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コンクリートジャングルオブハザード ~ゾンビ世界で遊びましょう  作者: バッド
21章 仲間たちと旅をしよう

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349話 大渓谷のドッグファイト

 ヒュオンと空気を切り裂く音がして、大型空中機動用バイクブラックタイガーは渓谷内に落ちていく。


 いや、落ちているのではと見間違えるほどの速さで地面へと向けて急降下していた。


 それぞれ合わせて五機のバイクに跨がる戦士は年齢を重ねてもその凶悪さがオーラとして周囲へと伝わる老人たち五人である。


 勢いよく急降下をしていき、すわ、墜落かと思われる程ぎりぎりまで地面へとその車体を近づけて、コマンドー婆ちゃんはハンドルを思い切り引く。


 グルンと回転するように、地面との車体の方向を水平へと変えて、アクセルを全開にする。


「はっ! 楽しそうなレースになるんじゃないかい」


 獣のような獰猛そうな笑みにてアタシは精神を高揚させる。冷たい冷静な思考を柱に、周りを飾り立てていくのだ。そうして戦闘をやっていく。


 後ろについてきたエリートアントの数匹が体勢を立て直すことができずに、勢い良く地面へと激突して、肉片は染みとなっていくのが視界に入った。


 だが、他の蟻たちは同じ轍を踏まずに、体勢を立て直してこちらへと迫りくる。


 その速度はたいしたもんだ。地面はデコボコだらけで岩が突き出ていたり、横からも突如として鋭い尖端の岩が出ていたりするにもかかわらず、追撃する速度を緩める奴は誰もいない。  


 グォンとエンジン音を響かせて地面スレスレに走っていく。身体が揺られ、視界が移り変わっていく中で五人は尋常の精神を持った者ならば悲鳴をあげる速度と、デコボコな地面を突き進むその恐怖に身体を縮こませることもなく走る。


「ババア! 後ろから追いついてくるぞ!」


 風の爺が後ろを見ながら叫ぶ。たしかに凄い勢いでこちらへと近づくエリートアントたち。まぁ、角付きだし強そうだしエリートアントで名前は良いだろう。


「アタシたちなりのレース見せてあげなっ」


 怒鳴るアタシにニヤリと狂暴な笑いを浮かべて火の爺が頷く。


「そうだな、傭兵のドッグファイトを見せてやろうじゃないか」


 腰につけている手榴弾を、軽くピンを弾き落としポンポンと落として。


 カンカンと地面を跳ねていく手榴弾はエリートアントの目の前で爆発していき、その爆風でまた数匹が吹き飛ぶ。


「よしよし、他の羽蟻もついてきているぞ!」


 土の爺が後ろを見ながら、その様子を告げる。たしかにかなり遅れてはいるが、羽蟻たちは続々と渓谷内へと入ってきている。


「支援要請だ! あの角付きを片付けたら攻撃させなっ!」


「了解だ! それではいましばらく楽しもう。空のレースをなっ!」


 尖った岩が横あいから見えてきて肉薄してくるので、すぐに車体を傾けてスレスレに躱していく。チッと僅かにフィールドに掠って尖端が崩れるのが目に入る。


「警告、飛行時の障害物に対する距離はしっかりととってください。危険な事故を誘発する可能性が」


「違反切符なら、あとでたくさん切らせてやるよ!」


 バンと軽くモニターを叩き、プラーの警告を止めて走り続ける。残念ながら安全運転じゃ、敵に殺されるだろうからね。ゴールドカードは今年も取り損ねるのは決定だ。


「くるぞっ!」


 水の爺が叫ぶと同時になにがくるのか、前面モニターに映っていた後方の画面を見て理解する。


「こなくそっ!」


 ハンドルをきって、車体を急速にきりながら進むアタシの横に岩の槍が通り過ぎていく。他の羽蟻とは違い、黒曜石でできたような鋭さを感じる槍だ。しかも飛行しているバイクにあっという間に接近する射出速度もある。


 エリートアントたちは、空いている前脚を掲げてこちらへと狙いを定めている。今の攻撃をまたするつもりなんだろう。フィールドが耐えられるかは賭けになりそうだ。


「そら、ドッグファイトのお時間だよ!」

 

「おうさっ!」

「任せろ」

「しくじるなよ」

「ぎっくり腰になるなよ!」


 アタシの合図で、びゅんびゅんと通り過ぎていく風景を視界に入れながら、老人たちは交互にすれ違うように空中機動をしていく。


 スラロームをしていく老人たちはアイコンタクトのみで、その機動を行い、次々と迫りくる死の槍を躱す。


「荷電粒子砲は多少なりともスピードが落ちるからな。それが、このバイクの弱点だ。後部座席はでかいエンジンに場所を食われているしな」


「前面に高火力の攻撃を集中させている運用だからな。どういうコンセプトかわかりすぎるほどわかる。これを作ったのはきっと零戦が嫌いな奴だ」


 憎まれ口を叩きながら、飄々と運転をしていく老人たち。後ろからの攻撃は掠ることはあっても命中する様子はない。


「これみよがしなアーチがあるぞ! 楽しそうな光景だ!」


 進む先には渓谷を跨ぐ巨大な土のアーチ型の橋が見られた。その壮大な光景は世界遺産とかになりそうな奇跡的な掛け橋であった。


「アタシは右端だ!」


 残念ながら今は戦争中だ。その光景はギミックにさせてもらうよ。


「俺は左だ」

「左」

「右だ」

「最後にしよう」


 爺共が息を合わせて叫ぶ。肩に背負うビームライフルを手に持ち身構えて、アタシは頼もしき金属の感触を感じつつ橋の右端へと狙い撃つ。


 引き金を弾く感触は軽くその反動も体にはこない。だが銃口から撃ち出された荷電粒子のビームはアーチ型の橋を切り裂き始める。持続時間3秒、限界ぎりぎりまで撃ち出されたそのエネルギーは他の爺のビームライフルの軌跡と合わさり、巨大な橋を崩し始めていく。


 グラリと揺らいだその瞬間を見逃さずに、最後の爺が持ち替えていたトドメのランチャーを構えて引き金を弾く。


 かぽんと空気の抜けるようなマヌケな音がして、噴煙を吹き出しながらグレネード弾は橋へとぶつかり砕けていく。


 橋の巨大さに対しては、その攻撃はたいした効果はなかったであろう。本来であれば。


 しかしその衝撃は両端を半分以上切り裂かれていた橋にとっては充分すぎた。破壊音が響き渡りその巨大な橋は崩れ落ちていく。


 観光名所になりそうな橋であったが、凶悪な兵器により砕かれていき、その中へとアタシらはバイクを加速させて命知らずにも突撃していく。


 砂埃で目の前が見えない程視界が悪い。気づくとビルのような岩が目の前を崩れ落ちていくので、車体を傾けて巧みな運転で回避する。


 体感では数分経ったかもしれなかったが、現実では数十秒であったろう。それだけの体感の中で轟音をたてる瓦礫の中を通過するのであった。


「ギギィッ」

「ギャッ」


 先行していたエリートアントがその巨大な質量に潰されて悲鳴をたてる。


「環境保護団体に怒られそうだな」


 からかうような風の爺の声にアタシは肩をすくめてニヤリと笑う。


「残念ながら、第一発見者が壊しちまったからね。誰にも気づかれないさね」


 残念ながら、こんな世界だ。誰も文句は言わないだろうね。まぁ、言われても傭兵なんだ、残念ながら戦場だったと答えるだけだけどね。


 先行のエリートアントが潰されて、かなり数を減らした他のエリートアントたちは羽根を広げて大きく浮き上がり瓦礫を回避しながら、それでも感情を感じさせずに追撃してくる。


 もはや20匹いたエリートアントたちも7匹しかいないと来た。人間の司令官なら全滅したと判断して撤退させるだろう。虫の哀れなところさね。


「分かれ道だぞ! どちらにする?」


 当たらないことに業を煮やしたのか、加速を増して段々近づいてくるエリートアントたちを横目に前方は二股に別れているのが目に入った。


「チャンスだよ! 正面からのチキンレースと行こうじゃないか!」


 アタシは後ろに近づくエリートアントたちを確認してチャンスとばかりに口を大きく開けて怒鳴る。


 そうしてアクセルをまわし、さらなる加速をしていく。


 意図を読んだのだろう自身たちも加速をしていき、身体をバイクに押し付けているのが見える。まったく命知らずの奴ばかりだと苦笑をしてしまう。


 まぁ、自分もその中にいるのだ。この歳になっても馬鹿なことをしているのだ。


 地面を擦り、石礫をフィールドで弾きながら眼前に迫る岩壁へと集中する。


 エリートアントたちも加速を続けて、槍の攻撃が後少しで届くだろう間合いになるが、老人たちは躱すことも減速もせずに目の前の壁へと向かう。


「警告、警告、障害物に衝突する可能性があります。減速をしてください。警告、警告……」


 プラーが狂ったように警告音を鳴らすが無視をして壁へと衝突するぎりぎりまで肉薄して


「ハッハー!」


 思い切りハンドルを掴み急上昇をさせていく。グンと車体が上を向き眼前の岩壁に車体の底が削られていく。フィールドエネルギーがドンドン減っていくが、それでも衝突はせずに急上昇を成功させる。


 しかしエリートアントたちは加速しすぎて、岩壁を回避しきれずにその身体をただの肉片へと変えてばら撒かせるのであった。


 渓谷を一気に上空へと抜けて、気持ちの良い青空が目に入ってくるが、残念ながら詩的な心を持たないアタシらだ。殺伐とした行動しかしない。


「砲撃支援を求める! 座標軸は海老天から送る!」


 土の爺が叫びながら砲撃支援を求むべく叫ぶ。モニターには空中戦艦の艦長の四季とか言うやつが映る。その姿は呆れた者を見る表情だ。


「呆れました。よくもまぁ、あの群れを誘引しましたね。見事ですが人間か疑う光景でした」


「アタシらは人間だよ。少しばかり無茶なことをするけどね。どこかのアホ娘と同じ人間さね」

  

 アタシの嫌味を僅かに眉を動かすだけで済ますエリートでございという娘だ。しかし行動は迅速であり的確であった。


 世界が崩壊するかのような大地震を思わせる揺れと轟音が一気に周囲へと響き渡る。


 そうして渓谷全体はすぐに空気が蜃気楼のように歪んだ風景へと早変わりして、その中にいる羽蟻や未だに残っていた働き蟻共をその力で潰していく。


 いや、潰すという表現もおかしいかもしれない。歪んだ風景と同じく一瞬その姿を歪ませたと思ったら、無数の蟻共は肉片も残さずに掻き消えてくのだから。


「やれやれ、物凄い威力だな」


「この渓谷がより深くなるのは確定だろう」


 呆れた声音で、爺共が感想を言う。たしかに信じられない威力さね。爆風もこの砲撃が終了したら生み出されるだろうし、敵の肉片すらも残さないその威力は感心するしかない。


「常に大人はボタン一つで解決する場所で眺めるつもりなのかい。気に食わないね」


 大樹の歪んだ在り方を考えてアタシは厳しい顔で呟くのであった。金と権力と武力、その行使の仕方に不安を覚えて。


          ◇


 四季は目の前の光景を確認して、ヘアピンをキュッキュッとハンカチで磨きながらオペレーターへと現状を報告させる。


「現在、羽蟻はコマンドー婆ちゃん部隊での誘引に成功。その羽蟻部隊の殲滅に成功しました」


「それは良かったです」


 ウンウンと満足そうに頷く四季。


「空間歪曲砲は35%の出力にて稼働中。充分な威力を見せています。現在抵抗できた敵はいません」


「それも良かったです」


 コクコクと嬉しそうに頷く四季。


「司令の回収に成功。現在はブリッジへと向かっています。そして進水式どころか、初陣の砲撃もできなかったので、いじけているそうです」


「それは良くないですね」


 口元に手をあてて、アウアウどうしようと慌てる四季。ヘアピンも曇る勢いだ。


「大丈夫です。砲撃命令を待たずに攻撃したのは、全部四季の判断ということにしてあります」


「とっても良くないです! 誰ですか、そんなデマを伝えたのは?」


 ぷるぷる身体を震わせる四季。どうやら他のツヴァイたちに嵌められたようだと戦慄く。ニヤリとオペレーターたちとついでにハカリも笑っていたのが、犯人が全員だと解る瞬間であった。


 ムキー! と両手を振り上げて怒り始める四季。先程までの優秀な姿は蜃気楼のようだった。さすがエリートな四季である。怒った演技がとても上手だった。本当に怒ってた可能性もあるが。


「あ〜っ!」


 オペレーターの1人が叫び声をあげるので驚いて皆がそのオペレーターへ視線を集める。


「どうしましたか? 報告してください」

 

 キリリと表情を真面目に変えて四季が気を取り直すと、そのオペレーターが返答する。その声音には驚きが混じっていて


「イーシャが仙崎に頰を叩かれた〜!」


 衝撃的な発言をするので、ドヤドヤと皆でオペレーターが見ているモニターへと集まる。なにがどうしたのと興味津々だ。


「あのイーシャにベタぼれの仙崎がどうしたの?」


「それが避難民を助けに行こうと、イーシャも武器を持って出撃しようとしていたの」


「あ〜、あの娘は味方にはとっても優しい娘だもんね。これから味方になる人間にも優しくしようとしたのね。相変わらずの博愛主義だよね」


 うんうん、それで? となんだか楽しそうな雰囲気にわくわく顔のツヴァイたち。キラキラと目を輝かせての待機モードだ。


「仙崎へと兵が少ないなら私も出ます! 銃の扱いなら訓練していますので! と言ってイーシャが必死の表情で出撃しようとしたら」


 オーバーアクションで身振り手振りで演技をするオペレーターツヴァイ。もうノリノリである。


「パシィッて、仙崎さんが頰を叩いて、貴女が助ける場所は戦場ではなく、この周りにいる患者たちだっ! って説得してたの!」


 ほわぁ〜と頰を両手で抑えて、周りで聞いていたツヴァイたちは恋バナかな? ドラマみたい! とワイワイと楽しそうにお喋りを始めていく。


 ツヴァイたちも少女であるのだ。恋バナは大好きであるのだからして。無論、四季もハカリも話に加わる。


 新品の空中戦艦に相応しい綺麗なブリッジで、キャイキャイと黄色い声をはりあげてお喋りを樂しむツヴァイたちである。


 そんなツヴァイママへドライたち幼女隊はせっせとおやつタイムだねとお菓子とお茶を配り始める。もちろん自分たちの分も忘れない。というか、しっかりと自分自身たちが多めであったり。


 ほんわかした女子会みたいな雰囲気となるが問題はない。砲撃は既に自動で蟻たちを攻撃しているし、その攻撃力も四季が支配下においているので雑魚には充分な火力だ。


 問題はあとで戦闘機乗りや戦闘ヘリ乗りのツヴァイたちから仲間外れにしましたねと文句を言われるぐらいだろうと油断していた。


 特殊隠蔽型空間結界が解除されても、中にはまだ蟻の幼体が入るぐらいだったし。あと、戦い始めてから連戦連勝であったのがいけなかったかもしれない。


「あの〜?」


 そんなツヴァイたちに、どこの集団でも存在する真面目で空気を読まない少女が声をかける。ツヴァイにしては大人しいその娘は恐る恐る声をかけてくるので、四季たちは新しい恋バナかな? と尋ねようとしたところ


「地中から攻撃エネルギー反応あり。機体照合無し。敵のボスクラスの大型ミュータントと思われます。空間歪曲砲、こ、効果は見られません!」


 その報告にバタバタと慌てて配置に戻るツヴァイたち。すぐさま真面目な四季に戻り、素早く指示を出す。


「失敗しました! 敵ボスは隠れていたのですか! いえ、隠れていたのはわかっていましたが、前に出てきましたか!」


「敵、巨大ミュータント、口内に高エネルギー反応! 防衛軍の本隊へと頭を向けています!」


「すぐに迎撃を開始せよ! 生存者が危ないです!」

  

 あせりを見せてモニターに映る巨大アントを目に入れる。地中から這い出てきたと思ったら口内に力をこめているのがわかる。


「敵、ブレスを発射!」


 艦内はその悲鳴のような金切り声に緊張感で覆われるのであった。

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― 新着の感想 ―
[一言] コマンドー婆活躍回だと思ってたらピンチだった
[良い点] 更新ありがとうございます。 次も楽しみにしています。 [一言] おやおやおやおや どうせ防ぐんですよね
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