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コンクリートジャングルオブハザード ~ゾンビ世界で遊びましょう  作者: バッド
19章 西日本に行ってみよう

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321話 悪徳ビルは興行を終える

 ゴゴゴゴゴゴとビルが震えて、乗っているエレベーターが揺れるのをモンキー秀吉こと、大上秀吉は身体を恐怖で震わせながら感じていた。


「なんてこった………やっぱり人間が最後に勝つってのは、映画の中だけじゃないんだな」


 ボソッと呟いて、また大きく揺れるビルに恐怖する。エレベーターが降りていく中で外を見るとビルを囲んでいた車両は斬り裂かれているが、その周りで未来から来た兵士のように装甲服を着こんだ者たちが次々と貴族と言われていた人間の成れの果てを撃ち倒していっていた。


 あれほど強いと思われていた貴族たち。トンボのような羽をもち、高速で飛行機では無理な空中機動をしながら装甲服の兵士へと噛みつこうと、大きく口を開きぞろりと生えた牙を見せて近づく異形は、さらに上をいく空中機動をする兵士にあっさりと躱されて、その手に持つビーム砲だろうか、その銃口から放たれる白光に焼かれてカトンボのように落ちていく。

 

 地上を走る5メートルはある巨大なカマキリのような異形は自慢の鎌で高速の剣撃を振りかざして兵士たちを斬り裂こうとするが、兵士のもつ大太刀によりあっさりと鎌の攻撃をいなされて、足止めを受けたところで、他の兵士の鋭い剣速の攻撃により斬り裂かれていく。全てがそのような兵士が圧倒的な有利な中で戦闘が続いていくのだ。


 異形の者たちは抵抗らしい抵抗をすることもできずに次々と虚しく倒れていく。連携もできずに個別に戦う異形は極めて練度が高いと思われる連携をとる兵士たちの相手ではない。


「へっへっへ、所詮人間の力には勝てねぇってことだよな。まぁ、これが馬鹿な異形たちの最後ってわけだ」


 今まで良い思いもしてきたが、それと同じぐらい命の危機に襲われて恐怖に縛られていた生活を思い出しながら異形へと視線を向けて嘲笑う。


「まぁ、充分稼がせてもらったからいいけどよ。俺のアイデアは異形の支配する都市でも通じたってことだ」


 呟きながらモンキー秀吉はリュックを背負いなおし速く地下へと到達しないかと貧乏ゆすりをする。


 そんなモンキー秀吉の正体。


 地方でプロレスの貧乏興行をしていた貧乏興行主。


 それはただの人間であるということであった。


 それがモンキー秀吉こと大上秀吉の正体であった。


 たんなる人間。異形ではなく元から人間であったのだ。そこには青い血すら一滴も入っていない。


 この多くの生存者たちが住んでいるコミュニティ。異形が貴族として支配をしており、人々を異様な環境で苦しめる。そんな地獄のような世界を作り出していたボスはたんなる人間であったのだった。


「東日本からの兵士たちか………。まさか本当に魔人や異形たちを倒してしまうような技術をもっているとはな………。ありゃ、量産されているだろ、特撮ヒーロー一人だけじゃねぇ」


 空中を装甲服のバーニアから蒼い輝く粒子を吐き出しながら高速で機動をする兵士たちを眺めながら推測する。


 現実なのだ。特撮ヒーローのように主人公だけがその武器を持っているわけではない。なぜかオリジナルより量産機のほうがアニメなどでは性能が悪いが、現実となると量産機の方が性能は良いに決まっている。


 使いながら性能をチューンさせていき、どんどんと性能をあげて派生機を増やしていく量産機に対して、その量産機を相手にできる最初の試作機などあるわけがない。


「もう化け物たちの世界も終わりって訳か。これからは人間の世界が戻ってきますよってな………。へへへ、俺の考えは正しかったわけだ」


 秀吉は薄く笑い、自分の計画が正しかったことを確信する。


 レジスタンスたちはモンキー秀吉の名前もほとんど知らないだろうし、知っても異形種だと考えているだろう。瑠奈は俺がボスだと知っているが、きっともう異形へと変わっていると考えているはずだ。


 当然だ。まさか人間が異形を支配してこの都市を運営しているなど誰も思わないだろうから。


 そこで逃げる際に現れた少女を思いだす。子供のようにしか見えないが、それでも美しい少女であった。可愛らしさを内包した少女でもあるが、眠そうな目の中に冷酷な光が輝いている感じがして、秀吉は相手が子供にしか見えないのに心底恐怖をした。


「神………。まじか? クドラクはどうも狂っちまって俺の命令を効かなくなったし、たんなる戯言か? 神々しい感じはしなかったが………」


 己の闇が光にあてられてなんとかとかクドラクは言っていたが、まぁ、化け物のいうことだ。戯言だろう。


「それよりなんだよ、あの力は? 化け物を相手にあんなに圧倒的に戦えるなんてよ」


 ぼやくように呟くが、推測の域を超える事は出来ない。人間レベルの戦闘の達人如きでは倒せるわけがない化け物たちをあっさりと倒したのだから。意味が分からない。


「それに支配が解けちまったみたいじゃねぇか。やはり化け物のいうことなんざ聞いたらいけねぇな」


 クドラクは自分の命令を撥ね退けた。苦しむ様子もためらう様子もなく。完全に支配から逃れたのだろう。


 クドラクを与えられた時に言われた言葉を思い出す。


「たしか………絶対に逆らうことが無い完全なる忠誠をもつ、人間とは違い裏切ることがない戦士………だったか? あほうが、肝心な時にあっさりと裏切っているじゃねぇか。いや、正気に戻ったという訳か?」


 忌々しそうに言いながらも、気を取り直してこれからのことを考える。


「まぁいい………。これだけ稼がせてもらったんだ。俺の正体を知っている瑠奈は死んでいれば良いが、死んでいない場合はどうしようか………。そうだな、洗脳されていたとか言い訳をしておくか。俺は人間だし、誰もボスだとは思わないだろう。洗脳が解けたときに周りに置いてあった金目のもんをもって逃げてきた。………うん、いけそうだな。それでいこう。アホな小娘なんざ、簡単に言い含めることができるだろうよ」


 ヒッヒッヒッと自分の計画性の凄さに含み笑いをする。人間であるというのが肝なのだ。これが肝心ということなのだと。


 チンと音がして地下駐車場へ到達したことをエレベーターが教えてきて、ガララとドアが開くのをまだかまだかと秀吉は待つのであった。


          ◇


 モンキー秀吉こと大上秀吉は大上二郎とその娘の瑠奈と崩壊した世界を生き残ってきた。ゾンビたちをなぎ倒して、なんとか逃げまくり小さいながらもコミュニティを作り生き残ってきた。

 

 なんとか生き残ってきた他の生存者も保護していき、それなりに人が多くなってきて食料問題などをどうするかと話し合っていた時であった。


 立派とは言えないが、それでもゾンビたちを防ぐのには充分なはずのバリケードをあっさりと打ち破り、異形が現れたのだ。


 それは圧倒的であり、生存者たちを守っていた二郎を含める人間たちを赤子の手をひねるようにあっさりと倒していった。


 なぜか殺さずに手加減をしていき、ついに最後まで抵抗していた大上親子をねじ伏せた後に、ゆっくりと恐怖を思い出す目を開き声をかけてきたのだ。


「どうだ? 人々を苦しめながらも生活をさせる方法。その方法をアイデアを提案できる人間は命を助けようじゃないか」


 寒々しい声音の言葉は、冷たく自分たちを襲い心を折った。秀吉はガタガタと震えながらも自分の命を優先にして、ボソッと呟くように提案をしたのだ。


 その提案を聞いて、ほぅと感心する化け物はそのまま秀吉を連れて行った。


 ボロボロのビルまで連れて行き命令を出したのだ。


「秀吉と言ったか………。偶然であるが、その名前は………。くっくっくっ。世は巡るも因果関係は消えないということであるか………。猿、貴様を雇おう。これからは貴様がこの都市に人を集めて、恐怖の感情を集めていくのだ。絶望を味わわせていくのだ。その代わりに貴様には良い報酬と命を助けよう」


「僕が君を支える魔人を渡すよ。何がいいか、希望を言ってね」


 化け物の隣にいた小柄なローブを着こんだ男が楽しそうに声をかけてくるのをぼんやりとその時は聞いていたのだ。


 いつの日か、この支配は終わるだろうと考えて。その時に上手く立ち回り生き抜けるように。


 そのために、ドームでは二郎をボスとした。狼男の青い血を輸血してできた狼男のレプリカ。狼男を支配できる吸血鬼クドラクにより、心を支配してボスとして君臨させた。


 なんとか人間たちにボスが倒せると思わせるのがミソだったのだ。倒せそうで倒せない。異形の化け物や魔人と違い、狼男レプリカはそこまでは強くない。だが、倒せないのだ。


 レジスタンスは希望をもって二郎へと戦闘を挑み、そしてぎりぎりの差で負けていく。希望が消えて嘆く人々の絶望は良いエネルギーとなったと雇い主の化け物から褒められた。


 次にそのエネルギーを使いクドラクを強化したあとに、都市の概念とかいうものを変えられると言われて考えた。


 人間同士の戦いが起こるように、感情の揺れ幅を大きくできるようにと。


 それもまた大当たりして、武器を配り、多少の食料を見せれば、お互いに奪い合うという負の力が増えたのだ。自分では分からないがボスが感心したと褒めてくれた。


 そうして次に………。と様々な提案をしていき、自分の立場を安定させたのだ。


 ただし、秀吉は思い違いをしてはいなかった。


 自分は人間である。脆弱な人間である。化け物が軽く腕を振るうだけで殺される人間だ。いくら支配権を強くしてボスの覚えめでたくなっても、簡単に殺される人間だ。


 人間同士の勢力争いと違うのだ。周囲の異形を配下にしても忠誠などはないと考えていた。異形たちは最初からどこかおかしかったこともある。まともに安心して会話ができるのは皮肉なことに魔人だけであった。


 なので、いつかくるだろう人間たちの反撃を信じていた。だからこそ、自分が人間であるとは周りに見せなかった。


 自分の周りには吸血鬼の女性を侍らせて楽しんだ。人間であれば情が沸き、そこから自分の正体がばれるかもしれないと考えて。


 次に財宝を集めまくった。人間たちが反撃をするときはきっと組織的であり、大軍であろうと考えて金目のものだけを集めた。


 最後に自分は一切表にはでなかった。ボスの名前だけは伝えて聞かせて、まったく人間たちの前にはでなかった。


「天才だな、俺は。なんで今までしょぼい興行しかできなかったんだ? まぁ、それも今日で終わりだが」


 カバンにもリュックにも宝石やら金やらが詰め込んである。こんな崩壊した世界では役に立たないと思われがちなものだが、秀吉は人間が復興すれば必ず価値が復活すると信じていたのだ。


「俺の考えは正しかったわけだ。あとは東日本のコミュニティに紛れ込むだけだ。へっへっへ、きっとこれだけ金があれば大丈夫だろ」


 崩壊前は見たこともないほどの大金を見ながらほくそ笑む。


 地下駐車場へと続くエレベーターのドアが開いたので、急ぎ足で密かに用意しておいたリムジンまで歩いていく。


「ちっ。重いな、こりゃ。金とかってこんなに重かったのかよ」


 ひーふーと息をきらせて、汗だくになりながらもリムジンの前に到着して、キーのボタンを押すとピピッと音がして鍵が外れる音がするので、ドアを開く。


「トランクを開けねーとな。急げ急げ」


 トランクを開けるボタンを押下して、車の後部トランクケースを開ける。


 がちゃりと音がして開くトランクケースの中へとリュックを詰め込み、カバンを投げ入れる。


 ポロリと宝石のついた博物館に置いてありそうな腕輪が落ちていく。


 カラカラと音がして落ちていくのを慌てて追って拾う。


「これ一つで家が建つかもしれねぇからな。置いていくことはできねぇ」


 全ての荷物を押し込んでトランクケースを閉める。


 バタンと音がして、閉まったことを確認した秀吉はすぐにリムジンに乗り込み、ハンドルを掴むが━━━。


「あぁっ! くそっ! ガソリンがねぇじゃねぇか! くそっくそっくそっ! 入れておけと命令しておいたはずだぞ」


 ガソリンがないことを示しているメーターを見て罵りながら、急いで外へとでる。


 どたどたと駐車場に設置してある小型ガソリンスタンドからガソリンをいれるホースを取り出して、リムジンの燃料口を開いて差し込む。


「あ~、くそっくそっ! 早く満タンになれ!」


 再び運転席へと戻り、イライラとメータを見ながらぼやく。ゆっくりとメータが右上がりに上がっていくのを見ながら愚痴る秀吉。


 そこに窓を叩く音がして、驚いて窓へと顔を向ける。


 ゾンビか? と恐怖で心臓が掴み取られるように感じながら見るが、現れた奴を見てホッと安心の息を吐く。


「あんだよ、二郎か………。お前も逃げてきたのか?」


 窓には血だらけとなった人間へと戻っている二郎がいた。ボロボロだがなんとか生きているようだ。


「おう、二郎だ。なんだよ、秀吉、お前だけ逃げるつもりか? ちょっと酷くねぇか?」


 轟音が頭上から鳴り響いてくるなかで、疲れたように尋ねてくる二郎を見て、秀吉は愛想笑いをしながら窓ガラスを開く。


「生き残っていたとは思わなかったんだよ。どうやら俺たちは生き残ったみたいだな。相変わらず俺たちは図太い命をもっているみたいだな。一緒に逃げるぞ、ここはもうおしまいだ」


 二郎は今は傷ついているが、すぐに狼男の再生能力で回復するだろう。護衛にはちょうど良い。もしも東日本で問い詰められたら、捨てちまえばよいと考えながらも愛想よく二郎へと声をかける。


「そうだな………。もうおしまいだ。で、俺は車に乗れば良いのか?」


 疲れたような声音で問いかけてくる二郎。その様子に多少の違和感を感じながらも、それどころではなく早く逃げないといけないとの焦りが理性を覆い曇らせて秀吉はお願いをする。


「いや、リムジンのガソリンが満タンになったからな。そこのレバーを外してくれ。燃料口に蓋をしたら逃げる準備は万端だ。逃げるとしようぜ」


「あいよ、少し待っていろ」


 よろよろとよろめきながらも後ろに行く二郎を見てから、すぐにハンドルを掴み前へと視線を向ける。いつでもエンジンがスタートできるようにと。


 レバーが外れる音がして、足音がこちらへと戻ってくるのを耳に入れる秀吉に声がかけられた。


「おう、秀吉。これか?」


「あん? なにがだよ? 早くの」


 戻ってきた二郎へと早く乗れと振り向いて言おうした秀吉だが、口へと何かが勢いよく入れられて苦しむ。


「ぐ、ぐぼぼぼ」


 窓ガラス越しにガソリンを入れるレバーを秀吉の口へと入れられたのだ。


 ガソリンの嫌な臭いが口内を巡り、すぐに入りきらなくなり漏れだし、車内へとドバドバと噴き出していく。


「な、なに、な、なにを」


 ガソリンまみれになって、苦しみながら聞く秀吉に、ゆっくりとした口調で二郎は告げる。


「俺ぁ、娘に負けちまったし、そろそろ引退しようと思ってよ。ここはお前も付き合ってくれや」


 ガソリンをどんどんと入れながら肩をすくめて淡々と言う二郎。


 ようやく秀吉はその様子に二郎の理性が戻っていることを理解した。


「までっ、までまで、これだけか、金があれば楽に生きることが」


 説得をしようとする秀吉に二郎はかぶりを振って苦笑する。


「俺たちは金が欲しくて、貧乏興行をしていたわけじゃねぇだろ? そんなことも忘れちまったとは悲しいねぇ。金が欲しけりゃまともな働き口を探せば良い。俺たちはプロレスが好きだから貧乏興行をしてきたんだろ?」


「ば、ばか、今はそんなことを言っている時じゃ」


 車内へもガソリンが溜まり始めて焦る秀吉に、二郎はゆっくりとポケットからライターを取り出して見せる。


 ライターを見て驚愕する秀吉。二郎が何をするか理解したからだ。


「やめ、やめろぉぉぉぉぉ!」


 秀吉の焦る顔を見ながら、優しい目となる二郎は最後の言葉を紡ぐ。


「今度は地獄で鬼相手に貧乏興行をしようぜ………。なに、きっと俺たち二人なら楽しい興行となるさ」


 ためらうこともなくライターに火を点ける二郎。


 ボッと火が点灯して、すぐに周りのガソリンへと伝わっていく。


 次の瞬間に地下駐車場は爆発をしてビルを倒壊させて燃やしていった。


 リムジンにある金も、死に怯え、金に目がくらんだ愚か者も、洗脳されたプロレス好きな男もその炎に包まれて消えていくのであった。

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