234話 ゲーム少女はメイドズと共に戦う
曇天が地域を覆い、粉雪が暴風と共に舞い吹雪となっている。この間、レキが超能力で吹き飛ばしたはずのエリアはすでに元に戻っており、地面も見渡す限り雪が積もって、移動制限をかけられていた。
さすがは大ダンジョンといったところであろうか。そんな吹雪の中でキュイーンと脚を地面より僅かに浮かせてホバー移動する戦車があった。
蜘蛛のような8脚が戦車の胴体から生えるように取り付けられており、脚の先端は空間が歪んでいて、重力を操作してホバー移動をしているとわかる。高速移動をしており、粉雪をまき散らしながら、頼もしい重厚な金属の車両を大ダンジョンに見せていた。
3人乗りである戦車車両にて、後部の戦車長席に艶やかなショートヘアの黒髪、眠そうな目は愛らしく、桜のような可愛らしい色をしている唇をもつ子猫のような感じを見る人に与える小柄な体躯の美少女朝倉レキ。
その銀髪は美しく銀色そのままの輝きを見せるセミロングで、銀髪碧眼の綺麗な瞳とクールそうに引き締められた唇。背丈は170センチあり立ち姿が美しいサクヤ。
ロングの黄金でできているのではと思わせる美しい金髪をツインテールにまとめており、ぱっちりおめめは愛らしく癒されるように微笑んでいる唇をもつ背丈はレキと同じく小柄な尽くします系のナイン。
この3人が戦車にそれぞれ搭乗していた。砲手にサクヤ、レーダーその他がナイン、指令をするための戦車長レキである。
おっさん?きっと荷物入れにでもいるのでしょう。梱包されて封印されていると思われる。
「マスター、戦域に入りました。敵がちらほらと見えますが攻撃しますか?」
ナインがモニターを見ながら、声をかけてくる。すでに平原には敵の姿が一切見えないので、山と森の両方に、またはどちらかに兵力を集めているのだろう。そして今回は山へと向かう事にしたレキである。
戦車長席でレーダーを確認すると、気配感知と同じく敵が見られるので、さすがはレキの9割の力を使えるサポートキャラである。ツヴァイたちには悪いが、車両の力を引き出すにはやはりこれぐらいの力が必要なのだろろうとゲーム少女は考察した。
「やはりスキルの差は段違いの戦闘力となるんだね。いかに高性能な機動兵器でも、その力を引き出すのには必要ということね」
うんうんと軽く腕組みをして納得してから、ちらちらとサクヤとナインを見て、ふふふと可憐に嬉しそうに笑う。すっかり忘れていたけど、サポートキャラを連れていけることに嬉しくなり、ついついちらちらと見てしまうのだ。
「おし、んじゃ、戦闘を開始しよう。ドカーンと派手に私たち最強トリオのデビュー戦をやろう!」
お~!と腕を掲げるのに合わせてサクヤとナインもおー!と腕を掲げて戦闘を開始するのであった。
◇
山はちらほらと洞窟あり、木々があり、そして辺りを見えにくくする岩がゴロゴロとあり、積雪が移動制限をかけている。
その中で、ミュータントたちは息をひそめて各所で隠れていた。姿が見えないようにして敵への奇襲をするように命じられたのだ。
すでに銃の半分、ホバーに至っては3割ぐらいしか稼働しない状況でも忠実に敵を倒すため行動をしていた。
岩陰にはキャノンシロクマが雪玉に変身しており、スノーモンキーが地に伏せて敵を待っている。待ちながら待機していたところで、チュインと軽い音がしてスノーモンキーの一人が赤い花を咲かせてそのまま動かなくなる。
敵からの銃撃だと気づいて、辺りをキョロキョロと見渡すが、敵の姿は未だに見えない。どういうことだと首を捻って不思議がるスノーモンキーたちは、そのまま新たな銃弾にヘッドショットを喰らい、その全てが倒れ伏すのであった。
味方歩兵がやられたと見てとった雪玉はくるりんと回転して、キャノンシロクマへと戻り四肢を地面に踏ん張り敵の銃弾がきた方向へと、めくら射撃を始める。
ごぅんごぅんと物凄い轟音が発生して砲弾が飛翔していき、排気熱で後ろの雪が解け散り、前方を大爆発が覆う。それぞれが撃ちまくる中で爆炎が壁のように発生して、撃つのをやめるキャノンシロクマ。
撃退したのだろうかと、前方を見る中で空気を引き裂いて、前方から砲弾が飛来して着弾した。そして着弾後に大きなドームが生まれて、その中にいたキャノンシロクマは超重力であっさりとその強靭な身体を押しつぶされるのであった。
ピピっとモニタに映る敵を撃破したことを示すサインを見て、ほぉ~と感心する美少女戦車長。
「着弾後に超重力を発生させるの? なんかかっこいいよね。継続ダメージを与えるタイプだね、私は継続ダメージを与える武器を結構好んで使っていたよ」
継続ダメージは結構大ダメージを与えるので、戦闘開始時にポイズンやバイオをかけていたゲーム少女である。が、大体抵抗されて入らないのでがっかりすることも多かったのだが。そして弱体魔法を使いすぎて肝心の敵を倒すためのMPを空にしてしまうまでがおっさんである。
「マスター、この重力弾は着弾後に超重力を発生させるタイプと、ビーム状に撃ちだされる貫通タイプの二つがあります。他の砲弾も切り替えられるので便利ですよね」
誰もが見惚れてしまうだろう微笑みを浮かべて楽しそうに砲弾の説明をするナインである。メイド姿で戦車に乗っているのは不自然だけど、可愛いから良いよねと遥は思った。残念ながら遥である、今のところレキは戦闘状況を確認しているだけなので。
「その前の正確無比な射撃を見ましたか? 無口系クールな美女サクヤの射撃を見ましたか? 褒めても良いんですよ?」
得意げに言ってくるサクヤだが、たしかに凄いねと感心した。そのアホっぽい発言からは想像できないが、これでも銃術を7まで使いこなしているのである。そのスキルを存分に使い、なんと機関砲の単発射撃でヘッドショットを行ったのであるからして。
ありえない超人っぷりを見せるので、褒めても良いのかなと思うが
「ふふふ。これからは私の美技を見せまくって、ご褒美貰いまくりですね。あぁ、なにをお願いしましょうか? お風呂は当たり前ですが、寝るときも、ご飯も、にゅふふふ」
やっぱ褒めるのはやめておこうと、調子にのって口元をいやらしそうに笑うサクヤの姿を見て嘆息するのであった。サクヤは常に損をしていると思われるが、その行動が残念過ぎるので仕方ないのであった。
「マスター、敵主力と思われる部隊が攻撃を開始してきました。どうやら姿がみえない程離れていても、予測射撃で数撃てば当たる作戦っぽいですね」
「まったく問題ないね。このアメンボの精妙な動きを見せようじゃないか。ということでレキよろしくね」
速攻バトンタッチをするダメなおっさんである。自分でも回避はできそうだけど、ここは安心確実にねとレキに任せるのであった。
「了解です、旦那様。メイドたちより私の方が美技を出せるところを魅せましょう」
むふんと息を吐き、珍しく対抗心を覗かせてアメンボのコントローラーを持つ。
「………あ~、レキさんや? そこにかっこいいクリスタル製のレバーやら、空中にモニターがあるんだけど、使う予定はないのかな?」
おずおずと尋ねる遥。ちっこい可愛らしい子供が、ちょっとゲームをして見ますという感じでコントローラをもっているので、あんまりかっこよくないよねと聞いてみたのだが
「旦那様、モニターは細かい設定時に使いますが、レバーはいらないですね。私はコントローラ派なんです」
眠そうな目で平然と言ってくるレキがそこにいた。
「さよですか………まぁ、私もコントローラ派なんだけどね」
そう答えて、がっくりと内心で肩を落とす遥であった。
「レキさん、砲弾飛来中。数24発」
その言葉に頷きコントローラを動かすレキ。素早く車両がホバー移動を始めていく。
敵から結構離れていたのだが、めくら撃ちでの攻撃をしてきた敵の砲弾が接近してくる中で、当たる砲弾が数発あると見切ったレキはアメンボを高速移動させる。
ズゥンと地面が爆発していくが、ただそれだけであり、近接センサーにも反応しない距離を的確に保ちながら、移動していくアメンボ。まさにアメンボの如くスイスイと積雪の上を滑るように移動していく。
「サクヤ、敵集団、洞窟に隠れているのを砲弾で攻撃してください。私は機関砲で雑魚敵を撃破します」
「あらほらさっさー、偏差射撃開始します、サクヤカノン発射です。ポチっとなと」
なんだか、やったーとか言う敵にやられそうな掛け声をあげて、ノリノリで砲撃を開始するサクヤ。
ちらほらと見える洞窟にいる敵へと次々と正確に命中後爆発するタイプの重力弾を撃ちまくる。
高速移動しながら、アメンボから次々と轟音と共に発射される重力弾。洞窟に潜んでいた敵は超重力が発生していき、それに巻き込まれて潰れていく。
レキもポチポチとコントローラを押して、コントローラについているレバーを使い、マウスのような素早さでターゲットカーソルを動かして機関砲を撃ち込む。
機関砲といっても、その威力は馬鹿にできずに、ミュータントは次々と交戦むなしく銃弾の嵐に巻き込まれて倒れていくのであった。
「マスター、宝箱を発見しました。岩肌に生える感じでありますよ」
「りょーかいっ!」
宝箱絶対取るマンに変身したゲーム少女は高速移動中であるにもかかわらず、ハッチを開けて、とうっと飛び出していき宝箱へと向かう。紅葉のようなちっこいおててを翳して、その粒子をふよふよと回収していき、アイテムはなにかなぁとわくわくした顔で見る。
「ガンパウダークリスタル、ガンパウダークリスタル」
素早く戦車に戻り、ほへ?と可愛らしく首を傾げてしまう。
「なんじゃらほい? なんでガンパウダーだけ?」
「ん~、宝箱はその地域の力を受けて作られます。ここはガンパウダーが発生しやすい場所という事ですね」
ナインが頬に人差し指をつけて、戸惑ったような表情で伝えてくるが
「そんなにガンパウダーが必要なのって、なんなのかな? なにか嫌な予感がするよ? すごい前振りの予感が」
するよと最後まで言えなかった。突如として地面から砲弾が飛んできたので、レキが瞬時に回避操作をしたのだ。
アメンボはその足をつかい、ぴょんぴょんとジャンプを大きくして、地面から突如生まれた砲弾を回避する。
ある程度回避して、安全地域に着地するアメンボ。華麗なるジャンプで全て回避したと思ったとき
「マスター、地面からの攻撃の理由が判明しました。この山の3割程度は敵ですね」
「敵? ここは敵に囲まれているから今さら驚かないよ?」
「いえ、旦那様。今の攻撃から推測するに」
ひょいっとモニターへと指を向けるレキ。指さす先を見た遥は意味がわかった。
「なるほどね………。あんなものが隠れていたのね。大きすぎて気づかなかったというパターンか」
山が崩れて、洞窟だと思われていたものも、岩陰だと思ったものも移動を開始する。
ゴゴゴと山を崩して現れたのは、巨大戦艦であった。800メートルぐらいはあるだろうか、船底にはキャタピラがついており、大きな戦艦砲を多数装備しているものであった。
「ご主人様! あれはマウンテンシップと名付けました! ちなみにミッションは発生していないので、ボスではないですね」
「………まじですか。あれがボスではない? ちょっと強すぎる感じがするんだけど。 大きすぎる感じがするんですけど?」
帰っても良いかなと口からでそうなのを我慢する。これはデビュー戦だからして、ちょっと敵が強そうだからと帰るわけにはいかないのである。メイドズのがっかりした顔など見たくないのであるからして。
「旦那様、大丈夫です。あの戦艦もどうやら半分は砲台を動かせない様子」
レキが淡々と動揺も見せない平然とした声音で教えてくれるので、よく観察をしてみたら
「マスター、戦艦にはスノーモンキーらしき部隊がうろうろしていますが、それだけですね。メンテナンスを行うようにも見えません」
ギィギィと錆びた音をたてながら砲門をこちらへと移動させてくる。が、本当に半分程度しか稼働していないのであろう。鳴り物入りで入団したのに故障してしまった大型新人のような匂いがする地上戦艦であった。
「哀れであるけど、仕方ないよね。敵を撃滅していくよ。戦闘開始! レキよろしく!」
即断即決のおっさん遥。主導権を譲るのにも他人任せにするのにも躊躇しないのであった。
◇
ゴゴゴと船体を震わせて、マウンテンシップはバラバラに砲門を閃かせて、数十門はある砲台から撃ちださせてきた。
1発でも当たれば大ダメージになるかもしれないが、レキは全然気にしない。ふふっと楽しそうに笑って呟く。
「一斉射撃もできないとは恐れ入ります。どうやら戦艦乗りはいないようですね」
「そうですね、レキさん。お粗末な攻撃すぎます。あれでは当たる物も当たらないでしょう。こけ脅しですね」
辛辣な感想を言うレキとナインであるが、その通りである。ちょこまかと動くアメンボ戦車は地面を蹴ると瞬時に消えたように移動する。高速移動にて雪の上を水上に移動するようにしていくので、敵の攻撃はただ爆音をたてるのみであった。
「反撃開始します」
サクヤが戦車砲をバンバンと撃ち始めて、3門全て重力弾となり敵へと飛来して破壊をしていく。
着弾後に発生する超重力により、分厚い装甲で守られていたはずの砲門や機関砲が次々と押しつぶされてスクラップ行きとなる。
華麗にアメンボのように移動しながらの攻撃はたんに敵の甲板へと当たるのではない。砲門を確実に破壊するように攻撃していくが
「むむっ。ちょっと敵がでかすぎるようね? これ倒せる?」
遥が疑問の表情でダメージ度を見る。巨大すぎて、砲門をちらほらと破壊していくだけであり、これを砕くのはかなりの時間がかかりそうである。
「ふふふ、大丈夫ですよ。ご主人様。超絶技巧の私の力を見てくださいね」
自信満々の表情で答えてるサクヤに、ん?大丈夫かなと不安がるゲーム少女であるが、サクヤは超常の力を発動させる。
『エンチャントサイキック、エンチャントボディ』
強化超能力を使うサクヤは不敵に口元を引き締める。
『超技カノンレインスナイプ』
力を纏ったのはサクヤ自身ではなかった。サクヤはこの戦車を自分の装備品として認識しており、車両はその意識の元、エンチャントで覆われるのであった。
そうして使用した超技は撃ちだした砲弾を数百に分裂させたグラビティの矢と化して、敵の砲門へと確実に肉薄していく。
想定と違う攻撃をうけたからであろう。マウンテンシップはあわてて回避しようとするが、時すでに遅しであった。
回避した先に吸い込まれるように重力の矢は飛来して、全ての砲門を巻き込んで破壊していくのであった。
「た~まや~」
るんるんとご機嫌な表情で敵を見るサクヤの声と共に、マウンテンシップはその巨体を重力弾での爆発で包まれる。
「ラストですね」
敵船体が攻撃能力を失ったことを確認したレキが、移動を停止して3門の砲台をマウンテンシップへと向ける。
「艦長も整備兵もいないで、援護をする部隊もおらず、孤独に倒されていく。なるほど、たしかに大和の最後ですね」
そうして敵を哀れみながら呟くレキ。遥がレキの行動を意味を理解して超常の力を使う。
『念動体』
揺らめく空間の歪みが車両を覆い、戦車とレキは一心同体と化した。サクヤのやることを見て、すぐに真似した遥である。なにげに凄いかもしれない。
目に深い輝く光を宿してレキはとどめの一撃を発動させる。
『超技トライアングルカノン』
ズドンと3門からグラビティエネルギーと化した砲弾が飛翔を始める。ぐんぐんとマウンテンシップへと接近する中で3門から撃ちだされたエネルギーの矢はマウンテンシップの目の前で融合して巨木のような巨大なエネルギーの杭となり、マウンテンシップの船体を撃ち貫くのであった。
分厚い装甲で覆われていかなる攻撃も防ぐはずであったのに、あっさりと船体は発泡スチロールのように貫かれていく。ついには船体が割れて、轟音と共に爆発して消えていく敵を見ながらサクヤが嬉しそうにする。
「デビュー戦は満点ですね」
「これからは戦車での移動時は支援攻撃もできますよ、マスター」
新たな力ともいえるメイドズとの力を合わせたデビュー戦に満足げに頷くゲーム少女であった。




