34話 ゲーム少女は人形遣いになる
パーティーができそうなぐらいに大きいリビングルーム。ドカンと大きなガラスのテーブルが真ん中にあり、映画鑑賞が楽しそうなでかいテレビを挟んで、高級そうな座ったらどこまでも沈み込みそうなソファがある。
そのソファにちょこんと座る可愛い少女二人。高スペックなチート美少女と尽くしますよな金髪ツインテールメイド。
中身が詐欺なゲーム少女とナインである。二人が座っているソファの後ろにサクヤが立っていて、カメラで撮影中だ。
三人とも、ゲーム少女がちっこいおててを掲げてマテリアルを使用した結果を見ている。キラキラと人形作成に使用した複数のマテリアルが宙に浮き、そのまま光り輝き一つの輝きになっていく。
光が治まった後に存在したのは一人の少女であった。
「成功:マシンロイド(H)」
とウィンドウに表示されたのを見て、やったぜ、ハイクオリティだと喜ぶ遥。ハイクオリティができる瞬間は昔ネットゲームをやっていたころから好きだった。
それを見るために、使うことがない低レベルのアイテムを作成してシュワワーというかっこいい音と共にハイクオリティができるのを喜んでいたのだ。できたアイテムは使い道がないごみだったのでそのまま店売りをしていた趣味に走るおっさんであった。
さすがに、現実でそんな勿体無いことはできないので、たまにできるハイクオリティを殊の外喜んでいた。
できたマシンロイドは女性型である。ふ~ん、と遥はマシンロイドに近寄ってその美しい顔を見てみる。
グッと手のひらを握りしめ、いい仕事だよこれはと振り向いてナインに感心の笑顔を見せた。ナインもにぱっと笑顔になりすごい可愛い。
そのまま顔を戻して、マシンロイドを見直してみる。ポニーテールの真っ赤な赤毛で勝気そうな目つき、鼻梁はスッとのびており、口元は活発そうに微笑んでいる。背丈は170センチほどだろうか。
ふむふむとゲーム少女はうなずいて、気になるところをナインに聞いてみた。気になるところをちっこい指で指してみる。
「ちょっと気持ち悪いね、これ」
珍しく女性に対して嫌われる言動をする。現実でまさかこんな発言をするとは、明日は大嵐であろうか。
「まぁ、仕方ないですね。これが限界なんです」
うんうんと可愛くうなずいて、ナインも同意をしてきた。
指をさしたのは胴体である。すなわちマシンロイドの体は骨だけでできていた。鉄の骨で体を支えており、中身も何やらピコピコ光っていそうなチップがそこかしこに見える。
こんなの見たことあるぞ、未来からくるやつだ、きっと最後に仲間になって溶鉱炉に自分から入ったりとか自爆とかするんだと遥は思いながら続けて問いかける。
「これを行商人の代行にするの?」
無理だよね。これ? たぶんすぐにばれると思うよ? 骨だよ、骨と指さしながら。
「確かにそのままでは無理です。そのため、続けてライトクリスタルと駅前ダンジョンのボスが落としたプロテクトマテリアル、あとはアイアンマテリアルを使用して強化外骨格装甲を作りましょう」
勿論、そんなの考えてますよ。当然でしょと、ふんすと可愛いどや顔でナインは答えてくる。
「プロテクトマテリアル? あぁ、ダンジョンのボスはそんなの落としていたか」
宝箱を開けることに興味があり、ボスのドロップアイテムを気にしなかった遥。宝箱も開けることに意義を求めているので、何が出たかもいまいちおぼえていない、何のためにダンジョンをクリアしたかわからないおっさんである。たぶん宝箱を手に入れたときのエフェクトが良かったのだろう。
「まぁ、良いや。強化外骨格装甲作成!」
もう一度可愛いゲーム少女が可愛い声でおててを掲げて叫ぶ。
すぐにゲーム少女の前に出現したマテリアルがシュワワンと光り輝き、新たな装備を生み出した。
ドゴドゴと結構な重さを感じられる鎧と思しき装備が床に落ちる。あぁ、良い床なんだよこれと、高級感溢れるリビングの床を傷つけそうな音を立てて落ちた装備を慌てて遥は拾う。
自分の家であるのに、どこまでも小心者なのだ。
拾った装備は身体全体の各種パーツの外骨格みたいである。取り付けることが難しそうな感じである。プラモも作れない遥ではつけている最中に壊しそうな感じである。
「これ、どうやってつけるの? ナインがつけてくれるの?」
繊細なのは無理ですよと、アピールしながら聞いてみる。
「大丈夫です。アイテムポーチにマシンロイドも強化外骨格装甲も仕舞ってください。その後、アイテムポーチ欄で二つを組み合わせれば装備は終了です」
わかってますよ、マスターにそんなことはできませんよねと、悟った笑顔で遥に優しすぎる仕様をナインが答えてくれる。
それは素晴らしいと、遥はアイテムポーチにいったん二つを入れて、ググっと組み合わせてみる。がしょんと二つが組み合わさったので、再び出してみる。
出てきたマシンロイドは、細身のパワードスーツを着た感じのする美人さんに変身した。これなら他人が見てもロボットとばれないだろうと安心する遥。
「では、マシンロイドの仕様を説明します。作成する人形は、マスターのお持ちのスキルから人形作成スキルレベル+1までつけることができます。また、つけられるスキルは自由ですが、人形が使用できないスキルもあり、また付け直すことも改修を行わないとできません。スキルレベルもマスターのお持ちのスキルレベルの半分となります。半分以下に計算されるスキルはつけることはできません。なお、レベルは切り捨てになりますので、レベル3なら1ですね」
ふむふむと遥はうなずいて自分のスキルをステータスボードで確認する。
「まかせたよ。ナインを信用しているからね」
とあっさりつけるスキルの判断をナインにまかせるおっさん。失敗して詰みそうな予感がしたのだ。初期に遊び人スキルしかもたない人形と冒険をするわけにはいかないのである。実に自分のダメさをわかっているのであった。
「了解しました。マスター」
ゲーム少女の横にぴったりと張り付いて、ウィンドウを弄っていく。これとこれでと、と可愛く呟きながらスキルを取得するナイン。ぴったりとくっつくナインに照れる遥。私も私もと無意味に横に張り付こうとするサクヤ。
「完成です!」
終わりましたと満足感をみせる笑顔のナイン。どこかの料理人みたいな感じだ。
完成したマシンロイドを見てみたら、こうだった。
マシンロイド
耐久力:100%
状態:通常
筋力:20
装甲:20
器用度:5
超能力:0
精神力:20
スキル:体術LV1、気配感知LV1、銃術LV1
装備:ショットガン
合金製強化外骨格装甲(防御力20)、
装備までしておいてくれる、しっかり者のナインである。よしよしよくやったね。と頭を撫でる遥であった。
「最後に名前を決めてください。マスター」
なるほど、名前かと遥は納得してあっさり決めた。
「アインで行こう。1号機だし」
ドイツ語って、かっこいい響きだよね。とちょっと数字をひねって名前を決めた遥。昔飼っていた犬もイチやら、ポチとセンス溢れる名づけをすることに定評があったのだ。ちょっとマシンロイドに同情してもいいかもしれない。
「さて、準備は終わりましたね。次は私の番ですね」
ようやく私の出番ですねと、さっきからゲーム少女の相手をしてもらいたかったサクヤがグイグイと顔を近づけて迫ってきた。
因みにおっさんぼでぃなら、全然相手をしてもらわなくても気にしない、おっさんぼでぃの時は撮りためたレキぼでぃの活躍を鑑賞している自分の欲望のみで行動するサクヤである。
サクヤはソファに座り、膝をぽんぽんと手でたたく。遥に座ってくださいアピールである。
「何をするの?」
と、ゲーム少女の可愛い首を傾げて尋ねる。膝に座ると悪戯されそうで怖いのだ。なんとかして逃れたい。でも、美人なメイドの膝である。興味津々だ。だが変態だしなぁと複雑な心境だ。
「勿論、操縦です。これができないとマシンロイドを作った意味がないですよ」
サクヤはマシンロイドと一緒に出現したコントローラーを渡してくる。二つコントローラーは現れたので一つはサクヤが持っている。座るまで教えるつもりはなさそうである。
仕方ないなぁとゲーム少女はサクヤの膝にちょこんと座った。ぷるぷる震えるサクヤ。感動しているらしい。
「では、ウィンドウを開きます。コントローラーのスタートボタンを押してください」
渡されたコントローラーは自分がもっているプレイシマショウ4と同じ感じの作りであった。ぽちりとスタートボタンを押下する。
シュイーンと軽く起動音がして、遥の眼前にウィンドウが開かれた。どうやらアインの視点らしい。そして遥の苦手なFPS視点。すなわち自分視点である。
「ウィンドウの大きさはタッチパネルをなぞることによって変えられます」
こういう風にと、胸を遥の背中に密着させて、遥の持っているコントローラーのタッチパネル部分を指でなぞって変えていく。ぴったりくっつく胸がぽにゃんと感じて気持ちいいと、サクヤの会話をスルーしそうなゲーム少女。
「あ、失敗しました。少しお待ちください」
遥の反応をみて恥ずかしくなったのだろうか? 背中から胸が離れていく。残念だと遥ががっかりして後ろをちらりと見たら、驚きの光景が見られた。
サクヤは自分のメイド服の背中に手を入れて、ぷちと音をさせた。そうしておもむろに胸元に手を突っ込みブラを取り出した。脱いだのであろう。そのままリビングの床にポイとブラを投げ捨てて、またゲーム少女の背中に密着してくる。
遥は唖然としてしまった。サクヤの変態度を見誤っていたと改めて思う。後、背中にはぽにゅぽにゅと幸せな当ててるのよが感じられる。
別に注意する必要はないよね。暑かったんだよね。と遥は室温が完ぺきなリビングルームにいながらそう思うことにした、怒る内容はどこにもないのである。
はぁ~と呆れる声が隣の金髪ツインテールさんから聞こえてきたが、遥も男なのだ。すみませんと謝りながらもサクヤに注意はしなかった。
遥が背中の感触を堪能している間もサクヤの説明は続いた。
「左レバーが移動です。左レバー押し込みでしゃがみこみ。右レバーが攻撃サイトの画面移動。右レバー押し込みでアクションエフェクトの表示。攻撃はL1を押しながら、R1で近接弱攻撃、R2で銃攻撃、L1,R1長押しでR2で近接強攻撃となります。L2が近接での敵のロック。四角ボタンがリロード、バツボタンがダッシュ。丸ボタンがアイテムを調べたり使用及びアクションエフェクトの使用。三角がサブウェポンの使用。十字ボタンが装備の切り替えとなります。タッチパネルはウィンドウの拡大縮小。押下することによりFPS視点から、キャラの後ろからカメラが映っているTPS視点となります。オプションはステータスとアイテムの一覧がでます。また、コントローラーに向けて声をかけるとアインからその声がでる仕様です」
ちなみにアイテムポーチは装備できません。それができると無限にアイテムを仕舞えてしまうのでリュックなどの現物装備となりますと言ってくるサクヤ。意外と難しそうな操作方法である。後、凄いゲームっぽい感じだと遥は思う。それらを聞いたおっさんはFPS視点が苦手なのですぐにTPS視点に変える。
「とりあえず、外にだして戦ってみましょう。さぁ、ご主人様」
わかったと思いながら、左レバーを上に押すとアインは動き出した。
「動くぞ、この機体! 隊長、この機体動きます!」
と一度言ってみたかったセリフを言ってみる遥。かなりどうでもいいことである。
サクヤは突っ込むこともせずに外出しましょうと勧めてくる。
ちょっとツッコミが無いことに、年代が違うしねと寂しく思って左レバーを玄関に向かわせるようにリビングのドアを目指して斜め上に傾ける。
くるくるとアインは回転した。
「リモコン操作なのかよ!」
リモコン仕様はレバーの左右は向きを変えるだけなのだ。前進、後進は上下のレバーの傾けだけで行う。すごい昔の仕様だね、これと呆れてしまう。
もう難易度は遥にとってはヘルモードであった。スキル依存なゲーム少女でしか操作できないだろうと溜息をついて確信をした。
リモコン操作をおっさんぼでぃで使ったら、アインがくるくると回転したまま敵に壊されるイメージしかしない。
◇
とりあえず、玄関から外出するアイン。ようやく外かと思ったらチャララーとなんかBGMが始まった。ウィンドウから流れてくるのである。
「アインでるよっ!」
アインが玄関から出ると叫んだ。なんか音声とかBGMまでついている模様である。サクヤを見てみると、今時のゲームなら音声付き、BGM付きは当たり前の仕様ですよね? という顔でこっちを覗き込んでくる。後、顔がすごい近いので恥ずかしいから離れてほしい。
はぁ~と、改めて溜息をつく遥であった。
外出してみると、外は雑草が生えかかっているアスファルト、周りには静かな家々が見えてくる。そこかしこの家は窓も破れて、血の染みがブロック塀やドアについており、人が住まないのでドンドン荒れ果てている感じである。
がしょんがしょんぎゅいーんと、アインは歩いていくので、振り向いてジト目になる。
「ねぇ、音が機械音なんだけど? ロボットだとばれそうな音なんだけど?」
この音を聞いてロボットと思わない人間は昔からテレビも見たことが無い人間だけだろう。
「仕方ありません。人形作成lv2ではこれが限界なんです。因みにlv1だと糸がついた人形しか作れません」
これが最低レベルなんですと申し訳なさそうなナイン。いいよ? 気にしないよ? きっと強化装甲の音だと周りは勘違いするから大丈夫と過剰にナインを守ろうとする遥。
もはやナインは父性ビンビンの守らないといけないメイドなのだ。守らないで大丈夫な銀髪メイドと違うのだ。
たぶん、人々は体の奥から聞こえる駆動音に気づかないふりはしてくれないだろうと思うのだが、遥は全てを無視することにした。ナインの泣き顔など見たくないのだ。
「ご主人様、敵が現れました! 気配感知がレーダーの代わりとなります!」
ナインに集中していた遥の眼前を防ぐようにサクヤが顔を近づけてくる。近づいてきた分、背中もぽにゅぽにゅだ。幸せいっぱいな遥である。
ウィンドウを見ると気配感知発動! ワーニングワーニング! ディテクトエネミーと出力され、右上にレーダーみたいな丸っこい画面も現れる。その中には赤い点が表示されていた。
「こういうの見たことあるよ!」
ゲームだ、ゲームだと赤い点の方にアインの視点を変える。
街角からアインの駆動音を聞いて集まってきたのだろう。ボロボロの服をきた白目をむいて肉が剥がれているゾンビが足をずるずると肉をひきずるような音をたてながら、うぁぁ~と叫んで近づいてくる。
「ロック! そしてショットガン!」
声に出して操作する遥。一応サクヤに伝えて操作方法にミスが無いか確認する必要があったのだ。
ぎりぎりまで近づいてきたゾンビの頭にサイトを合わせて、ショットガンの引き金を軽く引くアイン。
ズドンと良い音がして、ショットガンから吐き出された鉄の散弾は、見事ゾンビの頭をバシャンという肉が吹き飛ぶ音と共に打ち砕いたのだった。
どっかのパニクッたおっさんとは大違いであった。
「やったぜ!」
またもやアインが叫ぶ。
「ある程度の自動行動をアインは行います。攻撃ボタンを押下すると攻撃したりとか、アイテムを使用する際は自動的にそのアイテムにふさわしい使い方をするとかですね。まぁ、ゲーム仕様ですね」
ぶっちゃけるサクヤである。まぁ、その通りだとツッコミは入れない。だって音声がつくのはゲームでは当たり前だものとおっさんは思う。
次々と集まってくるゾンビ。拠点周辺は大体片付けたのに、また集まってきたのかと遥はアインに攻撃をさせる。
「弱、弱、強攻撃!」
操作通りに、とりゃっ、これでもくらえっ、とどめだ! と勝気そうな健康少女を感じさせる声で叫んでギュイーン、ガショーンとどっかのモビルなんちゃらみたいなロボットが出す音をたてながら敵を倒す。
たまに、ゾンビの手がかすると、うっ。まだまだっ! とかダメージを受ける演技をする親切設計である。それからすべての敵を倒し終えたアインは、軽くジャンプしてやったぜ、私は最強だ! と叫んだのだった。
チャララ~とクリア音も聞こえてきた。
「これなら、安心だ。行商人として活動できるだろう」
できるわけはないと思うのだが、現実逃避してゲーム少女は呟いたのだった。