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コンクリートジャングルオブハザード ~ゾンビ世界で遊びましょう  作者: バッド
20章 たまには暮らす人々を眺めよう

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337話 美少女たちのおでん屋さん

 ガラガラと古びたガラス戸を開けて、恐る恐る入ってきたお客さんは年配者かと思いきや、なんと家族連れであった。夫婦と小さい子供二人。男の子8歳、女の子6歳といったところだろうか。


 こちらの様子を少しの間眺めてから、ほっと安心した表情になる。


「あ〜……やってるかい?」


 尋ねてくる様子は普通の人だ。被っていたフードを取って、こちらを窺うように聞いてくる。


 もちろん水無月晶は笑顔で答えるのだ。僕はこれまでの経験からだいぶおでん屋として慣れているのだから。


「はい。やってますよ。どこにでも好きなテーブルへどうぞ」


「どうぞどうぞ。お冷やをどうぞ」


 レキちゃんがトコトコと歩いていき、テーブルに座ったお客さんたちへとお冷やを配る。コトンコトンと水の入ったガラスコップが前に出されたお客さん、夫だろう人がおずおずと聞いてきた。


「あ〜……すまない、このお水は有料かな?」


 尋ねてくるその視線はふざけて聞いてきた訳ではないと悟った。思わずキョトンとして、その問いかけに当たり前ですよと答えようとした僕より前にレキちゃんが口を挟む。


「大丈夫ですよ。もうお水に困ることもないです。インフラ関係は急いで復旧作業をしていますし、すぐに毎日お風呂にも入れちゃいます」


 腕をグッと折り曲げて、その可愛らしい、そして優しい微笑みで問いかけに答えるレキちゃんを前に、お客さんは深く安堵の息を吐いた。


「そうか……。すまない、酷い生活をしていたものでね。以前はこのお水を1杯飲むだけでも大変だったから」


 その言葉に僕は羞恥に陥る。そっか、そうだよね、私たちもそうだったのにすっかりと忘れていた……。死にそうな思いをしながら暮らしていたのに。


 この人たちは助かったばかりなんだと、レキちゃんはそのことを知っていたから口を挟んだのだろう。当たり前とは決して口にしてはいけなかった。


「ふふふ、では好きなだけ食べていってください。大樹からの援助物資は野菜、肉、お米なんです。殆どタダな上に補助金も出てますからじゃんじゃん食べていってください。あ、お酒とジュースはレキルートで手に入れました」


 微笑みながら語るレキちゃんに僕は呆れる。そこは闇ルートじゃないんだと。レキルートって、そのままだよね。そのレキルートが強力すぎるんだけど。


「他の店は大樹からお酒やジュースを仕入れていますから、うちよりは少しだけ高い! むふふ、お客さんはラッキーです。しかもコラボ中!」


 ジャジャーンと手に取り出すのはストラップであった。キラキラと輝くストラップだが、それはお菓子の袋についていた。先程のストラップをお菓子の袋につけてあったのだ。相変わらずそういう気遣いは凄いと思う。


「はいはーい、四名様なので四つですね」


 ポンポンとリズミカルにお菓子の袋をテーブルに置いていく。それを見て満面の笑顔になる子供たち。ワーッと喜んで、お菓子の袋を開けていく。


「これ、スーパーヒロインの武装くノ一朧だ!」


「私、見たことあるよ! ドームで踊っていたよ、銀髪の女の子だったけど!」


 おぉぅとそれを聞いて後退るレキちゃん。僕もその話を聞いて驚きというか呆れた表情になっちゃう。銀髪の少女……この間レキちゃんにご飯を奢って貰っていた娘じゃないかな? なにか色々と挑戦をしているので有名な少女だ。


 本人は有名なアイドルになりたいらしいが、色物お笑い芸人として有名人となりつつある、とか……しかも何事にも全力投球をしているので財布は常に空っぽらしい。


「あ〜、パチモノには気をつけてくださいね? たぶん武装くノ一おぼろ豆腐とかそんな名前だと思いますから」


 苦笑いをしつつ注意をするが、子供たちはそんなことは気にしない。久しぶりのお菓子に嬉しそうな笑顔を返すだけだ。


「こら、折角のおでんなんだから、お菓子はあとでね」


「は〜い。とっておくね」


「帰ったら食べる!」


 奥さんが子供たちを微笑みながら注意をする。子供たちの嬉しそうな笑顔を見ながらだから全然怒った感じはしないけど。


「そうです。そうですね。折角のおでんなんですから、たくさん食べていってください」


「ん、メニューは壁に貼られている。お勧めはおでんの超盛り合わせ、大人二人分はあるからたっぷり食べれる」


 リィズがそばでお勧めを言うので、素直に注文をしておでんを食べ始める家族であった。嬉しそうな笑顔で美味しそうに食べている。この笑顔を見るのが僕は好きなのだ。


 ふんふんと鼻歌を歌ってレキちゃんが厨房に戻ってくると、お客さんが次々にやってきた。


 てこてことリィズが歩きまわり、注文を忙しくとっていく。レキちゃんは厨房と店内をおでんを運んだりして大活躍だ。僕も会計をして頑張るのだ。


「やっぱり盛況ですね〜」


「ん、私たちが揃うと無敵。姉妹で写真を撮って良いですかと言われないけど」


 ふんふんと鼻息荒く忙しさを気にしないで自信に満ちた表情のリィズ。たしかに若木シティだとたまにそんなことを言われているが、ここではレキちゃんが無名だと言うのは本当なのだろう。誰も頼み込むことは無かった。レキちゃんを普通の娘だと思っている人たちというは珍しい。


 そうしてしばらくしてから、見たことのある人たちがやってきたので驚くのであった。


          ◇


 夕方を過ぎて、そろそろ夜へと時間が移り行く中で彼らはやってきた。どやどやと八人ばかりの団体で。


 ガタイが良い男たちで荒事になれていそうな人たち。荒々しい中年男性の集団だが、生き生きとしていてこのシティの人たちとは違うとわかる。


「お〜! 見たことある店だと思ったら、店員も見たことある娘じゃねぇか!」


「本当だよ、まさか水無月姉妹どころか、幸運の少女もいるぜ」


 ちょうど空いたテーブルへとどやどやと騒がしく座る男性たち。僕も意外な人たちの登場に驚きを隠せないので、不思議に思って声をかける。なんでこの人たちがここに?


「ありゃりゃ、なんでウォーカーさんがここに?」


「そりゃ、ウォーカーだからな。金儲けの話を聞いたら来るしか選択肢はないだろ?」


 不敵そうに笑いながら、ビールを頼む男性。周りの仲間も同じくビールを頼んでくる。


「おぉ、補助金でのセール中か。こりゃついてたな」


「本当だな。おでんを片端から頼むぜ」


「ガンガン飲むぞ〜。カンパーイ!」


 ワイワイとうるさく頼み始めるウォーカーたち。その様子を見て、キョトンとした表情になっているレキちゃんだったが、じわじわとその表情を興味深そうな笑みへと変えていく。たぶんレキちゃんの心の琴線に響いたのだ。


 リィズは知っている人たちだから気にせずに飲み物を用意していた。どんどんとビールを手慣れた様子で置いていくが、いっぺんに8つ持っても軽そうだから、今度僕にもあのバングルくれないかな。


 レキちゃんはウォーカーを知らなかったみたいで、こちらへと視線を向けた彼女は、ツツツと体をずらして僕の横にきた。


 そうして上目遣いで僕の顔を窺うように尋ねてくる。


「ねぇ、晶さん。ウォーカーってなんですか? ゾンビの仲間には見えませんが」


「おいおい、俺たちを知らないのかよ。というかゾンビは酷いぜ、ゾンビは」


 肩をすくめながら、ウォーカーのリーダーが言う。たしかにゾンビの仲間ではない。まぁ、命知らずなところはゾンビと変わらないかもだけど。


「彼らはウォーカー。街から街へと不必需品を売買しながら歩き続ける人たちだよ。いや、実際は車を使うんだけどね」


「ほぉ〜、行商人ですか。車を使って行商?」


 小首を傾げて不思議がるレキちゃん。


「車? ナンバー制ですよね? というかどこから来たんですか? まさか若木シティ?」


 その言葉に男性は頷く。


「そのとおりだ、お嬢ちゃん。俺の名はワタリ、しがない行商をするつまらん人間さ」


 ビールジョッキを片手に渋く言うワタリ。その言葉にレキちゃんは瞠目してリィズへと視線を向ける。


 その視線を受けて、リィズはハッとした表情になりレキちゃんへと近寄っていく。


 二人でこしょこしょと部屋の隅で話し始めるが


「お姉ちゃん! なんて渋い人たちなんですか! 私もウォーカー?」


「ん、姉妹揃って凄腕ウォーカー」


 息のあった二人だ。特に厨二病なところでは以心伝心だった。


「凄腕のウォーカーたる私たち姉妹がいる店に来るなんてなんの用でしょうか?」


「ん、用件を言うとよい。私たちの報酬は高い」


 二人並んでキメ顔でいうが、微笑ましい少女たちなので緊張感はゼロだった。


「おいおい、俺らは飲みに来たんだぜ? 特にそれ以外は用件はねぇな」


「え〜? 車で来たというので、依頼を受けたら車を貰えると考えていたのですが」


「ん、これから私たちの伝説が始まる」


 むぅと頬を膨らませて抗議をするレキちゃんと、自分の伝説を妄想して興奮するリィズ。相変わらず自分の興味のあることを見つけると全てを放置して突っ走る二人だった。


「はいはい、お仕事お仕事、二人共お仕事だよ」


 戻さないとどこまでも突っ走る二人なので僕がストッパーにならないとね。


「ちょっとだけお話を続けます。少々見逃せない話ですので。で、車はどうやって手に入れたんですか?」


 だが、レキちゃんは真剣な表情になり、追及をやめなかった。興味津々で話を続ける。そういえば彼女はつい忘れそうになるけど、大樹側の人間であるし、外の世界で使われる車を気にするのだろう。ちょっとまずかったかも。


「あ〜……俺たちのは初期タイプだ。ほら、トラクターを車に改造していただろう? それを使って行商しているのさ」


「なんとあの時速30キロぐらいが最高速のあの車で? なるほど、それでも旅はできますか」


 ほうほうと納得するレキちゃん。あんな旧型がと呟くように言いながら感心して頷く。そして、使われていることは全然気にしない様子でもあった。全然大樹側じゃなかった。たぶんレキちゃんを区別すると自由側になるんじゃないだろうか。


「もしかして東北とかにも、それで行っているんですか?」


 最近は、東北地方に村を作り広大な農園を経営しようという人が若木シティから地元に戻るのだと移住していて、新しい村が少しずつ増えてきていた。なにしろ外国からは輸入品は無いし、今までと違って農家は儲かると考えているからだ。


「あぁ、あそこには地元に戻って一攫千金を企む奴らが農園をしているからな。まったく命知らずの奴らだぜ」


「そんな人たちに不必要品を売り捌いているんでしょ?」


 僕も口を挟んで言うとニヤリと口元を曲げて笑うワタリ。


「大樹は基本的に必需品しか配布しねえからな。人間は生活必需品だけじゃ生きていけないのよ」


「そうだそうだ。ガラクタでも高く売れるのがウォーカーの醍醐味だな!」


「漫画雑誌から、色々な服や小物。売れる物はいくらでもあるし、相手からはこれまた色々な物を買い取れる。良い商売だぜ」


 口々に景気の良さそうな言葉を口にするが、僕は騙されない。


「まだまだ関東地域以外はゾンビたちが徘徊しているのに命知らずだよ。危なくて命がいくつあっても足りないね」


 そこかしこにゾンビはいるのだ。徘徊しているのはグールやランナーゾンビ、酷いときはオスクネーもいたりする。命がいくつあっても足りないだろうと簡単に推測できる。


「そこは自分の運と武器の力を信じるしかねぇな。それだけの儲けがあるのだからやめられねぇ」


 まさしくウォーカーの言葉を吐いて、グイッと冷えたビールを飲み干し、ドンとテーブルにそのジョッキを叩きつけるとそう言うワタリ。


 その姿はかっこよく決まっており、まさしく凄腕といった感じだった。


 むむと気圧されるようになるレキちゃん。たしかに強面だしね。


「ウムム、お姉ちゃん、私たちも渋くいくには今のやり方を学ばないといけないですね」


 違った、気圧されていなかった。カッコ良さを追求しているだけだった。さすがはレキちゃんである。予想の斜め前に考えがいくことに追従を許さない。


「ん、リィズたちも自分の運と空中戦艦の力を信じるしかない。それだけの楽しさがあるのだから」


 早くもリィズは腕を組んで、胸を張りながらセリフを真似っ子するのであった。というか空中戦艦とは普通にずるいのかも。誰でもあの戦艦なら安心確実であるからして。


「ま、まぁ、その分は実入りが良いからな。稼げなきゃこんなことはしていないぜ」


 ワタリがレキちゃんたちを多少呆れた表情になり見ながら伝えてくるが、その気持ちはわかるかも。彼女たちは子供っぽい。なんというか………興味があるものには全力で首を突っ込むタイプだ。


「それじゃ、静岡県は制圧が終わったんですか? もしかして、制圧が終わってすぐにここまで来ました?」


「あぁ、もちろん制圧が終わったと聞いたから、すぐに来たよ。解放されたでかいコミュニティなんて美味しい市場はなかなか無いしな」


 椅子にもたれて、お代わりのビールを飲みながら伝えてくるが、それは凄い大変だったのではと思う。だって、制圧といっても大群を撃破しただけで、少なくない数のゾンビたちがまだまだ残っている場所だ。しかも制圧したてというのだから。


「ゾンビたちには遭わなかったんですか? グールにも?」


 レキちゃんもそこに疑問を持ったのだろう。気になっている点を尋ねるとワタリたちはお互いの顔を見合せて大きく笑った。なんというか苦笑交じりの笑いだ。僕にも経験があるが、馬鹿なことをしたという表情だと感じる。


「遭ったさ。自然だらけで道も倒木とかに塞がれているし、エンジン音を聞いてそこら中からゾンビが出てきやがった。制圧したての場所を通るもんじゃないと理解したね。俺たちは」


「そうそう、二度とあの道は通りたくねぇ」


「いや、お前がこっちの道が近道だと言ったんじゃねぇか」


 わははと笑い声をあげて、生き延びたことを喜ぶウォーカーたち。


「まったくいくら金があっても死んじゃうと終わりなんだよ? 僕はそういうのは勘弁かな」


 僕は肩をすくめて呆れてしまう。お金がいくらあってもねぇ………。命は一つしかないのだ。


「かっこいい………。今度私もやってみようかな………。ゾンビたちが徘徊する中を進む行商人。そこには一冊の本を手に持ったかっこよくて強い姿があったのだ。そして事件に巻き込まれ………」


 レキちゃんがなんだか妄想に入って、口元に手を当てながら楽しそうにしている。


「ふぉぉぉ~。姉妹でウォーカーやってみる? ここの仕事は1週間だから、終わったら行こう!」


 リィズも困ったことをいうが、ナナさんがそれは許さないことは確実だ。なぜそんなことをしようとするのかと問い詰められるに違いない。たぶん怒られもする。


 そんな二人を仕事に戻るように声をかけていると、ワタリが言った。


「だが、ここは荒れ果てているという言葉がふさわしいよなぁ~。俺たちもあんまり法外な値段で商品を売ることができないぜ。やっぱり商売ってのは平和な環境じゃないと客がいないわな」


「まぁ、命懸けで来たんだ。のんびりと売っていこうぜ。売れ筋はたくさんあるしよ」


 売れ筋ってなんだろう? と疑問に思うとその内心が表情にでたのか僕に声をかけてくる。


「どうだ、買っていかないか? 漫画雑誌や小説、その他ブランド品も色々あるぜ。もちろん崩壊前のもんだ」


「あ~………そういうのね………。僕は良いや」


 なるほど、ブランド品かぁ………たしかにデパートとかに転がっているだろうし、それを求める人もいるのかも。いるのかな? 本当にそれが売れ筋商品なのかな? 


「それに一般女性が作った服とかも色々あるんだ。大樹は布とかでしか売りに出さないからな。ここはフード付きのローブが流行っているらしいが、なに平和な時代が来たと理解できれば売れ筋になるだろうよ」


「う~ん。なるほど………そうやって商売をやっていく人もいるんですね~。そうですね、すぐにこの接木コミュニティが平和となったと理解できるでしょうし。商売がうまくいくと良いですね」


 レキちゃんが感心しながら話しかけて、僕もその言葉に頷く。


 たぶん、こういう人たちがでてくることで経済が生まれるんだろうなぁと思いながら。


 こうやって人の輪が作られていくんだろう。まるで文明発生直後のようだと考えながら、きっと僕たちもそんな人たちの一員なのだと理解するのであった。


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― 新着の感想 ―
[一言] まさかモブおっさんが、未来で幼女で主人公になるとは誰も思わんのだった。
[一言] >「そのとおりだ、お嬢ちゃん。俺の名はワタリ、しがない行商をするつまらん人間さ」  ああ、ここか。  ここで接点が出来て、別作品にて異世界でのワタリ達が商売で大活躍するのか。
[気になる点] 「あ〜……すまない、このお水は有料かな?」  尋ねてくるその視線はふざけて聞いてきた訳ではないと悟った。思わずキョトンとして、その問いかけに当たり前ですよと [一言] えっ、水1杯3…
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