233話 ゲーム少女はコタツでぬくぬくする
さぶいさぶいと、外は梅雨入りして、ポツポツと雨が降っており、じめじめとしている中で、クーラーの温度を15度にしてリビングルームでコタツを作りぬくぬくとしているゲーム少女の姿があった。
物凄い贅沢で無駄な消費である。夏は部屋を極寒の震えるほどの寒さに、冬はガンガンと汗だくになるほどの暑さにして、逆の季節を感じると不思議な優越感を感じるのだ。アホな行動だと思われがちだが、夏に肉まんを、冬にアイスを食べる贅沢をしたことがある人は多いのではなかろうか。
もちろん、ゲーム少女もそのようなことをしてきた一人だ。暑いのは苦手なので主に暑いときに凍える寒さにして毛布にくるまってぬくぬくする人間であった。
おっさんのときなら、そのまま梱包して押入れにしまうのだが、小柄な可愛らしい美少女が毛布にくるまっていれば、ほんわか癒やされるし、どこからか変態メイドがやってきてお持ち帰りしようとするかもしれない。
今回は毛布ならぬ、こたつに入り込みぬくぬくと子猫のようにゴロゴロとしていた。愛らしいその姿は顎を撫でれば、ニャ〜ンと鳴いちゃうかもしれない。
そんな美少女はこたつに入り、テーブルに置かれた熱々のおでんを食べていた。なにしろおでんは大好きなゲーム少女だ。味の染み込んだ大根をちょこちょこと食べて、ほふほふと熱くて美味しいと嬉しそうな表情を浮かべている。
ゲーム少女は正面に座っていたサクヤへと優しそうな微笑みを向ける。
「サクヤ、最近は仕事が忙しくて大変だよね、はい、ご褒美のあ〜ん」
箸で摘んだ熱々の大根を銀髪メイドへと最近のし返しだとばかりに向ける。だが、敵もさるものである。ウキーと喜んでパクリと熱さを気にせずに幸せそうに頬張る。
「ご主人様の味が染み込んでいて美味しいですね。あ、ちなみに私の力はご主人様と同等と知っているとは思いますが、一応忘れているとなんですので、お伝えしておきますね」
まったく熱がる様子も無く、ニヤリと笑うサクヤに、ぐぬぬと歯噛みをするゲーム少女。言われた意味からすると、そんじょそこらの熱さではサクヤはびくともしないということだ。すなわち熱々おでんコントはできない。
期待していたのにと、がっかりする遥をふふふと不敵な笑みで答えるサクヤであった。
なので、第二弾、辛子たっぷりはどうかなコントをしようとしていたら
「食べ物を玩具にしたら、メッですよ」
ちょこんと額を可愛らしい小さな人差し指でナインがついてくるので、可愛いぞ、こいつめ、と恐る恐る頬をついても嫌がられないかなと相変わらずのヘタレっぷりで、つんつんとナインの頬をつつくゲーム少女であった。
頬をつつかれて、くすぐったそうにクスクスと笑うナインは本当に癒やされると感じて、間に挟まってきた銀髪メイドへはドスドスと指を突き立てるのであった。
まぁ、とりあえずはコントは終わりかなと、遥は少しだけ真面目な表情で、信頼できる二人へと話しかける。
「で、だよ? これからどうしようかなと思っているんだ。大ダンジョンをクリアするのは当たり前として、山と森のどちらにするか? それと新装備を作成するべきかが問題なんだ」
「う〜ん、私としては露天風呂があれば良いなと思いますので、山をお勧めしたいところですが。裸同士の触れ合い露天風呂をお勧めしたいんですが」
はい、次の意見。とナインへと顔を向ける冷たいゲーム少女である。ちょっと、熱々おでんコントをしなかったから怒ってますねという幻聴は無視だ。
「今回撤退したことで、空中浮遊も封じる概念を追加してくるかもしれません。やはりホバー装備と耐寒用装備にした方が良いと思います。武器も炎系がよろしいかと」
ナインの考えに、う〜んと顔を俯けて、珍しく深く考えるゲーム少女。いつもは諸手をあげて賛成するのに珍しい。
「たしかにそのとおりなんだ……。ナインの言うとおりなんだけど……」
言い淀む遥へと、ナインは小首を僅かに傾げて問いかける。
「なにか気になることでも?」
その言葉に俯けていた顔を持ち上げて遥は言う。
「あのダンジョンは最初は畑だったんだ。それが可愛らしいレキに侵攻されて対応することにした。なら、雪原になったとはいえ、最初のステージを考えると、ボスの属性は氷系じゃないと思う。それなのに雪原仕様で行ったら痛い目にあうかもしれないよね」
なるほどとナインはその考えに同意して頷く。
「たしかに空間結界の先は雪ではない可能性が高いです。もしかしたら雪原仕様にしたら、それを狙って攻撃してくるかもしれませんね」
「だけど、雪原ではかなり厳しいからなぁ。中間をとって新型機動兵器といこうよ。なにかあるかな? 強くてお財布に優しいコストパフォーマンスが良いやつ」
無茶振りをするゲーム少女の姿であった。だがクラフトを何よりも好きなナインは素早く脳を働かせて、雪原に強いだろう機動兵器を遥にみせてくる。
「これならどうでしょうか? グラビティシステム搭載多脚式戦車アメンボです。多脚により複雑な機動を行える強みを見せつけ、悪路だろうが水上だろうが、高速移動できます。超重力による攻撃と重力操作で羽のように軽くもできて、敵の攻撃もグラビティシールドで弾く力を持っています」
フンフンと鼻息荒く、身を乗り出して顔を目の前まで近寄らせての売り込みである。相変わらずナインはクラフト系の話となるとすぐに我を忘れる模様。ちょっと顔が近くて、いい匂いもするしツインテールがペチペチと当たってこそばゆくて、照れてしまう。
「どうでしょうか、マスター。フォトンも良いですが、グラビティシステムも良いですよ」
ゲーム少女の膝の上に頭をのせて、ゴロゴロとするナインだがちょっと不満そうな顔になる。
「マスター。考えごとをする時は遥様のぼでぃにしませんか? レキさんよりも私は嬉しいです」
純粋なる好意から言っているナインなので、グハァッと大ダメージを受ける遥。なにこのいきもの?可愛らしすぎるでしょと思ったのであった。
「ご主人様。考えごとをしない時はいつもレキ様のぼでぃにしませんか?おっさんよりも私は嬉しいです」
といやっ!とナインを押しのけて、ゲーム少女の膝に頭を乗せるサクヤが純粋なる悪戯そうな笑顔で言ってくるので、はぁっと辛子をサクヤの唇に塗りつけると、グハァッと大ダメージを受ける銀髪メイド。ゴロゴロと辛いですとのたうち回る姿を見て、なにこのいきもの? そろそろ封印が必要かなと感じるのであった。
とりあえずコントはオチがついたので、遥は欲張りセットをダメ元で聞いてみる。
「弾薬の変更、高熱弾や冷凍弾に振動弾と切り替えて戦えるかな? ミサイル迎撃用レーザーと特殊兵装も欲しいんだけど?」
かなりの無茶振りだけど、ゲーム仕様の超戦車ならできるんではと一抹の希望を持って、ナインへと注文をしてみると
「もちろん、簡単です。できる限りの追加装備をして建造しましょう」
遥を甘やかして、その心をドロドロに溶かす程に尽くしたいナインは問題ないですといつもの愛くるしい微笑みを浮かべる。
「よし! それなら確定だ、そのアメンボという絶滅危惧種を作成しよう!」
キリッと表情を引き締めて、新たなる機動兵器を作成すべく、こたつから渋々立ち上がり、やっぱりもう少しおでんを食べたあとでと再び潜り込もうとするが、やんわりとナインが押し止めてきたので、面倒だなぁと先程の気合はどこかへ飛んでいったゲーム少女はポチリと作成ボタンを押下する。
キラキラと目の前に輝く粒子ができる中、ナインがニコリとこちらを見て、悪戯そうな声音で言う。
「マスター、実はもう一つ作って欲しいものがあるんですが」
ナインの意見なら、内容をちらりとしか確認しないで大丈夫だよと答える遥であった。
◇
基地は周りに更地ばかりが目立つ殺風景な場所である。たまに農地に種蒔きをするツヴァイがいるぐらい。
てこてこと歩いている作業服を着たツヴァイが見えたので、軽く手を振って笑顔を見せる。
ツヴァイはすぐに手を振って、笑顔でこちらへとやってきて挨拶をしたら、また農地へと向かうので通行人の邪魔をしているかもしれないゲーム少女である。
そんなツヴァイは、パラパラと種を空中に撒くと、種は不自然な軌道を描き、土へと均等な間隔で潜っていく。まぁ、スキルの力なのだから、それぐらいは普通だと遥は眺めながら思う。
ゲームでは最高級品なら、鍬で一マスを叩くだけで、一区画が耕されたものなんだから、普通だよねと、普通の概念が壊れてガラクタになっているゲーム脳な遥は動揺を見せない。
だが、次の様子はちょっと冷や汗をかいて、目をそらしてしまう。
なにに対して目をそらしたかと言うと、畑に埋まった種がもう発芽し始めたのであるからして。
ぴょこんと芽を出して、双葉になりぐんぐんと伸びていき、そうして花が咲く。受粉を必要としない不思議な野菜なので、そのままぐんぐんと育ち花は実となりツヴァイがそれを見て、シュパンと鎌を振るうとあっさりと実が回収されていくのであった。
「ねえねぇ、ナイン? あれは何なのかな? ビニールでできた海用の空気を入れて楽しむボールかな?」
現実を認められない遥は、ギギギと首を向けて、そばにいるナインへと声をかける。ちょっと今の光景が信じられないのだ。
ステータスボードを開きながら、マスターの了解を得たのでポチポチと楽しそうにボタンを押下していたナインがこちらを向く。
「あれは西瓜ですね。大量に作っておけば夏になれば人々が買い漁るでしょう。とっても甘いですし、冷やしてあとで食べましょうね」
なにも気にすることはありませんよと安心できる笑顔で、まったく安心できない内容を伝えてくるので、サクヤと違いナイン相手にツッコミを入れるのはなぁと思いながら、ワタワタと可愛らしい小柄な体躯で両手を振って、それでも声をあげる。
「いや、この間までは1時間だったよね? なんで数分でできちゃうの? スイカルトとか、そんな名前のミュータントにならないよね? というか食べて大丈夫なのあれ?」
なにせ少し眺めていただけで、シュルシュルと成長して実を生らしたのだ。普通の人がこの光景を見たら西瓜を食べることはなさそう。たとえどんなに美味しくて甘くてもだ。
「あれは、最近手に入れたピュアウォータークリスタルの力を込めてあるからですね。それにより生長速度が今までの10倍となりました」
食べるのはゲーム少女ぐらいであろう。もはや吹っ切れて美味しさを求める遥である。………嘘です、少し食べるのが怖い。スイカ人間という昔のコメディを思い出してしまう感じ。
でも、それを言ったら1時間で収穫もおかしいのだ。これは我慢するしかないのだろうと遥は嘆息した。
まぁ、若木シティの農家さんを圧迫しないように気を付ければ良いやと気を取り直して、ステータスボードに視線を向けると、建造完了と表記されていた。
「完成したみたいだし、ちょっと見てみますかねっと」
ぽちりと呼び出すと、光の粒子と共に大型の多脚式戦車が目の前へとその勇壮な姿を見せる。
8本脚の戦車で脚を抜かせば20メートルほどの大きさの大型戦車である。足を伸ばせば全高が10メートルは軽く行くだろうか。
主砲は3門あり、三角状に設置されており、頂点がグラビティカノン、下部が弾丸切り替え可能な戦車砲だ。後部両脇にはミサイルポッドと迎撃用ビームファランクス、後部には特殊兵装が搭載されている。前部両脇には6門の機関砲が備え付けてあり、凶悪な様相である。
「かっこいい! 現実ではありえないデザインだとはわかるけど、こうやってみるとかっこいいよね!」
戦車の周りをてってこと歩き回り、ステップを踏んでくるくると回転しながら喜びの舞を見せる愛らしい美少女。声は弾んでおり、この戦車を操って敵を倒すんだと無邪気な嬉しそうな顔をしている。この少女の中身は童心溢れるレキであるから、可愛らしさ爆発であるからして。
おっさんはきっと指令センターで、腕を組んで作戦を練っているに違いない。ここにはいないと思いたい。
クスリと笑い、ナインも珍しく遥と一緒に周りをまわりながら、くるくると回転して舞を見せるので、二人の可愛らしさが相まって幻想の世界となっている。
幻想から悪夢へと変えそうな変態メイドが、はぁはぁ、ご主人様可愛すぎますとカメラで撮影をしまくっていなければ完璧だったのだが。
ナインがご機嫌なのは、久しぶりに作り上げたマスター専用戦車だからだけではない。それももちろん嬉しいのであるが、別のことでも喜んでいるのだ。
ルンルンと鼻歌を歌いながら、ナインが遥へと顔を向けて、嬉しい理由を言う。
「マスター。ミニコアを作成して頂きありがとうございます。マスターの力により、これぐらいの大きさの戦車であれば、ミニコアがあればサポート範囲内になります」
その言葉に、なぬっと驚きの表情を浮かべる遥。作って欲しいものの一つにミニコアがあったのだが、テキストフレーバーが書いていなかったのだ。だから、何の効果があるのかと疑問に思っていたのだが。
ご機嫌な理由はクラフト系装備をたくさん作れたからと思っていたら予想外の言葉をかけられたので、可愛らしく小首をコテンと傾げて尋ねる。
「サポートって、なんで? 今までの戦車では無理だったよね?」
「はい。残念ながらマスターの力及ばぬところではサポートは無理でした。しかしマスターはすでに限界を超えた力を使えるのです。それはクラフトにも及んで、ついにミニコアも作成できるようになりました。戦車を小拠点として扱える程に」
くるくると回転して舞うのを止めて、悪戯そうな表情を浮かべるナイン。
「ご主人様、ようやく機動兵器限定ですが、私たちもサポートできるようになったということです」
カメラで撮影をやめて、ナインの隣にサクヤも並んで楽しそうな表情を浮かべる。
その言葉は遥の頭にじわじわとしみ込んでいき、何を表しているのかを理解した。
「え? まじで? 遂にサポートキャラを連れて行けるようになったの?」
メイドズはこくりと頷いて肯定してくれる。
「残念ながら戦車内しか入れませんし、戦車が撃破時は拠点に戻ることになりますが」
「ご主人様やりましたね。ミニコアの力で私たちの力はご主人様の9割をいまのところ発揮できます」
「ようやくご一緒に冒険ができることになりました。マスター」
オロオロと現実を認めることができない遥。ずっと以前にそんなことを言っていたような気がするが、まさか今になって、サポートキャラと行動できるようになるとは考えていなかったのだ。
ごくりと唾を飲み込んで、恐る恐る尋ねる。
「それじゃ、機動兵器戦では一緒に行動できるの? ついに4人パーティーになる時がきたのかな? これから前衛で勇者役をやってもいいのかな?」
勇者役が楽しそうと考える子供な遥に、こくこくと頷くサクヤ。
「レキと二人で強敵と戦う際には援護がもらえると考えて良いのかな?」
ふふっと笑顔を見せて、こくこくと頷くナイン。
「旦那様と二人きりでなくなるのは少し嫌ですが………。まぁ、機動兵器のみであれば、そこまでお邪魔にはならないでしょうし」
まぁ、たしかにそうだろうなと苦笑交じりにレキの嫉妬の声を聞く。結局最後はレキと自分で戦うことになるとは思っている。
それでも、今までとは違うことに遥は
「やったぁぁぁぁ!」
ぴょんぴょんとウサギのように飛び跳ねて喜び、それを微笑ましく眺めるメイドズであった。




