表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
コンクリートジャングルオブハザード ~ゾンビ世界で遊びましょう  作者: バッド
19章 西日本に行ってみよう

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

315/583

310話 ゲーム少女と闘技場

 闘技場。鉄の網で囲まれた小さい広場が作られており、それを人々がテーブルに座りながら楽しそうに眺めていた。どうやら騎士様らしい様子。軍服を着ていて、モヒカンだったりとげ付き肩パッドをつけていたりもしないで、余裕ある表情で女性を横に置いて酒を飲んでいた。なんというかわかりやすい悪人たちという感じ。


 その奥にはこれみよがしにVIP席でございと世紀末のボスが座るようなボロいけどギラギラとした感じの椅子があり、そこに大柄な筋肉質の人間が座っていた。


 指の全てには宝石のついた指輪を嵌めており、ガウンとおぼしき高そうな服を着ながら、卑猥な服装をした女性たちを侍らせて下品に笑っている。


「すごいね、ある意味すごいね。この都市を作った人は天才かな?」


 フンフンと興奮しながら感想を言うアホの娘。


 チンピラや軍人崩れを取り巻きに使い、商売女を侍らせているのだからして。これ以上文句のつけようもない崩壊した世界でのボスキャラであった。


「誰がこの都市をイメージしたのかはわかりませんが、コンセプトははっきりしていますね。たしかに崩壊した世界での狂った悪徳都市と言う名に相応しいです。ところでご主人様もバニー姿になりませんか? デビルモードとかになるかもしれませんよ?」


 フンフンと鼻息荒く最後の発言を強い口調で勧める変態メイドである。たしかに仲間のヒロインがそんな力を持っていたゲームがあったねと思い出すゲーム少女。


 あれはデビルモードの娘より、姉が死んで超パワーアップしたと思ったら、邪神を倒す最後のストーリーで姉が死なないルートになったので一気に弱体化していらない娘になった妹の方が可哀想であったねと余計なことを考えるのであった。


「バニーモードはもうナインが着替えているから私は別に着なくて良いよ。ナインを愛でるから大丈夫」


 なにが大丈夫なのかはわからないがとりあえず大丈夫だと言い張る遥。ナインは可愛らしいし。


「私も愛でたいんです! 最近ご褒美を貰っていません! ストライキしますよ? ご褒美ください〜」


「わかったわかった、あとで三回回ってワンと言うから、ご褒美として」


 わ〜んと寝っ転がりジタバタと暴れる精神年齢が幼すぎるサクヤであったりした。このメイドは自分の欲望に忠実すぎる美女である。どこまで残念さを見せるのであろうか。いまさらかな?


 遥の適当すぎる返しも酷いとは思うが。適当というか、アホなやり取りに適応したのかもしれない。


 そうして二人でアホなコントを続けようとしたところ、なんだかノイズの多い大声が響き渡る。


「レディース&ジェントルメン! 今日これより行われるのは勇気ある子供の物語! 人々の胸をつくこと間違いなし! 感動と共にご期待あれ!」


 司会者らしき人間がマイクを持ってがなりたてている。赤白のスーツという、よくコントとかで昔は漫才師が着ていたおちゃらけた服装だ。ちゃんと赤白のシルクハットまで被っている。よくあんなスーツあったねと思わず感心する遥であったが、次の言葉に目を鋭く細める。


「な、なんと。彼は子供でありながら一人で生きてきた孤独の戦士なのであります。今日はその腕を見せるべく闘いに参加しました!」


 お〜っ!と周りで眺めている人々が驚きの声をあげる。闘技場を見ながらぺちゃくちゃとお喋りをして騒がしくなる。


 てこてこと幾分早足で闘技場前まで行くと、闘技場内には首輪がつけられたゾンビが3体、部屋の隅に首輪に繋がる鎖で捕らえられており、反対側には鉄パイプを持った男の子が見えた。


 悲壮な表情でゾンビを前にガタガタと震えている。というか見覚えがある男の子だ。


「ガハハハハ! 小僧! レジスタンスの拠点もしくはお前が住んでいた場所を喋れば出してやるぞ! 気が変わったか?」


 大声で男の子を見下すように尋ねるボスという名の成金筋肉男。からかうようなどうでも良い様な感じでの問いかけで。


 その言葉を聞いてガタガタと身体を恐怖で震えながらも男の子は叫ぶように答える。


「だ、誰が言うもんか! ぜ、絶対に言わないからな!」


 叫ぶ男の子はサラと一緒にいた孤児の一人、カツであった。ゾンビが目の前に存在し、繋がれた鎖はいつでも備え付けのレバーで伸ばすことができるのだろう。レバーを持ったチンピラがニヤニヤと嗤いながら、いまかいまかと成金筋肉男の合図を待っているようであった。


「ふんっ! それではお前が生きながらゾンビに食べられるのを眺めるとしよう! 久しぶりの楽しい催しだ!」


 成金筋肉男は皿に乗った焼いた鶏のもも肉を掴み取り、大きな口で齧り付きながら言う。


「おぉ〜……。なんというか性根が腐りきった相手ですが……ふむ……」


 眠そうな目で遥は成金筋肉男を見つめる。この展開はテンプレだねと。こんなシーンはたくさん経験してきているのであるからして。無論、ゲームの中や漫画の話だ。


「でも少し気に入らないです」


 グッと足に力を入れて呟く美少女を尻目に周りは大きくざわめく。


「あいつ、いつまで生き残れるかな?」

「本命は3分生き残れるだ!」

「ちょっと残酷だよな」


 チラホラと嫌そうな表情を浮かべる人間はいるが、騎士である軍人崩れは楽しそうに銅のジョッキをテーブルに叩きつけたりしながら囃し立てる。


 周りのテンションがあがったところで、この先の子供の惨劇を想像して成金筋肉男はニヤリと嗤う。


「ではスタートだ! 精々生き残れよ!」


 その合図を受けて、レバーが少しずつ下げられる。チャラチャラとゾンビを拘束する鎖が緩んでいき、目の前の餌に興奮したゾンビは手を伸ばし、欠けた歯が見える口を大きくあけて噛み付こうとしてくる。


「うぅ……く、くるなぁっ!」


 ブンブンと手に持つ鉄パイプを滅茶苦茶に振り回しながら叫ぶカツ。もはや風前の灯火となる命。ますます囃し立てるチンピラたち。ガハハと心底楽しそうな嗤いを見せる成金筋肉男。


 スッと身体を沈み込ませて、遥が助けようとしたところで、なにかが勢いよく飛び込んできて鉄網がガシャンと蹴破られた。


 大きく弛んだ鉄網が外れて、中にスタンと入る少女。


「気に入らねえなぁっ! 俺様は弱いものいじめは大嫌いなんだ!」


 少女は昨日出会った瑠奈であった。カツを助けるべくゾンビの前に立ちはだかったのだ。バサリとローブをはだけさせて、半袖短パンの元気っ娘の姿が目に入る。


「ふおぉ〜! かっこいい! 凄いです、スーパーヒーローみたい! この場合はスーパーヒロイン?」


 ちょっと小首を傾げながらも、目の前の様子に興奮しながらパチパチと紅葉のようにちっこいおててで賞賛の拍手をするゲーム少女。やばい、生での観戦は映画とは違うねと、よいしょと空いてる椅子に座る図太さを見せる。何かのヒーローショーと勘違いをしているのかもしれない。


 それに邪魔をしてはいけないだろう、なぜならば瑠奈の見せ場だからして。ゲーム少女は空気を読むのだ。余計なところで空気を読むゲーム少女だ。


 だが、他のチンピラたちは驚きのざわめきをあげて、各々慌てて立ち上がる。


「賞金首だぞ!」

「大金だ!」

「ボスの娘だ!」


 おいおい、最後の発言者がネタバレしてるよ、良いのかなネタバレしてと驚く遥をよそに瑠奈はゾンビへと立ち向かう。


「オラオラオラ、かかってきな死人ども!」


 軽やかにふわりと体を浮かせるが如くにゾンビへと近づき、勢いよくハイキックを繰り出す。


 少女の健康的な足がゾンビの頭へと叩き込まれると、ゾンビはあっさりと頭を吹き飛ばされてコロコロと地面に転がっていく。


 おぉ!と周りの人間がその威力を見て色めきだつ。


「なるほど、ピピッ、筋力20ぐらいでしょうか? なかなかの戦闘力ですね」


 わざわざ眼鏡をかけて、ポチポチと眼鏡のつるを押す真似をして戦闘力を測るカウンターごっこ遊びをするゲーム少女。中身の年齢は何歳だっけ? いや、既におっさんの魂などないのだ、無邪気にレキが遊んでいるようにしか見えないのでそうに決まった。おっさんの名誉のためにも。名誉なんかないでしょとは言わないお約束で。


 それでも常人より遥かに高いステータスだ。全体的に強化されているとしたら、ナナたちよりも強いだろう。たぶんパワードスーツを着た防衛隊と拮抗する力だ。彼女は恐らく100キロのバーベルを持って飛んだり跳ねたり遊んだりできるだろう。


「てりやぁ! とりゃ! でやっ!」


 瑠奈の掛け声は続き、その掛け声のたびにゾンビたちは頭を吹き飛ばされて、遂に最後のゾンビも倒れ伏すのであった。


「ね、ねぇちゃん、すげぇっ! ありがとう!」


 カツが感動して潤んだ目でお礼を言うが、ゾンビと戦っている間に既に闘技場の周囲は銃を持ったチンピラや軍人崩れの騎士によって囲まれていた。


 そうして、椅子に偉そうに座る成金筋肉男が笑いながらご機嫌な様子で瑠奈へと声をかける。


「さすがは我が娘! 本当は他の奴らを待っていた間の余興だったのだがお前まで釣れたのは予想外だったぞ」


 ワハハと筋肉ムキムキな胸を張って言うボスの言葉に、なんだってとカツは驚きの声をあげて瑠奈へと慌てた様子で顔を向ける。


 ゲーム少女も先程ネタバレしていた発言者のことは忘れて、なんだってと驚いたふりをする。でもさっきネタバレされていたからいまいちな反応になっちゃう。名もなきモブよ、ネタバレされたので恨むよと。


 声をかけられた瑠奈はつまらなそうな幻滅をした表情で成金筋肉男へと視線を向けて口を開く。


「けっ! 久しぶりだな、親父! ずいぶんアホな姿をしているじゃないか。なんだよその成金な姿は」


「素晴らしいだろう? 見ろ、この宝石の数々! 食べるか? この贅沢な料理を!」


 ニヤリと性根が腐っているだろう笑みを浮かべて返事をする成金筋肉男。手を振りかざして、全ての指に嵌った指輪を見せて、肉の塊やら何やらがのった皿を見せつける。


「はっ! なにが素晴らしいだ! 昔の貧乏だったけど売れないプロレスラーだったあんたの方があたしは輝いて見えたぜ!」


 憎しみの籠もった、それでいて哀れみの視線を混ぜてボスへと答える瑠奈。


 フンッと鼻を鳴らし、その発言を馬鹿にしたようにあしらうボス。


「昔の方が良かっただぁ? 明日の飯も食べれるかわからない貧乏暮らし、妻は呆れて離婚してお前には碌に外食もさせることができなかった昔が? 馬鹿を言え! 今の方が良いに決まっている、間違いなくな!」


 そうして息を吸いこみ、胸を強く手で叩きながら、一気に息を吐くように大音声で叫ぶ。ちなみにポージングつき。


「今の俺は悪徳ドームの王! 安土軍が幹部、ウルフマン二郎とは俺のことよ!」


 本名は大上二郎らしい。たぶんウルフマンはプロレスラー時の名前なのだろう。でも二郎か……。もう少し格好良い名前にしておいたらと思う。いや、別に二郎が悪いというわけではないのだが、悪党幹部としてはね?


 二人の世界へと入り込んで話し合っているのでカツはどうすればよいかと、囲まれている状況に焦る。映画とは違いセリフが終わるのを待ってはくれないらしい。じわじわとチンピラたちが周囲を狭めてきているのだ。


 だが、その心配は目の前が真っ暗になったことで終わりを告げた。


 突如として闘技場のライトが一斉に消えて、周りが暗闇に包まれたのだ。天井が崩壊しているとはいえ、闘技場はその下にはない。ライトにより明るさを確保していたのだ。


「な、なんだ! ライトが消えたぞ!」

「発電機が止まったのか?」

「今のうちにバニーちゃんにタッチ!」


 どさくさ紛れの発言が聞こえてきたので、私も少しタッチしてみたいと思うが、周囲の慌てふためく声を上回る声が聞こえてきた。


「うぉぉ~! 子供たちを助けろ~!」


 トタタタという銃声と共にレジスタンスリーダーの叫び声が入り口付近から聞こえてきたのだ。マズルフラッシュが煌めき、レジスタンスの面々が入り込んでいるのが見える。


 子供たち? と首を傾げて疑問に思う。気配感知ではカツしかいないと思うけど?


 その声と銃声を聞いて、暗闇の中ウルフマン二郎はニヤリと頭が悪そうな笑みを浮かべる。


「どうやら俺様の流した偽りの情報に引っかかったようだな、レジスタンス! 娘を捕獲し、レジスタンスを壊滅させる! 一石二鳥とはこのことよ! お前ら、奴らをぶち殺せ!」


 調子にのるように指示を出すが、チンピラ軍団は銃声のマズルフラッシュ以外の灯りがないので、テーブルの下に隠れていたりする。バニーちゃんたちはテーブルに置かれている料理を皿ごともって逃げ出している。バニーちゃんの方が逞しい。いつの世も女性の方が逞しいんだよね。


 それを見て、どうやら暗闇でも暗視能力がついているのだろうウルフマン二郎が周りの取り巻きに忌々しそうに言う。


「ちっ、人間ではこの暗闇では戦うのは無理か。お前ら、松明を点けろ! 敵を迎え撃て騎士たちよ!」


 軍人崩れたちがその指示を聞いて頷き、武器を構えて側にある木の棒にライターで火をつけ始める。


 油を染み込ませていたのだろう。簡単に火がついて周囲を照らしていくが………。


「あれだと狙い撃ちにされますよね? アホなんでしょうか?」


 誰よりもアホとは言われたくないだろう相手である少女の呆れた呟きどおりに、松明を持った軍人崩れは狙い撃たれた体に数発の銃弾が当たり倒れこむ。


 この暗闇で松明を点ければ狙ってくださいといっているようなものである。


 だが次の瞬間に目を疑う状況となった。


 むくりと軍人崩れが立ち上がったのである。痛そうにはしているが血は僅かにしか流れていない。


「はっ! 俺たちの力を見せてやれ!」


 その声と共に軍人崩れの胴体が膨れ上がり、服がびりびりと中から破れ始める。その中から膨張した体が見えてくる。そして、その体はみるみるうちに灰色の毛皮に覆われていき、頭は狼の頭となり、口からはぞろりと生えた牙が見えてきたのであった。


「わお~ん! 俺たち人狼軍団に銃弾など効かぬ!」


 叫び声をあげて次々と狼男になっていく軍人崩れ。


「なるほど、あれが青い血をうけた人間の末路というわけですね?」


 遥はその光景を見て、人外の強さを持つ彼らの正体に納得する。


 アサルトライフルの銃弾が飛び交うが、毛皮にめり込むだけでポロポロとその銃弾は地に落ちていく。


「ふははは、てめえらは皆殺しだ~!」


 松明に火を点けつつ、狼男たちも銃を持ちレジスタンスとの撃ち合いに入る。


 タタタタと銃弾が飛び交い、松明で灯りを確保したチンピラ軍団もようやくテーブルの下から這い出てきて撃ち始める。


「ぐあっ!」

「くそっ! 狼男に集中砲火だ」

「怯むな! 撃ち続けろ!」


 レジスタンスの方が不利なのであろう。たぶん数で大負けしている。狼男は集中砲火ならば倒せるのかもしれないが、素早く移動して銃弾は数発しか当たらない。しかも当たった先から回復していくので再生持ちでもある様子。


「伝説通りの狼男の力を持っているという訳ですね。ご主人様、この敵は人間にはきついですよ」


 サクヤがウィンドウ越しに遥へと忠告をしてくるので、頷きで返す。


「もう少しレジスタンスの頑張りを見せてもらいたかったのですが………。彼らがこの都市の解放者だと見せつけた方が後々でやりやすくなったと思うのですが仕方ないですね。では」


 片付けますかと思うゲーム少女だが


「ぐげっ!」


 銃を撃っていた狼男が飛び込んできた少女の蹴りで吹き飛ばされる。


 ダンッとテーブルの上に立ち、拳を突き上げて力強く瑠奈が叫ぶ。


「お前らは俺が相手だっ!」


 スーパーヒーローが戦うタイムなんだねと、その姿をみてどうしようかと迷うゲーム少女であった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[気になる点] ≫暗闇の中ウルトラマン二郎はニヤリと頭が悪そうな笑みを浮かべる。 唐突にウルトラマンが出てきてるのでつ こんなのが出てたら、ぱぱしゃんは大興奮なのでつ
[一言] お父さん登場時こんなでしたっけね。 ここから引退までよくもっていけたなぁ。珍しい人材だ。 牧場にいますよ、とかいってたけど実はいなかったら怖い案件だがw
[良い点] 更新ありがとうございます。 次も楽しみにしています。 [一言] 観客になりましょう
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ