表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
コンクリートジャングルオブハザード ~ゾンビ世界で遊びましょう  作者: バッド
17章 ホラーな世界を楽しもう

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

283/583

278話 ゲーム少女と学校コミュニティ

 お化け屋敷をあっさりと通過した遥たち。真琴は今までは散々苦労をしながら移動していたのに、こんなにあっさりと通過できるとはと疲れたように肩を落として歩いていた。


 ちらりと後ろを見ると、のほほんと民俗学者を称する可愛らしい三人娘が歩いてきていた。


 キョロキョロと周りを見渡して物珍しそうにしているので、崩壊前なら観光客にしか見えない。


 ただし、なんだか近未来SFにでてきそうな所々がエネルギーでも通っているのか光っているメカニカルな銃や、腰に刀をさしていなければの話だ。


 そんな三人娘は超人であるところを見ているので、自分たちを助けてくれるだろうと確信して手を目的地へと掲げて言う。


「ついたよ。いえ、つきました。ここが私たちが暮らしているコミュニティ。学校を中心とした避難民の集団拠点だよ」


 ほぇ〜と声をあげて、三人娘は珍しそうに見渡すのであった。


            ◇


 なるほどねと遥は学校コミュニティを見て納得した。インフラ関係が絶望的らしく、火はなぜか使えるのは学校内のみ。水は井戸からの取水だけでは足りないようで、やはり学校内で取水しているらしい。両方ともそれだけならばあまりエネルギーは食うまい。


 そして学校内にはキャンプは無い。学校の外側に仮設であろうボロ小屋が大量に建ててあった。バラックとも言って良いだろう。戦後間もなくといった光景である。


 人々はその中で野菜をそれぞれ物々交換しながら暮らしているようだった。死に常に怯える姿は、この間の青森の生存者たちとは少し違う。怯えながらもチラチラと力を失っていない目つきで異邦人であるこちらを見てくる。


「なるほど、ここの人たちは力を失っていないんですね? 妖怪たちを倒せると考えている。そうでしょう?」


 ふんふんと頷きながら遥が真琴へと尋ねると


「あぁ、ほら、妖怪って弱点が必ずあるだろう? いえ、ありますよね。きっと大天狗も弱点があるのではと息を潜めて耐えているのが現状です」


「あぁ、希望が差し込んでいれば、より闇は深いってやつか。どいつもこいつも同じことを考えるんだなぁ」


 アインが忌々しそうに呟く。まぁ、それは基本路線なんだろうねと遥も同意する。それにここの敵は弱点を突けば倒せるのだ。


「天狗の有名な弱点といえば、鼻を折ることですよね」


 なんだかえっちぃ鼻を折ればだいたいの天狗は退治できそうである。そういう逸話もあるのだからして。


「あぁ、だから何人も天狗を倒そうと山を登っていったんだけど、帰ることは無かったよ……」


 遥の提案などとっくに知って試していたと、ぼそぼそと小声で悲しそうな声音で真琴が答える。


 気まずそうに遥は真琴へと慰めの言葉をかける。


「鼻を折る力があれば、そのまま倒せちゃうという話ですよね」


「あぁ、それに大王どころかあいつらも私たちじゃ倒せないんだ」


 あいつら? と首を傾げて尋ねようとしたときであった。


 バサバサと羽音がしたと思ったら、学校からワイバーンが飛んできた。


 ポカーンと口を開けて呆然としちゃう遥たち。細切れに空間結界が作られているので気配感知が通じにくいのが原因だが、まさかのワイバーン登場であった。


 トカゲの身体に鱗のついた羽、毒の針が先端についた尻尾が見える。その体躯は8メートルはあり、トカゲらしい尖った口には一噛みで人間など食いちぎりそうな牙がゾロリと生えていた。


「いやいや、あれは弱点はないですね? ないですよね? 強いて言うなら弓矢に弱い?」


 ゲーム少女は混乱している! いつもおっさんの頭は混乱しているでしょというツッコミはなしだ。


「あいつがこの周辺を支配していて、人が集団でいると襲いかかってくる。あいつに何人も食い殺されたんだ……」


 悔しそうに言う真琴だけど、それはそうでしょと遥は思う。あれは妖怪では決してない。ファンタジーの世界の生き物だ。


 バサバサと近づいてきたワイバーンはばかりと口を開き、空から急降下してきて噛み付いてくる。


 遥はひょいと真琴をお姫様だっこをして、トンッと軽く地面を蹴ると、ワイバーンのくちばしぎりぎりの横をすり抜けていく。


 あまりも近い中ですり抜けたので、風を受けて髪がなびく中で、推察を始める。


 ジロジロと眺めるが、どこから見てもワイバーンである。妖怪ではない。


「ご主人様! 私のキレキレの頭脳がこいつはワイバーンという名前にするべしと言ってきていますので、ワイバーンと名付けますね!」


 ふんふんと鼻息荒くいつもの名付けをするがまったく意外性がないパクリのサクヤである。


 キレキレのサクヤの頭脳では、何も切れないでしょと思いながら遥は問いかける。雑な扱いのメイドであった。


「ねぇ、サクヤ。今までは飛行キャラは全然いなかったのに、急に出始めたよね? なんでだろう? それにここの敵にコイツラ合わなくない? なんか悪魔とかゴーストシップとか妖怪と合わない西洋系だよね?」


 ふむとサクヤも真面目な表情になり、考え始める。


「……言われてみればそうですね。最初はごった煮の概念を利用していると思いましたが……。どうも妖怪を忠実に再現しているにもかかわらず、悪魔やワイバーン?」


「このパターンは北海道で見たことあるよ。二匹のボスが絡むと統一性がなくなるんだ」


 尻尾をしならせて、頭上からその毒の棘を突き刺しにくるワイバーン。それをステップを軽やかに踏みながら右へ左へと移動して、まったく当たらない遥。


 そして推測を話しながらの会話の内容をサクヤは真面目に吟味した。そうして、真剣な表情へと変えて遥に推測を話す。


「もしかしたら、縄張りを持たない強力な野良ボスが生まれたのかもしれませんね。このエリアには一つしか強力な力を感じません。なので、もしかしたら既にこの地にはいないのかも……」


 嫌なことを言うなぁと苦々しい表情となる遥。とすると、防衛線を作っていた艦隊もその野良ボスなのだろうか? いや、たぶんそうなのだとも。


「ほんぎゃーほんぎゃー! 倒して! 早く倒して!」


 真琴が泣きながら叫ぶので、遥は視線を戻して


「いつの間に子泣き美少女に! ねーんねーんころーりーやー」


 よしよしとあやそうとするゲーム少女であったが


「ボケはいらないから! いらないっての! 喰われる〜!」


 ギャン泣きしながら真琴が叫ぶので仕方ないなぁと、つま先立ちでその場に立つ。動きが止まったとワイバーンは勘違いして噛みつき攻撃に入るが、ゆらりと右足ですくい上げるようにレキは蹴りを繰り出す。


 ついっと空間が切れるかのような軌跡が見えたと思ったら、その音速へと入りこんだレキの蹴りはワイバーンの頭を通過しておりそのまま軌跡通りに切り裂くのであった。


 綺麗な断面を見せて、真っ二つに斬れたワイバーンを見て、真琴は本当にこの少女は超人なんだなぁと感心して、馬鹿みたいに口を開けたままにしたのである。


「残念ながら雑魚ですね。先程の艦隊もそうですが、かなりの弱さです。見かけと違ってオスクネーレベルといったところでしょうか。それよりも少しだけ強いのでしょうか?」


 弱すぎて力がわかりませんねとレキは呟く。何故レキなのかというと、遥は野良ボスがいる可能性を示唆されて素早くサイキックスパイダーネットを使用中であるからだ。


 弱い反応で周辺へと探知を広げたが……。やはり大きな力の反応は一つしかないねと嘆息する。野良ボスを見つけたら速攻倒したんだけどと。


 面倒くさい黒幕っぽいボスはなるべく素早く倒したい遥である。現実なんだから、さっさとボスを倒しても良いでしょうという考えからだ。裏技大好きなおっさんなので、常に上上下下左右左右BAを目指していたり。


「むぅ、野良ボスが徘徊しているとなると困ります………凄い困りますね……」


「ご主人様。まずはこのエリアの解放を目指しましょう。恐らくは野良ボスはこの近くにはいないと思われますので」


 う〜んと頭を悩ます遥であったが、珍しくまともな忠告をしてくるサクヤへと頷き返して、真琴を降ろす。


 気を取り直した真琴が立ち直り、周りを見渡すとバラックで息を潜めていた人々が、ワッと外に飛び出てきてこちらへと走り寄ってくるのであった。


「この人たちはいったいなんなんだ?」

「今、なにをしてワイバーンを倒したんだ?」

「救援隊が来たのか?」

「誰この娘?」

「ほら、いつも目つきが悪くて口も悪いから振られまくりの娘だよ」

「あぁ、あの目つきも口も悪い娘か」


 最後らへんの会話を聞いて、口元を引き攣らせる真琴であったが


「私は銀髪碧眼美少女デビューをするんだ……銀髪碧眼美少女デビューをするんだ……銀髪碧眼美少女デビューを……」


 と呟いて、我慢をしていた。銀髪碧眼美少女デビュー……新しすぎるデビューの仕方だ。


 ペチペチとちっこいおててを叩いて、外見はひ弱な少女に見えるゲーム少女が周囲の注意を集める。ペチペチとひ弱な拍手をするあたりあざと可愛らしい。


 既に蹴りだけでワイバーンを撃破したところは見られているわけだが。


 それでも小柄なる体躯の可愛らしい顔つきの美少女であるので、皆さっきのはなにか凄い武器を使ったのかなと意図的に記憶を書き換えて、ほっこりと笑顔になる。ケッ! 美少女はお得だねとやさぐれる真琴であったが、今の私なら同じようなことになるのではと、怒ったり喜んだりと忙しい。


 美少女はお得だと遥が痛感する一コマだ。おっさんならば、この化物めと石を投げられたり、罵られたりするだろう。まぁ、そんな凄い力を持っていないので、ワイバーンのおやつになった可能性の方が遥かに高いが。


 美少女パワーをフルに使うべくニコリと花咲くような微笑みを浮かべて、僅かに小首を傾げて尋ねる遥。


「ここが岩手県のコミュニティなのでしょうか?」


 先頭あたりにいた青年がその愛らしさにやられて、頬を赤くして答える。


「こ、このコミュニティはここだけだけど、他のコミュニティもまだいくつか残っているよ。毎月どんどん人は減っていってるけどね」


「そうですか。ならば他のコミュニティも調査は必要かもしれませんが……。とりあえずここの状況を教えてください」


 まずは目の前の事柄を解決しておこう。野良ボスは後回しにすると決意して話を聞く遥であった。


                 ◇


 しばらくの時間が経過して、おやつの時間となり、遥は飴を大量に出して、皆に自由に食べてくださいと置いておいた。


 ゾロゾロと人々が列を作り並び、飴を貰って食べている姿を見ながら、話をまとめるために、アインたちと車座になる。


「なるほど……学校ではないと火が使えないというのは本当なんですね」


 モキュモキュと小さなお口でココアをクピリと飲んで、サクサククッキーを齧りながら再確認する遥。ウロウロとクッキーも欲しいなぁと子供たちがうろつくので、はい、どうぞと配りながら。


 おねーちゃんありがと〜と子供が喜色満面になるのを見ながら、ここのまとめ役のお爺さんが弱々しく頷く。


「へい、そうでございますだ。学校には化物が彷徨いていて、儂らはいつ隣にいる者がいなくなるかと恐怖に震えながら暮らしているっちゅう訳で」


 なぜか時代劇の苦しむ農民みたいな演技が入っているぽいお爺さん。


「さようでござったか。八州見回り役のそれがしたちにお任せくだされば、ここの悪代官を退治してくれよう」


 なぜか時代劇の主人公みたいな演技が入っているぽいシノブ。八州見回り役って、なんだよとクスリと笑ってしまう。もう手遅れなシノブなのであとは正気に戻った時にからかうのみだと決意したのだ。これにより、シノブは黒歴史を生み始めるのだった。


 幼女がキラキラお目々でこちらを期待している様子で見てくるので、あ〜んと雛を餌付けするようにクッキーをあげながら遥も答える。


「わかりました。では学校の中の化け物も退治しましょう。謎の民俗学者は化け物に強いのです」


 きりりと真面目なキメ顔で学校へと入るのを決めるのであった。


「それじゃあアイン、シノブ。中に入って妖怪退治といこう!」


 えいえいおーと可愛らしいおててを掲げて気合いを入れるゲーム少女。


「了解だっ! 全員まとめて倒してやるぜっ!」


「民を苦しめる妖怪とやら、拙者が斬るでござる!」


 ノリノリで二人も立ち上がるので、あとは皆で配ってねと結局クッキーの缶も近くにいた子供に手渡して立ちあがる。


 そうして学校の中の妖怪ってなんだろうと思いながら歩みを進めようとする遥へと無情なる言葉をお爺さんはかけた。


「あ、いえ、学校内に出るのは妖怪ではなく、幽霊とか怪談に出てくる化け物たちですじゃ。いわゆるジャパニーズホラーっちゅうやつですな」


 ピタリとその言葉を耳に入れて立ち止まるゲーム少女。グギギと首を動かしてお爺さんへと声をかける。


「ジャパニーズホラー? 怖いやつ?」


「そうですじゃ、赤いちゃんちゃんことか、トイレの花子さんとか、テケテケとかですな」


 ふ〜んと、なるほどねと冷や汗をたらりと一筋かいて遥は答える。


「私、昔の漫画で見て以来、テケテケが凄い苦手なんだよね。トイレの花子さんも苦手なんだ。というかそれらは妖怪じゃないよね。妖怪のくくりに入れたのはだぁれ?」


 プンスカと頬を餅みたいに膨らませて、地団駄を踏みながら怒るゲーム少女であった。


 なんとも頼りない出発であった。


「は〜な〜せ〜! こらてめ〜、離せよっ! 離せ〜」


 そして一緒に怖い思いをしようねと道連れをつくるのであった。


「巫女なんですからいいじゃないですか! こういうのは一緒に怖がる人がいると盛り上がるんですよ! 盛り上げましょう巫女様!」


「ふざけんな! なんだよ盛り上げ役って! 危ないんだよ、中は本当に危ないの! 私も外で待っているから離せてめ〜! くそっ、なんちゅ〜力だ!」


 しっかりとおててを繋いで、ズリズリと引きずられて、真琴は連れて行かれ、四人は学校へと入っていく。


 周りの人々は大丈夫かなぁと不安気な表情であった。


           ◇


 キ〜ンコンカ〜ンコンと学校の鐘が鳴る中で真琴が嫌々ながらもついてきていた。


「私たちは家庭科室しか行かないですよ? 火が使えれば良いのですし」


 お澄まし巫女へとキャラチェンジして語る。たしかに火を使うならそこだけで充分だろう。


「なら、あんまり危ないこともないんじゃないですか? 一階にある家庭科室でササッとご飯を作れば良いんじゃないですか?」


 当たり前のことを当たり前に尋ねる遥へと真琴は嫌そうな表情で答える。


「そう思うだろ? でもいつの間にか誰かがいなくなっているんだよ。後ろに歩いていた人がいつの間にかいないなんてことがたくさんあるんだ……それで二度とその人は帰ってこない……」


「……うぅ……それは怖いですね……。アイン、シノブ、私のあとを見失わないでついてきてくださいね?」


 そういう話は苦手なんですと振り向いてアインとシノブへと声をかけようとする遥。


「あれ? アイン? シノブ?」


 しかしその場には誰もおらず、いつの間にか真琴と二人きりとなっていた……。


「あれ? あれ?」


 ぷるぷると震えて真琴にしがみついちゃうゲーム少女。どうやら学校の怪談の世界に迷い込んだようである。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] やはり驚かせるホラーよりジャパニーズホラーこそ真の恐怖
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ