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コンクリートジャングルオブハザード ~ゾンビ世界で遊びましょう  作者: バッド
14章 北海道に行こう

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211話 元弓道部員のお仕事は大変だ

 ずらっとある建物に人々の列が並んでいた。外へも延々と続く行列である。なんの行列かと、通りがかる人が二度見をしてしまうだろう長さの行列であった。もしかしたら、なにかお祭りかとなんの行列か知らないで並ぶ人もいるかもしれないほどの行列であった。


 まぁ、なんの行列かといえば銀行カードを作るための行列である。北海道にて助けた人々は若木コミュニティにほとんどが移住したのであるからして。


 それも当然であろう。錆びついた街は解放されたが、それでも人々の記憶は失われないし、家も錆びついたままだ。土地も浄化されたと言われても、畑からなにが生まれるかわからないとくれば、ほとんどの人は移住するのは当たり前であった。


 それに輪をかけて、赤昆布に寄生されて森林化していた人々は若木コミュニティで治療を受けて目覚めたのだ。安全で設備も整っているここが住む場所だと決めて、他へ移住しようなんて考えないのは間違いない。


 なので、一気に人口が増加して、その人々は戸籍として銀行カードを作りに来たのである。


 受付で人々の行列を次々と笑顔でさばいていく少女たち。織田椎菜と不破結花である。他にも人員が増強されたにもかかわらず人々の多さで大忙しだった。


「ありがとうございました。当店のご利用ありがとうございました」


 ニコリと営業スマイルをして、銀行カードを手渡してお客をさばく。今日は通常のお客はほとんどこない。さすがにこれだけの行列を見ればうんざりとして、次の機会に来ようと考えるのだから。


 そんな中で、織田椎菜と制服に名札をつけた私にこわごわと聞いてくる人たちも珍しくない。


「ねぇ、店員さん? ここは本当に安全なのかい? 化け物は闊歩していないかい?」


 錆びついた街。たしかそう呼ばれた街から移住してきた人だ。治療もそこそこに移り住んできたのだろうとわかる発言であった。


 なので、私もニコリと安心させる笑顔で返事を返す。


「はい。ここは安全なコミュニティですよ。私も最近はミュータントの姿を見ないでしばらく経ちます」


「ご飯はどうなんだい? 錆びた味はしないかい? 人々はちゃんと生きているのかい?」


 続ける言葉には本当は上手く受け流して次のお客を用意しないといけないのであろうが、きちんと返事をしたかった。


「大丈夫です。しばらくこの地で暮せば安心して暮らせる街だとわかりますよ」


 1年という長い間、辛い生活をしたらしいのだ。聞いた話でしかないが、極めて悲惨な暮らしであったらしい。しかもほとんどの人々は樹林と化して、延々と地面に埋まっていたとか。


 正直、想像もつかない過酷な世界。映画の中での話のように聞こえた恐ろしい場所で生き残ってきたのだ。自分がもしも樹林となった姿を考えると夜も寝れなくなるほどに怖い。


 そういう樹林と化していた人の方が治療を完全に受けて意外と元気なので、この人は錆びついた街で生き残ってきた人なのだろう。所々に錆びた赤い色の染みがついた服を着ており、やつれた顔もしていた。これからの生活にも不安をもっているのは明らかであった。


「そうかい。あんたみたいな娘を見ると安心するよ………。私たちはようやく助かったと実感するんだ」

  

 ウンウンと頷いて、しみじみとした笑顔を浮かべ、そう言ってよいしょと声をかけて歩いていく。あの人が上手く街で暮らしていけるようにと思いながら次のお客を笑顔で迎えるのであった。


 しばらくこんな仕事が続いていた。治療を施された人々が次々と訪れるのである。時折銀行なのにお金を取るのかと怒ってくるお客もいたけれど、それでもカードは作っていく。


 そうして手にしたクリスタルでできたような綺麗な銀行カードをしげしげと眺めて、大事そうにカバンに入れていく。まるで銀行カードを手にしたら、この街の住民にようやくなれたんだという嬉しげな表情とともに。


 その姿を見て、なんとなく嬉しげな私が、胸をほんわかと暖かくする私がたしかにいるのだった。


          ◇


「あぁ〜。今日も大変だったねぇ〜」


 結花がぐったりと机に突っ伏して愚痴を言ってくる。たしかに忙しかった、ハイテクの粋を集めたようなこの支店でもある程度は人手が必要だ。一瞬で出来上がるカードも、手渡すのは人間なのである。質問されることも多くて、こればかりは機械では無理であろう。


「でも、そろそろ来る人も少なくなったんじゃないかな? だいぶカードを作ったよね?」


「私なんか、カード受け渡しマシーンになった気分だよ」


 こうやってさと、ブリキのロボットのような動きを見せる結花。


「ウィーン、カードをドウゾ」


 結花が片言の機械みたいな感じを出して、ギクシャクと動いてカードを手渡す物真似をするので、ププッと口元を押さえて、そのコミカルな動きに笑ってしまう。


「まぁ、支店は増やすらしいわよ? さすがにこの店だけじゃ無理だしね」


 隣に座っていたOLさんが、なにか書類を書きながら言ってきた。


「え〜! それじゃ誰が支店長に? もしかして私?」


 疲れて机に突っ伏していた結花が顔をあげて、にやにやしながら尋ねるが私でもそれはないなと思う。OLさんもふふっと軽く笑いながら答える。


「バカね。私たちじゃ無理に決まっているでしょうが。また大樹から人が来るんでしょ」


「まぁ、そうですよね〜。大金の取り扱いから、折衝の取りまとめまで、この銀行は銀行であって銀行じゃないですもんね〜」


「政治もできないといけない支店長って、なんなのかしらね。私はそんなのに出世するなんて、まっぴらごめんね」


 淡々と話す出世欲ゼロなOLさん。巷では羨ましがられる職業だが、実際に忙しさを知っている中身はこんなものだ。たしかに街全体の復興を念頭に代表と話し合い、資金を投入していき………。なんて、私には無理だ。考えただけで逃げ出したくなるだろう。


 そんな話をしながら結花がOLさんが一生懸命に書いている書類を見ようと覗き込もうとする。書類仕事が残っているのが不思議なのだろう。この店は全て電子化されているから、紙などはお客に渡す資料や外部での会議用に使うだけだから。


「一所懸命になにを書いているんですか~?」


 首を傾げて、不思議そうな表情で尋ねる結花。その問いに得意げに返答をするOLさんは、ぺろりと舌を出して、嬉しそうに微笑みながら教えてくれる。


「これは休暇届けよ。私、再来週の水曜から休むから、帰ってくるのはその次の週ね」


 にやりと口元を笑いに変えてのお休み宣言だ。私たちは驚いて聞き返す。


「え~! 良いなぁ。連休なんてとれるんでしたっけ?」


 1日とか、単発での有給はとったことがあるが、そんな連休は年末や盆休みぐらいなのだ。なにせ人がいなかったのだから休めるわけがないのであるからして。

 

 呆れたように肩をすくめてOLさんは周りを見渡すようにして


「馬鹿ねぇ~。去年と違うのよ? 今の銀行員の人数を見なさいよ。余裕でとれるわよ。よ・ゆ・う」


 持っているボールペンを振りながらドヤ顔で言ってくるOLさん。たしかに、店内には私たちを含めて20名ほどいる。男女それぞれで多くの人々が雇用されたので、仕事は受付から、様々なお店への融資、若木コミュニティ代表との話し合いと多岐に渡るから。


 受付だけでも結構いるので、北海道の避難民がカードを作り終わったら暇になり、たしかに有給をとれるかもしれない。


「考えたこともなかったです。それならちょっとした旅行にも行けますよね。………まぁ、どこに行くのかなって感じはしますが」


 自分で言っておいて現実的ではない。旅行なんてどこに行くというんだろう? 崩壊した世界では旅行先なんてない。この間、レキちゃんに戦艦での旅行を誘われたぐらいだ。あれは行きたかったが、さすがに1週間もの休暇を取るわけにはいかなかった。盆休みとかにまた誘ってくれないかなぁ………。


「まぁ、休みをとっても何をするんだって話だけどね。崩壊前の映画とかを家で見ても仕方ないし。でも、最近劇場ができたでしょ? 劇を見に行ったりウィンドウショッピングを楽しんだり、のんびりと骨休みをする予定よ」


「あ~、まだ行っていませんよ、私。なんか凄い劇場らしいですね。仕掛けがまるで映画の中に入ったような感じがするとか」


「コーラとポップコーンを持って劇場もいいなぁ。でも凄い混んでそうですね………」


 結花とそれぞれ語りあうが、娯楽のあんまりない街だ。休みの日には劇場に行く人は多いだろうし、その行列に並ぶのはちょっと大変そう。


「あ~、私もなんか娯楽が欲しい~」


 ぐだ~っとしながら、結花がまた机につっぷして言うのを聞いて、気持ちはわかるよと私も苦笑いをする。私もなにか面白いことがないか考えてしまうのだから。なにしろこんなに忙しいしたまには休んで楽しいことをしたい。


 その言葉にOLさんがポンと手をうち、ニコりと笑いながら、良いことを教えてくれた。


「そういえば花見をすればいいんじゃない? 明日は土曜だしちょうどいいでしょ?」


「え~? もう桜の時期は過ぎましたよ。それに桜が咲いている場所なんてないですし」


 上野公園なら桜も見れるだろうが、あそこは前線基地として少人数が駐留している。とても花見なんて無理だし、もうとっくに時期も過ぎているので、葉桜を見ても楽しくないだろう。


 その返答を予想していたのだろう。ふふっとほくそ笑んで教えてくれる。


「それがね、花見ができるのよ。ほらいるでしょう? 規格外の娘が。その娘が桜咲く公園を作ったのよ」


「それって、まさかレキちゃんですか! 知らなかったなぁ………」


 そういう情報はすぐに入ってくると考えていたが、最近の忙しさにかまけて全然情弱になっていたみたいだ。その言葉にびっくりするが、納得もする。レキちゃんなら笑顔で、そういうことをやりそうだ。その噂を聞いて、なんだかワクワクと胸が踊ってきたのを感じ始める私。


「ねぇねぇ、結花? 明日は」


「みなまで言うな! 椎菜、明日は花見に決定だね!」


 私へと片手を突き出して、話を遮って笑顔になった結花がいた。さっきまでのぐでぐでぶりが嘘みたいだ。


「それじゃ、明日は花見で決定だ~!」


 お~!と片手をあげてノリよく賛成する。そんな騒がしい私たちを遠巻きに見ている他の行員たち。何故ならば………


 結構年嵩のいっている男性がこちらへと近づいてきて、丁寧な口調で話しかけてくる。


「織田係長。頭取と連絡を取りたいと百地代表から取引時の話し合いで依頼がありました。あとで支店長へと話を通してもらってよろしいでしょうか」


「あ、はい。わかりました。あとで話を通しておきますね」


 年配の人なので緊張して身体を固くしながら、こくりと頷くと、男性はお願いしますと真面目な表情で言って離れていく。それを見て結花がつまらなそうにぼやく。


「なんで私たちが係長なんだろうね~。1年先輩なだけだと思うけど」


「本当にね。そのせいで他の行員からは遠巻きにされているし………」


 私たちは行員が増えたことにより、昇進して係長になっていた。たった1年早く雇用されただけだというのに。ううん、1年もたっていない。


「それは仕方ないわね。係長程度なら残業代もつくし、簡単に昇進させられるんでしょ。他の行員へ出世できるよ~って、見せるためでもあると思うわよ。どうせ融資関係の人とかがあっという間に私たちを追い抜いていくわよ」


「まぁ、たしかにそうですね。少ない形だけど、融資をするようになってお店がドンドンとできていますし」


 私はちょっとOLさんの言うことに納得して頷く。たしかにそうかもしれない。こんな小さい街なのに、融資関係で働く男性が2名いるのだ。新規の避難民の人もいるし、融資関係の人は張り切っていた。融資関係は出世コースとも思っているのだろう、こちらはしがない受付であり、すぐに追い抜かれるのは確実だ。


「北海道の各地に住んでいた生存者もどんどん合流するらしいし、加速度的にこの街は発展していくでしょ。人が増えれば、仕事で儲けるチャンスも増えるしね」


 さっきの男性をちらりと見て、OLさんがそのやる気に漲っている姿に苦笑いをする。これからも避難民の合流は増えるのはわかりきっている。最初から住んでいる私たちは圧倒的に有利だ。貧富の格差ができそうで、少し不安になる。


 この間までは、鉄くず拾いをしていて生き残るのに必死だった自分たちがそんなことを考えるようになるとは人生とは激変するものだと苦笑交じりに考える。これからの若木コミュニティはどんどん発展していくだろうことは間違いないのだから。


「あ~。難しい話は終わりにしようよ~。明日は花見! お弁当とか用意していこうよ。友だちも誘ってさ」


 結花が話に飽きたように言ってくるので、首肯して私も帰り支度を始めるのであった。


           ◇


 一面の桜並木。いや、桜の森林が更地であった公園にできていた。圧倒的な光景で、周りが全部桜であり満開な様子が目に入る。ひらひらと桜の花びらが散っているが、満開な桜は花びらが散っていない不思議な光景。


「はぁ~。凄いね~。これ全部桜? え、どこからこんなの持ってきたの?」


 街から少し離れた場所、といっても更地になっており安全宣言も出されている場所だ。もう若木コミュニティの周りは既に全部の地域が安全宣言が出されている。その中で街から30分程離れた場所に、その桜の公園はあった。


 段ボールの看板がぽつんと置いてあり、文字がでかでかと書いてあった。


「レキの幻想公園って、書いてあるね………」


 結花がそれを見て、ニヤニヤと笑う。私もクスリと笑いその看板を見た。レキちゃんのやりそうなことだ。書きなぐったような適当さが笑いを誘うし、そして公園の見事さに感嘆する。


 一面の桜並木で、人々が大騒ぎをしながら花見をしているし、どんちゃん騒ぎで皆楽しそうだ。


「たしかに凄いわねっ! またあの娘は無駄な技術を使うんだからっ!」


 フンっと憎まれ口を叩いて叶得さんが、その光景を見ている。


「ん、リィズは屋台のはしごをする!」


「僕も屋台のはしごをしたいなぁ~」


「ふふふ。皆さん、落ち着いてください。まずは座る場所を決めましょう」


 リィズちゃんと水無月姉妹もそれぞれに嬉しそうに言う。2人での花見は寂しいので、誘ったのである。


 きゃっほーいと叫びながら、どたどたと走っていく晶さんとリィズちゃん。良い場所を取らないとと叫んでいるが、これだけ大きい公園だ、花見の場所はいくらでもある。それをのんびりとニコニコ微笑みながら、お淑やかに穂香さんが歩いてついていく。


「ほらほら叶得さんも行きましょう」


 叶得さんがペタペタと桜に触っており、桜はどうやら本物ではなく立体映像みたいだ。触るとその手が透過している。

 

 呆れた表情で首を振って叶得さんが感想をぼやく。


「あの娘はいったいいくら使って、こんな馬鹿げた装置を設置したのかしら? ちゃんと貯金をしているか不安になるわね」


「たしかにこれだけの装置を設置するのは大変そうですね。大樹からの厚意なんじゃないかな?」


「ふ~ん………。おっさんがやりそうには思えないけどね………。でも、そうかもしれないわね。まぁ、今日は花見に来たのだから、気にするのは止めますか」


 私の言葉にうんうんと頷いて、興味はありそうで後ろ髪を引かれる感じだが桜から離れて、晶さんたちの後をついていく叶得さん。


「これが全部立体映像かぁ。本物にしか見えないなぁ」


 結花が感想を言うが、私も同じ感想だ。この花びらが散っている姿なんて、本物にしか見えない。


「まぁ、花見ができるからいいんじゃないかな? 私たちもいこうよ」


 はぁ~いと結花が私の言葉に返事をして公園へと入っていくのであった。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 更新ありがとうございます。 次も楽しみにしています。 [一言] 係長って都市伝説じゃないんですか!?
[一言] この辺の話とか最高ですね。 現実では気候とかの問題で病気や害虫に桜がやられたり、管理するのも大変ですよね。
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