139話 おっさんの冬休暇
広大な敷地は雪に覆われて白い美しい風景となっていた。偽名財団大樹の基地、実際は草臥れたおっさんのマイベースである。建物が各所に建設されており、その中ではツヴァイたちが忙しく働いていた。
工廠では損失した機動兵器を補うために、新機体を大量に建造中である。
まぁ、ポチポチ作成ボタンを押下して、ウィンドウに建造中と出るだけなんだけどと思っていたら、ふんすとはりきって、可憐にして、遥へ尽くします、甘やかしますなナインがクラフトサポートキャラで有ることを活かして健気に頑張り始めた。
その為、工廠でも実際にマニュアルで建造が行われている。現在は被害甚大なスズメを大幅改修中。指示を受けて活動する工廠ドローン、その周りでは資材を持って忙しく動くツヴァイたち。
皆が忙しく動いているので、なんだか学園祭とかの準備みたいだ、楽しそうだねと思い、さり気なく何か手伝えることは無いか、工廠でナインの周りをウロウロした。もちろんその時はレキの身体である。おっさんでは簡単なプラモすら作れないし、荷物を運んだらぎっくり腰になるかもしれないし。
いつもは工廠に入ることもしない遥がウロウロしている時点で、さり気なさなど、欠片も無かったがお手伝いをしたかったのだ。楽しそうな騒ぎに加わりたかったのだ。実際は楽しくはないと思われるが。
おっさんなら、手伝えることは無いどころか、皆の邪魔をする粗大ゴミなので退場確実であるが、スキルを使いこなせるレキの身体なら話は別である。手伝えるどころか、主導権を取れたりもできてしまう。
だが、ナインからのお願いでモニターから工廠ドローンに指示をして動かしていたが、致命的な弱点が発動した。
即ちおっさんは、単純な指示を出していることに飽きた。ドローンへの指示の操作方法は複雑であったが、スキルの力で楽々操作できるため、単純作業と変わらぬ作業となった。その為、退屈になりウトウトし始めたのだった。いつも眠そうな眼をしている可愛いレキぼでぃは実際に可愛く寝始めたのである。
状態異常無効があるにも関わらず眠くなる特技をもつ遥であった。全然自慢にならない特技を持つおっさんだ。
ウトウトし始めた遥へ、ここは私がやりますからとナインがいたわるように微笑み優しく背中を押されて工廠から退場させられたのであった。
そうして、やることは全てボタンをポチポチで終わってしまった遥は暇になった。本当は若木コミュニティにいってやることもありそうだが、それらは忘れて暇になったと思い込む。
おっさんは自らの得意技、暇になったと思い込み、予定されている仕事は忘れるスタイル発動!
そういうわけでマイホームに戻り、ホームパーティーができそうなリビングルームで、フカフカ絨毯に埋まるように遥はゴロゴロしていた。
あぁ、高級なフカフカ絨毯は柔らかくて凄い感触がいいなぁと、休日の邪魔なおっさんそのままを表してゴロゴロしている。
リビングでは、ソファに座りながらテーブルにお菓子とジュースを用意して頬を薄っすらと赤く染めてサクヤが撮影したレキの活躍シーンをテレビにて、絶賛鑑賞中だ。ご丁寧にサイダーとポップコーン、しかもキャラメル味と塩味両方を揃えている。チラリとテレビを見ると、スカートを翻して戦うレキの姿が映っていた。
というか、スカート下からのアングルが多すぎてパンチラがかなり入っている。黒の際どい下着のレキである。しかして、子供に見えてもおかしくない可愛らしい愛玩動物を想起させる美少女なのだ。そんな美少女のパンチラが大量に映されているのを見るのは、たとえ自分のもう一つの身体であれど、おっさんの場合は完全にアウトであろう。
いや、出会った当初はクール系に見えたでしょと言い張る銀髪メイドも美女ではあるが、興奮しながら見ているので絵面的にアウトだ。
二人仲良く通報からの逮捕で有罪、前科一犯間違いなしである。自分の変態さをそろそろサクヤはかえりみたほうが良いと思われる。
でも、私を慰めるためにやっている可能性も微レ存なので対応に困る。あと、パンチラ時は目を背けるか瞑っておこうと思っても、ガン見を何故かしてしまう。体が金縛りにあったように動かないのだ。社会的な死亡をしたくないので、間に合わずとも建前だけは見ていないと言いたいことからの行動なのに、冗談抜きで動かない。
メーデーメーデー、意図的に自分の扇情的な姿を見せようとする新妻と言い張る女の子が、私の身体を密かに操っています。いつもお風呂で見てますよ? 全裸を見ているよ? と思っても、遥ぼでぃの時に見てほしいらしい。
お風呂の撮影は絶対にしていないだろうなと、サクヤへ確認は取らないが、まずい状況になりそうなのでそう思う。確認を取らないのは簡単である。撮ってますよと言われたら、その鑑賞をするべく身体が勝手に動きそうだし、撮っていませんよと答えが返ってきたら、口が勝手にそれでは撮影しましょうとか言いだしそうであるからして。
まぁ、いつもの如くしょうもないことしか起きないおっさんの生活風景だ。
だが、今日は少しいつもと違う。慰めないといけない真の少女がいた。いたと言うかリビングの隅っこで体育座りで、赤毛もしおらせてシクシク泣いている少女である。
おわかりだろうか? 前回の撤退戦の結果を。
多数の機動兵器は失ったが、実際はそれほど痛くもない。何故ならもうレキの戦闘についていけない骨董品ばかりだったからだ。しかもお安い。あの機動兵器群は実際は一角獣が出てくるアニメで在庫処分セールのように、基地を襲撃した旧型の博物館に入っていてもおかしくないショボい機体と同様の物ばかりであった。
実際に強襲揚陸艦は何回乗ったっけ? 二回? 三回? というレベルであったし、戦車もゾンビ退治用の雑魚い物ばかりで、いずれ新型に切り替えないといけなかったのだ。なので、悲しかったがそれはコレクター的な機体損失を嫌がるケチなおっさんからの思考なだけで、すぐに立ち直ることはできたのである。
撤退戦での収支は敵の第一陣を撃破した際のマテリアルで大幅黒字なのだから。
なので、真に落ち込んでいるのは、戦闘に加わるどころか、その場にいなかった、誰あろうアインである。アニメで言えば、レギュラーとして出てきたのに、他の準レギュラーが人気が出てきていつの間にか立場が入れ替わり、フェードアウトするような感じ。
はぁとため息をついて、こちらへとわざと聞こえるようにシクシク泣いているアインへと視線を向けた。
泣いて落ち込んでいるはずなのに、いつの間にか遥の側へとジリジリとお尻を動かして近づいていた。慰めてくれないので、ジリジリと近づいてきたのであろう。
「アイン、仕方ないだろ? 君は支援ユニットには登録されていないんだ。直接出撃のみに配置されているんだから」
しょうがないなぁと、美少女なんて慰めた経験皆無なおっさんは顔を強張らせて口を歪めて緊張した風で声をかけた。慰める側が緊張しすぎである。
「うぅ〜、ボス、それはわかっていても悔しいんだよ! 私も一緒に戦いたかったんだ!」
ようやく泣き止んで、遥に顔を向けながら返答をしてくる。そして、ガタリと立ち上がり、遥の肩へと両手を乗せて身体ごと近づけて迫ってきた。近すぎるワタワタあわわわと美少女に照れるおっさん。
「それに食堂で戦闘にでていたツヴァイが毎回毎回自慢して話しているんだ! ズルい!」
当初の性格設定は元気で快活であるはずのマシンロイドがこれだ。
「でも出ていないツヴァイの方が多かっただろ? そいつらも我慢しているんだから、アインも我慢しないと」
「違うんだ! ツヴァイたちは全員出撃してたんだ! だから皆で自慢してくるんだ!」
はぁ? とさっきとは違う疑問に満ちた表情に遥はなってしまう。
「全員? 何それ? だって、どこにいたわけ?」
「戦艦だよ! 操作人数は10人だけど、戦艦に定員数の乗員がいればいるほど性能にボーナスがつくんだ! それを悪用して量産型は全員乗っていたんだ!」
「えぇ〜、何それ? え、だって? え? そんなマスキングされた秘密があったの? 確かにそういうのゲームではありがちだけどさ」
「マスキングなんて、されてないよ、ボス! ちゃんと仕様説明書に書いてあったよ! 指定された乗員機体は支援時に待機要員として乗り込みますって書いてあって、ボスはそれにツヴァイ量産型を指定した」
「ふむふむ、確かにそんな指定をしたかもしれない。説明書も読んだよ? 確かに読んだんだけどね、ちょっとど忘れしていたんだよ」
冷や汗をかき、目を泳がせながら、読んでいないことは明らかなのに誤魔化す遥。それはわかってたので、特にアインはツッコまない。
「名前付きは量産型から外れるんだ。なので、乗り込めなかったのはシノブだけ。他は既に輸送ヘリとか装甲艦に乗っていた奴らだけなんだ。後は全員乗り込んでいたんだよ。銀行タイプや商人係は仮称だから量産型の指定範囲に入ったというわけ。リーダーや参謀は最初から戦艦に乗り込むのは決まっていたしね」
へぇ〜と聞きながらも矛盾点を感じる。だってその後に戦車とかにツヴァイは確かに乗っていた。その時の搭乗員は?
その疑問にもアインはすぐに答えてくれた。
「支援要請時にテレポートで戦艦内に待機していたツヴァイは戦車とかに、やっぱりテレポートで支援要請がきたら搭乗できるシステムなんだ。戦艦も小拠点扱いだから、その裏技が使えるんだよ。だから私だけ戦闘に入れずに商人係をしていたんだ〜!」
天井に顔を向けて悲しそうに大声で喚く機械のはずのアイン。本当に機械なのか不安になる。そして裏技って、普通プレイヤーが使うんじゃないの? サポートキャラが率先して使っていいの? と判断に非常に困る。
そのままゆさゆさと肩を掴んで揺さぶってくるので、ちょっと気持ち悪い。
「最近はいつも、商人係しかできないアインさんではないですか、こんにちは。今日も良い戦闘日和ですね。いつ呼び出されても戦えるように私たちは常に忙しいですが。あ、今日の朝ご飯は軽い物が良いという意見があったので、中華料理のあっさりタイプ。飲茶と饅頭にしました。自信作なので食べてみてください、ヤムチャさん。あ、失礼噛みました。アインさんでしたね」
身振り手振りを混ぜて巧妙にツヴァイの演技をしながらも悔しがるアインは同型なだけあって、凄い似ていた。おぉ〜と思わず拍手する勢いだ。上手いぜアイン。スキルに演技は無かったはずなのに。
だが、そんなに気まずい雰囲気なのか、さすがに気になるのでチラリとサクヤへ視線を送ってみる。
ポップコーンをパクパクと食べながら、こちらには視線も向けずにテレビをガン見しているサクヤ。彼女は本当にサポートキャラなのだろうか。
「ふぉんと〜ですよ、ご主人様。ツヴァイたちは商取引中にテレポートで集まりました」
平然とした表情でそんなことをのたまう銀髪メイド。只今テレビの下から覗けないかと、仰向けに寝そべりテレビを下から見上げている。美女なのに、極めて残念さしか感じないサクヤだった。
そして気になることをサラッと教えるので、聞きたいこととは違ったが、聞き捨てならない内容だったので、冷や汗が流れる遥。
「まじで? 本当に人々の目の前からテレポートで消えたわけ? うわぁ、説明が面倒そうなんだけど? 物凄く面倒そうなんだけど?」
設定に自信が無いおっさんも、頭を抱えて叫ぶのであった。即興で考える設定は大体失敗するのだから。
しばらくして、落ち着いたので遥は既にいつも通りに戻っていた。即ち明日の自分に任せよう作戦である。実にいつも通りなので、再び絨毯の上でゴロゴロしていた。完全に粗大ゴミにジョブチェンジした模様。
まぁ、それでもツヴァイを慰めなきゃと思い。声をかける。
「ツヴァイも泣き止みなよ。これからの改修で大分性能も変わるからさ」
「私はアイン! うわーん、ボスからも遂に見捨てられた〜」
両手で顔を覆いがん泣きし始めたアイン。おっさんはトドメをアインに刺した。
やばい、眠かったから素で間違えたと遥は慌てる。外は一面雪景色で、ぬくぬくと暖かい部屋にいながら、それを鑑賞すると不思議とコクリコクリと眠くなってしまったのだ。不覚である。即ちいつも通りのおっさんである。
そして美女を泣かせるのはイケメンキャラの役目であり、この人、不審なおっさんですと言われて泣くのがおっさんの役目である。
しょうがないなぁとため息をついて、迂闊なるおっさんはアインへと尋ねてみる。
「アインは何か私にしてほしいことがある?」
おっさんの迂闊なる一言。それを聞いて顔から両手をどけて、涙の跡も見えないアインは嬉しげに大声で喜びながら言った。
「一狩り行こうぜ!」
アインの言葉にゲームの話であることを祈るおっさんだった。




