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コンクリートジャングルオブハザード ~ゾンビ世界で遊びましょう  作者: バッド
18章 国を建設してみよう

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285話 おっさんの茶番クエスト

 ううむと唸りながらナナシは目の前のモニターへと視線を向けていた。ナナシと厨二病溢れる名前で少し恥ずかしい遥である。なぜ、あの時ナナシと名乗ってしまったのか、過去の自分に対して注意をしたい。本日はおっさんぼでぃな遥である。


 まさか、ここまでコミュニティが大きくなるとは考えていなかったのだ。あの時の自分は馬鹿野郎であった。今はアホ野郎なくたびれたおっさんはそう考えて項垂れる。


「うぅ、この台本分厚くない? 私のセリフが多すぎるよ。私のセリフはここは大樹本部だの一言で良いよ?」


 街の入り口にいる村人Aとなりたい遥であった。どこまでも脇役を求めるその心には称賛しかないであろう。


「ダメですよ、ご主人様。すでにオーディションは終わり、自分たちの役をみんなが懸命に練習しているのですから」


 机に向かって、脚本をガリガリとかいている脚本家なサクヤが注意をしてくる。鉢巻を頭に結んでおり、満員御礼を目指すと書いてある。極めて意味がわからない。


「だってさ~。私の演技スキルはともかく精神的に恥ずかしいよ? 嘘とか苦手なんだよね~。なにこれ? 外国? 私は崩壊後に外国に行った事はないよ? 将来的にばれたらどうするの?」


「嘘じゃないです。将来のことは将来で考えましょう。嘘ではなく劇なんです。ほら、この脚本にもフィクションです。地名うんぬんは架空のものですと注意書きがあるでしょう?」


「豪族たちが飛行機から降りてきたら、第一声でこの偽本部を舞台とした劇を見てくださいと伝えるつもりか? これはフィクションですと」


 ジト目になり抗議をするおっさんへとサクヤはふふんとペンをフリフリ答える。


「劇だと知らないでもいいじゃないですか。楽しんでもらいましょうよ。あ、思いつきました。ここには謎の科学者たちを出現させることに」


 酷い脚本になりそうだと呆れながら、サクヤへ豪族たちを歓迎する手順を考えるようにと言った自分を張りたおしたいおっさんであった。


 まさか手順じゃなくて、脚本を書き始めるとは思いもよらなかった。しかも、それぞれの役をオーディションで選んでいるし。


 先程、やったーと子供役に選ばれたドライたちがぴょんぴょんと幼女らしくジャンプをしながら可愛く微笑んでいるのを見た遥である。


 早くも読み合わせをしている。相手の言動がわからないのでアドリブが多くなるが懸命に頑張っている幼女たち。


「おい! お前らは下界人なのか? おい! お前らは下界の人間なのか?」


 正直練習しすぎである。下界人とはいったいなんであろうと首を傾げてしまうセリフだ。


 サクヤはこの本部を盛大に使って楽しむ予定らしい。戦闘用サポートキャラはどこに消えてしまったのであろうか。たぶん押入れあたりにしまったに違いない。仕舞ったことを覚えていないけど。


              ◇


 はぁ〜、とあの時の自分はどうにかしていたよと後悔しかないおっさんはただいま豪族たちを自分の偽屋敷へと招き入れていた。


 そこまで広い屋敷ではない。上品な作りになっているが、子供なら、お金持ちの家だね〜と友人に羨ましがられるぐらいの大きさだ。例えがわかりづらい。


 内装も渋く作られており、そこかしこにアンティークが置かれており、趣味が良さそうだと豪族たちは感心していた。もちろん初めて中に入るおっさんも感心していた。


 ナインがにこやかにとてとてと可愛らしくメイドさん姿で迎える入れてくれるので、ちょっと驚いたがサクヤの姿が見えない。サポートにドライが変身して中年のふくよかなおばさんへと変わっている。


 ナインに合わせて金髪なので、親子設定というやつだ。忙しいナナシはほとんど家にいないので住み込みで働いているメイドさん親子らしいよ?


 サクヤの決めた設定なので、さっぱり覚えていない演技に定評のあるおっさんだった。


「なかなか良い家に住んでいるんだな、小綺麗にしているじゃないか」


 豪族たちをリビングルームへと案内すると開口一番失礼なことを豪族が口にするので、苦笑いを浮かべてしまう。


「あまり家にはいないのでな。住み込みで働いてる者に任せている」


 ちらりとおばさんドライたちへと視線を向けながら焦る。


 この親子の名前は何にしたのかな? サクヤさんや?


 アッチョンブリケと頬を両手で挟んで驚いているウィンドウ越しのサクヤ。どうやら名前は決めていなかったらしい。さすがはサクヤ、設定ガバガバである。


「どうぞごゆっくり」


 コトリと豪族たちの前にお茶をナインが出すので


「あぁ、すまないが軽く酒とツマミを用意してくれ。この人たちが泥酔しないぐらいの量で頼む」


 皮肉げに口元を笑みに変えて豪族たちをからかうと


「さすがに明日に残るような飲み方はせんよ。すまないな、ええと?」


 名前はなんだろうと考えてはいけないことを尋ねる豪族。いいじゃん名前なんてと、名前を考えていないアホな主従がいた。


 だが、さすがに名前がないと不自然であるので、即興で考える遥。


「ベルサーチさんとナインだ。ベルサーチさんが母親の方だ、少女の方がナイン」


 ペコリとベルサーチとナインは頭をさげて挨拶をする。


「この家の管理をしていますベルサーチと申します。よろしくお願いします、百地様」


「ナナシ様の世話をしていますナインと申します。よろしくお願いします、日位様」


 それぞれが微妙に違う挨拶をするのであった。キラリと玲奈は目を光らせて、ナインへと視線を向けるのでナインの密やかなアピールに気づいた模様。


 早くも脚本にないアドリブを開始するナインであった。というか、家に招いてからはすべてアドリブであったりする。どうせお酒を飲んでどんちゃん騒ぎをするんでしょうと、脚本にはお酒を飲んでツマミを食べるとしか書いていない。


 その粋なはからいに、サクヤを絶対に張り倒そうと決心するおっさんがいたらしい。いったいどこのおっさんであろうか。


「ふふっ、ナインさんはお子様なのにもうメイドの仕事をしているなんて素晴らしいわね。頑張ってね」

  

 所詮は子供ねと薄く笑いを浮かべて玲奈が余裕の態度をとる。ナインの態度には気づいたが子供だからと油断していることは間違いない。


 玲奈よりもよっぽど大人なナインはニコリと笑って受け流し、後ろに下がっていくので安堵をする遥である。これが某褐色少女なら物凄い対抗をしていたであろうことは想像に難くない。


 すぐにてこてことベルサーチとナインは氷と水を持ってきて、各種お酒もグラスと共に置いていく。


 なんというさり気なさだと内心で感激をしつつ、なんのお酒を作ろうかな? 私は日本酒が好きだけど、作るならサワーかなと思いながらグラスを手に取ろうとすると、ヒョイと先にグラスを取られる。


「ふふ、ナナシ様、お作りしますわ。なににしましょうか?」


 さり気なさが全くない肉食系モデルが遥の隣へとにこやかな微笑みで座りながら尋ねてくる。グイグイと太ももをくっつけてきて、身体を乗り出すように聞いてくるので、胸が大きいですねとの感想しか浮かばない。


「あぁ、適当に頼むよ。それほど今日は飲むつもりもないしな」


「そうですわね、建国記念日が終わったら、また祝杯をあげたいと思います」


 カチャカチャと綺麗な所作で水割りを作る玲奈は次のアポイントメントを取ろうとしているので


「気が早いな。まだ締結すらしていない内容だ。建国宣言されるまでは考えることではない」


 有耶無耶にしちゃうの術〜と、きりっとしているだろう顔で釘をさしておく。


「この期に及んで、なにかがあると考えているのか、お前さんは?」


 そう尋ねてくる豪族へと肩をすくめて


「特にはなにも起きないと思う。ここの警備は万全だ、敵が侵入することは難しいだろう」


 無理だとキッパリと言い切らないあたり、フラグをたてないようにとの思考が見える。だいたい侵入は無理だとかドヤ顔で言うと必ず侵入されるのが小説やアニメでは当たり前だったので。


「それなら問題ないでしょう。草案も決まっている内容ですし」


「そうかもな。ただ草案の内容は明日最終判断を下される。肩の力を抜く時ではないというやつだ」


 仙崎の言葉に返事を返して内心は冷や汗をかく。


 明日からの話し合い。そこが一番問題だ。問題だらけのような気もする遥。


 なにが問題かというと……。


 一つ目、那由多はドライが変身すれば事足りるのに、ギャン泣きしてリビングルームの絨毯の上でジタバタと私が那由多をやるんですと子供のような駄々をこねた銀髪メイドが那由多として話し合いに加わること。


 二つ目、予想外の内容をツヴァイたちがぶち込んでくる。これはかなりの危険性を持つ上に可能性が高い。那由多王国を作りますと言い出したら止めようがない。その場合は革命軍にレキを投入する予定である。


 三つ目、これが一番危険な問題だ。


 なにが問題かというと、この話し合いに遥も加わらないといけないのだ。長い話し合い。それはおっさんにとって鬼門である。崩壊前の会議では時折眠くなることがあった。気合で起きていたが、その場合は起きていることに懸命で会議の内容はさっぱり頭に入っていなかったので、あとで物凄い知ったかぶりの顔をしないといけないのだった。さすがはおっさん、やり過ごすことには定評がある。


 そして今は働きたくないでござるなおっさんだ、以前と違い怠惰に生きてきたおっさんなので、寝てしまう可能性は極めて高い。レキの時と違い、部屋の隅っこで布団を敷いて寝ていたら叩き出されることも社会的信頼が無くなること確実である。


 明日からは久しぶりに真面目に仕事をしないとねと嘆息するおっさんであった。果たして寝ないで話し合いを乗り越えることができるのだろうか。崩壊後、一番の危機に陥る遥であったりする。


 あと、むぎゅむぎゅと豊満な胸を押し付けてくるように玲奈が攻めてくるので、冷凍光線が廊下の影から撃たれている感じもするので、明日を待たずに死んでしまうかもしれなかった。


 明日からは睡眠に耐えると悲壮な覚悟をしていたが、状態異常無効があるので、全然平気であることには気づかない遥。無駄なところでスキルを活用しているので、実におっさんらしい。


             ◇


 次の日となり、大樹本部へと入ってくる豪族たちをモニター越しに遥は眺めながら、大会議室のサクヤたちへと視線を向けてため息を吐く。


「大丈夫だよね? 本当に大丈夫だよね? サクヤさんや、その姿はなにかな?」


 なぜかパッツンレオタードを着込んでおり、髪の毛をアップにして纏めているサクヤ。


 遥へと視線を返して、フフフと不穏な笑いを見せてサクヤが口を開く。


「私は銀髪なので、人形を操る際には人形のようなキャラを演じないといけないと思うんです。なゆゆたんを持ってご主人様を守るのが私の役目です」


 既に豪族たちとの話し合いより、コントを優先しようとする銀髪メイドがここにいた。


「ちゃんとやってよ? ボケはいらないからね。ほんとっ〜にいらないからね?」


「え〜、遺産を巡る戦いになぜか加わる人形遣いの役をやりたいのですが? 楽しそうじゃないですか?」


「はいはい、その劇は後でね。そろそろみんなが来るから歓迎の用意をしてくれよ」


 は〜い、と素直に頷いて、よいせと那由多人形を着込むサクヤ。本当に大丈夫かなぁと思いながらも、遥も他のツヴァイやドライたちが幹部へと変装して椅子に座るので、同じように座って豪族たちを待つ。


 豪族たちが来室したのは数分後であった。


 扉が開いて、豪族たちがぞろぞろと入ってくる。


 一見、普通よりも少し広い大会議室だ。数十人が座れる長机が置いてあり、その上座に那由多が座り、隣には遥率いる幹部たちが座って待っている。


 豪族たちが来たので、椅子から立ち、頭をさげて歓迎の意を見せる幹部たち。


「ようこそ百地代表、大樹本部へ」


 相変わらずのカリスマ溢れる表情で那由多人形が凄みを感じさせる笑みを浮かべる。さっきまではアホな銀髪メイドが遊んでいたとは、とてもではないが思えない。


「お招きいただきありがとうございます、那由多代表。しかしなんですな……」


 多少口ごもる豪族だが、その態度へと笑いを見せて、椅子に座るように勧めて自分も深く椅子に座り込む。


「なにかな? もしかして私が王座にでも座って君たちを待っているとでも思っていたかね? 豪勢な謁見の間でもあって、赤い絨毯が敷いてあり、王座が奥に設置されているとでも」


「申し訳無い。正直そうなるのではと考えておりました。この会議室を見て、拍子抜けを覚えました」


 口元を曲げながら、豪族が答える。まぁ、大樹の雰囲気からそう考えてもおかしくはないだろう。


「私は一企業の代表だ。まさかそんなことをするわけはないだろう? さて、建国の話し合いを始めようではないか」


 データを呼び出せるバングル型通信装置を各人に渡す。未来的で格好良いよねと作ったもので大量に量産したので、遥のグループには全員に配っている。


 手のふりだけで空中にモニターを呼び出せるのが素晴らしく格好良い。指令センターのデータベースと接続されており、登録されている様々な情報にアクセスできる。そしてデータリンク先に他で配られたパソコンから各個人は自分のデータを取り出せることがウリであった。


 未来的なアイテムなので作った当時はぶんぶんと手を振ってモニターを繰り返し呼び出したおっさんがいるとかいないとか。そして次の日にはたったそれだけで筋肉痛となったとか。


 非売品な通信バングルはゲームなアプリなどを入れることもできるが、今はそんなものはないので、仕事にしか使えなさそうな感じである。


 メールも通話も可能であるが、連絡先がなければ意味がない。今回はデータを扱うのみ。通話先は自分たちでやり取りをして増やしていってね。そしてこれを渡した時の玲奈が遥の連絡先を教えてくれとうるさかったりした。


「こちらは草案どおりで問題はない。細かい内容は後ほど修正していくことになるだろうが」


 豪族の言葉に頷きながら、偉そうに那由多は口を開く。


「それでは大樹の国家建設について、意識のすり合わせを行うとしよう。議題を進めろ、ナナシ」


 こちらへと話を振ってくるので、遥も偉そうかもしれない頷きをしながら、無表情になり話し始める。


「では人々が期待をして待っている国家設立宣言日にスケジュールどおりに行うためにも、漏れの無いように話し合いをすすめましょう」


 周りの人間が頷くので、モニターへと指をタップして、説明を始める遥であった。


 そうして草案は話し合いの末に本案へと決定されて、予定通りに国家設立宣言が行われることになる。


 おっさんが会議中に寝てしまったかは不明である。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 更新ありがとうございます。 次も楽しみにしています。 [一言] シュレディンガーのおっさん
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