362話 冒険活劇ヒロインなゲーム少女
がたんごとーんと、トロッコはその速度を増しながら突き進んでいく。追撃するモグーたちはオケラに牽引されているので、その速度にはどうしても限界がある。懸命にブラスターを撃ちながら追いかけてくるが、レキたちとの距離はどんどん広がっていくのであった。
近くにいたモグーは撃ち倒されて、線路から外れてどんどん落ちていき、次第に敵の数は少なくなっていった。
後ろを見ながらレキは敵がどんどん遠ざかるのを見て、手に持つ銃の構えを解く。これ以上は今のステータスとスキルレベルでは命中しても効果がないと判断したからだ。
おっさんならば効果がでなくても、クリアしちゃったよ、ウハハハと銃を無駄に撃ちまくるだろう。ゲームではクリア後に無駄撃ちするのが好きだったので。
まぁ。レキだったので問題はない。これ以降も永遠におっさんの出番はない方が良いと思うのだがどうだろう。
「ボス、前方を見てくれっ!」
風に煽られながらアインがレキへと焦ったような声音で声をかける。焦ったようなというのは、声音の中に楽しんでワクワクとしている感じも見せていたからだ。
見ると線路がずっと続いていると思っていたのに、モグーたちがえっちらおっちらと線路が敷設されている橋を破壊していた。
「モグー!」
「モモグー!」
「モモングー!」
モグラの持つ強力な爪を振り下ろして、ザッシャザッシャと橋は削られており、ところどころで線路が消えている。どうやら戦いでは負けそうなので搦手できたのだろう。脳筋なゲーム少女とアインよりも頭は良さそうだ。
「なんと、こずるい奴らだね。でもゲームぽいかも」
ワクワクとしながら、こういうイベントは好きなんだよと声をあげる美少女。そんなレキから遙へと主導権が入れ替わる。正直全人類が交代するなと非難の声をあげそうだが仕方ない。遥がこんな楽しそうなイベントを見逃すなどそうそうないのだからして。
「えっと、ジャンプは何ボタンを押せば良いのかな?」
トロッコを見ながらコテンと可愛らしく首を傾げて不思議がるゲーム少女。自分で改造したことを既に忘れたらしい、鳥頭のような遥である。
「いやいや、ボス。キーボード操作かもしれないぜ?」
ニヤリと悪戯そうな笑みを浮かべて、ノリノリで話してくるアイン。
「なら仕方ないですね。冒険少女隊の力を見せましょうか、合わせてくださいアイン」
遥もニコリと悪戯そうな笑みで指示を出しながらトロッコの前に立ち、その縁を掴んでアインを見ると楽しそうな雰囲気だと思うポニーテールな美少女の姿があった。
アインもレキの隣に立ち、トロッコの縁を掴む。
風を切りながら激しく揺れるトロッコの前を見るレキとアイン。既に途切れている線路は目の前である。
途切れている線路だが、少し先にはまだ破壊されていない橋と線路が目に入ってくる。恐らくは全てを破壊する時間もないし、後で使うから中途半端に残しているのだと遥は推測する。
「せーのっ!」
レキとアインが叫び声をあげると、縁を強く押しながらその上に倒立する。
がたんと音がして、線路が無くなり吹き飛ぶレキたち。
トロッコが宙に放り出されて空中に浮くと同時に二人は縁を掴みながら勢いよく前へと倒れ込むようにして、重量のあるトロッコをくるくると回転させて飛ぶ。
非常識極まりない動きをする少女たちとトロッコを見て驚くモグーたち。
くるくると回転させたトロッコはそのまま少し先にある線路へと絶妙な回転数で上手に着地して再び車輪から火花を散らしながら突き進む。
シュタンとトロッコに足をつける二人だが、難局はまだ終わってはいない。
「今度は左側の線路がないぞ!」
たしかに今度は片側だけ線路が外されていたのが目に入る。
「とやっ!」
叫ぶアインの裾を引っ張り、可愛らしい声音とは裏腹に今度は右側の縁へと足をかけてトロッコが外側に傾くように力を込める。
あっという間に遥はトロッコを傾かせて片側車輪だけで走り抜ける。
轟々と風が巻き起こる中で、遥は目をキラキラさせて喜んでいた。これはジェットコースターよりも凄い! 一回で終わるのがもったいない感じだ。終点に到着したらもう一回スタート地点に戻って良いかな?
もはやゲームと考えて楽しんでいるゲーム少女だった。
「右、反対側だっ!」
また線路が元に戻って暫くしたら、今度は右側も外れている。んしょと同じように反対側に飛び移り、ガシャンと大きな音をたててトロッコは反対側へとずれこむ。
そのままサーフィンのように二人は片側車輪だけで走り抜けてしまうのであった。
「ありゃ、最後はまともな終わり方ですか」
遥は残念がりながら前方を見る。目の前の線路はジェットコースターのように急降下するような急角度であった。
よくある急降下から線路がなくて、バーンと吹き飛ばされるまでがオチだろうと推測する。
しかし……もしかしたらもしかするかも?
ちょっと面倒そうな展開も頭に浮かんだので、遥はアイテムポーチから魔法瓶のような詰め替え用のKO粒子貯蔵タンクを数個取り出してトロッコの中へとゴロンゴロンと置いておく。
アインがそれを見て、不思議そうな表情で尋ねてくる。
「そんなのトロッコに放置してどうするんだ?」
「え〜と、予想を外したら恥ずかしいので内緒です」
し〜っと人差し指を口にあててニッコリと微笑む遥。その姿は可愛らしいことこのうえない美少女であった。やはりおっさんを封印するシステムがどこかにないか探す必要があると思わせる幼気な美少女の姿であった。
そうこうしているうちに、急降下の場所まで辿り着くトロッコ。ガクンとトロッコが揺らいで100メートルはあるだろう地面へと降りていく。
ガラガラガラガラと、たまに線路から車輪が離れながら、接地している箇所からは火花を散らし、風圧で二人の顔が押付けられながら。
「アハハハ! これは凄い楽しいです。きゃー!」
無邪気に笑い、恐怖感などを一欠片もその可愛らしい顔には浮かばせはしない。ガダガタと揺れるトロッコの縁に手を添えながら笑う遥。
「ボス! 楽しいのは良いけど終点みたいだぜ!」
アインが言うとおりに、100メートルを超える空中から落ちるように走るトロッコであったが、終点なのだろう。かなりの広さを持つ広場が目に入る。
しかも線路は広場手前で捲れ上がり、このアトラクションが終わりだと教えてくれた。アトラクションではないのだが、ゲーム少女の中ではアトラクションだと脳内で変換されている模様。ゲーム少女の脳内変換システムは壊れているので仕方ないのだ。裁判と聞くと逆転するゲームだよねと思うぐらいにポンコツなので。
「きゃー! ジャンプして脱出しますよ!」
アインへと指示をだし、自身もトンッと軽くトロッコを蹴り、空中へと飛び出す遥。同じようにアインも飛び出してトロッコのみが終点へと大事故確実な速度で進んでいき
「モガァー!」
終点の地面が揺れて、地下から突如として現れた巨大な竜が大きく口を開けて、そのまま飛び込んでくるトロッコを呑んでしまうのであった。
遥たちは軽やかに片膝をつけて地面へと降り立つ。アインはすぐに銃を構えて巨大な竜へと銃口を向ける。
「ボス戦かよっ!」
獰猛な笑みを浮かべて活躍できそうだと心を躍らせてアインが言う。
「モガァー! 我こそは……グフゥッ!」
そのまま竜は名乗りをあげようとするが、ぷるぷると身体を震わせると、ズズンとその巨体を地面へと倒すのであった。こういうゲームではあるよねと念の為毒薬代わりに粒子タンクを置いておいた裏技好きなゲーム少女である。
「てい」
ピクピクと身体を震わせて倒れている30メートルはありそうな竜。その竜へとアインがてこてこと近づき、転がっている岩を投げてぶつける。
ビクビクンと身体を震わせてた竜はそのままぽっくりと死んでしまい、浄化の粒子へと変わっていくのであった。
「ご主人様、あの敵は凶悪なる土を司る竜王一世、モガァと名付けました! もう倒しちゃいましたけど、倒した人はドラゴンスレイヤーですね!」
ニマニマと口元をからかうような笑みへと変えて、ふんふんと鼻息荒く名づけをしてくるサクヤ。モガァって、最初の鳴き声だよね? 名付けをするにも適当すぎるんじゃと、遥はジト目でモニター越しにサクヤへとジト目を向けるが、聞いちゃいなかった。オリハルコン製の心臓を持っていると思われる銀髪メイドにはその程度の嫌味がこもった視線は効かないのだ。実におっさんに相応しいサポートキャラである。
しょうがないメイドだなぁと嘆息したが、気を取り直してアインへと視線を向けて、にぱっと花咲くような笑みで告げる。
「やったね、アイン。ドラゴンスレイヤーだってさ。とどめを刺したのはアインだから、ドラゴンスレイヤーだね。おめでとう~」
パチパチ~と紅葉のようなちっこいおててで拍手をする幼げで可愛らしい美少女。ドラゴンスレイヤーだって、凄いねと尊敬がこもっているかもしれない視線での拍手だ。そしてドラゴンスレイヤーの名称はアインのものだよという遠慮深い謙虚な姿勢も見せるのだ。
「いやいや、まってくれよ、ボス。あれはただのモグラだよな? 土の竜王って、モグラだよね? アタシもモグラを倒してドラゴンスレイヤーとは名乗りたくないんだけど」
両手を否定するように振りながら、かぶりを振って嫌々をするアインである。
「大丈夫、土の竜王です。間違いなくドラゴンスレイヤーアインとなりましたよ。ほら倒した敵の強大さを再確認してください。つぶらな瞳、ひくひくと動く可愛げな丸っこい鼻。全体を包む茶色の毛皮と完全無欠な」
「モグラだよな? ボス、どんなに言葉を組み込んでもモグラだよね?」
遥が言葉を費やすが、話に被せてアインが否定をしてくる。うん、たしかにモグラだね。でも土竜と書いてモグラと読むんだよ?
でも、アインの嫌がる表情からはドラゴンスレイヤーにはなりたくはない模様。まぁ、仕方はないだろう、気持ちはわかるのでからかうのは終わりにする。
「しかし、あのKO粒子ってのは結構な効果を発揮するんだな。強力なモグラに見えたんだけど」
アインがモグラと言っちゃうけど、それでも強い感じはしたので感心して消えていくモグラを見る。あ、私もモグラと言っちゃった。
「そうだね、強力な粒子だとは思うよ。必要ない感じもする要素も入っている感じもあるけれど」
サクヤの吐息とか、サクヤの吐息とか。あと水は本当に必要なのだろうかとか。すなわち加えた素材の中で必要な素材はあったのだろうかと。
「ダメですよ、ご主人様。あの粒子には私の吐息が必要だったんです。あとで、ご主人様にもかけてあげますね、ふ~って」
プンプンと頬を膨らませて抗議する銀髪メイドの声がいたような感じがするが、気のせいだろう。銀髪メイドの変態発言なので信頼度はゼロかもしれない。
だが、ステータスボードを見るとモガァを倒して手に入った素材は結構強力な物であったので確かに粒子の効果は高いのである。これ量産するの? サクヤの吐息入りを? 途中でサクヤが作る時に吐息を入れるのを飽きそうな感じがバリバリするんだけど。
まぁ、未来のことは未来の自分というかサクヤに任せようと決心して周囲を見渡すと幻想的な光景であった。
「なんだか凄い光景ですね。なんで広間にこんなに結晶が生えているんでしょうか? いえ、これは集めたダークマテリアルの塊ですね」
ダンジョンとかで見る宝箱、即ちマテリアル結晶が物質化して広間の至る所に水晶のように生えており、仄かに光って周りを照らしていた。実に幻想的な光景だ。
「たしかにこんなところに集めてどうするつもりなんだろうな? この広間の先のあの壁はなんだと思う?」
アインもコテンと首を傾げて、広間の先に見える傷一つない神秘的な雰囲気の白い壁を見る。どうやらその周辺に結晶を置いてあるようにも見えるがなんなんだろう?
「それはね、結界を破るために集めたんだよ。まだ力が足りないんだけど」
二人が広間を眺めて話し合う中で、離れた暗がりから声が聞こえてきて、一瞬で緊張状態に戻り銃を身構える遥とアイン。
低い声だが、良く通る声だ。まだ声変わりをしていない男の子の声だろうか? 声をした方を見やるとパチパチと拍手が広間に響く。
「凄い凄い、まるで映画を見ているようだよ。いや、ゲームかな? でも裏技っぽい攻撃でモグラを倒してしまうのはびっくりしたよ」
無邪気そうな声音で話しながら、暗がりからフードを被った、そしてローブを着こんだ小柄な人間らしき者が姿を現す。周りには取り巻きのように5人の体格がそれぞれ違うやはりフードを被りローブを着こむ者たちが付き従っていた。なぜかフードを深くは被っていないのに、暗闇に顔は包まれており中身が見えない。
「ちっ。気づかなかったぜ!」
アインが素早く警告もなしにアサルトライフルの引き金を弾く。こんなところにいるだけでアウトな人物確定なので、会話パートはスキップして倒してしまおうという空気の読めない攻撃だ。どこかのおっさんと同じである。会話パートって眠くなるしね。
だが、歩み出てきた者たちを見て、遥は眉を僅かに顰めて疑問に思った。
「まて、アイン!」
なので、すぐにアインへと攻撃しないように命令を下そうとしたが、既に銃弾は銀色の粒子を纏いながら敵へと向かう。狙うは中心の人物、ボスらしき者だ。
空気を斬り裂き、銀色の尾を残しながら高速で敵へと飛来するKO弾。ダサい名前だが効果は抜群である。
だが、スッとフードを被った一人がボスらしき者を守るように歩み出てくると、空中に銀閃の絵を描く。
一筆書きかなと思うほど、その光の軌道は無秩序そうに描かれて、カキンと音がすると全ての銃弾が斬られてポロポロと地面へと落ちていく。
「ふむ、やはり未来は銃の戦いが主となった世界なのか………。幻滅だな」
自信に溢れた声音で銃弾を斬った者が口を開く。いつの間にか手には刀を持ち、その刃は結晶の光を反射してキラリと光る。
「おぉ………。全弾斬って捨てるとは刀の達人ですね。凄い凄い」
感心して思わず紅葉のようなちっこいおててで拍手をパチパチとしちゃうゲーム少女。アインも悔しそうな表情はするが、仕方ないなぁと拍手をパチパチとする。戦闘中に拍手をするというアホさを見せる二人である。
拍手をしてくるアホ二人を見て、虚を突かれたように口元のみが見える刀を持った者は、呆れたように感心したように笑う。
「いやはや、随分と余裕のある娘たちだな。肝は据わっているということか」
クックックッと老いた男性の声で愉快気に笑う。
プッと中心のボスらしき小柄な者も吹き出すように笑う。
「あははは、凄いね君たち。この状況で拍手をする余裕があるなんて。いや、やはり自分に自信がある者は余裕があるということなのかな?」
あはははと腹を抱えて笑い始めるボスらしき者。シリアスを崩しちゃうゲーム少女だったので、シリアルへと変換機能が働いたのであろう。それが世界の法則なのだ。ゲーム少女がいる限りはシリアスは諦めてください。
「はぁ~。笑った笑った。こんなに笑ったのは久しぶりかもしれないな。ありがとうね」
笑うのを止めて、バサッとフードを取り払うボスらしき者。予想通りに中身は小柄な子供のような者であった。レキと同じぐらいの背丈だろうか、その手には立派な装丁がなされた本を持っている。
ありゃりゃ、力が制限されている時にボスイベントとはまずいかもとゲーム少女は内心で思いつつ身構えるのであった。




