才には見えないはずのサクヤは解析した内容を教えてくれるが、身内しかいないときに、サクヤアイ発動! とか目に穴を覗くような形に手を変えてあてて叫んで、子供のごっこ遊びを楽しんでいた。裏設定を知るとイベントが楽しめない典型的な例である。


「でも聖域かぁ、それじゃ今頃はローマとかもそうなっているのかな」


「う〜ん、恐らくは地球のいくつかの地域はそうなっているでしょう。でもそういう神聖視されてなおかつ歴史的な地域って意外とないんですよね。あんまり人間が知らない場所だと、神聖視されていても概念のエネルギーは貯まりませんし結界は張れないでしょう」


 なるほどね〜、と感心しながら白い壁をつんつんとつつく。硬い感触が指に返ってきてビクともしない感じをレキに与えた。レキにしておきたい今日この頃です。


「なんか硬い壁だね。効果はわかる?」


 サクヤはレキの問いかけに顎に手をあてて難しい表情で、パチリと指を鳴らすと空間が僅かに変容した感触がした。


「地獄耳なあの武器商人に聞かれないように偽装をかけました。これで私たちの会話は普通の会話に聞こえるはずです」


 なんと鮮やかな技である。かっこいい、いつの間にサクヤはこんなにかっこいいサポートキャラになったのかな?


「今頃は静香の耳には夕飯は何にするかという会話に聞こえているでしょう」


 かっこよくなかった。雑すぎる技である。なぜに結界の話から夕飯の話へと変わるのか。……でも、私たちなら夕飯の話へと変わっていても誰も不思議に思わないかも……。


 サクヤはもはやレキと言うにはきついかもしれないアホな美少女へと気にせず珍しく真面目な表情で真剣な声音で語る。


「これは善なる者しか出入りできない厄介な結界ですね。しかも特殊でかなりの強度です」


「なんだ、善なる者なら私は大丈夫だね。ちょっと中を覗いて見るよ」


 そう答えて自信満々にてこてこと壁に向かい、当然のように頭をゴチンとぶつけた。


「あいたっ! え、なんで? 善なる美少女レキちゃんがなんで入れないの?」


 先程指でつついて硬い感触だとわかっていたのに無防備で突撃した遥であった。やっぱりレキと呼ぶにはきつすぎるアホさなので遥に名称が戻るのは仕方ない。


 アイタタと可愛らしいおでこをちっこいおててで擦りつつ、話と違うじゃんと非難の視線をサクヤへと向ける。


「ご主人様、最後まで話を聞いてください。まだ話には続きがあるんです」


 やれやれと肩をすくめるサクヤだが、遥はそのポーズには騙されない。


「私が突撃するのを黙って見ていたよね? なんで口元がニマニマとしていて、カメラドローンが間抜けなシーンを撮影しているの?」


「バレましたか。仕方ないんです、ご主人様の可愛らしいアクションは全部撮影しないといけない義務が私にはあるので」


 フンスと息を吐いて、ドヤ顔で答える末期的ストーカーメイドがここにいた。そろそろ事案にしてもよいのではなかろうか。


「まぁ、その話はおいておいて」


「仕方ないなぁ、おいておいて?」


「この結界はライトロウ、即ち善にして秩序を守るものではないと出入り不可ですね」


 サクヤが真面目な表情で結界の属性を告げてくるが、その言葉にコテンと首を傾げる遥。


「え? それなら私はライトロウじゃないの? こんなに可愛らしい美少女レキちゃんだよ?」


 ほらほらとくるくるとスカートを翻して回転する美少女。もちろん愛くるしい笑顔を浮かべながら。


 グハァッ、とサクヤがその可愛らしい姿に鼻を抑えて後退る。カメラドローンが忙しく周りを飛び交う。


 それでもなんとか気を取り直したのか、サクヤは首を横に振って教えてくる。


「ご主人様は極めて善寄りの中立ですね。ちなみに私は善の混沌です、ナインも善の混沌ですね」


「ライトカオスってやつか、んで、私はニュートラルニュートラルって訳ね。なるほど、中立が大好きだからそこは問題ないけれど」


 女神な転生のゲームでも中立大好きなおっさんだったので、そこは問題はない。むしろ嬉しいぐらいだ。常に中立で最初はクリアしようとしていたぐらいなので。


 あと、サクヤは自己申告で嘘をついている感じがする。サクヤが善なのだとはとても思えないので。悪いけれどナインも怪しい。まぁ、別に良いけどさ。


「でもそれなら誰が通れるの? ナナさんとか?」


 あの主人公なら出入りできるんだろうなぁと、確認すると驚いたことにサクヤは首を横に振り苦笑混じりに否定してきた。


「いえ、ライトロウは肉を持った生命体では存在できません。いるとしたら産まれたての赤ん坊ぐらいでしょう。なにせ条件が今まで生まれてから一度も嘘をついたことはない、生命を不必要に傷つけたことはない、困った者を必ず助けて、悪は命をかけて滅するという感じですので」


「マジですか? もしかして生命って植物も入る?」


「もちろんです、食べることもまた悪なのです。ようは麒麟のように草花も踏まずに入れる者、それか最初からそういう概念で産まれてきたものですね。即ち肉をもった生命体では絶対に不可能な属性なんです」


 うへぇ、とその条件の厳しさにウンザリする。それでは世界一可愛らしいレキでも不可能な属性だ。たしかに神などの概念でしか、そんなのは存在できないだろう。


「ちなみにそのような概念が肉をもったら大変なことになりますよ。きっと人間を含めて全てを滅ぼそうとするでしょう。死骸と日光を栄養とできる植物以外は全て彼らの敵となります。そしてライトロウで産まれた者はその属性のままに、命尽きるまで殺し続けるでしょうね。なので肉をもっても、すぐに力尽きて消えていく運命でもあります」


 淡々と言葉を紡ぐサクヤに嘘は感じなかった。からかわれている雰囲気ではない。人間は食べることを業と呼ぶが、そんなのは言い訳でライトロウの神様は許さないということらしい。


 もしも人間が苦労してそんな存在を呼び出したら、呼び出された存在が最初にすることは目の前にいる人間を断罪、即ち殺すことになるのだろう。


 ん? とそこでコテンと首を可愛らしく傾げて疑問を思う。


「それじゃこの結界は出入り可能な人間はいないよね? 中の人は閉じ込められている感じ?」


「そうですね、感じたところどうやら京都府から奈良県までがこの聖域に囲まれています。人間もなにもかもこの結界に閉じ込められているでしょう」


「う〜ん……、サクヤさんや? 中にダークミュータントはいるのかな?」


 その言葉に驚きを見せる遥。京都府から奈良県までが囲まれている? その場合はほとんど縦断するように聖域があるはずだ。そして中の様子はどうなっているのかな?


「この結界が具現化したのは崩壊後、……そうですね3ヶ月から半年といったところでしょう。その間ゾンビは出まくったはずです。ただ、さすがに聖域結界なので中の発生したばかりのダークミュータントの強化エネルギーである弱いダークマテリアルは浄化されているはずです。なので進化していてもランナーゾンビやグール、最強でオスクネーぐらいがいるぐらいでしょうか」


「全然安心できない情報をありがとう。田畑を巻き込んでの聖域結界……ゾンビだらけの地域と化しているのなら、崩壊初期のゾンビワールドが未だに続いているということかぁ」


 それならばなんとか人間たちは生き残っているのだろう。そしてこの結界は西に向かうにも邪魔すぎる。結界を無視すると三重県から和歌山へとぐるりと南へと迂回して行かなければならないからだ。


「それなら、私の結界破りの超能力で破壊できるかな?」


 超能力と言いながら、シャドーボクシングを始める遥。脳筋極まりないのでパンチで破壊するつもりなのだ。


「たぶん完全に体調が戻ればご主人様なら破壊できますよ。でも京都の中心には何かしらの力の結晶があるかもしれません、それを結界を破壊した途端に取られてしまう可能性がありますが」


「あぁ〜、そういうのアニメやゲームでよくあるよね。主人公が苦労して扉を開けたら、扉を開けてくれてありがとうとかラスボスが現れて先に扉をくぐっちゃうとか」


 先日出会った厨二病患者なら確実にそんなことをしそうだ。そして私はなにが力の結晶かわからないから盗まれるままであろう。そういうレアなアイテムは私が欲しい。コレクターとして、とても欲しいのだ。


 正義のためではなく、コレクター魂のためにレアなアイテムを回収したいと考えるゲーム少女である。そういったところが善になれない原因であることは間違いない。


 う〜ん、と紅葉のようなちっこいおててで頭を抱えて悩む遥。何かしらの方法が必要だ。ナインエモン助けて〜。


 自分では考えられないので、優しいサポートキャラに助けを求める遥である。


「そうですね……。あのスティーブンとかいう敵は力で破ろうとしていましたが、私ならば一時的にライトロウ属性に偽装させて中に入ることを推奨します。中の力の結晶? あればの話ですが、それを回収したら結界を破壊すれば良いと思います」


 モニター越しに、遥の助けを求める心を感じ取ったどこまでも尽くす金髪ツインテールメイドがにこやかに解決方法を教えてくれる。さすがナインだと、感心してしまう。


 情報を集めないで、いきなり全てを解決に持っていく、いつもの三人組である。


「うまくいかなかったら、結界を作る者を受肉させて従えましょう。たぶん有名な四神、青龍、玄武、白虎、朱雀ですよ」


「おぉ、なんだかワクワクする名前だね。でも説得は厳しいかも。なにしろライトロウだと、同じライト、最低でも善属性じゃないと話も聞いてくれないしね」


 女神な転生ではそうでしたと、ゲームを基準に考える遥である。


 ライト属性だと言っていたのに、メイドズはサッと目を背ける。どうやらライトではない模様。


 慌てるようにサクヤが言い募る。


「違うんです、ご主人様。カオス属性は善悪関係なしにロウ属性とは話ができないんです。したくありませんし」


「たしかに正反対の属性じゃ駄目かぁ、そういうことにしておくよ」


 ウンウンと頷きサクヤの言葉に納得することにして、それなら四神は仲間にできないかぁと残念がるゲーム少女。


 本当に納得しましたかという銀髪メイドの疑うような顔色は無視して、それなら選択肢は一つだけだ。


「ナイン、悪いけど偽装アイテムを作成してね。それを使って潜入するよ」


「わかりました、マスター。ただこの偽装アイテムは作成に時間がかかります。その間は三重県から和歌山県を攻略するか、今一度若木シティの復興を眺めるのも良いかもしれませんね」


「なんともゲーム的選択肢だね。選んだルートで何かしら変わるのかしらん」


 ゲームだとシティは新武器、地域攻略だと新たなる仲間とかなんだけど、現実なのでそうはうまくいかないだろう。


「ヒャッハー! 宝物庫らしきドアがあるわ! 歪んでいるけれど、アベル、カイン、あのドアをぶち破りなさい!」


 静香が豪華な装飾の歪んだ扉を見つけて騒いでいるのを横目でちらりと見て嘆息する遥。


「仕方ないなぁ、もう梅雨に入るし若木シティ探索にしておこうかな。雨だと外に出たくないしね」


 雨は嫌いなんだよ、大人になってからは雪もあんまり好きではなくなった。


 だが枷の外れた今ならばもう少しは雨も好きになれそうだ。


「良し。一旦は三重県は偵察で。私はあちこちを視察するよ」


 散歩の間違いではないのだろうかとは、誰もツッコミを入れずに、とりあえず帰還するゲーム少女であった。


          ◇


「あ、私は焼肉屋に一票よ」


「なんの話ですか、静香さん?」


「夕飯の話をしていたでしょう? 良いお店を知っているわよ」


「……そうですね、今日は私の奢りで行きましょうか」

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― 新着の感想 ―
[良い点] ラストの様子からするとちょくちょく静香さん(他多数)とご飯に行ってそうね
[一言] 最近忙しくて全然読んでなかったけどなんか急に尻ASSな展開になったね NNやと神じゃなくて魔人では?
[一言] 今夜は焼き肉だ! というか、焼肉屋普通にあるんだなーと今更思った。
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