276話 ゲーム少女は銀髪巫女と出会う
ふ~と女座りで真琴がおしとやかに見えるように座る。そして渡されたお弁当をパクパクと綺麗な所作で食べて、コクコクと飲み物を美味しそうに飲んだあと、しばらく経過したあとにお弁当を食べ終える。
空になったお弁当を綺麗に片付けながら、こちらへとニコリと微笑み頭を軽く下げる。
「ありがとうございました。久しぶりのまともなご飯で美味しかったです」
にこにこと微笑みながらお礼を言う真琴に謎の民俗学者の美少女は尋ねる。
「えっと、この先には何があるんですか? 巫女ってなんですか?」
真琴の様子を注視しながら、確認する。何を確認しているのかと言うと………。
銀髪巫女な美少女なんて、アニメか小説の中、もしくは作られたサポートキャラしかいないと思うんだけどという疑問からだ。
この日本でこんな銀髪美少女がいたらアイドル活動とかをしそうである。というか、現実に存在するとは絶対に思わないと考えている。
なので、もしかして先程の悪態の内容を聞いたところから、もしかしてこの銀髪巫女はTSしたおっさんではなかろうかと観察していたのだ。
それだけ銀髪碧眼に警戒を抱いているゲーム少女であった。もしもそうだとしたら、レキの中にいる存在にも気づいてしまうかもしれない。疑心暗鬼であるが、銀髪碧眼だからとサクヤをちらりとみてしまう。
先読みをしすぎて、胸をドキドキとさせている遥へと真琴が返答をする。
「巫女とは、この地域を支配している妖怪王大天狗の巫女になるということです。綺麗どころを大天狗はみんな巫女へと変えて自分の支配地へと連れて行ってしまうのです。ついに私にもその手が………」
およよと顔を手で覆い泣き崩れる真琴。そして王道過ぎてあからさまに怪しいでしょと警戒態勢をマックスにするゲーム少女。
今まで、王道ストーリーを味わったことが無いので、極めて警戒してしまうのだ。巫女を助けるために魔王へと立ち向かう勇者………怪しすぎる。まぁ、レキにふさわしい役どころかもしれないが。おっさんならば、荷物持ちの雑魚役で使えないからと追い出されないかなと考えて、すぐに雑魚に殺される役どころだ。なお、なぜ追い出されないかなと考えるかというと、勇者チームを追い出された人はチート持ちになることが多いからだった。実にしょうもない。
そこで、ん?と疑問に思う。おかしいところがあったからだ。綺麗どころを集めている?
「あの大天狗はいつからここに? いつから支配を始めたんですか?」
疑問を解消するために、小首を可愛く傾げて遥が尋ねると真琴は素直に教えてくれた。
「ん? あぁ、たしかゾンビたちがうろついて世界が崩壊した半年ほど先でした。突如として妖怪たちが現れて、この地域は儂のものだと大天狗が宣言したのです」
「それから巫女として綺麗どころを連れて行ったんですね? 真琴さんが巫女になったのはいつですか?」
その言葉の意味を正確に理解したのだろう。ぎくりと身体を震わせて真琴が目を泳がす。
「え、え、えっと数日前? だったかなぁ~。あはは」
「………真琴さんは同性の私が見ても美少女に見えるのに、数日前?」
遥の鋭い追及にプルプルと身体を震わせてこちらをちらちらと見る真琴。そして、はぁ~と深く諦めたような息を吐いて、空へと頭を仰いで怒鳴る。
「へいへい、私は美少女じゃないですよ~だ。本当の私は普通、いや、普通よりも少しは可愛い女子ですぅ~。綺麗どころがいなくなったから、無理やり巫女にされたんだ。なんか丸薬を飲まされたら銀髪碧眼になったんです~。なんだよ、私は素じゃ美少女じゃないって言われているようなもんだよな? そんなアホの王様のところにいくわけねーだろって、逃げ出してきたんです~」
悔しそうに正体を暴かれたことにより、涙目で叫ぶ真琴。
遥は眼鏡をスチャッと取り出してかける。イーシャが持っている眼鏡は意外と便利だったので、一応自分用に再度作ったのである。完全解析ができる眼鏡の力は人間のみでも役に立つ。この間のナナが毒にかかっている状態もこれがあればわかったはずだと珍しく反省したゲーム少女だ。
すぐに解析が終了して、対象の人間は毒による変性中と表示された。それを見て、眠そうな目を僅かに厳しくして、紅葉のようなちっこいおててを真琴へと翳す。
「アンチドート」
ふんわりと光の粒子が真琴を覆い、毒が消えていくことがわかる。完全に消えたことを確認して、ホッと安心する。
「な、なんだ? 今のなんだ?」
自身の身体に光の粒子が集まったことを見て、真琴が慌てるので優しい微笑みを浮かべて教える。
「真琴さん、貴女は毒状態にかかっていました。あのままだとまずいことになっていたでしょう」
ちらりとウィンドウ越しにナインへと視線を向けると、視線に気づいてその意味に気づいて真面目な表情で頷くナイン。
「マスターのご懸念の通りですね。あれはゾンビ毒を改造されている毒です。恐らくはかなりの力を使っているので量産は難しいと思いますが、あのままだと彼女はミュータントになっていたでしょう」
ちっと小さく舌打ちをする遥。予想通りの毒だったからだ。何しろ解析結果が変性中となっていたから、まだ変性は終わっていないとわかったからだ。
「どれぐらいの期間でミュータントになってしまっているかな? 毒の進行度は?」
ナインは残念そうに首を横に振って答える。
「残念ながらそこまではわかりません。ですが、新しい巫女とやらを連れに来たのであれば、もう以前の人たちは………」
ふぅむと苦々しく顎にてをあてて遥は残念だと思う。だが、この崩壊した世界ではゾンビに喰われてゾンビになるのも当たり前の世界だ。ミュータントに殺されてミュータントになるのとあんまり変わりはないかと気を取り直して呟く。
「なにが目的かわからないけど、大天狗とやらは抹殺確定だね。で、真琴は姿格好を治せるのかな?」
「リフレッシュならば、あらゆる効果を癒します。変わってしまった姿格好も戻すことができるでしょう」
にこりと癒させるナインの笑顔に、私はもうナインの笑顔で癒されているよと微笑みで返す遥。
そんな見つめ合う二人にサクヤが水をさす。
「またまたぁ~。なにが目的かわからないけどなんて、わかっているくせに~。ご主人様は想像しているくせに~。えっちなんですからご主人様は~」
口元を手で抑えてぷぷぷと笑いながらサクヤが言うので、多少頬を赤くする遥。美少女の姿で頬を赤くするとかなり可愛らしい。そして、サクヤの言っていることは当たっていた。だって天狗ですよ、天狗? エロいこと目的でしょうと考えるのは当たり前だ。おっさんの教養度がわかるというものである。
コホンと咳をついて気を取り直して真琴へと遥は再度おててを向ける。
「真琴さん、その姿も治しますね。リフレッシュ」
あらゆる欠損、大体の状態異常を治すレベル7の治癒魔法である。先程のアンチドートとは比べ物にならない光が真琴を覆い、眩しくて目を細める遥たち。
そして、光が消えるとセミロングのそばかすのちょっと目つきの悪い少女が現れた。どうやら中身はおっさんではなかったと安心する遥。中身がおっさんの美少女なんていらないよと自分を否定することを内心で思いながら、治った事に安堵する。
真琴がなにが起こったかわからないようなので、手鏡を手渡す。
「これで安心です。真琴さんは元に戻りましたよ。完全に毒は消え去りました」
にににこと笑顔で真琴へと安心させるように伝える。その言葉を聞いて、手鏡を見る真琴。
「あっ。私の姿が元に戻ってやがる! 銀髪碧眼じゃない!」
良かったねと皆が真琴を見つめる。
にこにこと笑顔で真琴は遥へとお礼を伝える。
「ありがとう。毒だって? 私は危なかったんだ?」
「はい。毒が身体にまわりきると化け物になったでしょう。なので、最初は毒を消したんですが、それでは姿格好が元に戻らなかったんで、完全に癒す術をかけたんです」
ふんふんと頷く真琴。
「最初は毒を消したんだ?」
「はい。それですべてが治ると思ったんですが、残念ながら違ったので」
ほうほうと頷いて、真琴は貫頭衣の裾をゴソゴソと動かす。小さいポケットみたいなところから丸薬がコロンとでてくる。
例の巫女へと変える丸薬だねと、解析しようと手を伸ばして受け取ろうとする遥だが、真琴はそのまま口に飲み込んでしまった。
えぇっ!と驚く遥たち。まさか口に入れると思わなかった。
「なにしてるんですか! また飲んでどうするんですか! 吐いて、ほら、吐いて」
慌てて吐いてもらおうと真琴の肩を掴んで身体をゆさゆさと揺するが、ん~ん~と口を抑えて飲み込んでしまう。
そしてまたもや銀髪碧眼美少女へと戻る真琴。ぶはぁっと手を放してこちらへと真琴は告げる。
「毒だけ治してくれっ! 体はこの身体でいいから!」
「………アンチドート」
真琴の叫びを聞いて、アンチドートだけをかける。再び毒は消えて、あとには銀髪碧眼美少女のみが残る。
「前の身体も良かったけど、この身体の方が筋力とかが凄い高いんだ。こんな世界だろ? だから筋力とかが高い方が生きやすいだろ? ほら、もう毒とかいうのもないみたいだしさ」
目をばっしゃばっしゃと泳がせながら、説得力なしのセリフをのたまう銀髪巫女がいた。
ジト目になり、みんなが思った。絶対に銀髪碧眼の美少女のほうがいいからだよねと。
美醜に差はないとのたまう人もいるが、あれは嘘である。美少女のほうが遥かにお得なのだ。体験談は遥自身。これまでおっさんではくぐり抜けてこれない場面を美少女だとくぐり抜けてこれたのだから。
はぁ~とため息をつきながら、気持ちは痛いほどわかるよと思ってしまう。それに基本ステータスも高くなっていると言っていた。恐らくはミュータントになる前の身体強化が行われるのであろう。
なので、真琴へと真面目な表情で尋ねる。
「真琴さん。銀髪碧眼の美少女のほうがいいのはわかります。わかってはいけない事だと思いますし、なんとか団体とかに怒られそうですが、それでも美少女のほうがお得ですものね。ですが、次は許しません。それと、丸薬は他にありますか」
多少の威圧をかけて、真琴へと告げると、威圧を恐怖と感じてぶるぶると震えて頷く真琴。そしてもう一つ丸薬を取り出す。
「これで最後だ。一応3個貰ったんだよ」
受け取って、眺めるが丸薬としかわからない。なので、ウィンドウ越しに四季に指示を出す。
「研究室でこの丸薬の調査をお願いします。成分はとにかくどれぐらいでミュータントになってしまうかを重点に調べてください」
「了解です、司令。すぐに研究班に解析を開始させます。早急なる対応を致します」
ツヴァイの一人がてこてこと近づいてくるので、ほいっと手渡しておく。あとで結果はわかるだろう。もしも進行度が低いのならばと微かに希望をもつ。まぁ、無駄な時は仕方ないと諦めるけど。
「お前らはなんなの? いえ、貴女たちは何者なのですか?」
真琴が遥の威圧がとけて、再び聞いてくるのでぺろりと舌をだして悪戯そうな笑みで返す。
「私たちは謎の民俗学者隊です。さて、この先になにがあるかを案内よろしくお願いしますね。あとそのキャラでいくつもりなんですか?」
常に余計な一言を入れる遥の言に、頬を赤くして真琴は答える。
「せっかく美少女になったんだしね………。美少女らしく振舞い暮らしていくんだ!」
握りこぶしを作り、強い意思で決意の言葉を表明する真琴であった。美少女はお得だと女性だからこそわかっているのだろう。モテモテ街道を突っ走るつもりだ。
「いいんじゃないですか? まぁ、私は止めませんよ。では中に入りますか」
頑張って儚げな美少女を演じてねと応援しながら、中へと足を踏み入れる。真琴はきょろきょろと周りを見渡すが、案内が必要と思ったのだろう。てこてことついてくる。
「なぁなぁ、あ、貴女たちだけで行くのでしょうか? やばいんじゃね? じゃなくて、危ないと思いますが」
「大丈夫です。先程の私の力を見たでしょう? それにアインとシノブと二人は言いますが、かなりの凄腕の民俗学者です。妖怪退治のスペシャリストですから安心してください」
「民俗学者にはみえねーよ? どう考えても軍隊にしか見えねーよ? なんで軍隊はついてこないんだよ。危ないぞ! いえ、危ないですよ」
真琴が後ろからついてくると思っていた戦車隊が動かないので焦った表情で尋ねてくるが、遥は気にせずに小さい手足を元気よくぶんぶんと振って、中へとてこてこと入る。
「大丈夫。まずは民俗学者が先行して内情を調査するというのは、調査活動では当たり前のことなんですから」
全然大丈夫じゃなさそうなことを小柄で可愛らしい美少女が言っても説得力の欠片もないもんだと真琴は思いながらも、でもさっきの力はなんだろう、もしかして強いのかもと考えてついていくのであった。
◇
中に入ると、長閑なる田舎の田園風景が広がっていた。スズメがチチチと鳴き声をだしており、田園には蛙などがうようよいそうである。
収穫後なのであろう。稲の刈り跡がそこかしこに見えるが、そこまでは多くない。だが平和な感じを醸し出していた。一つの風景を除けばだが。
可愛らしい指を気になる方へと向けて、遥は真琴へと尋ねる。
「真琴さん、真琴さん、あれはなんですか? どうしてあんなのがあるんですか?」
そこには巨大な平屋が作られていた。ボロボロでいつ崩れてもおかしくない平屋だ。そして、その平屋は道路にも存在しており、田園以外のほとんどは平屋となっていた。森には見えないので、恐らくは田園地帯だけなのだろう。
忌々しそうに真琴はその平屋を見ながら答える。見るのも嫌だという表情で怒りに震えながら。
「あれはお化け屋敷だよ。見た通りにお化け屋敷だ。馬鹿馬鹿しいもんだよ」
コテンと首を傾げて、疑問の表情を遥は浮かべる。お化け屋敷?
「皆は田畑を耕すために、あのお化け屋敷を通らないと駄目なんだ。あそこには妖怪がうじゃうじゃといて、上手く逃げないと殺される。馬鹿馬鹿しい本物のお化け屋敷で人があっさりと死ぬ場所さ、いや、です」
「リアルお化け屋敷ということですか。それならばコミュニティはこのお化け屋敷を超えた場所にあるんですね?」
「えぇ、この先の森林に近い場所に学校がありまして、その周りの家々に住んでいます。ふざけたことに学校にも妖怪は出るんだけど、飲み水や火は学校でしか使えないから、みんな恐る恐る学校で炊事をしたりするんです」
あぁ~と呆れた声音で声をあげる遥。なるほどねと、ここの敵は随分変わったやり方で人を飼っているんだねと。
「ご主人様、ドキドキお化けパニックエリアを開放せよ! exp60000報酬?が発生しました。ドキドキお化けパニックなんて面白そうですね!」
サクヤがワクワクドキドキとした表情で伝えてくるので、遥はきりっと真面目な表情で返答する。
「サクヤ………私はジャパニーズホラーが苦手なんだ。お化け屋敷も超苦手なんだ」
遊園地では数回しかお化け屋敷には入ったことは無いよと、見えない敵は怖いゲーム少女は今回の敵は嫌だなぁと思うのであった。




