281話 ゲーム少女は妖怪ハンター
空中戦艦スズメダッシュ。全長3キロの巨大な戦艦はチュンチュンとスズメが飛ぶが如く空中を遊浴していた。
ゴウンゴウンと空を僅かな振動と共に飛行している甲板の上では数人の美少女が佇んでいた。
その甲板の上で、美少女の中の一人が釣り人の服装をしている。海釣りの釣り人の服装で釣り竿を持って立っていた。
そんな美少女は釣り竿を垂らして、うにゅにゅと唸って眼下を見下ろして、眠そうな目で見つめているが、糸がピクリと動いたので素早く釣り竿を持ち上げる。
「フィッシュ〜!」
クワッと目を見開いて嬉しそうに叫ぶ美少女レキ。
釣り竿は勢いよく持ち上げられて、その糸の先には
「あ〜れ〜」
銀髪碧眼の美少女たちが大量に括り付けられてくっついていたりした。
「ふふふ、超技美少女サビキ釣り〜」
楽しくて仕方ないという無邪気な表情で釣りを楽しむレキは先程釣りレベル1のスキルを取得していた。なぜだと言われると、捕まっていた銀髪碧眼美少女巫女たちを救出するためだ。
空間結界が無くなり、既に生存者たちも敵のボスの居場所も、そして巫女たちの場所もすべてまるっと判明した。高レベルでの戦争では妨害は当たり前なのだ。空間結界かフィールドを張っていなければ、その時点で敗北確定、勝利する道はなくなるだろう。
マイベースも戦艦もその点は大丈夫である。各妨害装置があるし、マイベースに至ってはチートな拠点聖域化があるからだ。神域化したのであるが、防御性能はほとんど変わらない。
まぁ、各コミュニティはその類の防御施設が無いので、今後は必要となるだろう。
話を戻すと、その為に巫女の居場所がわかったのでレベル4サイキックウェポンにて超常の釣り竿を作成、最近使用頻度の高いサイキックにて糸を作成して、サビキ釣りで巫女たちを救出していたゲーム少女である。
キャーキャーと叫びながら釣られる巫女たちを入れ食いだねとレキというか、遥は見ながら嬉しそうにしていた。こんなアホな救出の仕方は遥しかいないので仕方ない。
「意外と毒の力が弱くて良かったね。というか、銀髪碧眼の美少女に変えて、基本ステータス+5、ミュータントへの完全変態は3年とか、あの毒の目的は美少女に変えるだけ?」
「そうですね、司令。それと普通にサイキックスパイダーネットで釣れば良かったのでは? 釣りスキルはかなりの無駄なスキルと思うのですが」
コテンと首を傾げて、四季が疑問顔になって尋ねてくるが、フンスと息を吐いて遥はドヤ顔で答える。
「釣りスタイルの方がかっこいいでしょう? 美少女の釣り人は可愛らしいよね?」
よくこのアホな発言でドヤ顔になれるねとツッコミを誰かがしなければならないだろう。
たった1スキルポイントなので、別に気にしなくても良いよねと、小安い物を大量に買い込んでいつの間にか財布をカラにしてしまう典型的な考えのゲーム少女であった。
とやぁっ、としなる釣り竿をぶんぶんと振り回してどんどん釣っていく。サビキ釣りというのが、敵にとってはたちが悪く大量に巫女を連れ去られていっていた。
ちなみにサビキ釣りとは小魚を一気に釣れる釣り糸に何個もの針がついている釣り方だ。
数十キロは先にある広大な山脈の中の一際大きい山の頂上辺りに作られた大きな屋敷から、スルスルと釣り糸を差し入れて巫女を連れ去っていく釣り人なゲーム少女。
「ふははは、見てください、この華麗なる釣りを! またまたフィッシュ〜! フィッシュって、これもまた一度言ってみたかったんです!」
キャッキャッと喜びの声をあげる遥の傍らでツヴァイたちが回収した銀髪碧眼美少女たちを急いで解毒薬で治している。とりあえず解毒だけしておいて、後ほど身体は治す予定だ。そしておっさんは海釣りに憧れていた。一度フィッシュと言ってみたかったのだ。ただ、海釣りに行くのは面倒なので行かなかったのだ。それに釣れるまで暇だしと釣りの前提を崩すのである。
しかして、今使っているのはおさかなちゃんを次々と探して釣るので、糸を垂らして待つ必要がない。もうそれは釣りじゃないよねというツッコミはなしである。
「助けて頂いてありがとうございます」
「うぅ、ようやくあの屋敷から逃げれたのね」
「私の姿が治るのね」
どこかの真琴さんと違い、まともな感性を持っているらしく身体も治すことにこだわりは無い模様。まぁ、最初から美少女が銀髪碧眼に変えられていたという話なので、戻っても問題はないのだろう。というか、戻らない=顔立ちがうにゃうにゃという話に………。なので戻らない人は少ないと思われる。
もちろん、敵も素直に巫女が連れ去られていくのを見ているわけではない。次々とカラス天狗たちが舞い上がり、他の空を飛行できる妖怪も追いかけてくる。
だが、追跡してきた妖怪たちはすぐに粉々となっていく。雨あられと白光のエネルギー弾が敵へと向かっていき、その全てを撃破していく。
「ふふふ。すでに無防備となった敵基地です。もはやあとは空中戦艦で倒すのみですね」
ブリッジにてサクヤが戦艦の砲を操作しながら、次々と敵へと向けて攻撃を仕掛けている。
「サクヤ様、周辺の敵も接近中。ですが、空中を飛べない妖怪も多いのにどうするつもりなんでしょうか?」
不思議がりながらもハカリがウサギリボンをぴょんぴょんと跳ねさせながら報告してくる。
モニターに映る妖怪たちはさながら百鬼夜行といったところであろうか。されど空を飛べるのはほんの一部だ。唐笠お化けの足にぶら下がり接近をしようとしているのも見えた。
ふふっと酷薄にサクヤは笑みを見せて、次の指示を命じる。すでに甲板へ最後の巫女が釣りだされていたのが見える。これで人間は誰もいなくなったと判断して
「戦車隊は山頂にある敵ボスの屋敷への攻撃を行いなさい。空中戦艦は艦砲射撃にて同じく敵ボスの屋敷へと攻撃を開始。高度を下げて接近している地上部隊へとバルカンでの攻撃を開始します。ドライ、攻撃準備をよろしくお願いします」
テキパキと遥がいる前では見せないだろう指示を素早く出しながら、サクヤはここの敵の殲滅を命じる。
「了解。全戦車隊は敵ボスの屋敷へと総攻撃を開始してください」
オペレーターツヴァイが次々と指示を出していく。
「アイアイマム。戦車隊は全機攻撃開始するよっ! 一斉攻撃開始だっ!」
戦車隊へと戻ったアインが指示を受けて、戦車隊への攻撃を命じる。
「りょーかいでつっ。ドライたちはバルカンのほせーしょりをかいししまつっ!」
幼女隊がビシッと可愛く敬礼をして、舌足らずの声音で命令を受領する。
それを見て、サクヤはうむうむと頷いてドライたちへと伝える。
「良いですよ。実に幼女っぽいです。それならばご主人様も無警戒にお風呂に入ったり、お膝にのせたり、頭を撫で繰り回したりするでしょう」
舌足らずの口調の幼女がご主人様は好きですと、またあらぬ誤解を生みそうな演技指導をドライたちにしていたサクヤであった。
「………姉さん、ばれたらどうするつもりなんですか? 凄い怒られますよ?」
呆れた表情でジト目で妹に見つめられるサクヤは、飄々とした口調で返事をする。
「それで怒られるのならば、怒られて本望です! 我が障害に一片の欠片もなし!」
「意味不明です………。姉さん………」
はぁ~と疲れたような溜息を吐いて、ナインは艦の制御へと戻るのであった。
◇
スズメダッシュが戦闘を開始して、チュンチュンと鳴きだして全方位に攻撃を仕掛ける。巫女が全て回収できて全力戦闘となったのだ。
周囲へと、まるで艦体が光るように艦砲射撃を撃ちだし、無数の対地対空バルカンで攻撃を開始する。
単艦での攻撃であるが、その巨体と無数に設置された砲での攻撃で敵は次々と撃ち落とされる。戦闘機隊やヘリ部隊も発艦していき、百鬼夜行を圧倒的に殲滅していくのであった。
腕組みをしながら、うみゅうみゅと満足そうにその戦闘を眺めるゲーム少女。
「良いね、良いね。どうやらツヴァイたちはここの戦闘に耐えられるようだね?」
「そうですね、司令。運転レベル6ですし、ステータスも軒並み上昇しました。これで雑魚戦闘は安心ですね」
ピカピカとヘアピンを輝かせて、少し眩しいような気がする四季が嬉しそうに報告してくる。今までは本格戦闘には参加不能であったので嬉しいのだろう。
ドンドンと爆発音が空中に響き渡り、地上では白光が敵の山ごと削り始めている。山火事に気を付けないとという感じだが、一瞬で燃え尽きて灰になるので問題は無さそうだ。
山を攻撃している最中にゴゴゴゴゴと音がして、山が崩れてムカデとなる。大ムカデという由緒正しい妖怪だ。300メートルはありそうな巨大なムカデであり、外骨格もテラテラと光っており、実に硬そうである。
それを見ても動じずに遥はにぱっと輝くような笑顔で得意げに告げる。
「えっと、たしか大ムカデは唾に弱いんだよ! 美少女の唾なんてご褒美にしかならないかもしれないから嫌だけど唾をつけた大太刀で攻撃すれば倒せるんだよね」
昔話で覚えていた大ムカデの話を口に出す。たしか唾でいいはずだ。おっさんの唾でも倒せるらしいから、美少女の唾ならば楽勝であろうと。
そう言っている間にもフォトンカノンは大ムカデへと命中していく。ズズンズズンと山へと変化していた大ムカデの胴体へと攻撃をしていき、大ムカデはこちらへと近寄ることもできずにあっさりと穴だらけになりその身を地面に伏せるのであった。
むぅっとあっさりと倒された大ムカデを見て、軽くドン引くゲーム少女。ちょっと倒され方が酷い。きっと相手は切り札として使おうと思っていたはずなのに、戦車隊の一斉攻撃でやられるとかないよねと。
「司令。そろそろブリッジへと戻りましょう。屋敷から敵ボスが出撃してきます」
四季が伝えてくるので、ほいさと頷きブリッジへと戻り始める。甲板の上ではひっきりなしに砲が敵へ攻撃しており、その姿は壮観の一言である。
そんな甲板を通り抜け、ブリッジへと戻る遥。
てってこと走り、ブリッジへと入り司令席へと、とうっと飛び乗る。小柄な美少女がポテンと椅子に飛び乗る姿は可愛く無邪気で可愛らしい。
「司令。敵ボス。通称大天狗が出撃してきました」
オペレーターが伝えてくるのを、ほいほいとモニターを目まぐるしく操作して、敵を確認する。
そこにはボロボロとなった屋敷から飛び出てくる大天狗の姿があった。3メートル程の体格であり、顔を真っ赤にして山伏の格好をして黒いカラスの翼を広げている。そして天狗にお馴染みの鼻をそそり立たせながら、怒声を放つ。
「うぉぉぉぉ! 俺のハーレムを! てめぇらなんぞ、俺様が片付けてやるわ!」
その怒声を聞いて苦笑いを浮かべてしまう。思った通り過ぎて苦笑してしまう。
「天狗がエッチだというのは、あの鼻だよね? というか天狗面を股間につける人がいるからいけないんだよね?」
今の怒声を柳に風の如く受け流して、サクヤへと声をかける。まぁっとわざとらしく頬を両手で押さえてサクヤは答える。
「セクハラですか? もう仕方ありませんね。セクハラ認定は確定です。勝訴間違いなしですね。和解条件は………」
「敵ボス、大天狗へと攻撃を開始します! スズメダッシュの艦砲を大天狗へと全て向けて攻撃を開始します!」
なにか戯言を言い始めたねと、サクヤの言葉をスルーして遥はモニターへとちっこいおててをペタッとつける。
そして瞼を閉じて、再び開くときには強い光を深く目に宿すレキへと変わる。
「さぁ、スズメダッシュ。貴方の力を解放します。私にその力を見せてください」
運転スキルが発動して、艦の隅々までがレキの支配下となり、手足へと変換されることを感じる。
艦体が自分の支配へと入ったと感じたレキはニコリと可愛らしく微笑む。
「では、大艦巨砲主義にて、あの小さい敵を撃破するとしましょう」
艦砲を高速にて接近する大天狗へと向けて、眠そうな目で敵の軌道を推測する。
「フォトンカノン発射!」
順々に撃ちだされるフォトンカノン。一撃でビルを吹き飛ばす威力の砲が次々と発射されて大天狗へと向かう。
スズメダッシュは3キロ。対する敵は3メートル。小さすぎて砲が当たるか不安なぐらいである大天狗への攻撃であった。
大天狗は翼を広げて、暴風を巻き起こし、ちょこざいな敵の戦艦へと接近を開始していた。
あれほど大きい艦でも怯むことは無い。自身の力に絶対的な自信をもっているからである。
それにあれだけの大きさの敵ならば、こちらへと攻撃を命中させることもできないだろうと確信していた。大艦巨砲主義では戦闘機の時代には敵わないのだと。
先程送り込んだ空中を進む妖怪たちがあっさりと倒されたことを棚に上げて、そう考えていた。
何故ならば速度が違う。先程の妖怪たちとは空中を飛行する速度が全く違うのだ。一跨ぎで千里を移動できる自分ならば、すぐに敵の空中戦艦へとたどり着き、あとは艦内に入り込んで中の乗員を倒すだけだと考えていた。
そんな大天狗へと艦砲射撃がくる。一撃で大天狗を飲み込むその白光を見て、すぐに鋭角に軌道をずらし高度を上げて回避しようとする。
しかし、回避先にもすでに白光が撃ちだされており、慌ててロールをしてその攻撃を回避する。近づいただけで、翼がチリチリと燃えて、己の身体が熱を持つのを感じた。
そうしてロール先にもなんと白光が撃ちだされていた。もはや回避しようがないと大天狗は驚愕する。
「ぐっ。天狗技 『暴風の木の葉乱舞!』」
素早く自身の木の葉でできた団扇を振りかぶり超常の力を発動させる。
振り下ろした団扇から無数の木の葉が暴風と共に生み出されて白光へと相対する。暴風の中の木の葉は大天狗が強化した鋭い刃の武器と化している。数千とも数万ともいえる木の葉が生み出されて暴風と共に生み出されて白光へとぶつかる。
ビシビシと木の葉が燃え尽きていくが、中途にて恐ろしい威力をもっている白光は打ち消されていく。
ほっと一安心の息を吐く大天狗が戦艦へと向き直ると、戦艦は船首をくちばしのように開き、力を凝縮していたところであった。
「ま、まて、我は大天狗なるぞ? 近代兵器ごときに………」
その凝集する力の大きさに慄き、身体を震わす大天狗。最後の言葉となり、周囲を照らす光が発射されたのであった。
「チュンチュン砲発射します」
艦砲射撃での攻撃は陽動として、本命の攻撃を叩き込む。すでに順序良く予想通りの動きを敵がしてくるのを冷徹な瞳で眺めて、スズメダッシュの最強最大の攻撃を放つレキ。
ゴオォンと艦体が揺れて、街を消し飛ばす一撃がスズメダッシュの船首からチュンチュンと放たれる。周囲を光で照らし、空気を震わせ、大地を揺らしながら、その光の束は周囲を消し飛ばしていく。
大技を繰り出した大天狗は動きを止めており、その攻撃にあっさりと飲み込まれていき、光の中で消えていくのが見えた。
一直線に光が平原を超え、森林を通過して、山脈の上空に軌跡を残していく。その軌跡は遠く離れた者の目にも映ったであろう。
光が収束して消えていき、大天狗はその中で姿を消していったのであった。
「ご主人様、ドキドキお化けパニックエリアを開放せよ! exp60000報酬変化の宝珠を手に入れました!」
レキから遥へと戻る中で、サクヤがこのエリアのクリアを報告してくる。ステータスボードを見ながらレベルが58になりスキルポイントも増えた事を確認する。
ふへぇ~と椅子へと深くもたれこみながら呟くように言う。
「ごめんね、大天狗さん。本当は潜入して巫女を助けながら戦うとかそんな感じだったんだろうけど、防衛網が無くなった君が悪いのだよ」
むふふと悪そうに微笑もうとして、悪戯を考えるような微笑みに変わるゲーム少女であった。
さて、ネズミを追いかけているシノブたちは大丈夫だろうかと考えをすぐに切り替える。きっとここの戦いは前哨戦とかだったんだろうねと思いながら。




