270話 ゲーム少女と空中大陸
広大なる更地改め、広大なる大地に大樹が聳え立ち、その根元にちょこんと家が建っている。ちょこんとという表現だが、大樹が巨大すぎて普通ならば豪邸である。そして各所には工廠やら兵舎が建っている。
そして大樹の頂上にちっこい少女が座っていた。仙人の如く煌めく宝石の輝きを見せる半透明の巨大な葉っぱの上に座っていた。ちょこんと座っているので仙人というより人懐っこい子猫かもしれない。
風がそよそよと髪を撫でてきており気持ちいいなぁと少女は思いながら宙に浮くモニターへと視線を目を凝らす。
長閑であり神秘的な光景。大樹の枝の上に座っていると自分がファンタジーの世界の住人になったような感じがする。
そして深く息を吸い込み、きりりと珍しく真面目な表情になり側で控えていた金髪ツインテールメイドさんへ声をかける。
「これから居住用超戦艦を作成します。居住用と言いながら戦艦と名称があるのが気になる今日この頃ですが、ナインさんや、もしも私がミスりそうなら止めてね?」
小首を僅かに傾げて安心させるように微笑むナイン。
「はい、マスター。お任せください。すでに事前準備として姉さんは縛り上げています」
そうして、ちっこい指を差し向ける方向にはぶらーんと再び縄でぐるぐる巻きされている銀髪メイドがいた。最近ミノムシとなることが多いサクヤである。そしてナインの事前準備は万端だと遥は確信した。まずはサクヤを封じるなんて完璧すぎると。
あのメイドは必ずいらんことをすると予想というか確信をもっているゲーム少女だ。
「ご主人様? 酷いですよ? これは酷い扱いです、なんだか、段々扱いが酷くなってきているような感じがします。なんで毎度毎度ミノムシにされないといけないんですか」
サクヤが抗議するように白々しく頬を膨らませて、プンスコと怒るフリをしてくるので、遥はジト目で尋ねてみる。まぁ、答えはわかっているんだけどね。
「ねぇ、私が居住用超戦艦を作るとしたら、サクヤは何がほしい?」
一瞬の戸惑いも見せずに、毒花が咲くような微笑みを見せてサクヤが答える。
「レキ様バージョンの像を真ん中に建てたいと思います。あ、像といってもフィギュアに近い感じですね。下からはばっちりスカートの中が見えちゃうやつ。あと、映画館、映画館は外せません。私の編集したベストセレクションを公開する映画館で」
「とやっ」
自分の願望を垂れ流すサクヤのお口へぺちりとガムテープを貼る。もうこの戯言を聞く必要はないよねと。
そして清々しい笑顔でナインへと作業を開始することを告げる。
「さて、これより大樹偽本部居住用超戦艦ホットケーキを作成します。ナイン、助言よろしくね」
むーむーとミノムシがぶらんぶらんと激しく体を揺らしているが、木から落ちても知らんよとスルーする銀髪メイドに相変わらず厳しいゲーム少女であった。
そして、コホンと咳をして間をとり、モニターの作成一覧の中からホットケーキをタッチする。
ホットケーキの横には素材として必要な膨大な量が記載されているが、グレーアウトしていないから良いよねと適当に押すゲーム少女であった。グレーアウトしていなければアイテムを作れるから良いのだ。そしてその考えでゲーム内で1個しか取れないアイテムをゴミアイテムにしちゃうといった経験もあるけど、今は大丈夫だろうと思う。
なにしろDLCで3個ずつ希少アイテムはあるし、これまでに手に入れた素材もマテリアルも膨大だ。敵が強くなるごとに良いマテリアルを入手している。それは雑魚を退治しても同じであるのに、一般人へと供給するアイテムは最低レベル。即ちあまりまくって仕方ないのであるからして。
それでも、必要素材一覧には100個とか書いてあるのがちらりと見えたので、ムムムもったいないかもと考えちゃうケチな遥であった。
ゴゴゴゴゴゴゴと物凄い力が空中に集まり光の粒子が辺りから集まっていく。キラキラと宝石のように粒子が空中を浮いており極めて美しい光景。こういう幻想的なのは好きだなぁと遥はワクワクとして集まる粒子へと目を向ける。
子供が玩具を貰えるように、体育座りでちょこんと木の葉の上に座り、顔を期待に満ちさせて空中を眺める美少女の絵はかなり良い。ミノムシサクヤがカメラドローンを器用に使って撮影しているぐらいに。中身のおっさんが映らないのが最高であろう。
そして遥はふと気づいたようにナインへと顔を向けて言う。
「本物のホットケーキを食べたくなっちゃった。家に戻ろっか」
早くも眺めるのに飽きて、ご飯をねだる美少女の姿がここにあった。常に感動シーンを台無しにするゲーム少女である。そして空中戦艦の名前はもう諦めた。ホットケーキでも別に良いやと気にしない事にしたので、悟りを開いたのかもしれない。
遥の空気を壊す発言に嫌な顔一つせずに、甘やかしまくるナインはこくんと頷き
「わかりました。特製ホットケーキを作りますね。ココア生地を混ぜたものも作りますから期待してください」
「わーい。ナインは私の好みをよくわかっていてさすがだね。嬉しいよ」
ぴょんぴょんと小柄な体躯を可愛くジャンプさせて喜ぶレキであった。レキで良いと思う。レキにしようじゃないか。
てこてこと大樹を降りていく二人。そしてぶらーんとぶら下がっているミノムシサクヤ。
「あの~。そろそろこれほどいてください。ナインの結び方は特殊で解けないんです。あの~、ご主人様? 私もホットケーキを食べたいです~」
遠ざかる二人へとサクヤが焦った声音で縄をほどいてほしいと頼み込むが二人はイチャイチャとしながら木を降りていってしまうのであった。サクヤの自業自得ともいえるが。
◇
居住用超戦艦ホットケーキ、ダミーの大樹本部として作成を決めた遥である。これまでの人々の復興から、これから先の発展までを視野に入れると必ず本部に連れて行けということになるかもしれないからだ。
そしてかたくなに自分の家には誰も入れる気はない遥である。その頑固っぷりは凄い硬い意思を持つ。ダイヤモンドの硬度を持っているかもしれない。これが小説の主人公とかなら、絶対に自分の家には誰も入れないと決意しながらも、美少女ヒロインが現れたらホイホイと入れてしまうのだが、残念ながら遥は脇役気質である。たとえ美少女ヒロインが現れても入れる気はないのだ。それは絶対なのだ。おっさんは自分のテリトリーに他人を入れるのは家族のみだと決めているのだ。
他人をいれない本質は家族以外はいれたくないという、独身でいい歳をした人間にありがちな調和された世界を崩されたくないという考えからだったり。
ホットケーキを食べて、あとからサクヤがさすがに可哀想に思い縄をほどいてあげて数十時間経過。
ようやく超戦艦ホットケーキが完成をした。ようやくもなにもボタンを押下しただけのおっさんではあるが。
苦労をしていないのに、これを作るのは苦労したよと腕を組んで大樹の上から眺めるゲーム少女。どこら辺が苦労をしたのか頭を開いて記憶を覗きたいが、苦労したんだよと記憶を捏造しているかもしれない遥だ。
というわけで、こんなものを作成した。
小拠点:マイシップ
維持コスト:0(拠点聖域化の影響)
防衛力:1000
防衛兵:5機
拠点の種類:居住用超戦艦ホットケーキ
搭載機:フォトン装甲輸送トラック10台、量子システム搭載地上用強襲揚陸艦大山鳴動、高速輸送艦ホタテ、空中強襲艇ドラゴンフライ10機
半径5キロの大きさを持つホットケーキのように丸っこく平べったい超戦艦ホットケーキが目の前に浮いていた。そして搭載機は使いまわしで微妙にケチっていたりする。
居住用というだけあり、森あり、平原あり、小さい湖ありと緑が多いリゾート地のような戦艦である。
「さすがは居住用だね。何人住めるの、これ?」
説明書を読まないゲーム少女は、説明書の内容を熟知しているナインへとノータイムで尋ねる。自分で読むわけはない。だってすごい分厚いんだもの。
「最大収容人数は30万人ですが、そんなにぎゅうぎゅうと詰めたら本部ではなく監獄に見えてしまいますからね。本部は1万人ぐらい住んでいることにすれば良いんではないでしょうか? 幸福指数が高い居住性を持たせるのは5万人までですね。それまで居住可能です」
スラスラとあんちょこなしに答えてくるナインなので、ありがとうとナデナデと頭を撫でる。やっぱりナインは可愛いなぁと思いながら、ちゃっかりとナインの隣に背を屈ませて頭を撫でてもらおうとする銀髪もいたので仕方なく撫でる。
二人とも気持ちよさそうに目を瞑って撫でられるので、なんだかこちらも幸せで気持ちが良い。これだから頭を撫でることはやめられないんだよねと思いながら。なんだかんだいって、三人で常にイチャイチャするのであった。
気を取り直して、さらにモニタへと戦艦内部から甲板までの内部情報を閲覧する。
「なるほど、ある程度の部屋は戦艦内部では作られているのね。自由に建設できるのは甲板と」
ふんふんと理解して、それなら甲板に本部の城を作らないとねと張り切るゲーム少女。中世とは違い現代の城とはどんな風だろうかと頭を悩ますが、すぐに考えるのをやめて
「ナイン。あとはお願いします。私が作ると何故か豆腐がお皿に並んでいる感じになるので」
自分での建設を諦めるゲーム少女がここにいた。だって、確実に単なる長方形の家を建てるだけとなるのだから。それはもう決定である、なぜなら今までのクラフト系でもそんな感じであったから。
一覧にはたしかに屋敷やらなにやらもある。自由にカスタマイズもできるがデフォルトスタイルで建設をしても良い。
でも、カスタマイズしたほうがいいんじゃない?と料理下手が隠し味を無駄に入れて失敗するような考えに至る遥であるが、その先が違った。
しっかりとできる人に依頼するのだ。綺麗に建設をしておいてねと。人はそれを他人任せと呼ぶ。
「マスター、かしこまりました。私に任せてください。人々が本部を見て感心する建物を建設しますね」
ふんふんと鼻息荒くクラフト系サポートキャラが興奮気味に言ってくるので、やっぱりクラフト大好きなんだなぁと思いながら
「任せたよ。それじゃ私はなにか飲み物とかを取ってくるね。何が良いかな?」
どちらがサポートキャラかわからない発言をして、ナインへとせっせと飲み物とかおやつをもってくるマスターであった。
さらに数時間が経過して、殺風景であったホットケーキが見事にリゾート地と学術都市が合体したような感じで完成した。
ほぇ~と、ちっこいお口をアホみたいに開けて、遥はそれを眺める。
中央本部はなんだか直線的ではなく流線型の段々畑のような作りをしておりガラス張りのビルであり平屋でもいいのではないかと思われるほどビルの敷地が大きい。そして屋上には上品な純日本風の屋敷が建っているのがみえた。
ガラス張りといっても、外から内部は覗けない。たぶんあの純日本風の屋敷が那由多人形の家なのだろう。
そして森や平原には綺麗な白い道路ができており、これまたセンスの良い家々や、様々な研究室っぽいビルも建っている。それは見事に緑と融合しており感心してしまう。
感心して、遥はナインへと視線を向けて褒めちゃう。にぱっと笑みを見せて
「やったね、ナイン! これは完璧だよ。私が想像していた通りの建物ができているよ!」
早くも嘘を言うゲーム少女がここにいた。想像通りにしていたら湯豆腐ですかと聞かれることが間違いない光景になるはずだったのに。
ナインも嬉しそうな表情で手を合わせて
「ありがとうございます。マスターの為に張り切っちゃいました。あとは念のためにマスターの住む場所を作っておいた方が良いと思うんですが、それはマスターにお任せしますね」
ふむふむと頷く遥。さすがナイン、気が利いているね、最後は自分に任せるなんて、サスナイだねと。
「おし、それじゃまずはレキの家から作ろっか。そして最後に遥の家だね」
張り切って作ろう~と、ふんふんと鼻息荒くカスタマイズをして作るゲーム少女。
まずはレキの家だねと建設をしてぽてんと配置する。
それを見て、ぷぷっと口を抑えながらサクヤが笑う。
「さすがご主人様。ホットケーキにはバターをのせないとですよね。ナイスセンスです」
サクヤが笑うとおりに、本部近くにぽてんと四角いバターのような白い大きな建物が完成していた。さすがは豆腐職人遥である。期待を裏切らない。
「ぐぬぬぬ。おかしい、このモニター壊れているかも? 私の思考をトレースしてくれないよ?」
忠実にトレースした結果が豆腐だと思われるが、遥はモニターへと責任転嫁をして羞恥で頬を染める。なぜなんだ、なぜいつも豆腐になっちゃうのと心の中で絶叫をしながら。
気を取り直して、自分の家も建設する。ゴゴゴゴゴゴと光の粒子が集まり、今度は品の良い家ができる。レンガ風なちょっとした上流階級が住まう豪邸な感じ。
うんうんと頷いて、遥はすっとぼけながら呟く。
「これこれ、これが私の思考から生まれた建物だよ。あれはバグっていたんだね、仕方ないなぁ~。うん、本当に仕方ない」
デフォルトスタイルをまったく崩さずに、今度は上流階級の家(下)というのを建設したゲーム少女である。カスタマイズすると豆腐になるので泣く泣く諦めたのだ。
まぁ、なんとなく本部は完成したと思われる。あと、問題は一つだけだ。
ちらりと鈴なりで後ろに控えている暇なツヴァイたちを見ながら考える。
「ねぇ、そろそろ限界だよ。もうツヴァイたちを量産はしないから新型マシンロイドを作成しない?」
このホットケーキをどうやって5人だけで運用するというのだ。いや、運用はできるんだろうけど、誰かを招いたときになんで5人しかいないの? 人は地に足をつけていないと生きられないの? と聞かれちゃうかもしれない。その場合、バルスと叫んでなかったことにする必要があるかも。
その言葉を聞いてしくしくとウソ泣きを始めるツヴァイたち。これに負けたら量産できないのだが、いつも負けちゃう遥である。だって美少女が泣くのだ。仕方ないでしょう?おっさんは絶対に美少女に泣かれるなんて嫌なのだから。
いつものパターンになりかねないその光景を見てナインは軽く嘆息する。たしかにもう限界であろうと。
「仕方ないですね。マスター、それならば人形作成をレベル10に上げてください。そうすれば量産可能です」
ん? と首を捻って不思議に思う。レベル10にすると量産可能? 意味が分からないんだけどと思う。
周りのツヴァイたちも意味が分からないのだろう、ブーブーと不満の叫びをあげ始める。その中にむふふと楽しそうに笑いながらサクヤも混じっているが。
不思議に思う遥へと悪戯そうに微笑むナイン。わけがわからないけど、とりあえずナインのいうことだしと、人形作成レベル10にする。これで残りスキルポイント11なので次のエリアが面倒でないといいなぁと思いながら。
そんなフラグをたてていた遥へとナインは気づかずに解決方法とやらを伝えてくるのであった。




