2話 チュートリアルはおっさんである。
日差しも明るくなり、カーテン越しに光が入ってくる。
「ふわぁ~」
目が覚めた遥は時計を見る。もう10時になっていた。
今日は連休2日目である。目覚ましをかけていないので清々しい朝である。
昔は清々しい朝であった。
今はおっさんなので、寝すぎると頭が痛くなるのが、ちょっと気持ち悪い。いつもの時間に起床したほうが体調が良いという悲しい体なのであった。
朝食は兼昼食とすることとして、お昼に食べることにして、とりあえず昨日キャラクター設定でやめたゲームを起動した。ゲームをはじめますか? という画面でOKを押下する。ちゃららーんとOPが始まる。
おどろおどろしいなんか闇っぽいのがでてくる。はじまった内容はこうであった。
地球には負のエネルギーであるダークマテリアルが地底深くにあった。
その存在は誰も知らず、また感知もできない無味無臭無色であった。
通常そのエネルギーは星の浄化作用で消えていくので問題はないが
浄化しきれずに地表に噴出したとのことであった。
噴出したダークマテリアルは生命体の中でも暗すぎる心を持つものにとりつき、その体を変異させる。
全体でみれば1000分の1もない数であったが、それら変異した生命体は他の生命体に襲い掛かった。
攻撃された生命体は死ぬ間際に暗い絶望が心を占める、そして新たな変異源になるのだ。
そしてねずみ算式に増えた変異した生命体によって、あっという間に世界は崩壊したのであった。
その中で良心をもつ生命体はライトマテリアルをもつようになった。
ライトマテリアルをもったあなたは生き残れるか
という、内容であった。もっと詳しく言っていたが──
「まぁ、ありがちだよな」
と遥は途中から聞くのをやめたので、たぶんこんな内容である。厨二的な内容にあまり興味がないのであった。まぁ、よくある設定だよねで終わらせた。
最近はバトルものの漫画とか、長いストーリーものの漫画はついていけないのだ。読む漫画はほとんど4コマとかショートショートで終わるコメディ系である。疲れる内容は仕事のみで良いと思うのだ。
それはさておきゲームが始まって仮想空間ぽい画面になる。
2人のメイド服キャラがでてきた。銀髪のショートの美人な女の子と金髪ツインテールのちょいちびっこな可愛い女の子である。
銀髪の女の子はおっぱいもほどほどあり高得点である。
金髪は貧乳であった。でも貧乳もいいよねってことで高得点である。
おっさんは可愛いのであれば、なんでもいいのであった。
その二人のどちらかをサポートキャラとして選ぶのかと思ったら、戦闘チュートリアル・クラフトチュートリアルとでた。どうやら銀髪が戦闘、金髪がクラフトみたいである。
まず、クラフト系を選んだのはめんどそうなほうをさっさと終わらせるためである。決してちびっこが可愛いからではない。と遥は思いながら金髪ツインテールの少女を、いやクラフトチュートリアルを選択した。
「マスター、こんにちは。私はクラフトサポートキャラ、ナインです。これからクラフトのやり方を学んでいきましょう」
と金髪キャラが口をパクパクと動かすと音声がでた。可愛い音声がついていたことにやる気が起きる。単純であるが音声は最近のゲームでは重要だと思います。
「まずは私に自己紹介をお願いします」
と言われてキャラが表示される。キャラ選択画面が表示されたので、これを選ぶことによって、自己紹介となるのであろうと遥は思ったが──。
「なんじゃこりゃ?」
表記されたキャラは一人、なんかちょっと疲れたおっさんである。
選択したところ、くたびれたおっさんと表記され、キャラ能力も映し出された。
くたびれたおっさん
筋力:8
体力:3
器用度:5
超能力:0
精神力:12
スキル:レベル上昇無効、経験スキル取得、経験ステータス取得、状態異常無効、自動蘇生、料理LV1
と、あった。
「俺のレキはどこに?」
カーソルをぐるぐると動かし画面を操作するが、他にキャラは出てこない。
名前も酷いし、スキルもよくわからない。というか料理とボーナスの状態異常無効、自動蘇生以外あまり良さそうな名前がない。
「クラフトサポートのキャラなのかぁ?」
仕方なくくたびれたおっさんを選択する。なんかどっかで見たことがある感じがするのは気のせいだろう。
そうするとナインの前にくたびれたおっさんが出現した。
「初めましてマスター。お会いできて嬉しいです」
と、ちっとも嬉しそうな顔をしないでナインが言ってくる。
「まぁ、くたびれたおっさんだからな」
くたびれたおっさんがマスターじゃ、この子も嫌だろう。
まぁ、大体の若い子はそうだと思う。一部はお金を見せれば嬉しいと心の底から言ってくれるかもしれないが。遥的にはそういう子には興味がないので、くたびれたおっさんでごめんと心の中で思うことにする。
現実なら、マスターと言ってきた時点で傍から離れて、私無関係です。と片言になるおっさんが出現するかもしれない。
「さてクラフトを教えていきます。クラフトは基本的に敵からドロップするマテリアル及び採取などで手に入る素材を使用します。マスターは料理スキルがありますので、マテリアルを使用して料理を作りましょう」
と全て音声付で話しかけてくる。
「全部音声付とはすごいな。こういう説明は音声無い場合も多いのに」
画面にポップアップがされ、マテリアル(小)と表示された。多分これを使用するのだろう。
「マテリアルは万能素材です。料理に使えばマテリアルの大きさや種類により、どのような料理も作成できます。お持ちのマテリアルで食パンを作りましょう」
と次に料理のレシピが出てくる。
「レシピも多いのか」
表記されたレシピ一覧は30万種と書いてある。スキルよりも多い。よくよくみるとパンも様々な種類がある。
「開発者は設定厨か……、よくこんなに作れたな」
開発者の執念を感じる量である。
遥が食パンを選択するとマテリアルが出てくる。なんかちっこい光るクリスタルであった。
ごごご……と数秒間音がしてピカーンとなると
『成功:食パン(N)』
と表示された。Nは恐らくノーマルのことであろう。 スキルレベルやら器用度とかで高品質が作れそうな予感である。
「お疲れさまでした。他のクラフト系スキルも基本は同じです。チュートリアルを終了します」
と、ナインがちょっとだけ笑顔になり言ってくる。おっさんと別れることが嬉しいのであろうかと邪推をする遥であった。
続いて、銀髪を選ぶと──
「こんにちは、ご主人様。私の名前はサクヤです。これから戦闘のやり方をお教えします。まずは私に自己紹介をお願いします」
と言ってきた。クール系の音声である。
先ほどと同じように遥はキャラ選択を行おうとしたが、
「あれぇ」
またもや、キャラ選択はくたびれたおっさんのみであった。昨日作成したレキはどこに行ってしまったのか。DLCも一緒に……。仕方なく、くたびれたおっさんを選ぶ。
「まぁ、チュートリアルだから出現するキャラが決まっているんだろ」
と、少し不満に思いながら画面を見る。おっさんではなく、可愛い女の子を使用して戦闘をしたかったのだ。画面のアングルによっては下からのアングルもあるかもしれない。その場合はスカート装備は必須である。
「初めましてご主人様、では戦闘を始めます」
とサクヤが言ったとたんに、くたびれたおっさんの少し前にゾンビっぽいのが出現する。
「弱攻撃から、強攻撃にうまく繋げて戦いましょう」
指示どおりに遥はおっさんをゾンビの前に移動させて、弱攻撃を始めた。
「L1押しながらR1で弱攻撃か、おっさん攻撃だ!」
と戦闘が始まりようやくキャラが動かせたのでテンションを上げて攻撃を開始するが、ひょろひょろな子供も倒せそうもないパンチがぺちという軽い音でゾンビに当たる。
ひるまないゾンビ。
「うぉぉぉ~」
と叫びながらつかんでくるゾンビ。
「まじかよ!」
ガチャガチャとレバーをめちゃくちゃに動かしつかんでくるゾンビから逃れようとするが、くたびれたおっさんはあっさりゾンビにマウントを取られ
「がぁぁぁ」
という叫びとともにゾンビに首をかじりつかれる。噛みつかれた場所からぶちぶちという音がして首から肉がはがれていく。
「バイオ的な終わり方と一緒だ! おっさーん!」
と自分もおっさんなのに、上から目線で叫ぶ。あっさりくたびれたおっさんは倒れて死んだみたいである。
「やぁ!」
と可愛い声で傍で見ていたサクヤの右腕が振られたかと思うと、首が吹っ飛ぶゾンビ。
「いやいやいや、もっと前に助けてよ! おっさん死んだよ!」
とゲームについ突っ込んでしまう。どうやらやり直しみたいである。
「あぁ、これ戦闘かなり難しい系か」
うんざりして舌打ちする。あんまりプレイヤースキルが必要なゲームは苦手なのである。
おっさんなので反応速度が遅いのである。ちょっと前にやったFPSでは敵に気づかれない状態で銃撃を与えて全然当たらずに反撃を受けて死んだので、そのFPSをすぐにやめたぐらいプレイヤースキルがないのだ。
「大体今のパンチでゾンビ倒せるの? 無理っぽい感じの攻撃だったよ」
サクヤが、ではやり直しましょうと言ってくると思い、画面を見ながら呟く。それぐらいへろへろなパンチなのであった。
「まぁ、レキならステータスもスキルも違うから攻撃も違うんだろうな」
ゾンビを倒したサクヤがこちらを見るように振り向く。
「戦闘のチュートリアルはこれで終わりです。お疲れ様でした、ご主人様。これから一緒に頑張りましょう」
と話しかけられて画面にチュートリアル終了。『お疲れさまでした! これからの世界を頑張って生き残ってください!』と表示された。
「はぁ? やり直し無いの? これ」
遥は驚いたが、そのまま画面は真っ暗になり、ゲームをスタートしますと文字が表示された。Now.Loading………と、文字が画面に出力される。
「えぇ~」
かなりのくそげー感を感じる。嫌な予感がバリバリするタイプだよこれ。
「顔洗ってこよ」
ロードが終わる前に顔を洗いに洗面台に向かったのであった。それから10分はたったであろうか。身だしなみを整えて戻ってきたところ──。
「ロード全然進んでないじゃん。まだ5%かよ」
そう、10分もたったのに依然ロードの進捗状況は5%であったのだ。
「オープンワールドだから、ロードに時間かかるのか? でもかかりすぎだよなぁ」
もはや完全にくそげー認定して肩を落とすのであった。
「しゃぁない。買い物でも行くか」
もう完全放置にすることにして、買い物と昼飯に行くことにしたのだった。休暇は大事なのである。待っている時間がもったいないのである。
そのまま秋葉原に本でも買いに行くことにしたのであった。