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コンクリートジャングルオブハザード ~ゾンビ世界で遊びましょう  作者: バッド
19章 西日本に行ってみよう

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314話 ゲーム少女は下水道に潜る

 ざわめく街中はレジスタンスの勝利を喜ぶ人々の笑顔が見られた……という訳ではなかった。バラックの屋台には来た当初よりも缶詰が多くおいてあるかな? 気のせいかな? というレベルだし、歩く人々は戦争の匂いを嗅ぎ取り、人通りは少なく慌ただしく早足で去っていく。


 人々はレジスタンスの勝利を祈っているのだろうが、それは手詰まりとなっているのだから。


 なぜならば悪徳ビルを包囲している方向からひっきりなしに戦車砲の砲撃音が聞こえてくるが、ビルが崩れるどころか、壁が粉砕されたという噂も聞かないのだ。遠目で見てもガラス窓はピカピカでヒビがはいる様子もない。悲しいことに。


 そんな不穏な空気の中、フードを被った二人の少女はその街中をてこてこと歩いていた。


「どうやらレジスタンスは悪徳ビルの壁に傷もつけられないみたいですね、霞」


 フードからちらりと覗く美少女が口を開く。美少女なのだ、謎の放浪者なのだ、謎のレキなのだ。影におっさんの姿が見える? 眼鏡を買いましょう。


「そうだね〜、司令の予想通りにビルを破壊できる武器はないみたいだよね」


 のほほんとした口調で、霞が頭の後ろで手を組みながら答える。


 街を制圧したレジスタンス。抵抗は人間のみであり、狼男もビルに戻り結果を見ればあっさりとしたものであった。抵抗していた人たちも元々は化物の支配を嫌がる人々だ。少しばかり形程度に抵抗してすぐに降参する。怪我人が出たぐらいで死人も多少しかでていないであろう。レジスタンスの評判はうなぎのぼりというやつだった。


「このまま本部を制圧できれば、レジスタンスはここのボスとして君臨できるでしょう。まぁ、少ない食糧に生産が止まる武器、この先は混乱の世界となってしまいますが」


「ムフフ、そこに救世主な大樹登場っというわけだよね? たくさんの物資がありますよ〜って」


 冷静にレジスタンスの未来を口にする遥に、バンザ〜イと霞が嬉しそうに両手をあげる。


 コクンと遥は頷くが、そううまくいかないのがこの崩壊した世界である。なにしろ化物たちが闊歩している世の中なので。


 あと大樹のやり方が凄いえげつない感じに聞こえるのでやめてほしい。これは普通なのだ、レジスタンスのためを思ったのだからして、他意はない。たぶん。


「レジスタンスは朧や霞、そして追加で大量の食糧を持ってきた私を見て、東日本からの軍が来るのをひしひしと肌で感じ取っています。だからこそ主導権をとるためにも急いで悪徳ビルを制圧したいのでしょうが……。まぁ、無理ですよね」


「おぼろんに制圧のお手伝いを頼み込んでいるもんね。武装はどれぐらいで修復が終わるのかって毎日尋ねてくるし」


 呆れたような声音を混ぜながら苦笑いをする霞。他人任せではあるが、魔人を前にしたら選択肢はないのであろうからして。苦渋の決断でもあるだろう、彼らは2年の間、戦い続けてきたのに、ぽっと出の人間に助けられてしまうのだから。


 その話にふと気になることがあったので、遥は霞へと不思議そうに尋ねる。


「そういえば朧が特撮ヒーローとか呼ばれてましたけど、あれなんですか? サクヤは教えてくれませんし」


 ウィンドウ越しにサクヤへと視線を向けると、ヒューヒューと口笛を吹いて明後日の方向を見ているので、なにかしら悪いことをしているのだと想像はつくが。


「アハハハ、それは知った時のお楽しみということで。きっと聞かないほうが楽しいですよ、ウッキー」


 パチリとウィンクをする霞はサイドテールをフリフリと揺らしながら答えるので、それもいいなぁと忘れることにする。サプライズも楽しそうだと。


「では次です。車両の解析は終わった? ナイン」


 ウィンドウ越しにビキニ姿でリビングルームを泳ぐふりをしている意味不明な銀髪メイドは無視して、もう一つのウィンドウに映るナインへと視線を向ける。


 コクと小さく可愛らしく頷き、ナインは言う。


「マスター、下水道に向かいながら話すと注意散漫になりますよ? とりあえずどこかで休みましょう」


 一気に情報を集めようとするゲーム少女へ、メッと指先でつつくフリをする愛らしさの塊なナインであった。


 は〜いと素直にそこらの瓦礫の上に座る二人。そういえば朧は? という疑問は今度は朧が留守番となっただけである。


「マスター。車両の解析を終えました。分解した結果がこれです」


 もう一つのウィンドウを開くと、研究所に分解されネジも一つ一つ並べられたこの間手に入れたバギーがあった。シャーシからなにから分解されており、白衣を着た幼女たちとツヴァイが周りで難しそうな顔をして、なにやら話し込んでいる。芸が細かい。


 耳を澄ますと、今日のお昼はホットケーキにしまつ。生クリームたっぷりでお願いしますとか小声で話しているのが耳に聞こえるのでたんなるポーズだとわかってしまう。


 背景に凝ったナインがフンスと息を吐いて、ドヤ顔で説明してくる。ドヤ顔のナインも愛らしいし珍しい。


「このエンジンがなぜ動くのか私たちはわかりませんでした。ですが空中戦艦のラボで解析した結果がこれです」


 ピコンとエンジンが拡大される。エンジンは分解されておらず、そのまま車両から抜き出したのだろうことが見てとれる。


 エンジンがふわりと光の粒子に包まれたかと思うと、普通のエンジンにしか見えなかった物が一気に様相を変えるので驚く。


「なんと……呪われそうなエンジンですね」


 遥の言うとおりにエンジンは不気味な様相を見せていた。赤黒い血の色をしているアメーバのような軟体生物みたいな物がエンジンを覆い蠢いていたのだ。


 遥がエンジンの様相を見たことを確認して、ナインは話し始める。この不気味なるエンジンの正体を。


「これは人の血とダークマテリアル、即ち人の闇の部分を混ぜ込んだ呪いのエンジンです。悪質なことにこの車両を使い続けた人間は衰弱して死にいたるでしょう」


「うげっ! そうなると本当に呪いのエンジンなんだね。ということは密かに軍人崩れさんたちは死んでいったというわけか」


 人工的に呪いのエンジンを作るとはと舌打ちする遥。死んでいった人間の負の力も回収できて一石二鳥なのだと予測する。


 遥の考えを読みとったナインも頷き肯定する。


「この悪徳コミュニティはエリア概念、経営の仕方から全てが極めて悪質です。車両は数ヶ月は利用しないと効果がでないのでレジスタンスは今のところ大丈夫かと思います」


 至極真面目な表情で告げるナイン。そこは大丈夫なのねと安心するが、軍人崩れも仲間になっているのだ。早いところ対処しないとまずい。


「そろそろ大樹軍の出番でしょう。レジスタンスは周囲を制圧したという功績を以て、名古屋コミュニティの主導権を握ってもらいましょう。少し微妙な功績ですが……」


 ふむんと考えながら、遥は指示を出すことに決める。


「四季たちへ準備だけはしておくように連絡をしておいてね。私たちが空間結界を破壊したらすぐに動けるように」


「了解です。準備をするように伝えておきます。あまり根を詰めないようにしてくださいね」

  

 コテンと首を傾けて花咲くように癒しな言葉を言ってくれる金髪ツインテールメイドに、愛らしいなぁと思いながら頷き返す。根を詰めた毎日を過ごしていたから帰ったらゆっくりしようとも決心する。根を詰めたどころか、ダンボール箱に子供をつめて、キャッキャッとトラックごっこ遊びをしていたゲーム少女の言がこれである。


「さて、新スキルも手に入れたし、話も終わったから下水道に行くとしますかぁ〜」


 う〜んとちっこい腕をう〜んとあげて、背筋を伸ばして首をコキコキとほぐすようにする遥。


「新スキル、人形操作レベル3! 司令に貰ったこのスキル活用してみせるからね! 他にも色々とスキルレベルが上がったし」


 霞がフンスと鼻息荒く立ち上がり宣言する。遥を見ながら力強く拳を握りながら。


 そうなのである。久しぶりにスキルを取得した遥である。なにを取得したかというと新たに人形操作スキルレベル6を取得。そして氷、炎、雷念動をレベル6、投擲レベルを4まで上げたのである。これで残りスキルポイントは10となった。


 人形操作スキルは文字通りに人形を操作するスキルだ。例えて言えば機械操作スキルと運転スキルのように似て非なるもの。これで滑らかに人形を霞は動かせるだろう。


 氷などはこの間の戦いで力不足を感じたのでレベルを上げたのだ。なにしろもはやアイスレインでは敵の火炎壁も消火できなかったので。投擲は意外と使えるのがわかったのでレベルを上げた。まぁ、牽制ぐらいには使えるだろう。


 黒いエイリアンと戦うゲームでは初回ゲーム時は投擲スキルを上げて荷物を投げて敵を倒したものである。でも結局は銃系スキルを上げたほうが強かったが。アイテムに変身できるスキルが楽しかった記憶がある。敵がアイテムに化けていたときは心底驚いてコントローラーを落としたりしたが。


 そうして来る前に謎の科学者ごっこをして、朧と霞のスキル構成を変えておいた。新しい戦法が取れると嬉しそうにしていたが、四季たちがウィンドウ越しに恨めしい視線を向けていたので後でフォローは必要だと思う今日この頃です。


         ◇


 人気がない外縁のマンホールの上に二人は到着して周りを見る。


「一応一回りしましたが、特にマンホールが開いているといったことはありませんでしたね」


「だね。でもマンホールから出入りをしているわけではないかもですよ?」


 遥が確認した内容を霞と話し合いつつ、マンホールへと手をかけて嫌な顔で予測する。日本の下水道は綺麗だと言われていたのを聞いたことはあるが崩壊後は垂れ流しになっているから臭いだろうなぁと。


「ご主人様、様々な石鹸やシャンプーを用意してありますので、帰還後はお風呂に入りましょうね。一緒に」


 物凄い綺麗な微笑みを魅せる一見できるメイドに見えるサクヤ。だが、今までの行動から考えるに騙される人は小学生でもいない。


 あと、手をわきわきとエロい感じで動かしているのが見えるので、自分の考えを完全に隠蔽できない変態メイドな模様。


「はぁ、まぁ、仕方ないか。レキは常に綺麗で美しく可愛げのある世界一の嫁じゃないとね」


 遥も充分アホな模様。嫁馬鹿過ぎるとでも呼べば良いのだろうか。


 そんなコントをしつつ、マンホールをエイヤッと開ける。マンホールオープナーが無くても開けられる筋力だから問題はない。


 シュタンシュタンと二人はハシゴを使わずに飛び降りて、羽を持つかのように華麗に着地をする。もはや人目が無いので脆弱な少女のフリをする必要もないし。


 霞が素早く周りを警戒する。暗闇の中でも暗視ができる二人は問題はないが……。


「くちゃい……くちゃいです。ガスマスクを持ってくるべきでした。……ですがこの臭いは……」


 遥は眠そうな目を通路の先へと向けて呟く。


 鉄錆のような腐ったような臭いがしてくるのだ。これがなんの臭いかは崩壊後はたっぷりと経験をしている。


「死人の臭いだね〜。外縁の穴から這い出てくるゾンビたちは外からではなく、下水道から来ていたのかも?」


「どこかに大幅に崩れて下水道と繋がっている場所があるのかもしれません。うめき声も近い感じがしますし、さっさと確認するよ、霞」


「ラジャーでウッキー」


 小さく敬礼する霞を横目に移動をしようとすると、遥を手で押しとどめてきた。


 むふふとほくそ笑むように笑いながら霞はドヤ顔で遥へと言う。


「ここは任せて司令! 忍法口寄せ!」


 うっきーと指を組み、印を組んだ霞は新忍法を披露するべく超常の力を発動した。


 似非印が組まれると霞の周りに念動力でできた半透明の小動物が無数に生まれ始める。霞得意のサイキックウェポンでのクリエイトされた武器と霞は言い張る分身人形だ。しかも人形操作が新スキルとして取得されたので軽やかに動かせることもできるというおまけつき。


 ついに霞の分身術は本物となったのだ。


「司令、この小動物たちで下水道を探査させます。引っかかった場所へと向かいましょう」


 きりっとした表情へと変化させ、目を瞑り小動物たちを動かす。


 ちゅぅちゅぅと小動物たちは下水道を車のような速度で突き進んでいく。


 複雑なる下水道、そして空間結界にて感知不能でもあるダンジョンめいた場所であるが、口寄せの術と言い張る霞の分身術で周囲を探索するのだ。二人で探索するよりは断然効率的である。


 真剣な表情で綺麗に背筋を伸ばして印を組みながら目を瞑り小動物を操る霞を見ながら、遥は呟く。


「なんで、ジャンガリアンハムスターなんだろう? 簡単に捕食されそうな可愛らしさなんだけど? ふくふくと太っていて、蛇なんかに簡単に食べられそうな勢いなんだけど?」


 小動物はジャンガリアンハムスターであった。なぜドブネズミとか普通のネズミにしなかったのであろうか?


「ご主人様、それは簡単な答えです。可愛いからですよ。ほら宴会芸でドブネズミなんか出したら顰蹙ものですが、ジャンガリアンハムスターだと可愛くてみんながホンワカするでしょう?」


 サクヤがウィンドウ越しにむふふと楽しそうな表情で言う。宴会芸としての活躍を期待する忍法とはサクヤはなにを期待しているのだろうか? あと、誰がジャンガリアンハムスターを勧めたのかも判明した瞬間である。


「するでしょう? じゃないよ。ジャンガリアンハムスターだと目立って仕方ないじゃん! 下水道で走っていたら怪しむ以外の何物でもないと思うよ?」


 一応常識をもっていた遥。自身は段ボール箱で突っ走っていたのはヒヒロイカネでできた記憶の棚に置いてあるので問題ない。


「大丈夫ですよ。ドブネズミでもジャンガリアンハムスターでも、車よりも速い速度で走っていたら怪しまれることは確定ですし。それに半透明ですよ? ハムスターの幽霊と思われるのがオチです」


「う~ん………。まぁ、それもそっか。あの速度で走る小動物なんて、目ざとい敵ならばすぐに気づくだろうしね。……それに半透明だし」


 なんか丸め込まれた感じもするが、たしかにその通りである。あんな異常な速度で走る小動物は存在するはずがないので、小動物の選択はなんでも良いのだろう。それにサイキックウェポンはよほど詳細を練って作らないと半透明になってしまう。無数の探索用ドローンともいえるハムスターにそこまではいらないだろう。


 そうして霞が集中して探索している様子を見る遥。真面目な霞はなかなか見られないが………。


「なんだか、脇腹をツンツンとしたくなりますね。あの集中した様子を見るとツンツンとしたくなりますよね」


 人差し指を突き出して、霞の周りをウロウロと歩き回りながら、つついちゃうよ? つついちゃうよ? というプレッシャーを与える悪戯っ娘がここにいた。


 瞼をピクピクと震わせて、気配を感じ取り、いつつつかれるのかな? いつつつかれるのかな? と動揺を見せる霞。実はというとわざわざこんなポーズで集中する必要もないのだからして。


 分身の術を使いながら戦うのに、こんな集中しないといけない状況ならば使う事はできないのだから当たり前である。


 だが、美少女が周りをわくわくとした無邪気な表情でうろついているのに、今更このポーズは必要ないですとも言えず、身体をプルプルと震わすやはりどこか抜けている霞であった。


 触るぎりぎりまで、人差し指を近づける遥。それを何回も行うのでプレッシャーに負けて霞がふきだす。


「ぶはっ! し、司令。見つけました。見つけましたから。それは止めてください」


「おぉ、さすが霞! それでは問題ないですね、てやっ」


 見つけたならば、もう問題ないですねとツンツンと脇腹をつつく遥。キャハハハと笑いながら、体を捻り躱そうとする霞。そして、その無邪気な様子をニコニコと笑いながら見つめるナインと無邪気なご主人様も可愛いですとカメラドローンで撮影するサクヤ。


 混沌としたあほらしい光景の中で、霞があはははと笑いながら言葉を紡ぐ。


「み、見つけました、司令。18か所に空間結界を張っている敵がいるみたいですよ~」


「それではその場所に高速で移動しましょう。さくっと倒してこのコミュニティのボスへと詰めよりましょう」


 霞の報告を聞いて、ようやく移動できるねと満足そうに微笑むゲーム少女であった。

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