表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
コンクリートジャングルオブハザード ~ゾンビ世界で遊びましょう  作者: バッド
21章 仲間たちと旅をしよう

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

358/583

353話 那由多現る

 佇むその姿だけで威圧感というか、カリスマを感じさせる老人である。背筋もピンと伸ばして、厳しそうな顔つきをした歳を感じさせないその立派な姿はさすがに大樹を支配する人間だと周りに感じさせた。


『いえーい! 那由多人形がサプライズでお見舞いに来ましたよ。私も混ぜてください』


 混ぜるな危険と書いてあっても良いだろうサクヤが遥にだけ見えるようにモニターでピースをしてくる。人形の中にいるからであろう、背景が薄暗い。


『ナナシロボはどうしたの? ちゃんとしまっておいた?』


 さっき病院から出て行ったばかりでしょと尋ねる遥にサクヤはフンスと息を吐いて答える。


『安心してください。粉々にしてから粗大ゴミとして捨てておきましたので』


『粗大ゴミ』


『粉々ですので元はわかりませんよ』


『粉々って、私に対するリスペクトがないね。わかってはいたけどさ!』


 アホな会話をする二人。もちろん僅か数秒のやり取りで誰にも気づかれない。高等技術だが、それを素晴らしくくだらないことに使う主従コンビだった。


 口元を引きつかせて、口を開こうとする遥より先に驚いていた豪族が気を取り直して那由多人形へと声をかける。


「これは那由多代表。まさか御大にお会いになれるとは思わなかったですな」


 口調は敬っているが、あんまり感情が籠もっていない様子の豪族の言葉に那由多はピクリと眉を震わす。


「こちらこそ、どなたかと思えば百地代表ではないですか。よく見れば荒須社長もいらっしゃるとは会えて光栄だ。他の方はレキ君の友人かな?」


 仰々しく両手を広げて驚きを示す那由多。それに対してナナはどことなく不満げに頭を軽く下げる。


「どうも那由多代表。今日はレキちゃんのお見舞いに?」


 ここにいるからにはそれしかないだろうが、一応尋ねると首肯する那由多。


「もちろんだ。我が財団の英雄のお見舞いをせずに、代表とは言えまい?」


 そう答えて、遥へと近寄り多少ばかり声を高くして、感心したように褒めてくる。


「レキ君。今回の仕事の内容を聞いたよ。五万人の人々を救助したそうじゃないか! 素晴らしい成果だ、君の功績に報いる十分な報酬を約束しよう!」


 素直に感嘆を示す笑顔で褒めてくる那由多人形を見て、なんだろう、サクヤはなにがしたいのかな? 那由多は良い人だよアピールかなと思いながらもその話に乗ることにする。


「はい。頑張りましたので。頑張っちゃいましたので少し入院もしちゃいましたけど」


 ニッコリと保護欲を喚起させる愛らしい笑顔で答えるゲーム少女。


 うむうむと頷いて、那由多は話を続ける。


「なに、大丈夫だ。いつものように医者が薬を調合してくれる。その薬を飲めばすぐに仕事に復帰できるだろう」


 優しげな声音で伝えてくる那由多。いつもの薬って何だよ、サクヤとつっこみたいが、周りにみんながいるので仕方なく笑顔で頷く。


「ありがとうございます。それならすぐに復帰できますね。また頑張っちゃいます」


 大樹の薬は優秀だからね。まぁ、今の状態に効果はないんだけど。そう思う遥に優しげなお爺さんのように那由多は微笑む。正直腹黒な顔つきなので、反対に怪しいことこのうえない素直な笑みである。


「うむ、レキ君のような私の理念を信じてくれる人がいるからこそ、この世界は復興していくのだ。これからも……」


「ま、待ってください!」


 那由多が話を締めようとしたときに突如として口を挟まれる。見ると必死な表情で椎菜が口を開いていた。


「……な、なんでそんなことを貴方は言えるんですか? 今の話を聞いておかしいとは思わなかったんですか?」


 椎菜を見て、目を多少細くしながら那由多は威圧感のある声音で問い返す。


「なにかおかしい所があったかね? 頑張っている部下を見舞いに来ただけだよ? それ以上でもそれ以下でもない」


「お、おかしいです! なんでレキちゃんみたいな子供へそんなことを言えるんですか?」


 キッと怒りの目つきで椎菜は叫ぶように言う。


「薬を飲めばすぐに復帰できる? いつものように? こんなことをいつも繰り返させていたんですか!」


 涙目になりながらも話を続ける椎菜。


「………レキちゃんは子供です。なんですぐに復帰させようとするんですか? 暫く休んでいてと言えないんですか?」


 すぅと息を吸って、さらに那由多へと告げる。


「いえ、なんでこんな子供に平気で戦わせているんですか? おかしいですよ、おかしいですよね? なんでそんなことを笑顔で言えるんですか!」


「君はレキ君の価値というものをわかってはいないようだな。彼女はこの崩壊した世界では必要な存在なのだよ」


 強い目力で睨むように椎菜を見て告げる那由多。だが椎菜は怯むことはなく答えを返そうとするが


「私も同じ考えです、那由多代表。レキちゃんに助けられた身ではありますが、もうこれだけの人間や兵器が出揃ったんです。そろそろレキちゃんは解放したらどうでしょうか」


 ナナも椎菜と同意して声をあげるのであった。


         ◇


 周りからの視線は非難の視線ばかりであった。今回ばかりはなにを考えているのかな、サクヤ君という遥の疑問の表情であったが、そこは気づかないふりをするオリハルコン製の心臓をもつサクヤ、いや、那由多はゆっくりと語りだす。


「理念。私には理念がある。レキ君も同意してくれた理念だ」


「理念……その理念の前には子供を駒にすることも構わないと?」


 ナナが尋ねてくるのを冷笑で返す那由多。空気が凍るようなその冷酷な壮絶さを感じさせる笑みに総毛立つ周囲の面々。


「我が理念は文明の復興だ。まさか私がなんの覚悟もなくこの仕事を始めたとでも考えていたのか? まさか権力と財力に固執しただけの人間だと?」


 フゥ〜と息を吐く音すら、何故か周囲の面々の耳に入る。


「認めよう。私はそのとおりの人間だと。だが……文明復興の願いに比べたら望むべくもない。私は文明復興のためならば、地獄に落ちる覚悟で動いているのだよ。薄っぺらな君たちの考え如きでは揺るぎもせん!」


 その覚悟は理念は揺るぎもしないと那由多の視線は強く伝えてきていた。たぶんレキのえっちぃ写真ぐらいでしか揺るがないであろう信念であった。


「私はレキ君を信じている。これからも人々を救い続けてくれると。幼き子供だとは認めよう、戦いに連れ出す非道も業も私はすべてを背負って、生きていこう!」


「ど、どうして……。そこまでの信念があるなら、救う人間にレキちゃんも含めてください! なんでそこまでの決意がありながら傍にいる人たちを救おうとはしないんですか!」


 ナナも椎菜も結花もリィズも百地も同じ想いであった。そこまでの決意があるならば尚更目の前の人たちも助けるべきだと。


 そして遥は内心で呆れていた。またもやサクヤが盛大な茶番を始めたので。この銀髪メイドは突発的茶番症候群に罹患している。

  

 なんだか見ていて身内として恥ずかしいから布団をかぶって寝ていいかなとも思う今日この頃です。


「近代兵器だけでは駄目なのだ。人々を救うには。今回もそうだ、五万人の人間が蟻の巣に囚われていた。普通に助けるにはどれだけの兵士が必要となる? 助けられない人間もいただろう。多くの人間を救うために、文明を復興するためには必要な人材なのだよ」


 くるりとドアへと振り向きながら、最後の言葉を吐く那由多。そこには憐れみもこめた視線と呆れた声音も混じる。


「君たちは感情的に言葉を吐く。だが、レキ君の肩には多くの助けを待つ人々の命がかかっている。それを思えば先程のような言葉は吐けないはずだ。ではさらばだ。レキ君、つぎの仕事も期待している」

 

 そう伝えて、黙り込む周囲を冷ややかに見ながら帰ろうとする那由多。ドアへと歩き出ていこうとする時であった。


「……それでも私は反対です……」


「わ、私も反対です!」


 ナナと椎菜が声をかけてくるので、那由多は驚きで目を見張った。若い者たちの考え無しの理想論を木っ端微塵に打ち砕いたと考えていたからだ。というか、サクヤなんだけど。


「先程の私の言葉を聞かなかったのかね? レキ君の肩には」


「勝手にレキちゃんの肩に人々の命をかけないでください!たしかに貴方の言うとおりかもしれない……。レキちゃんがいなければ助けられない命もあるでしょう。いえ……きっと絶対にいると思います」


 那由多の話を肯定するようなナナの言葉に


「わかっているのならば、話は早い。レキ君は……」


「それでもっ! この先に助けられる人がいるとしても! 子供を戦いに出すのは駄目なんです! 貴方の理念の先に作られる世界ではきっと目的のためには手段を選ばない怖い世界になるような予感がします!」


「なに? 私の理念の先の世界が? 怖い世界になるだと?」


 ナナの言葉は聞き捨てならないと那由多は身体をナナのほうへと向き直して鋭い声音で問い返す。


「ええ。ここで貴方の理念を肯定すれば、きっと文明が復興しても怖い世界になります。人々が目的のためには手段を選ばない。そんな殺伐とした世界へと」


 確信をしているような声音での言葉に苛立ちを僅かに見せて那由多は反論する。


 遥は眠気を僅かに見せてベッドで寝たい。


「極論だ! 人々の為に手を汚す人間がいるから、その先の世界も同様になる? そんな世界になるわけがない!」


「なります! なぜならば貴方はカリスマがありすぎる。貴方を信奉する人々はどれくらいいるんですか? きっと権力をもつ人々に多いのでは? そんな人々が貴方の成功例を見て文明復興をすれば、きっとその理念で行動するでしょう。貴方はそう思わないんですか?」


「……そんなことがあり得るのか? まさか……なるほど、君の忠告は一考に値するかもしれんな。だが……あくまで一考だ。私はこの理念を捨てるつもりはない。いわんや、それがこの世界のためなのだから。私が世界を導かないとならんのだ、文明復興には強き人間が必要なのだから」


 顎に手をあてて、ナナの言葉を頭に入れて、目を閉じて考え込む那由多。再びすぐに目を開き口を開く。


「若木シティとその近辺には五万人の避難民を収容させた。膨れ上がる人口、様々な仕事を用意し、差別を無くし、人々に平凡であろうとも幸福を与えるには、文明を復興するには私は必要だ。誰にもこの役はできまい」


 那由多の発言にナナたちは黙り込む。口で反論するのは簡単だ。皆で頑張れば良い、協力しあって復興の為に頑張れば良い、しかしその論を口にするには那由多の発言には重みがあった。


 独裁者足らんとする自覚のある責任の重さを肩に背負う老人の姿があったのだ。


 フッと口元を小さな笑みに変えて、見た目よりも遥かに大きな巨人に見える独裁者は周りを見渡して、最後にレキを見つめる。


 こっちみんなとレキこと中身のおっさんは思う。難しい話なので、さっきから眠気と戦っているのだ。トンカツがなんだって? リィズはもうベッドに添い寝と称して入り込みスヨスヨと寝息をたてているよ?


「どうやら良い提案はないようだな。この崩壊した世界を救う新たな提案を用意しておくと良い。そしてレキ君。私の理念の体現者としてこれからも期待をしている。恐らくは君が思う以上に私は期待していると伝えておこう」


 ではさらばだと一言口にして、那由多は去っていくのを周りは見送るしかなかったのだった。


          ◇


 那由多がいなくなり、重い空気だけが残り、キャッキャウフフの空気をよくも変えたな、コンニャローと遥が内心でサクヤに対して憤慨している中で、椎菜がポツリと呟くように言う。


「聞いていた以上に確固たる理念を持っている人でしたね」


「怖かった〜! 椎菜はよくあんな怖そうな人に意見できたよね、感心しちゃった」


 結花が頭の後ろに両手を組みながら、感心したように椎菜を褒めるが、椎菜は首を横に振って哀しそうな表情を浮かべる。


「言うだけじゃだめなんだよ。レキちゃんを戦いから遠ざけるにはちゃんとした理念と、実績が、皆の力が必要なんだって考えさせられました」


「……あぁ、たしかにそうだな。那由多代表の理念を否定するには彼が同意しなければならない理念をこちらも見せつける必要があるだろうな」


 豪族が嘆息しながら同意する。考えていた権力の亡者というイメージは先程の決意に満ちた那由多代表の姿で覆った。彼は権力者として自覚をして、それでもその道を進んでいくと、何者の障害も踏み潰して生きていくと決意していたのだから。


「それでも……それでも子供を戦いに向かわせるのは間違いだと思います。これは人としての当たり前の感情です」


 ナナは強く拳を握りしめながら話す。その表情は苦しそうな哀しそうな表情を浮かべて。


「レキちゃん、レキちゃんはどう思う? 戦いに行きたい?」


 真剣な表情でナナが問いかけてくるので、むぅ〜、ほらこんな面倒な質問がきた〜と遥は内心で絶叫する。なんというシリアスな雰囲気、ゲーム少女を殺してしまう一番の毒である。


 まぁ、答えは決まっているんだけどね。私の遊びはまだまだ終わらないのだから。


「私は那由多代表の理念に同意します。これからも戦い続けますし、そのために私は存在するんですから」


 キリッと真面目な表情で真剣な声音で遥は答える。


 その答えはナナたちの望んでいた答えではなかった。助けを求めてくれれば、きっとその願いを叶えるべく行動をナナたちはしたのだが。


 そしてそのような答えが返ってくるのも、ナナたちは予想していた。予想通りの返答に哀しく思う。


 ソッとレキの頭を優しく撫でて、労りの表情でナナはレキへと伝える。


「いつも話しているけれど、それは貴女の思い違い。レキちゃんは戦いのために存在するわけじゃないの。……今もまだレキちゃんは戦い続けることを止める力は私たちにはないけれど……きっとこの先で他にやりたいことを一緒に探していきたいと私は思うの」


 ナナの言葉に、無邪気にコテンと首を傾げて不思議そうにするレキ。その意味がわからないのだろう、そしてこの優しい少女は自分を犠牲にしながら、戦い続けるのだろう、これからも。


 豪族はそれを見て考える。あの不器用な男にそろそろ相談するべきだと。飯田を巻き込むかはまだ決めかねるが、あいつの考えを、話を聞く必要があると。


 空気が重くなる。シリアス度合いが大きくなり、重力100倍だと遥がその重さに潰されそうになった時に、リィズがパチクリと目を覚ました。


「ふぉぉぉ! ナナが妹にプロポーズしている! 一緒にとか言っている!」


 今まで寝ていたリィズは、話を最後の方でしか聞いていなかったので、すわプロポーズかと騒ぎ始める。


「うぇぇぇ?! 違う、違うよ? そういう意味じゃないからね!」


 赤面して慌てるように否定するナナ。あ、でも今のはそうとられてもおかしくないかなと考えて、口元が少しニヤけてしまう。なんだかどこかの銀髪メイドに似た笑いのような……。


「ナナさん……そういう意味だったんですか!」


 キャーキャーとからかうように騒ぐ椎菜たち。それにのって騒ぐ遥たち。重かった空気が軽くなりゲーム少女が呼吸可能となる。さっきまでは呼吸困難だったのです。


 モニターに映るサクヤは、説得失敗と看板を持って那由多人形を仕舞いながら。


 どうやらサクヤ的にはゲーム少女が問題なく戦いに赴く環境を作りたかったらしい。確かに良くできていた話ではあるが、ナナたちの優しい気持ちはそれを上回ったのだろう。


 人間って凄いよねと、周囲の面々を見渡しながら、優しい微笑みでゲーム少女は周りを見守るのであった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] この空気の中で布団に潜り込んで眠れるリィズのつよつよメンタル 人類ってすごいなあ
[良い点] まあこれは茶番ですけど 実際問題、例えば一人の犠牲で大勢が救われるのを容認するかは古来よりの問題ですな。大を生かすために小を犠牲にするのが為政者という考えも有れば、小の犠牲を容認しては国…
[一言] 緊迫した状況で必要とされるのは耳障りの良い公約を掲げる民意の代表ではなく、力のある独裁者。 主人公周りがホンワカしてるから感覚麻痺しちゃうけど、人類結構ヤバいよね
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ