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コンクリートジャングルオブハザード ~ゾンビ世界で遊びましょう  作者: バッド
14章 北海道に行こう

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202話 ゲーム少女対新たなる謎の軍隊

 異様なる戦闘光景であった。相対するは20メートル少しの距離。至近距離ともいえる距離。通常ならばアサルトライフルの銃弾は相手を穴だらけにしていてもおかしくはなかった。しかし、コマンドー婆ちゃんたちの射撃は全て巨漢の男に防がれていた。視認できない速さの防御によって。


 アサルトライフルの射撃はセミオートである。狙いを変えながら、コマンドー婆ちゃんたちは節約して撃ち続ける。多様なる弾道を描いて攻撃をするが防がれる。しかし、その様子を見ても不動の心で節約しながら撃ち続ける。


 だが、歴戦の戦士であるコマンドー婆ちゃんたちと青年たちは違った。焦る思考で、突如として始まった戦闘への心構えもない青年たちは早々と弾倉を空にして、カチカチと虚しく響く引き金の音のみとなった。


「リ、リロードをっ!」


 焦りながらも、どこかのおっさんと違い予備のマガジンを取り出してリロードを行おうとする。しかしその行動は遅かった。敵は銃弾の嵐が尽きて、防衛対象が安全になったその瞬間に、攻撃の止んだその空間へと躍り出していた。


「え?」


 ダンッと音がしたと思ったら、それでも20メートルはあった距離をゼロにして、巨漢の男が目の前に移動してきたのを、青年は呆然と見つめる。


 既に右腕を引き絞り、巨漢の男が青年の胴体を貫かんとする時であった。


 豪腕は風を巻き起こし、打ち出した速さで身体がブレる巨漢の男の一撃。必殺であり、通常の人間ならあっさりとなにが起こったのかもわからずに死んでいただろう。それは映画でよくある脇役が強敵にやられるシーンにも似ていた。


 パシイッ


 乾いた音がして、青年の前にいつの間にか現れた少女がその一撃を受け止めた。体幹がずれることもなく、足が押し退けられることもなく。ただただ軽いパンチでも受けたように防がれていた。


 巨漢の男はすぐに右腕を戻し、左拳の攻撃をしてくる。動揺の無いその姿は機械のようである。


「力任せの一撃ですね。どうやら技を持っていない様子です」


 ボソリと呟いて、少女は再び打ち出された左拳の攻撃を軽く手のひらを螺旋の動きにしただけで、弾くように受け流す。受け流されて、身体が泳いだ相手へと左足を支点に捻り込むような右脚からの蹴りを突き入れた。


 脆弱に見えるその攻撃は、されど強烈な一撃で敵の重厚なコートを蹴破り、まるで小石のように10メートルは吹き飛ばす。


 ドスンドスンと地面に叩きつけられて転がり倒れる敵。それを見ながら、小首を可愛く傾げて平静な声音で少女は問いかける。


「手応えが微妙でした。コートの防御力を計算に入れても不自然な感触です。どうやら武道家系ではないようですね」


 そう言い放つ少女の瞳は深い光の輝きが灯っていた。蹴り足を戻して相手を眠そうな目で観察する少女。戦闘民族な、誰あろう朝倉レキであった。


 攻撃が効いていないのか、ゆらりと立ち上がろうとする巨漢の男。だが想定外の、無敵と考えていた守護者の吹き飛ばされた姿を見て、リーダーの男が動揺して驚きの叫びをあげた。


「ば、馬鹿な! あの速さはいったい? なんだあの子供は!」


 リーダーの叫び声を無視して、冷静沈着な姿を見せて、淡々とレキはコマンドー婆ちゃんたちに視線を向けて告げる。


「残念ながら、貴女たちの攻撃は無意味です。邪魔になりますので退去をお願いします」


 その声音は冷たく思いやりの無い声音であった。まるで戦闘マシーンの如き姿は巨漢の相手となんら変わらない印象を与えた。


「小娘……あんたの正体はそれだっていうのかい……」


 先程の無邪気な様子を見せていた少女のあまりに変わった様子を見て、一瞬悲しそうに呟くがすぐに気を取り直して、周りに指示を出す。


「退却するよっ! 残念だけど、あたしたちはお邪魔になりそうだ。ここは小娘たちに任せるよっ!」


 そして素早く撤退していく。その姿を見て青年たちも慌てて逃げ始める。敵はその姿を見送り、追撃する様子は無い。瞬時の判断はさすがというところだろうか。


 巨漢の男たちが、突如として現れた目の前の敵に警戒しているのは明らかだった。アインとシノブもレキと同じように敵へと対峙する。


「どうやら戦い甲斐のありそうな敵だなっ!」


「3対5……余裕で撃破できますね」


 アインとシノブは厳しい表情ながらも、口元を微笑ませて、怯まずに相手を睨む。


「む………何者か知らぬが、我が王の邪魔になるのは確実。あんな人間たちより、お前らを片付けた方が良さそうだな。コイツラを片付けろ!」


 リーダーの男が不可解な相手の出現に戸惑いながらも怒鳴って、こちらへと指差す。瞬時に命令を受理して地面を蹴り、距離を詰めてくる巨漢の男たち。


「なんだか、あれだよね。リベ2なバイオ的な敵に似ているよね。再生力も同じじゃないと良いけど」


 不安を口にする遥。倒してもあいつらは何も落とさないんだよね。武器のパーツを落とすと思って弾薬をかなり使用したのにと、当時は思っていたのだ。3なら銃のパーツを落としたから期待したのにと、ゲームの相手と混同するおっさんである。


「問題ありません。同じなら相手が泣くまで倒せばよいのです」


 自信満々なレキの言葉である。先程からの敵の性能を考えてアインとシノブへと声をかける。


「貴女たちは無理せずに回避を中心にお願いします。どうやらぎりぎりで戦えそうなので」


 30000の報酬と言っても、相手は一人ではないのである。その力は分散しているとレキは瞬時に考えた。なので、ぎりぎり戦えるだろうと。


「私の攻撃に敵が耐えられれば、戦う時間はできると思いますが」


 ポツリと一言呟き、吹き飛んだ敵へと接近する。トンッと地面を蹴る音と敵の目の前に現れる瞬間がほとんど変わらない驚異的な速度を出して、肉薄する。


 立ち上がった敵は未だに反応もしていない。鈍すぎると思いながら、そっと右手のひらを敵の胴体部分のコートへと押し当てる。


 ぎゅるりと捩じ込むような左足の踏み込みにより、身体を僅かに捻りその力を伝播しながら、体内で練り込み、右手のひらへと集中させて打ち込んだ。


 ズンッと敵へと衝撃が伝わり、今度は吹き飛ぶこともできずに完全なる力の衝撃を緩和もできずに受けて敵はよろめいた。


 波紋のように敵へと衝撃を伝える発勁である。通常ならこれで敵は粉々になってもおかしくない。だが、敵は平気な様子で右腕を持ち上げてこちらの頭へと振り下ろしてきた。


 ヒョイと身体を左に少しずらして回避しつつ、今度は左手のひらを押し当てて発勁をぶち込むレキ。


 しかし同じように敵は僅かによろめいただけであった。攻撃が効いた様子はない。


「なるほど、殴打無効の敵ですね。それか物理無効です」


 レキは動揺もせずに、平然と平静なる声音で敵の分析を語る。


「う〜ん……。無効系を取るとこんなにも動きが鈍くなるのか。ちょっと安心したよ」


 遥も動揺せずにレキの呟きに答える。攻撃が効かないのは新ステージでの想定内。想定外であったのは敵の攻撃である。ただ殴るだけならばなんの問題もない。テレフォンパンチだし、体術スキルもなさそうだからだ。恐らくは物理無効に全てのリソースをぶち込んだのではなかろうか。


 アインとシノブを見ると、やはりヒョイヒョイと避けて当たる気配はない。スキルがある者とない者ではステータスが離れていても、スキル持ちの方が強くなることを経験で知っていたから当然の結果だった。


 ただ攻撃はやはり通っていないらしい。しきりに殴っても効いている様子が見えない。


「これはどう倒しましょうか?」


 少し迷うレキ。その姿を見て、レキたちが倒せる手段がなく万策尽きたと考えたのだろう。リーダーの男が声をはり上げる。


「少し驚いたが、そんなものか! やはり人間では我が王の下僕を倒すことは不可能!」


 ワハハハハと両手を腰にあてて、高笑いをする調子にのっている様子は滑稽でもあった。まぁ、常人なら倒すのは難しい敵だから勘違いするのはわかる。


 レキはちっこい可愛らしいおててをピッと伸ばして


「星金の手甲展開」


 久しぶりの黄金の輝きに星の光を内包した手甲を右腕に展開させる。カチャカチャと右腕に覆われていくさなか、他の巨漢の男たちも距離を詰めてくる。


 スイっと襲いかかる敵の間を流れる清流の如し動きで、すり抜ける。一人、二人、三人とすり抜けてからくるりと振り返り敵へと霞む動きで星金に覆われた右手を振るう。


『超技星金剣の舞』


 レキが右腕を振るうと共に身体を翻し、敵の中へと美しく舞うように入っていき、滑るように通り過ぎ去っていった。


 舞のあとには黄金の軌跡が無数に走り、敵の身体を切り裂いていく。重厚なるコートはその軌跡が走るごとに切り刻まれて、破片となって飛んでいく。


「なるほど。中身はそんな形だったのですか」


 レキはコートが破れた敵の身体を観察して、どうして殴打が効かないかを理解した。


 そこには人間の内臓もなく、ただ半透明な身体をして中にはいくつかのコアらしき物を持っている異形がいたのである。


「フハハハ! 無駄だぁ、そやつこそは王が作りし、無敵の怪物。その名もタイライム!」


「パクってる! 王とか言うのは絶対にネーミングをパクってる!」


 すかさずツッコミを怒鳴って入れる遥。常に追跡する敵とスライムの名前を合体させただけだよねとツッコミを入れるおっさんだ。


「ご主人様! あのミュータントの名前はタイライムと名付けました!」


 どうやらここにもパクるメイドがいたようである。全然名付けをしないのでおかしいと思っていたら、敵の名前をパクるために待っていた模様。セコい銀髪メイドである。


「いかなる攻撃も通じないタイライムの力を見よ!」


「あ〜、はいはい、多分無上が放置されていたら、こんなものを作っていたのかもね」

 

 高笑いする敵を放置して、東京砂漠にいたミュータントを思い出す。あのマッドサイエンティストも放置していたら、こんなのを作っていそうな予感がした。


「ですが、本当にいかなる攻撃も通じないのでしょうか? 見たところ脆弱そうな敵ですが」


 タイライムが押し寄せるようにレキへと肉薄して、拳撃を連続で繰り返してくる。総勢三人は連携もせずに、各々バラバラに攻撃してくるので、キュッキュッとカモシカのような足を僅かに踊るように動かし、柳のように全ての攻撃を躱しながら疑問を口に出すレキ。


 突風が巻き起こり、風がレキの髪をなびかせながら、豪腕が眼前を当たる寸前を通り過ぎていくが、ただそれだけであり、まったく命中する素振りはみせない。


「そうだね。まずはこのなんちゃってなバイオモンスターの耐性を試すとしますか」


 至極余裕で、遥がレキの言葉に同意する。


『雷動体』


 遥の超能力が発動し、レキは雷の戦士へと変貌する。小柄な体躯も髪の毛も全ては雷の攻撃力をもつ超人へと変化を完了させた。


 バシリバシリと空気が帯電して、地面が高電力にて焼き焦げる。チリチリとホコリが空中で弾ける中、レキはタイライムへと視線を向ける。


「まずは雷の力に耐性があるのか、試してみましょうか」


 眠そうな目で、淡々と平静な声音で呟き、身体を半身にして身構える。そして、タイライムの次の攻撃に合わせるべく、手をそっと前にだす。


 雷の戦士へと変貌したことも意識せずに、先程と変わらない単調な攻撃をしてくるタイライムの右腕からの拳撃を、雷光の手でそっと逸らす。


 そうして、再び懐に入り胴体へとちっこい手のひらをあてて、発勁を打ち出した。


 先程の衝撃と違い、雷光となった力は一瞬タイライムを光らせて紫電の衝撃を身体を伝わり伝播させてダメージを与える。攻撃を受けたタイライムは、身体にいくつもあるコアが風船が割れるようにパチンパチンと弾けていった。


 コアの無くなったタイライムは、そのまま溶けたアイスのようにドロリと身体を崩して地面に水たまりを作るのであった。


「どうやら雷の耐性はない様子ですね。ここまで簡単に倒せるとは、設計不足としか思えません。開発者はクビにした方が良いと思いますよ?」


 怯まずに殴りかかってくる他のタイライムを見ながら、敵のリーダーへと声をかけるレキ。打ち出された拳撃を僅かに遅れて拳を振るうもう一匹のタイライムへと、そっと重なるように受け流す。


 お互いの腕が絡むように動きを阻害されたタイライムへと、遥が手のひらを差し出して超常の力を発動させた。


『雷動波』


 雷光の球体が一瞬のうちにタイライムを覆う。超高雷撃がまとめて襲いかかり、あっという間に閉じ込められた空間は雷光が走り、地面を溶解させて、その雷の力でタイライムを焦げさせて水たまりも残らぬように消えていく。


「おかわりだっ! ボス!」


「粗大ごみの焼却をお願いします」


 アインとシノブが、目の前のタイライムの巨腕を掴み、一本背負いでレキへと投げてきた。


 投げ出されてきたタイライムを眠そうな目で見てレキは呟く。


「貴方の特性はわかりました。残念ながら、もはや拳撃で充分です」


 目の前に投げられてきたタイライムを、身体がぶれるような速さをもって、ススっと躱すように通り抜けるレキ。


 投げ飛ばされたタイライムは、すぐに起き上がろうとする。だが、体内にあるコアは既に破壊されており、破片へと変わっていた。


 通り抜ける際に、雷光の如く拳撃を繰り出したレキ。雷の力に変換された、その攻撃は的確に精妙にタイライムのコアを最小限の力で打ち貫いていたのである。


 弱点を見切られたタイライムは、先程のやつと同様に、身体を溶かして水たまりとなるのであった。


 レキは敵のリーダーへと眠そうな目を向ける。そこには驚愕で口を大きく開けた間抜けな姿で、あっさりとタイライムを倒したレキへと恐怖する男たちがいた。


「………あ……あり得ない……。どんなトリックだ? 貴様のその姿はなんなんだ? いったいなにが起こった!」


 混乱して喚く男へと、小さく微笑みを見せて伝えてあげる。


「粗大ごみを作成して、ここまで連れてくるとはお疲れ様です。水たまりとなってしまって残念ですね。実は初めからこの地へは水撒きに来たのでしょうか?」


「馬鹿な! 戦車砲すら防ぐのだぞ! それを倒すとは!」


 驚愕冷めやらぬ敵のリーダーへと、てこてこ歩き近づくレキ。


「あれですね。圧倒的な力を持ち歩いても、中身がスカスカでは仕方ありません。いえ、スカスカではなくてネトネトでしたか」


 近寄ってくるレキを恐怖の表情で見てから、持っていた槍を投げ捨てて身を翻して逃げだすリーダーの男。


 レキがアインたちへと視線を送ると、その意味を理解して逃げ出した男たちの前へと立ちはだかるアインとシノブ。


「まぁまぁ、帰るのは待ってくれよ」


「お酒でもいかがですか?」


 アインとシノブは悪戯そうな笑みを浮かべて、男たちへと声をかける。スラリと綺麗な立ち方で、目の前に瞬時に現れたアインたちを見て


「うおぉぉ! どけっ、化物がっ!」


 子供のように腕を振り回しながら、見ていて哀れになるほどの抵抗を男たちはするのだが、あっさりと殴られて吹き飛ばされるのであった。


 てこてこと、レキは歩み寄り気絶していることを確認する。


「さて、この人たちは多少の違和感がありますが、普通の人間の気配でした。なのになぜ目が赤いのかを調べましょう」


 男たちを見下ろしながら、レキは呟くのであった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 更新ありがとうございます。 次も楽しみにしています。 [一言] 元ネタがわからないよ〜
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