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コンクリートジャングルオブハザード ~ゾンビ世界で遊びましょう  作者: バッド
18章 国を建設してみよう

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292話 おっさんとメイドと褐色少女

 スキーを終えて、明日は筋肉痛は間違いなしだと遥は思いながら、ゲレンデを見やる。


 夕方となり、夕日が落ちてきて空が薄暗くなってきている中で、夜スキーを楽しもうとする人たちもいた。ツヴァイたちの芸が細かすぎる。いや、本当に楽しんでいるのかもしれない。


 そうだよ、せっかくゲレンデがあるのだから楽しんでいるのだろう。ここはほのぼのとした気分で見守ろうと通報一歩手前の生暖かい視線を向ける。


 ゲレンデにはスキーを楽しむ幼女なドライ。ボードを楽しむツヴァイ、そりに乗って楽しむ幼女、スケート靴を履いて上手に雪の上を滑るちびっこと結構な数の人々が遊んでいた。


 というか、幼女多すぎである。なぜ夜スキーにキャッキャッと無邪気な笑い声をあげながら幼女たちが大勢遊んでいるのだろうか? 親はなにをしているのだろうか? 危ないと思うのだが。


 親は遥ですねというツッコミはなしだ。ツヴァイたちが親なのであるからして。そのツヴァイの親はおっさんでしょうというツッコミはありであろう。


 どうやらドライたちは仕事が終わり変身可能時間も終わり、プライベート時間みたいであるので、スキーをするのを止めなさいとは言えない。


 なので、叶得がこの光景をみておかしいと思わないように祈るだけだ。直感持ちの発明家なので。


 神よ、この幼女溢れるゲレンデを見ても叶得がおかしいと思わないでください~と祈るが、神様はすでにこの地を去ったので、くたびれたおっさんの願いは叶わない。


 気づくことも間違いなしだろうなぁと、祈りは通じないとわかっているおっさんはちらりと叶得を見るがいつもは鋭い褐色少女はその鋭さをおっさんの背中へと向けて、うぬぬと唸っていた。


 そんなおっさんの背中には重さを感じない少女が背負われていた。誰かと言われればもちろんナインである。


 申し訳なさそうな声音で、ぎゅぅぎゅぅと体を押し付けながらナインが謝ってくる。


「申し訳ありません、ナナシ様。ちょっとスキーを張り切りすぎまして足をくじいちゃいました」


 スキーをしていたら、転んで少し足をくじいちゃいましたと、いたたと痛そうに呟いてナインが嘘を言う。いや、嘘とは思いたくないけどね。ナインがそんなミスをするわけはないのであるからして。


 そして、噛みつきそうな怖さを感じる表情で叶得が言う。


「おっさん、私が背負ってあげるからその少女を貸しなさい? 早くよこしなさいよっ!」


 背負っているのにもかかわらず、少女特有のぬくもりと柔らかさしか感じないナイン。あからさまに超能力らしきものをつかい、体重の重さを羽のような軽さにしているナイン。


 その様子を見た叶得は嫉妬をして、ナインのちっこいおててを引っ張って剥がそうとする。


「ダメです。ナナシ様のお客様の背中に背負われるなんてできません。それならば申し訳ありませんがナナシ様に背負われます」


 両手を遥の身体に巻き付くように絡ませて、顔をぺとっとくっつけての優越感を見せながらの発言である。


「大丈夫よっ! というか貴女は本当に足をくじいたの? 元気そうに見えるんだけどっ!」


「足をくじきましたよ。旅館までこの痛みは続くと思います」


 サクヤの妹だとわかる発言をするナインがここにいた。


「やっぱり痛くないんでしょっ! 傷薬もあるもんねっ、ほら降りなさい!」


「申し訳ありません。私がしがみついた方がナナシ様は喜ぶとわかっているので」


「同じような胸でしょっ! ふざけたことを言わないでよッ!」


 なんということでしょう。修羅場ですよ、奥さんと内心で呟くおっさん。


 正直、叶得だけを連れてきてよかったと、安心の息を吐く。


 本部にてナインとベルサーチが合流するのは予定通りである。さすがに二人きりでの旅行はまずいんじゃないかなぁと、もはや取り返しがつかない感じもするけれど思うのだ。


 そして、叶得だけというのは、このようなシーンが展開されるのを他人に見られたら困るからである。


 なにしろ若木シティではミステリアスな渋いおっさんなのだ。そのイメージが地に落ちてしまうかもしれないと、ミスキャストな渋茶のようなおっさんは思ったのである。どうでも良いことに知恵を使う遥であった。


 グイグイとナインの腕を引っ張る叶得。そしてナインは子供っぽくぴったりと遥の背中にくっつくという外聞が悪すぎる行動を取られながら、目当ての温泉街へと移動するのであった。


「ヘルプミー、サクヤさん! 私の考えを遥かに超えています。メーデーメーデー! 衛生兵が必要です」


 そうして仕方ないので、サクヤも呼んでしまう遥。ウィンドウのお休み中と書かれたボードが取り外されて、むふふと悪戯そうな笑顔のサクヤが顔を見せる。


「仕方ないですね~。なら、ご褒美は………」


「メーデーメーデー四季! 至急温泉旅館まで来てくれ!」


 あっという間に救援要請の相手を変える遥。その行動が早すぎて、ブーブーと頬を膨らませてサクヤが文句を言う。


「最初から私はボケの踏み台にするつもりだったんですね! キークヤシイワー! 私も旅館にいきま~す」


 悔しがりながら、楽しそうに微笑むという器用なことを言って、サクヤも旅館へと移動をするらしかった。


「了解です、司令。私もすぐに向かいます!」


 四季がピカピカとヘアピンを眩しく輝かせて敬礼をする。


 ほっと一安心する。これで大丈夫だろうねと。


 果たしてその案が正しいかは旅館に着いてから判明するのであるが。



 旅館は和風のわかりやすいいかにも上品な作りの建物であった。風景に気合をいれているので、温泉の煙も各所に見えている。


 引っ張っても剥がれないナインを諦めて、叶得はおっさんの右腕に張り付いている。もはやコアラの如く剝がれる様子はない。ベルサーチが微笑ましい笑顔でそんな三人を見ながらついてきているが、ベルサーチの正体は幼女なドライである。


 おっさんを含めて年上らしい行動を取らない三人であった。ドライな幼女の教育に極めて悪いだろう。


「もうっ! ナナシがモテるのはわかったけど、二人きりの旅行なんじゃないの?」


 プンスコと怒る叶得だが、本部に連れていけという話だったはずだ。いつから二人きりの旅行へと変換されたのだろうか? 最初からかな? さすが虎のような肉食獣だ。


「まぁ、光井様。二人きりの旅行じゃないですよ。たんに本部へと有能な人材を案内しただけです。ナナシ様が旅行を決めたのは私がいるからですね」


 ガソリンを焚火にドシャドシャとふりかけながらの発言をするナイン。玲奈の時とは対応が違いすぎる。そしてライバル関係としたら、レキを争うサクヤ対ナナと同じような感じだろうか? サクヤはあっさりと逮捕されるという想像の斜め上をいってくれたのだが。そう考えるとサクヤは残念過ぎる美女だなぁと改めて呆れてしまう。まぁ、そんなポンコツなところも可愛いのだが。


 あと、ナインはこの状況を楽しんでいるようだ。というか、楽しみすぎておっさんのHPは枯渇する。


「むぅ、こんな娘がメイドなんておっさんは世間体を考えた方がいいわねっ! とりあえずは私に家の合鍵と本部に来れるフリーパスの許可証を頂戴っ! 私がフォローしてあげるからっ!」


 むぎゅぅと腕を掴んで平坦なる胸を押し付けながら、遥の顔を下から覗き込むように言う褐色少女。


 とりあえずの意味がわからない。どういうフォローをするというのだろうか? 若奥様とかそんな感じで住みつきそうだ。


 どう答えるかと悩むおっさんへと、旅館からお迎えの和服を着た女将が近寄ってきて頭を下げてくる。


「いらっしゃいませ、ナナシ様。今日はご宿泊ありがとうございます」


 その後ろに数人の女中も和服姿でやってくる。


 いらっしゃいませと皆が頭を下げてくるので、遥は考えながら発言をする。


「………あぁ、よろしく頼む。男1名、女3名の2部屋でよろしく頼む」


「かしこまりました。ただ、3人部屋はないので3部屋お取りいたしますね。鳳凰の間にナナシ様。ベルサーチ様が桜の間、他2名が牢獄の間にご案内いたします」


 にこにことヘアピンを黒く輝かせて説明を始める女将。


「なんだか、私たちの間だけ名前がおかしくなかった? それに貴女の顔は見おぼえがあるわっ!」


 んん? と女将の顔を見て考え込む叶得だが、すぐにポンと手をうった。


「あ~! 貴女はナナシの部下の四季さんじゃない? たしかそうよねっ? なんで女将をしているの?」


 両手を腰にあてて、相手へと挑むように体を前傾にして睨む。


「今日はたまたまバイトをしていたんです。女将のバイトですね、大丈夫です、ナナシ様専属の女将ですので安心してください」


「全然安心できないわっ! ちょっと女将のバイトって本来の女将はどこに行ったのよ?」


「そこにいますよ。あの木にぶら下がっているミノムシの真似をしている方ですね」


 ついっと四季が指さす先には女将の場を奪われまいと戦った女将が紐でぐるぐる巻きにされてぶら下がっていた。ぶら~んと。ミノムシは最近のツヴァイたちの流行りらしい。凄い嫌な流行である。


「まったく仕方ない人たちですね、女将さんを解放しますよ?」


 しょうがいなぁとさすがに女将役のツヴァイが気の毒になったナインがミノムシ状態から解放する。


 ミノムシ女将は紐を解かれたらすぐに口を開く。


「もう四季さんは酷いですっ! ナナシ様の専属は私がしますので、四季さんは普通の女将職をお願いしますね」


 どうやら女将が解放されても状況は変わらないらしい。というか叶得が目の前にいるのにいつものアホなコントをしないで欲しいとおっさんは嘆く。


「………ナナシは随分モテるのねっ! 誰にも手を出していないのでしょうね?」


 ぎりぎりと視線のみでおっさんを焼き尽くすことができそうな褐色少女が尋ねてくるが。


「彼女らは悪戯が好きなんだ。行き過ぎるのが玉に瑕だがね」


 肩をすくめて飄々と答える遥であった。演技スキルばんざーいと内心では喜んでいることは秘密である。


「はぁ………悪戯好き………それだけじゃない感じがするけど、とりあえずはいっか。合鍵を貰えれば監視できるしねっ」


 さっきは合鍵をよこしなさいよと言っていたのでは? もうすでに合鍵を貰うことは確定らしい。


 もううやむやにしよっとと心に誓い、


「コントもそれまでにしておくと良い。部屋に案内してもらおうか?」


 仕切り直しをするおっさんであった。


 こんなハーレム展開はおっさんには無理だと言ったでしょうと内心で愚痴りながら。この状況では誰にも手を出すことは不可能であるからして。ハーレム主人公とはまた別ベクトルで悩むおっさんであった。



 部屋は最上級ということで、30畳はある和室であった。最上級なのに、お菓子がテーブルに置いてあるのが少し庶民くさい。


 女将に扮した四季がお茶を人数分淹れながら渡してくる。最初の女将役はあれからじゃんけんで負けたらしい。


「はぁ~。景色も良いし、ここ本当に艦内なの? 奥行きもある風景だし信じられないわ」


 一人部屋といったはずなのに、ナインと叶得は一緒に来ており、疲れたみたいで、二人とも畳にう~んと寝そべるように可愛い脚を伸ばしている。


「大樹の本部はこういうのに力を入れているんです。遊園地とかもあるんですよ?」


 さっきまで争っていたとは思えないほどの平穏さでナインが叶得へと説明する。


「なぁ、四季? サクヤはどこに行ったわけ?」


 四季は来たのにサクヤが来ないので不思議に思い尋ねると、叶得が地獄耳でそれを聞きつけてくる。


「むぅ、まだ誰か女を呼んだのかしらっ? ちょっと節操なさすぎじゃない?」


「いや、彼女はレキの世話役だ。この機会にレキとの生活を聞こうと思ったんだが………」


「レキの? あぁ、あのナナに横領とか言われて捕まった人ね」


 もうその話は有名らしい。まぁ、国ができて初めて捕まったアホなメイドなので有名なのは当たり前だろう。


 四季はケロッとした表情で


「サクヤさんなら、一応旅館に呼ばれたけど、もう旅館にいるから良いよねと言われて、温泉に行きました」


「そうか………相変わらず自由すぎるな………」


 もうサクヤはサポートキャラから外すべきなのか? マスコット役で良いのではと検討を始めてしまう。サクヤは自由すぎて手綱を取ることは不可能だよねと嘆息してしまう。これで関東圏内を自由に行動できるようになったら、どうなるのであろうか? その日は近いと思うので恐ろしい。まぁ、恐ろしい反面楽しくもなりそうだが。


「なんだ、そんな関係なのね。それじゃ別にいいわっ!」


 どんどん遥の懐へと入ろうとする褐色少女である。こっちの方が食べられそうで怖い。もはや頼りは四季とナインだ。ナインはなぜか叶得とのやり取りを楽しんでいるので、四季だけかもしれない。


「とりあえずは温泉にいくぞ」


             ◇


 温泉。温泉とはお湯が湧くので温泉。これは人工温泉とでもいうのだろうか? まぁ、効能とかも特に本物と変わらないし良いだろう。


 そんなことを思いながら浴衣を着たおっさんは案内図を確認する。10種類以上の温泉があり、凝っているとわかる。凝りすぎかもしれないが、内装におっさんはかかわってないのでよくわからない。相変わらずの適当さ溢れる遥。


 どれにしようかなぁと考えるが、隣で浴衣に同じく着替えたナインと叶得をちらりと確認して考える。


 この娘たちはセオリー通りに乱入してくるだろう。たとえ男湯と書いてあっても乱入確実だ。ナインは力を使わないので常識の範囲内の行動を取るだろうが。どうも叶得を気に入ったみたいで、普通の人間としての活動をしている模様。


 この場合の常識の範囲内というのは小説でのハーレム主人公に突入するヒロインたちの常識の範囲内である。もはや罰ゲームに近いかもしれないが、せっかくスキーに来たので、温泉にも入りたかったのだ。


 この間の女湯の如き、ツヴァイたちとの混浴を思い出して苦笑する。


 なので、先手をとっておこうと二人へと話しかける。


「あぁ、私はこのジェット風呂というのに入ってこよう。では、あとでな」


「こ、混浴はないのかしらっ? 家族風呂でもいいわよっ? そういえば部屋にも温泉がついていたわよねっ? 先にそちらに入らない? 背中を流してあげるわっ!」


 もじもじと耳まで赤くして言う叶得であるが、話の内容は全然もじもじとした態度に合わないアグレッシブさである。


「そうですね、それじゃ光井様が背中、私が前ということで入りましょうか」


 ナインがいつものにこやかな笑顔で全然にこやかな笑顔と合わない態度で言う。


 もちろん、ギャーギャーと叶得がその発言に対抗して怒鳴り散らすので、そそくさと離れる遥。


 少し離れてから、通路の角で呟く。


「ドライ、少しここに来い」


 その声に反応して、近くにいた女中に変身していたドライがポテポテと近寄ってくる。


「なんでつか? 司令?」


「最重要任務だ。私に似た格好をとりながら、風呂をいくつも廻っていくんだ。叶得と接触する必要はない。というかあいつと接触は不可だ。ばれてしまう可能性が少しあるからな。目撃情報だけを残すんだ。できるか?」


「できまつよ。りょーかいでつ!」


 ドライは敬礼をすると、くるくるとその場で回転し始める。


「変身っ! 謎のおっさんにチェーンジ!」


 光の粒子が集まり始めて女中から、目つきの厳しい渋いかっこよいおっさんへと変身する。


「おぉ! 私にそっくりだよ。それじゃよろしくね」


 おっさんは平気な顔でパチパチと喜んで拍手をする。


 そっくりなのは人間である点だけだと思われるが、ドライは気にせずに敬礼をして


「あーい。では目撃情報だけを残していきまつね!」


 そうしててくてくと歩き去って行くのであった。


 それを安心して見ながら、遥も行動を開始する。


「さてさて、私も会わないように温泉に入るかね」


 ジェット噴射の風呂は諦めて、とりあえずは露天風呂へと足を向けるおっさんであった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 更新ありがとうございます。 次も楽しみにしています [一言] 大量のおっさんが発生しそうな 誰得だ?
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