表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
コンクリートジャングルオブハザード ~ゾンビ世界で遊びましょう  作者: バッド
14章 北海道に行こう

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

219/583

214話 おっさんは街を歩く

 騒がしくなってきたなぁと、若木ビルから出てきて遥は思った。エレベーターが復活して久しいので、移動が楽になっていいねと考えながら外に出る。


 玄関では緊張した表情で受付の女性が深々と頭を下げて挨拶してきたので、遂に受付を雇うところまで復興し始めたかと、少し嬉しい。


 なにしろ最初に来たときは、バリケード代わりに車が玄関に押し込まれていたのだ。その光景を覚えている人間としては感慨深い。良くぞここまで復興したものだ。それは遥の力も大きいのだからして、この街は私が育てたと勘違いするおっさんであった。


「四季、ここまでで良い。ノンビリと歩いて叶得の所を見てくる。車を待たせておいてくれ」


 頭に飾っているピカピカのヘアピンを輝かせて、四季は真面目な表情で、ビシッと敬礼して頷く。


「了解しました。ですが、まだまだ危険があるかもしれません。私も同行致しますが?」


「大丈夫だろう。もはや私を倒せる人間はいないだろう」


 子犬にも負けそうなおっさんは、ニヤリと笑って言うが、自信の根拠を教えてほしいところだ。最近、レキのときは強さが天元突破して宇宙も貫けそうなので勘違いをしているのかもしれない。


「私の装備は万全だ。たとえ至近距離で攻撃を受けても、ただの銃では相手にならんよ」


 自信満々な理由は装備にあった模様。おっさんスーツもパワーアップしておいたのだ。それにおっさん+1になったのだから、少しはマスキングされたステータスにより強くなったのではと考えてもいる。


 この間、ナインたちにマスターが進化したと教えられて、ついにおっさん無双の覚醒イベントがきたと飛び上がって喜んだおっさんだ。


 密かに誰もいない部屋で、はぁぁ~とか気合を入れてみたり、気功波とかいい歳をしたおっさんが手からなにかでるかなと試したのである。だが、髪は金色にもならなかったし、気功波ももちろんでなかった。


 なにも起こらずに、がっかりして黒歴史をまたもや増やしたが、誰も見ていないで良かったと安心していたら、カメラを持ってドアの隙間からにやけ顔で撮影していた銀髪メイドがいたとかいないとか。


 でも、ワンチャンでマスキングされた能力があるかもと期待をしているおっさんである。ピンチの時は覚醒するに違いないと考えている。実際にピンチの時は覚醒というよりこの世から隔世しそうだが。


 しかしたとえマスキングされた能力があっても、おっさんはおっさんである。きっと0.1とかであろう。それが0.11に変わってもあまり変わらないと思うのだが。


「はぁ………しかし……その……光井さんのところに行くのであれば………」


 珍しく言い淀みボソボソと不満そうに小声で話す四季だが、了解しましたと再度敬礼をして、車でお待ちしていますと離れていく。


「四季、少しは街で息抜きしてきなさい。いつも忙しいからな」


 歩いていく四季へと労いの言葉をかけると、その言葉を聞いて嬉しそうに表情を輝かせてスキップしながら歩いていくのであった。


 いつも忙しくて大変そうだなぁと、忙しくさせている元凶はのほほんと思いながら街を歩く。


 ノンビリと歩いていくと、周りをチューブ通路型で覆っている線路が既に敷設されており、無駄に大きい駅が作られている。


 始点はそこだが列車の車庫は少し先にある。そして線路は驚きの8車線としていた無駄に大きくしている遥。将来はこれぐらい必要でしょという考えとともに作ったのだ。


 なにしろ、復興したあとだと線路を敷設する土地など無いだろうから。初期の都市計画は大事なのだと凄腕の豆腐職人はご満悦な笑顔で思う。


 駅の周辺には店が並び商店街がある。気が早いことだが、宿屋を作ろうという動きもあるらしい。そんなに人はまだいないでしょと呆れるが、それだけ復興が進むと信じているのかもしれない。


 ふんふんと街並みを見渡しながら歩いていると


「フヒヒ。そこの旦那さん。お菓子はいかがですか?」


 ん〜?と声がかけられたので、見てみるとなにやらお玉になにかをのせて焼いている少女が立っている。周りには珍しそうに焼いているものを見ている子供も集まっている。


 お玉にザラメと水を入れて、じゅわ~っと熱したあとになにか粉のような物を入れて、かき混ぜるとブワッと膨らんでパンみたいな物ができた。


「カルメラ焼きですよ。お一つどうですか?」


「ほぉ。昔懐かしいカルメラ焼きか。これは作るのが大変だと聞いたことがあるが……。というか見たのも初めてだな」


 感心しながら少女を見ると、たしか北海道で出会った少女であった。たしかディーという名前だったはず。


 なるほどねぇと材料を見て、コストパフォーマンスが良さそうだと推察した。砂糖が高いからウケがいいのかもしれない。


 ふむと顎をひとなでして、珍しいので買うことにした。なんだか美味しそうな感じもするし。珍しい食べ物が屋台で売っているとついつい買ってしまう好奇心旺盛なおっさんだからして。


「では袋を10個ずつで分けてもらい、計30個を持ち帰りで。それとここにいる子供たちへも食べさせてくれ。いくらだね?」


 お子ちゃまたちは作る光景も珍しそうにしているし、食べたそうにしているし。復興後は超科学な薬局で、アレルギーも治った人たちだ。食べてはいけない物はないだろう。まぁ、教育方針がと抗議をしてくる親が来たら困るが。


 その場合、速攻逃げるつもりな小心者である。


 大口の注文に少し目を開いて驚くディー。冷たそうな感じの紳士だったので、そんな気障な注文をするとは考えていなかったのだろう。


 周りの子どもたちは、予想外の注文にオオッと驚きながらもわくわくとした表情でディーの手元を見つめる。


 その姿に和みながら、遥はディーに


「あぁ、先に子どもたちの分を焼いてくれ。私は後で良い」

 

「あ、ありがとうございます。それでは作り置きを出しますね」


 ひょいと後ろから袋を取り出して小分けにしたカルメラ焼きを取り出して、子どもたちに渡す。それもそうかと苦笑交じりにその光景を見るが、特に気にすることもなく子どもたちは笑顔で受け取り、カリカリと食べ始めた。


「あま〜い!」

「カリカリふわふわだね」

「うまうま」


 子供は歓声とともに夢中で食べ始めるので、やっぱり飽食の時代よりは良いんじゃないかなぁと考える遥。月一のセールは縁日みたいにしようかなぁと、カルメラ焼きの屋台を見ながら思う。


「なぁ、屋台の主人。君は北海道からの避難民だね」


「フヒヒ、よくわかりましたね。お金もないので知恵を絞ったらこの屋台となりました」


「それは変わった屋台を選んだものだな……。避難民の暮らしぶりはどうだね?」


 大勢の避難民。今までとは人数が違うのであるからして。どう暮らしているか興味深い。


 その質問に首を傾げて答えるディー。足りないカルメラ焼きをちゃっと焼きながら


「そうですね。前の暮らしよりも楽ですが、結構キツイですよ。助かったと思いましたけど、仕事がなくて………。物資調達は以前から住んでいる人たちの方が断然手慣れていますし、畑も一から耕さないといけませんし」


 まぁ、ディーが屋台をやるぐらいだ。厳しいのはわかる。だけれどもこれは仕方ない。ゲームでも初期のプレイヤーとあとから始めるプレイヤーでは格差がつくのであるからして。


 でもなにかを考えないといけないねと心配する。心配なのであとで豪族になにかを検討するように注意を入れよう。そうしよう。おっさんは考えるのは苦手なので、豪族にお任せだ。


 自分ではなにもやるつもりはない。おっさんはシムな視点で行動しなければならないのだと自己弁護終了。決して考えるのが面倒くさいわけではない。なにしろおっさん+1なのだから。おっさん+1だからどうだというツッコミはなしである。


 支払いを終えて、カルメラ焼きの袋を受け取る。あとで一つは四季に、一つは自分に、最後は叶得のお土産にしようと、また散歩をするように歩く。


「おじちゃんありがとう~」

「またね~」

「美味しかった~」


 背に子供たちのお礼を受けながら、街並みを歩くのであった。


               ◇


 叶得は北海道ダンジョンで珍しい素材を手に入れたのだ。きっと面白そうなアイテムを作っているに決まっている。そう思いながらわくわくとして歩く。なにかを忘れている感じもするが、思い出せないということはたいしたことでもないのだろう。


 そうして歩いていくと、光井工房が見えてきた。初期と違いだいぶ大きくなっている。量産もしているから雇用した人間を使っているのだ。


 看板には光井インダストリーと書いてある。なんだか格好をつけたいと考えただろう名前であるので、それを見てニヤリと笑う。


 玄関に行くと、中年の見たことのない女性が受付をやっている。とはいっても客も少ないのだろう、暇そうにあくびを噛み殺しているようだった。


 楽そうな仕事だなぁと思いながら、受付へと声をかける。


「すまないが光井さんに会いに来た。仕事場にいるかな?」


 受付のおばさんはお客が来たと気づいて、慌ててあくびを噛み殺して笑顔を作る。


「はい。お約束はあるのでしょうか? ご購入のお話でしょうか?」


 ちらりとこちらの格好を見て、商品の購入に来たお客だと考えたのだろう。まだまだスーツ姿は珍しいので。


 その問いかけにかぶりを振って答える。


「いや、私はここのスポンサーだ。新商品ができていないかと確認をしに、他の用件のついでに寄っただけでね。特に約束はしていない」


「左様ですか。お名前をお聞きしてもよろしいでしょうか?」


 おやおやと、少し面食らう。まさか私の顔を知らない人間がいるとは考えていなかったのだ。そしてそう考えたことに内心で苦笑する。くたびれたおっさんが自分の顔を知らない人間がいると考える日がくるとはと。


 随分、自分も偉くなったものだと思いながら答える。


「私の名前はナナシ。名前を伝えてもらえればわかるだろう」


 苗字も名乗らないヘンテコな男だと思ったのだろう。じろじろとこちらを観察するように見てくるが、特に気にしないで余裕ぶるおっさん。以前ならそんな視線を受けたらそわそわして、なにか悪いことをしたっけとかと考えるが、今なら問題はない。


 内心でなにか変だったかなと焦っていても演技スキルがサポートして、余裕の態度を見せているのだから。


 中身はなにも変わっていないだろうおっさんであった。


「はぁ、ナナシ様ですか………。お取次ぎしますので少々お待ちください」


 不審そうな表情で中へと入っていく受付のおばちゃん。もしかしたらセールスかしらと呟きが聞こえて苦笑いをする。


「叶得さ~ん。お客様ですよ~」


 工房に入っていったのに、こちらにまで聞こえる大声で叶得を呼んでいる受付。昭和時代の小さい工房にありがちだねぇと、なんとなくノルスタジーを感じながらのんびりと待つ。


 玄関周りには様々な商品が置かれていた。見本品なのだろう。結構色々増えていて面白そうである。この玩具みたいのはなんだろうと、用途のわからない積み木みたいのを見ながら待っていると叶得の声が聞こえてくる。


「誰~? お客さん?」


「ちょっと怖そうな男性よ~。目つきが鋭くて怪しい感じ。ナナシさんって名乗ってるけど変な名前よね?」


 聞こえてる、聞こえてるよと笑いをかみ殺す。声が大きすぎるでしょうと考えている遥だが、実際はおっさん+1になり感覚が鋭敏になったことには気づいていない。


「ナナシさん! おっさんがきたの!」


「えぇ、知り合い? 社長さんに聞いた方が」


「ちょっ、ちょっと待ってもらって! 応接室に案内して! 私着替えなきゃ!」


 焦りながら返答をしているような叶得。ドタバタと音がするのを、そろそろ聞こえないふりをしないといけないかなと、呆れながら積み木みたいなのをつついて待つ。これはジェンガ? 少し違うような感じがする。


「ちょっと、ナナシさんって大樹の人よ!」

「えぇっ! そうだったのかい?」

「応接室には二人きりにして、妖しい声が聞こえてきても無視をするのよ」

「それって、そういう関係だということなの? 随分歳が離れているじゃない?」

「そうよ。あの二人は崩壊後に出会ってね………」


 あぁ、そんな話があったねと、おばちゃん連中の話も聞こえてきて遠い目をする遥。すっかり忘れていたからして。なんだか作り話も創造されている模様。ドラマチックな出会いをした歳の差のある二人とか話されているが、聞こえていないことになっているので、ツッコミをいれることもできない。


 まさか玲奈はいないよねと周りをきょろきょろと確認するが、姿は見えないので、ホッと安心の息を吐く。これならば叶得が暴走することもないだろう。それならばいつも通り新しい発明品を見せてもらうだけである。


 工房から、にやけ顔のおばちゃんが出てきて、こちらへと声をかけてくる。


「あらあら、すいませんね。北海道から避難してきたばかりで、不案内でして」


 なら、受付におくなよとツッコミを入れたいが、たぶん救済措置として雇用したのだろうことは予想できるので仕方ないかなぁと考える。いや、受付は他の人でも良くない?


「応接室へご案内しますね」


 うむと偉そうに頷いて、応接室へと招き入れられる。すぐにコーヒーをもってくるおばちゃん。そのまま話もなく、ソファに座りながらコーヒーを飲む。ミルクも欲しいです。ブラックはちょっとと自分のイメージを崩すことができないので、渋々我慢して飲んでいるとばたんとドアが開いて叶得が入ってきた。


 珍しく青いワンピースを着ており、可愛らしい褐色少女である。随分可愛らしいワンピースのために、これにわざわざ着替えてきたのだろう。


「どうも叶得君。そのワンピースも似合っていて可愛らしいね」


 これ絶対言わないといけないよねと思いながら褒める。だって顔を耳まで真っ赤にしてもじもじしながら、こちらの反応を見ているのだ。これで褒めない男はいないだろう。褒めなければどんな鬼畜だよという話になる。


「そっ、そう? たまたま買った服を着ていたらおっさんが来ただけなんだけどねっ! 新しい服だから見せられて良かったわ!」


 口元をニマニマと嬉し気にしながら、物凄い照れてもじもじしながら言ってくる叶得である。美少女であるので愛らしさ抜群である。そしてウィンドウ越しに絶対零度の微笑みを見せるナインさんが怖い。


「本当に似合っていますね。マスター。お帰りになったら、私もちょっと着替えをしてみますね」


 にこやかな笑顔でありながら目が全然笑っていないナインさん。どこのハーレム主人公だよ。私はくたびれたおっさんだよと、己を顧みる遥。


「うんうん。楽しみにしているよ。ナイン。帰ったら楽しみだね」


 口パクで答えるおっさん。随分口パクが上手になったのようである。あと、念話とかスキルを取ろうかなぁと考えてもいた。


「えへへ。おっさんも相変わらずスーツが似合っているわねっ! 私の隣を歩いていてもおかしくない格好ね」


 叶得が照れながら、こちらを褒めてくるが、その場合は親子に見えるでしょうと、ツッコミを入れたいがぐっと我慢する。


「それではお二人でごゆっくり」


 むふふと笑いながら去っていくおばちゃん。なんだよ、取引に来ているのにごゆっくりって見合いですかと思う。そして光井の両親はどうしているのだろうか? 今回は工房に来たのだから顔をだしてもおかしくないが。


「離せっ! 俺も顔を出す! 二人きりで応接室で何をするつもりなんだ!」

「ダメですよ、貴方。ここは娘の恋を応援しましょうよ」

「いやだ。俺も顔を出すぞ、離せって」


 少し耳を澄ますと聞こえてくる内容に嘆息する。どうやら救援隊は来ない模様。


 まぁ、おかしいことをするわけでもない。もっていたカルメラ焼きの袋を手渡して


「お土産だ。カルメラ焼きと珍しいものが売っていたのでね」


 叶得はキョトンとした顔になり袋を受け取った後に、顔を輝かせた。


「プレゼントッ! 初めてのプレゼントねっ! えへへ。大事に食べるわね」


 お土産と言ったでしょうが。みんなで食べてよ?と思うが、飛び跳ねんばかりに喜ぶ叶得を見て、空気を読む。というか、このツンデレは王道すぎるツンデレである。ちょっとチョロイン過ぎないだろうか。それと今度来た時はちゃんとしたプレゼントをもってこないとと罪悪感が湧く。これが叶得の演技だとしたら、たいしたものだが心の底から喜んでいるようであるからして。


 ぎゅぅと袋を握りしめる叶得へと、真面目な表情になり本題に入る。


「さて、では約束もなく来てしまったわけだが………。なにか画期的な発見、もしくは発明品はあるかな?」


 その問いかけに、叶得は得意満面な表情になる。ふふんとドヤ顔になり


「そうね、凄いものを発見したわっ! 画期的な物をね!」


 ほぉ~と叶得の言葉に楽し気な表情を浮かべて期待をもって話を聞こうと考えるおっさんであった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
叶得さんが恋する乙女で可愛いねえ
[一言] 褐色肉食獣にクラスチェンジ前って感じですね。 この頃は可愛いだけだったのに……
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ