275話 ゲーム少女と長閑なる山村
ぴ~ひょろろ~とトンビが空を飛んでいるのを見ながら、小柄な少女は戦車の上に乗りながらのんびりとぴ~ひょろろ~とトンビの真似をして口ずさんでいた。日向ぼっこしたいからとアメンボから降りて、戦車の上に移動した美少女である。
ゴゴゴゴゴゴゴと轟音をたてながら、フォトンタンクニワトリがコケコッコーとヒヨコを後ろに連れて走行していた。
美少女は周りを見渡して、ふわぁと小さなお口をあけてあくびをして呟く。
「長閑ですね~。なんでここらへんは敵がいないのでしょうか?」
ゾンビとかがいるか、妖怪がいるか、悪魔がいるかと思ったがなにもいないのだ。もはや崩壊した世界のために、道路は見る影もなく雑草に覆われており、崩れたビルや焼け落ちた家々などが見えるがただそれだけであった。
常ならば、こういった場所には敵がいるはずなんだけどと首を傾げて不思議に思う。
「そうだよなぁ、ボス。なんでここらへんには敵がいないんだ?」
アインも不思議そうに周りを見渡し
「拙者ら以外の姿を見ませんな。おかしい事この上ないですね」
シノブも同調して頷く。
「マスター、どうやらここ周辺は空間結界が多数見られます。ただ、その結界の強度からいって、空間拡張や空間変性は行われていない模様です」
ナインがウィンドウ越しに伝えてくるので、ますます不思議に思う。空間結界を張るのは、すでに予想済み。敵の感知を防ぐ一番簡単な方法であるので。だが、他は空間を弄っていないということは、たんに感知しか防げないという事だ。あとは自由に出入りができるので、生存者がいた場合は簡単に抜け出ることができる。
「う~ん。なら先行して私が行くかな。ちょっと敵が出てこないパターンは待ち伏せしている可能性が高いしね。さっきは艦隊が防衛していたし」
艦隊戦となりぬりかべの防衛壁もあった。機械が入り込まないようにグレムリンもいたとなれば、外部からの救出者がくると予想して防衛網を敷いていた可能性が高い。
そこでふと思い出して口にする。
「あぁ~。グレムリンとの戦闘は困ったよね。無人兵器が抵抗チェックができないのは困るよ。なにか方法はないかな? ナイン」
あっさりと無人兵器が落とされたことを思い出し、嫌な表情を浮かべる。グレムリンは弱いのに、無人兵器はまるで蚊取り線香に落とされる蚊みたいに、ほいほいと落とされたのだから。
「ドライを搭乗させれば、あの程度の超能力は防げますが………それは嫌なんですよね、マスター?」
にこやかに微笑み伝えてくるナイン。遥の考えなどお見通しといった表情である。
「もちろん、その通りだよ。無人兵器は落とされるためにあるんだから、ドライが搭乗して死んでしまったら困るんだよ。彼女らも家族なんだから」
にこにこと明るい笑顔で答えるゲーム少女。美少女なので、周りがその笑顔を見てホンワカする。美少女は笑顔だけでホンワカさせるのでお得である。
「となると………。新しい空中戦艦を作成する必要がありますね。手に入れた朧の珠を使用して無人兵器にも抵抗力チェックができるようにするには」
えぇ~と心の中で呟くゲーム少女。まじですか。空中戦艦は凄い高かったんだよ? それを新型に? スズメダッシュを改造ではなくて新型? と心の中でケチなるおっさん悪魔が叫んでいるが、小悪魔どころか、映画で最初にやられる雑魚悪魔なので、その心の叫びはナインには通じなかった。
というか、以心伝心なメイドたちなのに、ナインは敢えて気づかないふりをしている可能性が微レ存。ふんふんと可愛く息を荒げて、新型を作れる期待をしているようなので作らないという選択肢はない。
まぁ、この先も無人兵器が撃墜されるとなれば、反対に安いのかも………。だけれどと考えて、装備レベルと建設レベルを10に上げようかなぁとも考える。それならば、もうこの先に戦艦を作る機会もなくなるだろうし。
しかし、それを読んだのであろう、ナインが少し困った表情になり衝撃の真実を教えてくる。
「マスター、装備レベルと建設レベルを10にすれば良いと考えていますね? ですが、その場合は残念ながら素材が足りませんとなります………。10レベルは物凄い貴重な素材が必要なんです」
「あぁ、そういうやつか。ゲームでもよくあるよね。懸命に生産レベルを上げて、一気に装備を変えようとしたら、素材がありませんと表示されて悔しく思うやつ」
がっくりと首を項垂れて、遥は納得する。これまでも思ったのだが、どうやらレベル10は9とは格が違うみたいである。おそらくは10というのは数字では表記されないが、10以上ということなのではなかろうか? サイキックは明らかに10レベルを超えている。人形作成も恐らくは無限の可能性をもっているのではなかろうか? 貴重な素材で改造すれば、もっとアインたちはパワーアップすると思われる。
なので、9レベルで我慢するかぁと諦める。スキルポイントも心もとないし、無駄に使うわけにはいかないのだ。
「よし、ナイン、それでは新型空中戦艦を建造することにするよ。リストアップをよろしくお願いね?」
ぱぁっと花咲くような微笑みを浮かべて、ナインはワクワクとした表情を隠さずに頷く。
「かしこまりました、マスター。すぐに新型戦艦をリストアップしておきますね。すぐに建造に移ります」
えっ? とその言葉に内心で動揺を示すゲーム少女。ナインさん、自分で作るの? 私も作りたいよ? 9レベルの戦艦だものと心の中で叫ぶが、すでにナインはウィンドウから消えていた。
ちらりとサクヤを見て、ナインさんはとアイコンタクトで尋ねると、サクヤはうんうんと頷いて答える。
「もうナインは基地に戻りました。今はきっとツヴァイやドライたちを集めて、新型戦艦の建造に集中しているでしょう。まったくサポートキャラなのにご主人様を放置して帰宅するなんて、なってませんね! あとで姉として説教をしておきます」
プンスコと怒るサクヤ。サポートキャラの役目をこなすどころか、常に足を引っ張っている銀髪メイドの言葉なので説得力が凄い。どれぐらい凄いかというと多分、タンポポの綿毛なみの重さである。説得力ありすぎであろう。
「はぁ、仕方ないなぁ。でもナインのワクワク顔は可愛らしいから別にいいか」
戦艦建造イベントより、ナインの美少女スマイルの方が大事なのだと遥は考える。おっさんではなくても美少女スマイルの方を選択するのではなかろうか?
その言葉を聞いたサクヤがフンスと鼻息荒くウィンドウ越しにこちらへと身を乗り出すように言う。
「ご主人様、私のワクワク顔も見たいですよね? 今度一緒に寝ればワクワク顔が見れますよ? 次の日は添い寝決定ですね!」
「サクヤのはワクワク顔じゃなくて、はぁはぁ顔でしょ? ちょっとドン引きする笑顔なので止めておきます」
ガーンとその言葉にショックを受けるふりをするサクヤ。残念ですと項垂れるふりをしているが、いつものことなので放置する。常日頃の悪行がわかるというものである。
さてとと、気を取り直してコントを中止して戦車からぴょんと飛び降りる。わざわざくるくると足を抱えて回転しながら降りて、ぴっと両手を伸ばして10点と口にしながら着地するので可愛らしいことこの上ない。
「アイン、シノブ、ついてきて。戦車隊はここで待機。四季、スズメダッシュの艦砲射撃をいつでもできるように第二戦闘態勢へ。サクヤ、もう昼寝していていいよ」
「了解しました。司令、お気を付けを」
ぴしりと綺麗な敬礼をする四季。周りへと指示を出しますとウィンドウを閉じる。
そして、最後の言葉にますますガーンとショックを受けるサクヤであるが、すでに手元に枕をもっていたので寝る気満々である。まったく応えない銀髪メイドだった。
◇
てこてこと空間結界の前まで三人で歩く。長閑な村、いや、すでに自然あふれる平原となっている中で少し緊張して二人へと声をかける。
「おすなよ? おすなよ? 本当に押すなよ?」
空間結界の前でワクワクドキドキの表情でアインたちに言う遥。緊張はどうやらなかった模様。たんにお笑いを求めているだけのようだ。常にアホな美少女であった。
もちろん、アインはその言葉に頷いて、遥の後ろに移動をする。わくわくと遥がいまかいまかと背中を押されるのを待っていた時であった。
空間結界から少女が走り出してきて、こちらへとぶつかりにきた。
結構な勢いであるが、それでも余裕で受け止めることができる遥はそっと相手を抑えとどめる。
勢いよく前を見ずに、タタタタと走ってきた少女であるが、目の前に人がいるとは思わなかったのだろう。びっくりした表情でこちらを見てきた。
「す、すいません。まさか目の前に誰かがいるとは思わなかったんです」
その少女はなんと髪の毛が銀髪ロング。銀髪碧眼の少女であった。キラキラと綺麗な髪の毛を陽ざしに照らされながら、長いまつげと宝石のような瞳、スッキリととおった鼻梁、ちょこんとちいさいお口。私は美少女ですという綺麗な顔立ちである。背丈は150センチ。年齢は15ぐらいだろうか? シンプルな白い貫頭衣を着ている。素足であるのが疑問だ。
「うげ、髪の色が被っています! ご主人様、こいつは敵です。きっとボスが変化しているのでしょう」
ブーブーと頬を膨らませてナイトキャップを被ってパジャマ姿になっている昼寝をしていたサクヤが文句を言い始める。どうやら同じ髪の色はアイデンティティの危機らしい。たしかに銀髪碧眼はヒロインの要素にふさわしい。小説とかでも飽きるほど銀髪碧眼はでてくるものだ。
現実では変態銀髪メイドにしか出会わなかったのであるが。
「ボスは誰かはこの間の恐山で起こったから。もう新しいエリアだから」
呆れた表情でサクヤの言葉を聞き流して、相手へと視線を移す。
「どうしたんですか? おねーさん。なんでそんなに焦っているんですか?」
優しく問いかける遥の言葉に、貫頭衣少女は焦った表情で答える。
「逃げてっ! 後ろから化け物たちがくるわっ!」
は~ん? と首を傾げて空間結界を見ると、すぐに新たなものが現れてきた。
頭がカラスで烏の黒い羽を伸ばしている山伏の服装をしている1メートルほどの大きさのミュータントであった。錫杖を構えて、カーカーと数羽現れる。
「今代の巫女よ! もはや逃げ切れんぞ! すでに貴様が巫女と決まったのだ! カー」
威圧が声音に混ざっているのだろう。巫女と呼ばれた少女はぶるぶると震え始めるが、こちらへと勇気を振り絞って叫ぶ。
「逃げてっ! こいつら化け物の相手は私がするからっ!」
悲劇のヒロイン現る。といった感じ。王道のイベントだねと思いながら、少女より背が低いので、うんしょと背を伸ばして、肩をう~んと腕を伸ばして掴む。
「だいじょーぶです。おねーさん。私たちはしがない民俗学者ですが。謎の民俗学者ですが、自衛はできるんです」
幼い子供が背伸びをして言うような感じなので、大丈夫には全然見えない。
「ご主人様、あいつらの名前は烏天狗。カラス天狗です。そう名付けました! なんだか風系が得意そうな敵ですね」
サクヤが素早く名づけをするが、まぁ、たしかにカラス天狗以外の何物でもない。そして遠野物語と妖怪大百科と言う本を見比べて、ふんふんとお勉強をしている銀髪メイドであった。この地は妖怪がメインだと思っているからだろう。
カラス天狗たちはこちらを見て、カーカーと騒ぎ始める。
「なんと、麗しき美少女が3人もいるとは! お前らも巫女となるべし! そやつと共に連れて行く!」
このカラスたちは後ろが見えていないのだろうかと、呆れる三人娘。だって、私たちの後ろには戦車隊が無数に展開をしているのだから。
「カラスにふさわしいアホな知力しかないのですね。まぁ、カラスですし」
遥が呆れた表情で拳を握るが、巫女がその前に叫んだ。
「あぁっ! なんですか、戦車ではないですか! 救援隊がようやくきたんですね。遅いんですよ、コンチクショー。でも、私が巫女になってとらわれる前に来たので一応許してあげます!」
んん?と儚い少女のような銀髪巫女へと視線を移す。なんか言葉遣いが、先程とは………。
銀髪巫女はくるりと振り返り、カラス天狗たちに視線を戻して、フンスと得意げな表情で叫ぶ。
「おらぁ! もう人間様が救援に来たんだよ! てめぇらなんぞ、もうハントされる立場になったんだよ! 今度はこちらの番だぜ! うはははは」
そこには先程の儚い少女は欠片も見えず、口汚い不良みたいな少女がいた。
カラス天狗たちも戦車隊を見るが、カーカーと笑いながら、こちらへと返事をする。
「カーカッカッカッ。もはや戦車などはこの崩壊した世界では動かず! それに我らに戦車砲などは効かぬわ! 我らの力をみ」
最後まで言い切ることはできずに、カラス天狗たちはニワトリのフォトンバルカンから撃ちだされた高速弾にて吹き飛ぶ。
ダダダと銃声がして、超高速のフォトン弾が発射されて、空を引き裂き、油断していたカラス天狗へと命中して、あっという間に穴だらけになり肉片へと変わっていくのであった。
「うはははは。馬鹿なカラスだぜ! あんな見たことの無い戦車だ。もうお前たちを倒せるように改造されているに決まっているだろ! 人間様をなめるなよ! うははは」
調子にのって、胸をはる銀髪巫女。その調子は天元突破、空間結界をその調子で突破できるぐらいかもしれない。
その姿を見て、ジト目になってしまう遥。ちらりとサクヤへと視線を戻して呟く。
「銀髪って、こんな感じなんだね。やっぱり銀髪はこんな感じなんだね」
「違います! 風評被害です! あれは特別なんです、ヒドインです。銀髪キャラは私を基準にすれば、ヒロインとしてふさわしいとわかるでしょう、ご主人様?」
サクヤを基準にするとヒロインどころか、サブヒロインも無理だからと内心で呟く。なぜサクヤはここまで自信があるのだろうか? 良いところは顔だけのような感じがする。
銀髪巫女はこちらへと向き直り、おずおずとした表情で、口元にかわいく拳をあてて尋ねてくる。
「あの、助けてもらいありがとうございました。貴方たちは救援隊ですね?」
ええっ、いまさらそのキャラでいくのと驚愕する遥。地を見せてからの儚い少女キャラをやるとはちっとも思わなかった。胆力がありすぎる少女だ。
「先程の言葉はちょっとハイテンションになって、思わず言ってしまったんです。いつもは違うんですよ?」
「はぁ………。そうなんですか………。えっと私たちは謎の民俗学者朝倉レキです。今日は遠野物語を調べに、この地へと来ました」
銀髪巫女に負けず劣らず、アホな返しをする遥である。自分のやっていることは棚に置いておくゲーム少女である。すでにその棚は増えすぎており、美術館みたいになっているだろう。
「私の名前は天塚 真琴と言います。えっと、救援隊の皆さんですよね? あ、貴女は助けられた方だよね?」
言葉遣いが丁寧だとヒロインだねぇと呆れながら、この地の状況を聞くゲーム少女であった。




