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コンクリートジャングルオブハザード ~ゾンビ世界で遊びましょう  作者: バッド
11章 無人島に旅行に行こう

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153話 ゲーム少女は家に帰宅する

 リゾートホテルは人気ひとけが無くなり、積雪もあり寂しく静寂に包まれた建物と化していた。積雪の中でも綺麗で大きな窓ガラス、まだまだ汚れがみえない内装。もはや宿泊客もいなく、このまま朽ち果てていくだろう。今座っているソファも、美しいテーブルも絨毯も全て土に帰るのだ。


「もったいないですね〜。これ、新築なんですよね」


 遥はシノブたちが絵画をトランクに入れて運び出すのを眺めながらのんびりとロビーにてくつろいでいた。もう今日のお仕事はおしまいなゲーム少女は、手伝う気は全くない。頑張ってね〜と可愛く微笑んでおててをふって、ツヴァイたちを応援するのみ。


 その応援で奮起して、ますます頑張るツヴァイたち。もしかしたら彼女らは騙されているのかもしれない。美少女の笑顔に。


 でも美少女の笑顔に騙されるのなら構わないだろう。おっさんなら即騙されているよと説得するが。


「こんな世界ですもの。それこそ崩壊前日に建てられた物もあると思うわ」


 疲れたように、静香はソファに沈み込んでぐったりとしている。今回の旅行はそれなりに力を使ったとみえる。


 その静香の顔を遥はこっそりと覗き込む。表情を確認するが、疲れた感じ以外の感情は感じ取れなかった。


「生存者が全滅するとは残念です。まさか、あれほどの敵が隠れているとは思いませんでした」


「そうね。私も死ぬところだったわ。やっぱり外は怖いわね」


 飄々とそう語る静香。全滅した経緯には疑問符がつくが、遥は別に気にしなかった。金銭の多寡でこちらの生死を決めようとした奴らだ。どうせ、他の生き残りも碌でもない人種ばかりであったろう。どちらにしても市井松に全ての交渉を任せて、遥たちと会おうともしなかった連中だ。彼らはゲーム少女に会わなかった時点で詰んでいた。


 本人たちに会わなければ、同情心も湧かないのだ。そして、会った人間は見捨てることが平気でできる奴らばかりであった。


「利益に反する行動でも、とったのでしょう。どうやら命をかけていたようですし、仕方ないかと」


「たまにドライなところを魅せるお嬢様って、素敵よ」


 冷酷なるその返事を聞いて、静香はニコリと微笑むのであった。遥は優しいだけのゲーム少女というわけではない。救い難い奴らなら見捨てると決めたらあっさりと見捨てる性格だ。カルマを悪にはなかなかしないが、邪魔な敵には消えてもらう。獅子身中の虫となるならば、静香レベルで役に立つ者でなければ興味はない。


 既に死んだ者たちのことは忘れて、ステータスボードを確認するとレベル39となっていた。豪華客船もナポレオンの支配下のため、クリア済みである。


 このスキルポイントは何に使うか迷う。次は何にしようかなぁと思い、のんびりとくつろぎながら、あくびをふわぁぁと可愛くちっこいお口でする。美少女のあくびはそれだけで絵となる姿だ。


 おっさんぼでぃであくびをしたら、人生にお疲れですなと、周りのおっさんから同情の目で見られるか、若い子から汚いおっさんねぇと軽蔑の眼で見られるだろう。


 美少女のあくびは撮る価値があると、カメラドローンが撮影しているのでわかる。


「クルーザーに運び終わったら、オイルタンカーを牽引して帰りましょう」


 フォトンクルーザーなら、オイルタンカーの一隻や二隻の牽引は楽勝だ。そのまま、本土まで持ち帰り給油車に入れて運ぶ予定。中身が軽油だったので、若木コミュニティで大いに活用できる。軽油は色々と使えるだろう。


「そうね、今回はかなりの儲けとなったはずよ。お嬢様」


 珍しく真剣な表情で静香が今回の成果をアピールしてくる。たしかにかなりの物だ。盗品にオイルタンカーの軽油。それだけでひと財産だ。静香が真剣な表情になるのもわかる。


 まぁ、宝石でも欲しいと言うのだろうと予想して、静香へと報酬を聞いてみる。


「珍しい宝石でも欲しいのですか? 本部にお願いしますが」


「いいえ、今回の成果を直接報告したいのだけど、どうかしら」


 静香は頭をふって、宝石の報酬ではなく報告について希望をお願いしてくる。


 およよ、これは予想外だと内心びっくりした。僅か三人の零細財団である。誰にと言われれば一人しか思いつかない。くたびれたおっさんぼでぃモードの遥である。


 ふむと、ちっこいおててを顎につけて遥は考える。どうやら静香はなにか次の目的を見つけたらしい。たぶん碌でもないことは予想できる。なにか財団についても勘違いか、過大評価していることも想像できる。


「たぶん、ナナシさんが報告を聞くだけですよ?」


 まぁ、聞くだけならば問題あるまい。これだけの成果で聞かないのも悪いしねとゲーム少女は、おっさんぼでぃで会うことを決めた。ちょっとおっさんぼでぃだと、外に行くのは面倒だけどもと思う引きこもりになりそうな遥。


「ナナシさんで充分よ。あの人すら滅多に会えないからね」


「そうですか、それならば問題ありません。申請を出しておきます」


 今回の報酬を巡る話し合いはここでは一旦終了となったのであった。あとは帰宅してから考えよう、考えようというか、考えるのをメイドさんに任せようと思う、いつもながらの遥であった。


              ◇


 トルルルとオイルタンカーを牽引しながらフォトンクルーザーは、港を離れていく。段々とリゾートホテルが遠くになり、周りが海だけの景色と変わっていく。ちなみにオイルタンカーは座礁していたので、とうっと、ゲーム少女のスーパーパワーで持ち上げて無事な場所まで運んでいった。相変わらずの規格外な美少女である。


「短いようで長くもなかった旅行でしたね。というか一泊しかしませんでした。クルーザーの中で泊まっていた日の方が長いですよ」


「こんなところまで来る旅行はそんなものよ。ゆっくりしたいのであれば、事前に旅行先を調べて、ちゃんとしたホテルへ泊まらないとね」


「今の世界でそんなホテルは残っていませんよ。ということは、私はしばらくは旅行ができませんね」


 がっかり遥。金持ちになっても贅沢旅行は無理そうである。


 あ〜ぁと、ソファにゴロンと寝っ転がるゲーム少女であった。贅沢旅行は自分のやってみたいことの一つであった。ただお金をかけて旅行をするより、そのお金で美味しいご飯を食べて家でゴロゴロしていたほうが、もっと好きだったのだ。


「まぁ、のんびりと帰りましょう」


 ガチャと冷蔵庫を開けて、いつの間にか補充されていたワインを目ざとく見つけて、静香はワイングラスに注ぎ始めた。


「また飲むんですか? 船内では飲んでばっかりじゃないですか」


 呆れた表情で、忠告する遥。この呑兵衛はどれだけ飲めるのか。


「人生の半分は娯楽に満ちているのよ。お酒もその一つ」


 ワイングラスの中のワインをくゆらせながら、微笑む静香であった。


             ◇


 移動を終えて、マイホームに帰宅したゲーム少女。ようやく帰れたとぐったりである。


「たっだいま〜」


 疲れたので、家で疲れをとろうと元気よく帰ったことをお知らせする。もちろん、お知らせするのは


「おかえりなさいませ。ご主人様」


「ご飯がちょうどできていますよ、マスター」


 にっこりと微笑みながら、メイド二人がお迎えしてくれたのであった。


「あ〜、疲れた〜。今回の旅行はわくわくドキドキだったけど、肝心の豪華客船内でのパニックイベントは参加できなかったし、ちょっと消化不良だよ」


 リビングルームでゴロゴロするゲーム少女。なんだか精神的に疲れたのだ。船での旅は疲れたのだ。やっぱり家が一番なのだ。


 崩壊前もいつも旅行から帰ってきてはそう思う遥である。


「ご主人様、やはり旅行は空中戦艦で行きましょう。それならば、私たちも一緒に行けますし」


 遥の隣でニコニコ笑顔のサクヤが一緒にゴロゴロしながら提案してくる。たまにゴロゴロしている二人があたると、ニヘラと笑う銀髪メイドだ。まだ、レキの身体なのでベッタリサクヤ。遥も密かに柔らかくて温かいサクヤの身体があたると嬉しいと思う。


「空中戦艦ねぇ。それって旅行なのかな? 侵略戦争に向かうように見えないかな」


 空中戦艦を旅行に使えば、確実に侵略行為に見える。というか、見えない方がおかしいが、敵はミュータントだから問題はないだろう。でも、生存者がいたらどうなるだろうと考える。


 艦砲射撃をしながら突き進む旅行………。なんの旅行になるんであろうか。生存者は一目散に逃げるか、助けを求めて近寄るか?


「マスター、どうぞ。ホットココア、生クリームをたっぷりのせてありますよ」


 テーブルにホットココアを置いてくれるナイン。砂糖の代わりに生クリームがたっぷりのっているのが、気が利いている。


「ありがとう、ナイン」


 微笑みながら、喜んでココアの入ったカップを手にとる。スプーンでちょっとだけ生クリームを掬い上げパクリと口に入れる。柔らかい感触とミルクの香り、甘さが口にひろがる。


 そのままカチャカチャとスプーンでココアをかき混ぜる。こくりと可憐なお口で飲むと、ホッとする。ホットココアは口に入れると、なぜか心まで和むねぇと思いながら、フーフーと息を吹きかけて、熱々のココアを冷ましながら飲む。ココアを溶かすのにミルクを使っているので、味にコクがあって美味しい。


 両手でカップを持って、息をフーフーと吹きかけてコクコクと飲む美少女なレキの姿。可愛さは銀河をも突破するかもしれない。それを激写するパパラッチサクヤが大変ウザい。


 ようやくくつろげた遥はのんびりと次の指針をどうしようかと考える。


「う〜ん、次は何をしようかなぁ」


 ちょっとお疲れなので、なにもする気が起きない遥。ぐた〜っとしている。美少女なので全てが絵になるお得感である。


「ご主人様! 次は私とお風呂に入りましょう。かなり汚れています」


「そう? クルーザーでもお風呂に入っていたんだけど」


 サクヤはその答えに満足せずに、顔を遥に近づけて、ジッと見つめる。


「ダメです! 私にはわかります。髪は潤いを少し失い、肌も艶が僅かに無くなっています! 後、なんだかくたびれたおっさん感がします!」


 それは誤差じゃね? というか最後のは私をディスッてるなこんにゃろー! とサクヤの言葉に少し怒る遥。でも、本当のことだから反論もできない。そして、わきわきと動かす手の動きが卑猥に見えるぞ、サクヤよ。


「さぁ、さぁ、私と一緒にお風呂に入りましょう。ほらほら」


 ゲーム少女の背中を押しながら、喜色満面の笑顔でお風呂へと運ぶサクヤであった。いつの間にか、何気にサクヤとお風呂に入るのに慣れてしまったゲーム少女であった。


 お風呂から出て、ピカピカの身体になったゲーム少女。もう一回最初からやり直す。サクヤは満足そうに顔をピカピカさせている。


「う〜ん、次は何をしようかなぁ」


 リビングルームのソファに寝っ転がり呟く遥。


「次はご飯ですよ、マスター。もう準備はできていますよ」


 いつの間にかテーブルには、各種の料理がのっているお皿がナインの手によって用意されていた。


「むむむ、こ、これは! ふぐのフルコース!」


 遥の大好きなコース。ふぐのフルコース。ふぐ刺し、ふぐ焼き、ふぐの唐揚げにふぐチリが用意されてあった。ご丁寧に日本酒もある。ヒレ酒も用意されている。


「さぁ、マスター。もうレキのぼでぃも綺麗になりました。遥様のぼでぃに戻って、ご飯を食べましょう」


 にっこりと思わず見惚れてしまう可憐な微笑みで夕食を勧めるナイン。遥はもちろん断らない。スキップで寝室に行き、謎のステップをしながらおっさんぼでぃに戻ってきたのである。いつまでもおっさんぼでぃではスキップができないおっさんであった。


「はい、マスター。あ〜ん」


 機嫌良くナインがふぐ刺しを箸で摘んで勧めてくる。


「あ〜ん」


 怪物なら退治するのに、残念ながらおっさんだ。口を大きく開けて、ナインに食べさせてもらう。


 ふぐ刺しは、やっぱり一枚ずつ食べないと味がわからないよねと思いながら、淡白な味わいとコリコリした食感を楽しむ。ウマウマとしばらく食べて、日本酒を飲んだあと、充分に満足してようやく当初の目的を思い出した。


「う〜ん、次は何をしようかなぁ」


 三回目なのでもはや天丼である。だが、今回は妨害に見える誘惑はなかった。ぽんぽんとナインが膝を叩いてアピールしているので、ごろりと寝っ転がり膝枕をしてもらい、なんかいい匂いがするなぁと思いながら幸せの中考える。世間一般からすれば、もはやこのおっさんの地獄行きは確定だ。


「マスター、とりあえずはお正月まではのんびりとなされては? 街の建設も始めないといけませんし」


 遥の髪を可愛いおててで優しく漉きながらナインが提案する。


 既に夢うつつの中にいたおっさん。抗い難いその提案にあっさりと頷く。


「そうだね。最近は働きすぎだよ。ワーカホリックになっちゃうよ」


 休みの息抜きに働くおっさんは、そんなことを平然と言って目を瞑る。


 まぁ、明日のことは明日の私に任せようと思いながら。

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― 新着の感想 ―
[一言] 静香さんに目をつけられた金のスプーン君はちゃんと箱に帰れたのだろうか……。
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