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コンクリートジャングルオブハザード ~ゾンビ世界で遊びましょう  作者: バッド
14章 北海道に行こう

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220話 ダンジョンの反攻作戦

 ふわぁとあくびをしながら、荒須ナナは布団から這い出てきた。ちらりと外を見ると陽射しが入ってきているので、もう朝なのだろう。ちょっと頭がボ〜ッとして眠い。


「う〜ん……ちょっと贅沢に慣れちゃったかなぁ?」


 畳敷きに布団は普通のはずなのに、フカフカじゃないからなかなか寝れなかったのだ。あと、自分の寝室ではないからだろうけど。


「寝具も高級品だからなぁ〜」


 私も金持ちの暮らしに慣れてしまったのかと、苦笑交じりに呟いて、ガラリと窓を開けると、爽やかな緑の匂いが一斉に入ってきて、息を吸い込むと気持ちの良い美味しい空気が感じられた。


 そんな私はマウンテンベースに只今常駐中。外には一面の緑が視界に入ってくるのだった。


 ここは女性側の兵舎である。同じ部屋に数人が一緒に寝起きをしているので少し狭い。急遽作られた普通の家を兵舎に変えた場所なので仕方ない。


 でも最近は広い寝室に慣れてしまった私は少し贅沢になってしまったと軽く落ち込む。人って慣れるものなんだなぁと、最初の頃は広すぎて落ち着かないと思っていたのに、今は狭いほうが落ち着かないのだ。


 窓が開いて、気持ちの良い涼やかな風が入ってきたことに気づいて、他の人たちも起き始める。


「おあよ〜。もう朝か〜」

「おはようございます。今日は晴れていますか?」


 ボサボサの寝癖をつけた髪を直そうと、そのままシャワーに行く人。朝食を食べに行く人に分かれるので、私も朝食を食べに行くことにする。


 家の外に出て、大型の食堂へと向かいながら同僚と会話をする。


「暇だよね〜。本当に敵が来るのかな?」


 同僚が気軽な口調で尋ねてくるので、私も軽い口調で返事をする。最近はこれが挨拶代りな感じ。


「そうだね。元々解放したエリアからの敵を警戒するだけだから、ある程度敵を倒したらおしまいですよ。何事もなく帰還することになると思いますよ」


「まぁ、それが一番なんだけどさ。それにしてもこれじゃ旅行みたいなものだよね」


 同僚の言うとおりエリア解放されてから増強された防衛兵だけど、敵はほとんど来なかった。たまに野菜が襲ってくるけど、自動迎撃兵器が倒してしまうからだ。


 山間のポツポツとある家や段々畑を見ながら歩いていると確かに長閑な村へと骨休めに来たような感じになると私も思って苦笑する。


 長閑な村に似合わないチェスと呼ばれる長大なビルと指令センターが長閑な雰囲気を台無しにしていたが。


 食堂に到着すると、大勢の人々が朝食を食べていた。ワイワイと騒がしく話しながら食べている人々はみんな体格がよく戦闘服を着ているので、ちょっと一般人は入りにくいかも。


 今はマウンテンベースは一般人はいないから、問題はないよねと思いながら、朝食のトレーを受け取り、朝食を貰いに行くと、いかにも肝っ玉母さんといったコックさんが、どんどん朝食を置いていた。


「お、女性陣かい! おはよう!」


「おはようございます。今日は良い天気ですね」


 快活な挨拶に思わず笑顔になり挨拶を返す。おばちゃんはドカンと私のお皿に朝食をのせてくるが、朝なのに凄い量だ。大盛りの白米に、山菜の入った味噌汁、甘い卵焼きにアジの開きと納豆。そして常に食事の時はついているポテトサラダ。


「相変わらず凄い量だな〜、太るのを気にしないといけないかも」


「激しい訓練を行なっているし、戦闘になったら、いつ食べられるかもわからないしね」


「何言ってるんだい。物資は山ときてるからね。ほら、あんたらはどんどん食べな!」


 朝食の量を見た同僚の嘆きもわかるけどと苦笑する。なにげに暇だけど、その分訓練をしているので太るのは気にしないで良いだろう。


 ワイワイと騒がしく食べている人たちの間を縫うように、空いている席に着いて、いただきますとご飯を食べ始める。


「いつも思うんだけどさ。このポテトは極めて怪しいと思わない?」


 つんつんとポテトサラダをつつきながら同僚が言う。


 私もサラダを見て感想を返す。一見普通のポテトに見える別名魔女のポテトサラダ。


「美味しいけどね。どんな時でもポテトサラダは入っているよね。味の組み合わせ関係なく」


 パンケーキセットにもついていた。ラーメンセットにも。怪しすぎるポテトである。


「これ食べたあとにさ、熱湯をね、昨日誤って手にかけちゃったの。そしたらね……」


 声を潜めて身を乗り出してコソッという同僚。


「なんと! 肌は赤くもならなかったんだよ? 痛くもなかったんだ! 凄いよね!」


 あぁ〜と呟き、片手で顔を覆いながら、その効果知ってると思った。以前にレキちゃんが話していた内容であるから。


 差し入れですと無邪気な笑顔で、以前に若木コミュニティで持ってきたのだ。美味しいねと食べた感想を伝えたら、消化まで防御力+1ですよとゲームみたいなことを伝えてきた。キョトンとした表情で冗談かなと思ったら、熱湯ぐらいなら熱くもありませんと教えてくれたのである。試した結果は同僚の言っているとおり。


 薬のようで、害はないのかというと安全ですと言い切って、私なんか最近は回復薬漬けですよと、無邪気な笑顔で言ってくるので、薬が必要なそんな戦いを繰り広げているレキちゃんを思い、自分の無力さに嘆き、大樹の非道さに憤慨したものだ。


 大樹は本当に子供をなんだと思っているのだろう? 彼女は機械ではないのだ。いくら安全ですと言われている回復薬だって、身体に悪い影響は出るに決まっている。今度イーシャさんに相談しようと思っている。彼女なら子供を戦いに使う非道さに反発を覚えるはず。


 最近は草の根運動をよく聞くのだ。命を助けられたレキちゃんを救おうという動きが少しだが人々に広がっているのを嬉しく思う。


 まぁ、それはそれとして、ポテトサラダは安全なのかと尋ねられると安全としか言いようがないので仕方なく私も口に運ぶのであった。


 うぅ、相変わらずいつも食べているのに飽きがこない平凡な味なので美味しい。



 食料はたくさん補充されており、防衛隊の訓練まで雑談をしていると、雲が濃くなり空気が生暖かくなってきた。湿度が高いのか、なんとなく気持ち悪い。


「なんだよ、雲が出てきたと思ったら、こりゃ一雨くるな」


 外の様子を見ていた男性が独り言を言う。確かに雲が厚く濃くなり土砂降りとなりそうだ


「今日の訓練は中止かな? ここは若木コミュニティみたいに訓練所はないし」


 ニヒヒと笑う同僚。暇になっちゃうな、なにかをしようかと考えていたら、ピカッと一瞬明るくなる。その後にゴロゴロと音がして、ドドーンと雷が遠くに落ちたのが見えた。


「ありゃ、雷か。まだ春なのに珍しいな」


「そうですね。ちょっと驚きました」


「山の天気は変わりやすいからなぁ、気をつけないと」


 雷なんて久しぶりに見たので、少しテンションを上げお喋りをすると


 ドドドドド


 大雨が降ってきた。凄い大雨で1メートル先も見えないほど。シャワーでもこんなには水がでないので驚いて、口をぽかんと開ける私。


「まるで滝みたいですね、こんなに雨なんて降るんですね」


 気楽に会話を続けようとした。平和そのものだったので。そこに涼やかな声音での放送。そして聞いたことが無い警報が鳴り響く。


「――ミュータントの大群を確認しました。これより迎撃行動に移ります。隊長クラスは指令センターまで集まるように。繰り返します。大群を………」


 う〜う〜と警報が周辺に聞こえるように、その耳障りな音を聞いて


「敵が来たんだ」


 水面の如き冷静なる表情で、ポツリと呟くのであった。



 バタバタと大勢の兵士が武器を持って配置につくため走り回る。放送も先程とは違う内容となっている。


「マウンテンベースを目指す軍隊を捕捉。戦時状態へとシフトします。兵員はすぐに戦闘態勢へと移行してください」


 先程までの長閑な雰囲気は無くなり、一気に緊張状態が広がる。


「防壁に行くぞ! 第8小隊!」

「敵はまだ遠い! ゆっくりと準備をしろ!」

「会長! 敵が来るってよ!」

「みんな、弾薬を確認するんだ! 急いで!」


 それそれがキビキビと動き始める。さっきまでの人たちとは思えないほどだ。その中で私は豪雨の中をパワードスーツを着込み指令センターへと走る。


「ナナ様。警報発生。敵軍が武装して接近中です」


 耳元に突如として聞こえてくるのは、ポニーなバイク。あだ名は執拗にバイクが譲らずスレイプニルとなったAI。


「聞こえたよ! 準備の方は大丈夫?」


「大丈夫です。たっぷりと無駄撃ちできるように弾丸も積んでおきました」


 自信満々で困ったことを言うバイクだと、私は一応言っておく。


「無駄撃ち厳禁だからね! というか自分で無駄撃ちって言わない!」


 告げたあとに身体を前傾にして全力で走るが、パワードスーツの力は凄い。あっという間に指令センターへと走っていける。


 ちょうど仙崎さんも豪雨の中を走ってくるのが見える。ドカドカと地面を抉るように走るその速度は常人ではあり得ない。


 こちらに気づいて獰猛そうにニヤリと笑ってきた。


「よう、荒須隊員。先に到着されてしまったか」


 すぐに二人で指令センターの中に入る。既に数人の隊長クラスが待機していた。近寄る最中にシュワッと音がして、パワードスーツが乾く。もちろん私の濡れた髪すらも。


 苦笑して仙崎さんがパワードスーツを見ながら感嘆していた。


「凄い性能だな、これは」


 その言葉に他の隊長もニヤリと笑って同意してくる。


「これさえあればなんでもかんでもできそうな万能感がありますよね」


「だからこそ慎重に行動しないとな」


 笑い合いながら、作戦室に入ると立体映像が映し出されていた。この周辺の地図と細かく動いているのは敵であろう。


 大樹から派遣された女性が空中をタッチして忙しなく動いているが、こちらに気づいたのだろう。軽く会釈をしてまたモニターへと指を動かしている。


 人の良さそうな柔和な感じの人だ。花屋とかで店主をやっていそうな感じの女性で、名前はヤワラさん。


 のんびり屋さんで、何回かお茶を一緒にしたけど、呑気な性格だった。印象通りな人だけど要所要所を把握して、即断即決で行動する姿はさすがエリートな大樹の人間だと感心したものだ。


「みなさん〜。よく集まってくれました〜。ちょっと大変なことになっているみたいです〜」


 素早く指を動かしながら焦りの表情もなくのんびりと落ち着いて行動するヤワラさん。


 私たちはそれぞれ指令センターの椅子へと思い思いに座って、地図を観察したところ、かなりの大群がやってくるのがわかった。


「敵は〜、だいたい1万ぐらいでしょうか〜?」


 ヤワラさんの言葉に頷きながら、仙崎さんがモニターを触ると、その部分が拡大されてミュータントの詳細な画像が映った。


 映った敵を見て、苦々しい表情で仙崎さんは呟く。


「オスクネーだな……。この北海道では見ないと思っていたが、いるんだな……。しかも武装してやがる!」


 オスクネーはまるで戦車のようにでかい大砲を両肩につけており、そばにはデカゾンビがガトリングガンを持って歩いている。


「レキ様の出会った敵も〜、ショルダーキャノンを〜、装備していたと言っていました〜。恐らくは〜ここのボスはキャノン万能主義だと考えているか〜、単にキャノンが好きかですね〜」


 のんびりとした口調なので、気が抜けてしまう感じもするけれどもキャノンはかなりの厄介さだ。威力があり自爆覚悟で敵に撃たれると酷いことになるだろう。なにしろ相手は元はゾンビなのであるから、自分のダメージなんて気にしないはず。


 だけれど気になることがある。どう見てもおかしい。


 仙崎さんも気になったのか、腕を組んで難しそうな表情で声を発する。


「おかしくないか? 敵はオスクネーにゾンビが主力だ。武装をしていたところで、ここの守りは突破できないだろう」


「そうですよね? 豪雨の中を進軍してきても無駄ですよね」


 こちらはミュータントを減らせるから助かるけど、敵は無駄に戦力を減らすのみだろう。


「問題は〜、ないと想われます〜。数匹強力なミュータントを感知しておりますが〜、その程度です〜。まわりこんで接近しているので〜、ポーンに撃破指令を出しています〜」


「所詮はミュータントということなんですかね? あんまり頭が良くない?」


 私の問いに、柔らかな微笑みで返事をするヤワラさん。


「いえ〜。牧場と一葉港にも〜、敵が接近しています〜。ここは陽動でしょうね〜。最前線であるマウンテンベースへと兵を集めようとしているのでしょう〜」


 その答えにぎょっとする私たち。ざわつき焦りながら、バンと机を叩いて聞き返す。


「ちょ、そ、それは本当なんですか? え? でもそれこそ意味なくないですか? 通信しちゃえば、バレバレじゃ?」


「なるほど。敵はこちらが通信機が使えないと想定しているんだ。よほど通信が行えないことに自信を持っているんだろう。こちらの新型の通信方法を感知できていないんだ。しかもこの豪雨だ。敵は桶狭間の戦いでもするつもりなんだろうな」


 仙崎さんがニヤリと悪そうに笑いながら、私の言葉に被せて言ってくるのを聞いて、ハッとして思い直す。通信機がつかえなければ、確かにこれみよがしの軍隊を見て、普通は支援を求めるかも。その場合は歩きか車になるだろうけど。


「う〜ん、車どころか空中戦艦もあるのが見えていないんでしょうか?」


「たぶん見ていないんだ。錆びた街での解放はお姫様が単独で成したようなもんだ。俺らが街に到着した時は既に偵察隊かなにかは退却していたのか、情報は錆びた街のボスから直接貰っていたかだな。ダンジョンが解放され続けてきて、敵の尻に火が付き始めて慌てたんだ」


「敵の主力は牧場みたいですね〜。住んでいる人たちや、家畜の数はかなりのものになりますので〜」


 仙崎さんが敵の行動を予測して、ヤワラさんが敵の戦力分布を伝えてくる。


 慌てて私は次の行動を考える。これはまずいのではなかろうか? 牧場コミュニティが危ないのでは。


「なら、救援に行かないと! ここの敵を撃破してから――」


「駄目だ。それも陽動で本隊を敵が隠しているかもしれん」


 仙崎さんの辛そうな表情をしながらの厳しい言葉に、ヤワラさんはニッコリと安心させる微笑みで頼もしい言葉を告げた。


「大丈夫です〜。あそこはレキ様とバトルした強者たちがいます〜。私たちは私たちでできることをしましょう〜」


 小首を傾げながらの笑顔は信頼感が見える。


「それに〜、昼行灯さんの能力も見せてもらえるチャンスです〜」


 昼行灯って、誰だろうと私も首を傾げるが、ヤワラさんはニコニコと微笑みを返すのみであった。


「俺たちは俺たちの戦いをするだけだ。今は守るべき、戦うべき場所を間違えないでおこう。敵の迎撃を開始するぞ!」


 キリッとした表情での仙崎さんの発言に、私たちは気合を入れて頷く。


「了解しました! 私たちも配置につきましょう!」


 おうっ!とみんなが相槌をうって、ヤワラさんの指示通りの場所に走って移動する。


 防壁に到着して迎撃準備をして待機をして、しばらくしたら、自動迎撃装置がバルカンやら砲を撃ち始めた。砲弾の火が豪雨の中を突っ切って飛んでいく。


 遠くで爆発音が響いて、豪雨の中でも燃えている様子が目に入る。大量のミュータントが吹き飛び、燃えていた。


 雨が顔を垂れてくるが寒くはない。信じられない力を持つスーツだ。同僚が羨ましいと言うのがわかる性能だが、大樹でも量産されていないのか100着しか用意をしてくれなかったのが残念。


 こちらへと時折砲弾らしきものが飛んでくるが、全て超電動バリアとかいうので防げるので、安心して私も姿が見え始めた敵へと引き金をひく。


 チェスと呼ばれる機動兵器が、カチャカチャと分裂してロボット兵士や戦車へと変形して、敵の中核をプラズマ砲で焼き尽くしていき、オスクネーたちの攻撃を受けてもビクともしない頑丈さを見せつけた。


 そうして、しばらくはタタタと軽い音が豪雨の中で小さく聞こえて、直に敵は全滅したのであった。正直気合をいれすぎて肩透かしだ、牧場コミュニティへと支援にいきたいところ。


 遠く離れた牧場コミュニティは敵の主力が進軍しているらしい。不安だが私はここを守らないといけないよねと嘆息するのだった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 更新ありがとうございます。 次も楽しみにしています。 [一言] 敵の侵攻だけど⋯⋯ なんかイマイチですね。兵力分散してますし
[一言] 第8小隊…隊長はアマダさんでしょうか?
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