12話 ゲーム少女は舞い踊る
国道の真ん中に少女を中心に大勢の人影が踊っていた。
囲まれている人間と共に美しく踊る可憐な少女の姿があった。
踊るたびに周りの人影が倒れていく。
と、いうかゲーム少女とゾンビの群れであった。
「たりゃぁー」
レキの可愛らしい声が響き、掴もうとしていたゾンビが吹き飛ぶ。レキのもつ長柄がゾンビに触れる度に、ゾンビは切り裂かれていく。
「さすがレキぼでぃ! 素晴らしいスペックだ!」
自分を褒めるレキ。レキというか、中身のおっさんである遥の発言である。
国道のど真ん中で、その高スペックを十分に活かして戦う。囲まれて逃げられない状態になる前に次々とゾンビを長柄で切り裂く。長柄というとかっこいいが、鉄パイプである。
ただし、超常の力を持つ鉄パイプである。レキの力で振るえば一発で壊れそうな細さの鉄パイプであるが、曲がりもせずに次々とゾンビを切り裂いていく。
そう切り裂くのだ。
頑丈なだけで攻撃力はただの鉄パイプな武器は、レキのパワーとスピードでゾンビを叩き殺すのではなく切り裂いていた。振るう速度が速すぎて爆散の前にゾンビの肉体を切り裂いてしまうのだった。
「ゾンビ多すぎない? 駅前どころか国道だよ? ここは!」
多すぎるゾンビに対して叫びながらサポートキャラかもしれない銀髪メイドに尋ねる。もう遥は、サポートキャラであるサクヤのサポート力のことを半分以上信じていない。美人なメイドさん万歳とだけ考えています。
「住宅地から国道に向かうゾンビがいたのでしょう。避難中に襲われてゾンビ化した可能性があります」
こういう時だけ冷静に、できるメイド風な真面目な口調で答えるサクヤ。
「あぁ、あるあるだな」
そんでヘリの音に釣られて移動を開始するんだよね。遥のあるある基準は常に映画とかであった。まぁ、こんな状況が過去にあったとしたら大騒ぎになっていただろう。
その場合、遥はチートなゲーム少女になれずにむしゃむしゃゾンビに食われて死んでいたかもしれない。というか、以前に秋葉原で想定通りにゾンビに食い殺されていたのだった。
「しっしっ」
遥は軽く息を吐き、掴みかかってくるゾンビを回避して鉄パイプを振るう。その隙に周りのゾンビは遥を押し囲もうとする。
「おぉ~! 無駄無駄~!」
左足をアスファルトにめり込ませ、支点を固定した遥は鉄パイプを両手で持ちぐるりと回転した。周りにいたゾンビをバラバラにすると、すかさず左足をアスファルトから引き抜き、人外レベルのジャンプを行い街灯の上に乗る。
もはやオリンピック選手が強化人間になっても無理な挙動である。素晴らしいスペックのレキぼでぃであった。
ぴょんぴょんと街灯の上を移動して囲まれている範囲から逃れて、あっという間に集団の端まで到着する。最後に大ジャンプを行い、かなり離れた場所に着地する。
「ここで2千体は倒しておきたいよね? そうすればレベル9ぐらいになるんじゃないかな?」
常時ミッションで貰える経験値は500と一定だ。経験値3倍の力で1500になるので、繰り返しクリアすればレベルが結構上げられるはずである。
延々と経験値マラソンをしようとするゲーム少女であった。因みにマラソンとはゲームでは常時クエストを延々と繰り返しクリアすることを言うのである。
雑魚敵を倒しまくっても、全然経験値にならないので仕方がないのだ。多分ドラゴン的な敵を倒しても経験値10ぐらいではと予想している。
「くらえ! 勇者的必殺技!」
範囲攻撃ができない遥は、足りない知力で新技を考え付いたのでその技を使用する。
「ライトバンストラーッシュ!」
国道に放置されているライトバンをウギギと持ち上げて、ゾンビに投げつける。
水平にはさすがに飛ばずガンガンと道をバウンドしながらライトバンは飛んでいく。ライトバンに巻き込まれて吹っ飛んでいくゾンビ。
次々と車を投げてゾンビを殲滅する。尚、ライトバンは最初の車だけで後は普通車であった。
ゾンビが片付いた後に、勇者が使っていた技だぜかっこいい語呂でしょ? といわんばかりのどや顔となる。
「どーよ? どーよ?」
よせばいいのに返答を求める遥は、ウィンドウに映るサクヤに返答を求める。ありがちな周りを寒くするギャグなのに、自分はいい出来のギャグだと思っている典型的なパターンであった。
ただし、可愛い少女のどや顔である。そこが勝利の鍵だったのだろう。
「素晴らしいです。ご主人様」
ぱちぱちと可愛く拍手するサクヤ。
「そしてバラバラになった車からのガソリンで、爆発炎上が起こりそうです。退避を勧めます。ご主人様」
続いて可愛く忠告するサクヤであった。
「へ?」
周りを見渡すとバラバラになった車から火花が散っている。
どごーん、という音と共に爆発炎上する車列。
「おぅ……」
ビビる遥。こりゃヤバイと見ていると次々と爆発していく。普通ならこんなに連鎖はしないであろう。車はそんなに簡単に爆発しないのである。
ただ、レキの剛力で投げられた車はガソリン漏れ漏れのバラバラになってしまっていた。爆発炎上は連鎖しまくるのであった。
勇者的な必殺技は炎属性みたいである。
「やばいやばい。周りが大火事になるぞ、これは!」
慌てる遥。防犯カメラは壊しておかないとと周りを探す、あくまでも自分のことが第一なのである。
ぐわーん、どかーんと外国のアクション映画でもないと、なかなか見れないレベルの爆発が起こっているのを呆然と見ていた。
「とりあえず消さないと!」
もったいないが消火のため、新たなスキルを探すことにする。こんなくだらないことで保留していたスキルポイントを使用しないといけないとは悲しすぎるが仕方ない。
「ぬぐぐぐ、サクヤ! 何がいい? どのスキルだと消える?」
二酸化炭素創造系か? とちょっと捻った考えをする。
「水か氷が良いでしょう。水か氷なら相手の精神抵抗値やスキル耐性を超えれば火を消せるでしょう」
とサクヤが真面目な声で普通な答えを返すが、ぷぷぷと笑いそうなぷるぷる震える唇も見えた。
「いや、ガソリンだよ? 水とか氷で消えるの?」
なぜ唇がぷるぷる震えていると突っ込みたいが、ぐっと我慢して聞き返す。せっかく捻った考えのスキルも思いついたのにと、ちょっと不満でもあった。
「水、氷で火は消えるものです。そういう概念的な超能力属性なのです」
ゲーム的な答えをするサクヤ。
なるほど、と遥も納得する。今まで散々ゲーム的なパワーを使ってきたのだ。疑問を持つことはしない。というか、面倒なことになりそうなので考えるのをやめた。
「では、氷で!」
なんとなく氷の方が上級ぽいでしょ? と氷念動lv1を取った。すぐに2までレベルを上げる。ちょっと爆発している光景から1だと効果が薄い感じがしたのだ。後、念動の前に氷ってつけるのは名前が安直すぎない? とも思った。他の属性も同じ名前のパターンで大体は名付けられていたのもある。
ピンチでもくだらないことを考える遥であった。すぐに頭に使える氷の種類が浮かび上がってくる。この爆炎を消火するために遥はすぐに新しい力を使うことにする。
『氷雨』
さすがに焦っていたので、声に出して超能力を使う。広範囲に氷雨を降らすレベル2の技である。
さらさらと氷雨が周りに降り始めて、細かい氷粒が周りに散っていく。
「こんなしょぼそうな氷雨で大丈夫なのか?」
そう思っていた遥であったが、理性が問題ないと教えてくれている。親切に予想結果を教えてくれるスキルパワー万歳状態である。
そして遥はゲーム少女の力をまだまだ過小評価していたことがわかった。
小さな氷粒なのに、その粒が当たったところがあっという間に真っ白になったのである。ガソリンで炎上していた炎すらも一粒の氷粒が当たった途端に消える。消えるどころか、その箇所も凍りついていた。
辺り一帯はあっという間に氷原と化した。ちょっと寒いレベルである。
「ふっ、我が氷は火をも凍らせる」
と、やはりさっきまでの連続戦闘でテンションが上がっていたのだろう、ついつい厨二的言葉を発してしまう。
ハッと慌ててサクヤのウィンドウを見るが遅かった。勿論、その発言をサクヤが見逃すはずがなく
「可愛いです! ご主人様! 火すらも凍っちゃいます~」
とくねくねとしている銀髪メイドであった。
「うぉお~」
ゾンビと戦うよりダメージをうけたゲーム少女であった。
因みにレベルはめでたく9になりましたとさ。




