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コンクリートジャングルオブハザード ~ゾンビ世界で遊びましょう  作者: バッド
21章 仲間たちと旅をしよう

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346話 ゲーム少女は戦わない

 からかうようにバイクから降り立って、ゲーム少女に声をかけてくるのはコマンドー婆ちゃんだった。相変わらず元気そうで、歳を感じさせない動きをしている。


 歴戦の勇士はこうありたいと、兵士たちに思わせる姿であった。そんなコマンドー婆ちゃんは肩をすくめて呆れた声音になる。


「なんでメイド服を着たまま倒れているんだい? 嬢ちゃんは少しばかり助けられるヒロイン役のTPOを学んだほうが良いね」


「い、良いじゃないですか。ヒロインがメイド服を着ている方が、きっとウケが良いと思いますよ」


 遥が元気よく答えようとして、頭痛でよろめきながらたどたどしく答えるのを見て、コマンドー婆ちゃんは眉をピクリと顰めて見てきた。


「……随分調子が悪いんだね? いったいどんなアホなことをしたのか、ちょいとババアに言ってみな?」


「アホなことはしていませんよ。少しばかりピクニックに誘う人数が多かっただけです。ちょっとここまで消耗するとは思いませんでした」


 もっと楽勝だと考えていたのです。簡単にテレポートできると思っていたのに、やはり所詮はショートテレポート。全然無理な感じだったのだ。物凄く力を入れ消費したので、美少女のエネルギーは空ですよ。おっさんの気力は元々空ですよ。


 うぅ、と呻いて灯里の肩へともたれかかる。おっさんならば例えピンチな状態でも事案ですよと注意をされるかもしれないが、現在は美少女なので問題はない。


 というか、実際にそれだけ疲れており、脂汗はかいているは、疲れて息も切れており体調はかなり悪い。二日酔いは病気なので休んでも良いだろうと以前に考えていたことを思い出す遥。すなわち二日酔いみたいな感じなので。


 そして遥は病気関係は駄目なのだ。極めて軟弱なのである。これが怪我なら崩壊前も痛みに耐えて痩せ我慢をして周りに悟られないようにしていたが、病気の場合は37度ちょいでも高熱だねと気分を悪くして周りに気づかれてしまう。それでも会社は休まなかったのだけがおっさんらしいかもしれないが。


 そして二日酔いも病気に入るので、全然駄目で気持ち悪い。なんというかじわじわと頭が痛むのが最悪なのだ。身体が鈍重な痛みに襲われるのが極めて苦手なのだった。


「仕方ない嬢ちゃんだね。その様子じゃ動くのも辛いみたいじゃないか。足手まといだから、後方に逃げておきな。あとは大人たちの戦いの時間だからね」


「ありがとうございます。それじゃ、遠慮なく寝ますね、ガクッ」


 多少演技めいた寝方をする遥である。どうあっても普通に寝るという選択肢はない模様。スピスピとすぐに寝入ったので、本当に疲れて消耗しているとわかる所作だった。


「灯里さんパワー! 軽いので大丈夫ですよ」


 肩にもたれて寝てしまった少女をなんとか支えようと、気合いを入れて立つ灯里。いくら軽いといっても小柄な少女では限界があるかもしれない。それでも灯里は頑張った。ぷるぷると身体を震わせながら。


 その様子を苦笑交じりに仙崎たちは眺めていたが、すぐに救援活動を再開するためにバイクに飛び乗る。助けようか迷ったが、ここはこの少女に任せるべきだろうと判断して。


「お姫様は任せたよ! 少し行けば救援の装甲輸送車があるはずだ!」


「仙崎の坊主! 指揮官らしく昼行灯と合流しな! アタシたちは突出してきた敵兵を片付けておくからさ」


 仙崎へと怒鳴るようにコマンドー婆ちゃんが叫ぶと


「そうだな。あのゴップとか言う奴にせっかく新型をもらったのだからな」

「ふむ……ビームライフルを使う日がくるとはなぁ」

「物理弾と違うから気をつけんとな」

「長距離射撃には向かないかもしれん……」


 周囲を飛行するバイクに搭乗して地水火風の四人の爺が手に持つ厚みのある長方形の銃を見ながら感想を言う。


 新型の銃を手に入れた老人ズは言い合いながら飛んでいくのを遥はなんとか小さく手を振って見送るのであった。


「うぅ……いつもなら、ここで気の利いたエスプレッソのような苦味迸るダンディなセリフを言って、皆に感心されるのですが、余裕がないです」


 アホなセリフは言う余裕があるゲーム少女である。いったいいつダンディなセリフなどいったのであろうか? 常にパフェフロートのような甘いアホなセリフしか吐いていなかったように思えるのだが。


 というか寝入っていたのではなかろうか。実際は寝入ったが、すぐに子猫のように動き始めた皆の動きを敏感に感知してすぐに目を醒ました遥。


 灯里がなにかを言う前に再びぽてんと寝入ってしまうのであった。


          ◇


 よいしょよいしょと灯里は肩にもたれかかる美少女を支えながら呟く。


「やっぱりちょっと重いのですよ。少し格好をつけすぎました」


 意識のない人間はたとえ少女であろうとも重いと、今まさに体験しながら愚痴る。だが、すぐに森の中に何台もの装甲輸送車が目に入り、一安心と息を吐くのだが……。


 装甲輸送車は既に女子供、老人でいっぱいであった。皆、疲れており助かったのかと不安そうな表情で灯里を見てきた。


「すまない、この車は既にいっぱいだ。他の車にまわってくれないか?」


 申し訳なさそうに銃を構えた軍人さんが言ってくるが、周囲に点在する輸送車も既にいっぱいで歩いている人たちもたくさんいる。


「また戻って来るので」


 再び輸送車が戻って来るのかを尋ねようとした灯里の後ろから爆発音が響いてきた。戦闘が始まったのだと、冷や汗が流れ始める。無数の銃声も聞こえてきて、こちらの方にも怒鳴り声が聞こえ始めてきた。


「敵兵接近中? まだ避難民の収容は全然終わっていないですよ! 緊急脱出せよ? しかし………」


 目の前の軍人さんが、通信をしているのだろう、インカムに対して叫んでいるのを見て、灯里は駄目だと感じた。ここで待っていては死ぬだろう。


 両親は母親の具合が悪いので先行していたが、大丈夫なのだろうかと一瞬考えるが、それどころではない。自分の命が危ないのだ。


「灯里さんは歩いていくのです! 軍人さんは急いで行くのですよ!」


 軍人さんに叫びながら、灯里はレキを担ぎ直そうとすると、一気に突撃するような勢いで軍用バギーが飛び出してきた。


 六人乗りの後部に大型機銃が搭載されている屋根のないタイプだ。ガリガリと地面を削るように走ってきたバギーは灯里の目の前で停止する。


「へい、お待ち。お客様が頼んだのはラーメンですか? チャーハンですか?」


 女神のように綺麗な銀髪の美女が微笑みながら、灯里へと問いかけるのであった。いそいそと助手席に乗っていたもう一人のメイドさんが降りてきてレキさんへと歩み寄ってくる。こちらもキラキラと金髪が輝いている美少女だった。


「灯里さん、お疲れ様です。あとは私が引き受けますので安心してください。灯里さんもどうぞ座ってくださいね」


 柔らかな癒やしを感じる笑顔をする美少女。どこかで見たことあるような気がするけど、テレビとかかな? こんな凄い美女と美少女を忘れるわけはないんだけど。


 デジャヴかなと思いながら、レキさんを渡す。そっと優しく抱きとめて美少女は不思議そうな表情になる。


「え。と、灯里さんとは初めてお会いするのでしたっけ?」


「あ、はいなのです。初めまして、不夜城灯里と言うのですよ」


 周りは大変騒がしいが、とりあえず挨拶をするのです。ペコリと頭を下げると


「……初めまして、私はナインと申します。こちらはアホな姉さんのサクヤです。姉さん?」


「あ〜……認識障害を上げすぎましたか……失敗失敗」


 テヘペロと舌を小さく出して微笑むサクヤさん。なにがあったのだろうか? ナインさんが責めるような目でサクヤさんを見ているがなんなのだろう?


 ため息を吐いてナインさんは、そっと後部座席にレキさんを優しく横たえる。


 ため息を吐いてサクヤさんが、そっと後部座席のレキさんにうへへと触ろうと手を伸ばす。なんだかエロそうに手をワキワキと動かしている。


 遥は殺気を感じて目を覚ます。そうしてペチリと変態メイドの手を弱々しく叩く。覚醒するのがサクヤの変態行為からだというのが遥らしい。


「キャー! レキ様がこんなに弱々しく横たわっているのは初めてです。仕方ありません。私が一生懸命に看病しますね。グヘヘヘ」


「素でグヘヘヘと言うとは……や、やるな、サクヤ……」


 いつもなら蹴りを叩き込むのだが、残念ながら動くのも難しい。それがわかっているサクヤに対して、あとでお仕置きだと思う遥。


 しかしながら、今は絶賛戦争中である。装甲輸送車の軍人は突如として現れたバギーを見て、驚き尋ねてくる。


「き、君たちは何者だ! そのバギーはいったいどこから?」


 戸惑う軍人の様子を見て、ナインはにこやかに当然のように告げる。


「私たちは大樹本部のメイドです。レキ様を最優先で回収するように命じられたので、緊急事態としてこちらへと伺わせて頂きました」


「大樹本部の? 待て、今確認する!」


「いえ、その必要はありません。すぐに行きますので」


 本部へと問い合わせをしようとする軍人を押し留めて、サクヤがハンドルを握り、アクセルを踏み込み、ガコンガコンとレバーを操る。


 その場で地面を削りながらアクセルターンをするバギー。そのまま唖然と口を開ける軍人を尻目に発進する。


「聖帝サクヤ軍発進! 汚物は消毒で〜す」


 サクヤさんがノリノリで歌う中、ナインさんは後方を見ながら呆れた声音で言う。


「姉さん、まだそのノリを続けていたんですか?」


「もちろんです。でも仕舞っておいた兜とマントがないんですよね? どうしてないんでしょう」


「あれは粗大ゴミとして捨てましたよ? インテリアにはあいませんでしたし」


「地味に酷い妹でした! なんでそんなに簡単に捨てちゃうんですか!」


 ギャーギャーとお喋りしながらも、バギーは草木を掻き分けて突き進む。ガタゴトと物凄くバギーは揺れて、舌を噛みそうな灯里。


「あ、危ないのです。こんなに揺れてはレキさんも……あれぇ?」


 後部座席に寝かされているレキはぐったりとしたまま、可愛くスピスピと寝息をたてて寝ている。しかも揺れていない。なんでだろうと目を凝らすと身体が少し浮いていて振動を抑えているみたいだった。


「これは揺れを抑えるシートなんです。レキ様が寝ていても大丈夫、電車で揺られる程度の振動にしか感じないので、ちょうどよく寝れるでしょうね」


 揺れているのに舌を噛みもせず、灯里を見て余裕の態度で伝えてくる。体幹が凄いのだろう、びくともしていない…


「灯里さんは座って、シートベルトをした方が良いですよ。私とナインはこの程度はビクともしませんが、貴女には厳しいと思いますので」


 サクヤさんがハンドルを回しながら、灯里へと忠告してくるので、急いでシートベルトをつけて座るのであった。


 ナインはその様子を見て、小さく頷き姉へと話しかける。少し真面目な話をしないといけないようですし。


「姉さん、どうやら侵攻軍では防衛できないみたいですね。蟻人が展開してきています。空にもソルジャーアントが羽根を出して飛行していますし」


「それは困りましたね。自分が寝ていたから人間が死んだと知ったら、レキ様は落ち込むでしょうし……仕方ないですね、蟻人だけは片付けていきましょうか。雑魚ですしね」


 まったく緊張感のない話し合いをする二人。ちょっとお出かけをしましょうといった感じで相談を終える。


 そのまま、ナインはフレアガンを空中から取り出す。もちろんただのフレアガンではないことは明らかだ。


 高々とフレアガンを持つ手を掲げて引き金をひくと、パシュウと照明弾が発射されて空中へと飛んでいく。


 バシッと輝く光が昼間の空に発生する。周りへとその光は届くが、なぜ信号弾をと人々は疑問に思うが、蟻たちは違った。


 その光を浴びた瞬間に目の色を変えて、バギーへとその向きを変えて走ってくる。近場の蟻にしか効果はなかったみたいで、一番先行していた蟻人だけが向きを変えてきた。


 恐ろしい速さで近寄ってくる蟻人たち。バギー以外にも輸送車もあるが気にせずに横を通過する。


「な、なんなのですか? 今のは?」


 灯里がアワワと車体にしがみつきながら聞いてくるので、ナインはにこやかに今のフレアガンの効果を伝える。


「あれは知性が低い敵を誘引するフレアガンです。数キロ範囲にしか効きませんが、先行していた蟻人たちにはほとんど全員効いたみたいですね」


 平然と恐ろしいことをなんでもないことのように伝えてくるナインに慄きながら、灯里は後部座席の機銃を見て叫ぶ。


「機銃で倒すのですか? 灯里さんはピンチだと思うのですが? 危険な香りがするんですか? 倒しきれない予感がするのですが」


 数千は蟻人がいるので、命の危険を感じる灯里だが、サクヤは笑顔でハンドルを勢いよく回す。


 グラリとバギーの車体が傾いて、斜めに身体が傾いで


「ふえぇぇぇ! 死んでしまうのです! おとーさん、おかーさーん!」


 灯里は涙目になり車体へと身体を押し付けて吹き飛ばされない様にする。この銀髪の人は冒険心ありすぎなのです〜。


「少しだけ回り道をしますよ〜!」


 アハハと元気よく笑いながら、ぎゅるりとドリフトをして横滑りさせていき、蟻人へ車体が横向きになるようにして走るバギー。


 信じられないことにサクヤさんはこの運転を楽しんでいた。そうして横目で近づいてくる蟻人を見て口を開こうとする。


「蟻とキリギリス。貴方はこの話を」


「姉さん、話は無用です。迂遠ですし倒すのに時間がかかりすぎますので」


 そのサクヤさんの言葉を止めて、ナインさんが立ち上がる。小柄な体躯であるのに、ガタンゴトンと揺らぎ震えて立ち上がるのは難しいはずなのに、まるで平原にいるように、すんなりと立ち上がり倒れる様子もなく身体が傾ぐこともなく平然としていた。


 そうして近寄ってくる蟻人へと視線を向けて、ちいさなおててを向けて呟くように言う。


「蟻が人のフリをしていても無駄ですよ。ただ力に任せて突撃してきても、数に任せて敵を倒さんとしても」


 ふふっと小さく可憐な微笑みで告げるのだ。


「残念ながら私と対峙した不運を呪ってくださいね。そのような知性があればですが」


 寸前まで蟻人は迫ってくる。バギーは蟻人に対して斜めに走りながらだが、それでもかなりの速さなのに化け物の身体能力はそれを上回っていた。


 木を蹴り、石を飛び越え、草木を踏み蹴散らしながら、地を蹴って肉薄してきて、硬い外骨格の身でありながらしなやかに槍の突きを繰り出さんとする。


 その突撃は車上に立っていた金髪ツインテールの美しい少女へと向かっていく。風切り音が唸り、その威力により少女が貫かれるかと、灯里はぎゅっと目を瞑った。


 だが、ドシャリとバギーの横から音が響いてきて、恐る恐る目を開けると、蟻人の槍を手にしている少女だけが立っていた。


 振り返ると後方にどうやったのか上半身が無くなっている蟻人が地に放り出されている。


 その様子に灯里はゴクリとつばを飲み込む。なにが起こったのだろうか? 自分にはわからないことなのだろうか?


 気にしないで、スピスピとゲーム少女は寝ている。う〜ん、枕が欲しい、膝枕を希望しますと贅沢な寝言を呟いている。寝言なので寝て言っています。


「ナイン、全部の敵と肉体言語で話し合うんですか? 少し時間がかかりすぎますよ? まぁ、私は構いませんけど」


 サクヤさんがからかうように言うので、肉体言語? と疑問に思うがナインさんはクスリと笑いながら手にある槍をもてあそぶ。


「そんなことはしませんよ、姉さん。素材も手に入りましたし、これで倒すとしましょう」


 そう言ってナインさんは槍を持ち上げて……灯里は信じられない光景を目にするのであったのです。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 更新ありがとうございます。 次も楽しみにしています。 [一言] わぁ、つよい
[一言] 昔から演技力高かったのか...
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