112話 ゲーム少女と食いしん坊の女武器商人
うち捨てられた窓ガラスも割れて、電気も通っていないはずのゲームセンターに一台だけ電気が通っており、ゲームオーバーと表示されたゲーム台に一人の女性が座っていた。
先程までは、そのゲームをやっていただろう女性。ゲーム少女が先程撃破したはずのガンリリスに搭乗していたはずの誰あろう五野静香である。
「私の特製機動兵器は全て破壊しちゃったの? 欲しがっていたと思うんだけど?」
静香が首を傾げて疑問の表情でゲーム少女を見ながら聞いてくる。
「回収しましたよ。爆発炎上しても、どんなに破壊しても回収できる方法を財団は持っているのです」
飄々と平然とした表情で静香に答える遥。マテリアル化して回収しましたなんて言う必要はないのだ。
「さすが財団ね。ちょっとありえない力を持ちすぎじゃない? でも、スーパーヒロインを擁する組織ならばそれぐらい当たり前なのかしら?」
肩をすくめて、不思議そうに聞いてくるが、ゲーム仕様なので仕方ないのだよと内心で思うゲーム少女である。
「で、この騒ぎの原因を教えてもらえますよね? そうしないと、ここに置いていきますよ? グールは今の静香さんなら襲いそうですが?」
今の静香からは殆ど力を感じないのであった。恐らくは機動兵器に力を注いだと言うのは本当なのだろう。グールには普通の人間として判断されるかも知れないレベルである。
腕を組んで、座っている椅子をギシギシ言わせながら静香が話してくる。
「ポテチって、美味しいと思わない? やめ時が難しいお菓子よね、あれ」
唐突にポテチの話を始める静香。確かにポテチは美味しい。サイダーとか炭酸系と一緒に食べ始めると止まらないと遥も思う。あの塩味が後をひくのだ。何も考えないで食べていると、あれ? いつの間にか無くなってる! ということもザラである。
でも、なんでポテチの話なのだろうか? なんの話と不思議に思いながら静香の話を聞く。
「それでね、この間大量に手に入れた小判があるじゃない?」
財宝トレジャーの時だろう。あの時は千両箱にジャラジャラと大判小判が入っていたのだ。全部静香が欲しいと言い始め分配に苦労したのである。
黄金の光を放つ小判、そしてポテチ。話の流れが段々わかってくる遥。そして静香の性質とポテチの話を繋ぎ合わせる。
「あぁ〜、もしかしてあれだけあった小判を全部食べたんですか?」
驚愕の表情で叫び自分の予想が当たっているか確認をする。静香は貴金属を食べて力を得るのだ。あの大量の小判を一気に食べたならどうなるのだろうか?
「お酒のツマミにね? 少しずつ食べるつもりだったのよ? 後は観賞用にしておくつもりだったのよ」
いつもは勿体無いし食べないのよと、手振りでアホなことを言い始める静香。やはり実は遥と同じレベルの知力ではないだろうか。即ち、知力の項目をステータスにもっていないのだ。
あれは数十億の塊だったのだよ? 上品と爺さんも言ってたのに、全部食べたのかよと、内心で呆れるゲーム少女。なんともったいないと思う。
「でも気づいたら、あまりの軽い感触と美味しさに全部食べてたのよ! お酒って怖いわよね?」
首を傾げて、妖しくないアホな笑顔で語る静香。どうやらお酒をチビチビと飲んでほろ酔い加減でつまんでいたらしい。そうしたらいつの間にか無くなっていたらしい。全てをお酒のせいにする化物がここにいたのである。
「でね、私は急激に力が上がったの。自分で制御ができないぐらい」
はぁ~と顔を俯け落ち込む静香。わかるわかると頷いて同意する遥。さすがに制御ができない自分は恐ろしいだろうと思う。常にレキに体の主導権を戦闘中に渡しているおっさんであるのに、それは意識していないらしい。
「参ったわ。小判は無くなるし、制御ができない自分が知らない間に、綺麗に棚とかに飾っていた宝飾品を食べちゃうのよ!」
俯いていた顔を上げて、うぬぬという悔しい表情を見せて静香が言ってくる。
遥の考えたことと違った。どうやら制御ができない自分が怖いのではなく、貴金属を勝手に食べ始めるのが悔しいらしい。さすが貴金属が絡むとアホになる静香である。
「困ったわ。このままでは知らないうちに家の宝飾品が全て無くなる可能性があったの。力を減らそうとドンドンと銃を作っても、ちっとも力は減らないし、どうやら最大能力のMAXが大幅に上がったみたいなのよね。それでドンドンお腹もすいちゃうのよ」
再び腕を組んでゲーム少女を見ながら話を続ける静香。困った顔をしているので、本当に困っていたのだろう。
恐らく本来のダークミュータントのエゴに飲み込まれて、本当の化け物と化すところであったのだろう。自我のおかげでぎりぎり心を保っていたのだろう。それか貴金属が減っていくことに危機感を覚えたか。後者かもしれないと、この女武器商人ならありえそうなことだと遥は考察した。
「それに、銃を撃ちまくりたくて仕方ない気分にもなっちゃうのよね。全ての生者を殺そうという気分が湧いてきちゃうのよ。そんなことをしたら貴金属を自分で集めなくちゃいけないじゃない? とんでもない話だわ」
そこで、ニコリと良いことを思いついたという表情をゲーム少女に向けて予想通りのことを話す、あくまで自己中心的な静香。銃を使うこともエゴにはあったらしい。なるほど、だから銃作成スキルがあったのだろう。
「最大能力を下げるには、どうすればいいか考えたのよね? それで思い出したの、どこかの可愛いお嬢様は化け物の力そのものを消していたってことに」
フフフ、と怪しく妖艶に口元をかすかに吊り上げながら、話を続ける。
「だから、私は自分の分体を作り出したのよ。それがあの3機ね」
なるほどと納得する遥。多分そんなことだろうと思っていたのだ。
「だから、さっさと先にガンリリスだけ集合場所に移動して、私の目を眩ませて、機体から降りた。そして遠隔操作でガンリリスを操って戦っていたのですね」
移動速度が速すぎるとは思っていたのだ。わざと最初に機体に乗り込むところを見せて、静香が中にいると意識させたかったのだろう。
「でも、無駄ですよ。集合場所に追いついたときに、すぐに中が空っぽなことには気づきました。3機ともですね」
ガンアベルとガンカインは最初から機体の中に人が乗っている気配はなかった。多分、AIが操っていたのだろう。なんかのアニメとかを参考にした性格をのせて。それが、集合場所についたら3機共気配を感じなかったのだ。
「あぁ~。容赦ないと思ったら、やっぱり気づかれていたのね。お嬢様が私を倒すことに葛藤を覚えるかもと考えてもいたのよ?」
頭を上げて、薄汚れた天井を見ながら静香はろくでもないことを言う。葛藤していたらどうしたのだろうと思う。だが、戦いとなれば慈悲は無いのだ。その時は仕方ないとあっさりとレキが倒していただろう。
「それで機体群を撃破されて、最大能力が大幅に削られて、静香さんは弱くなったのですね。もう弱すぎですよ? 初めて会った時と同じぐらいになっていると思います」
横にコテンと首を可愛く傾げて、弱体化しすぎじゃない? と思いながら遥は聞く。
「まぁ、大丈夫でしょう。作った銃には自動制御のやつもあるのよ。それが私を守ってくれるから、そんじょそこらの敵には負けないわ」
余裕な静香である。確かにガードビットとか遥も欲しかった武器があったのだ。あの系統のがまだあるのだろう。
「それにしても、ちょっと本気を出しすぎじゃないですか? 思わぬ苦戦を強いられましたよ」
小っちゃい口を可愛く尖らせて、ぶーぶーと不満を言う。かなり苦戦したのである。やばい時は念動雨を連打しかないかなと範囲攻撃による絨毯爆撃を考えていたのだ。その場合はレキから不満をブーブー言われた可能性もある。
まぁ、機動兵器との戦いは遥も楽しかったと思う。惜しむらくは、自分も機動兵器に乗って戦いたかったことぐらいだ。おちろ! とか、このカトンボめ! とか言ってみたかったゲーム少女である。
帰ったら、自分も遂に機動兵器を作ろうと、ワクワクしている遥である。
そんな遥の内心を知らずに、にやりと微笑み静香は言った。
「あら、PVPで舐めプをしないのはゲーマーのマナーよ」
そうしてこの騒動は終了したのである。
◇
遥は静香を背負いながら、ビルの屋上をぴょんぴょんと飛び跳ねながら移動していた。結構静香の胸がでかいことを知って、その感触がぽよんぽよんと当たり嬉しい遥である。もしかしてノーブラじゃ? この感触は! と戦慄もしている。ダークミュータントになってダイエットとか体型の崩れが無くなったのかもしれない。
「マスター、それは無いですよ? ノーブラだと胸が擦れて、凄い痛いんです」
ニコニコと癒されない恐怖を感じる凄みを感じさせる笑顔でナインが語りかけてきた。はい、すみませんと小声で謝る遥である。もはや完全に尻に敷かれているのかもしれない。まぁ、美少女に敷かれるのなら問題など全然ないのだが。
「それで、宝樹でしたっけ? あの面白話の弁解は若木コミュニティの人々になんて話すんですか?」
ぴょーんと大ジャンプをして、ビルの屋上からかなり離れたビルまで移動をしながら聞く。
「それなんだけど、私は契約社員ということで雇ってくれないかしら? 個人事業主ということで」
えぇ~と嫌な表情を見せる遥。こんな契約社員はいらないのである。問題しか起こさなそうだ。
「お嬢様は冷たいわねぇ。でも、武器を供給しているのは私だけなのよ? 財団は行いたくないのでしょう? きっと私の話を聞いてくれると思うの」
風に髪をなびかせながら、その髪を手で押さえながら静香がゲーム少女に視線を向ける。
「はぁ、わかりました。貴方の能力は財団にとっても興味があるかもしれません。ですが、雇われたとして給料はどうするんですか? 後、面倒な話は、私は嫌ですので自分で若木コミュニティの人々には話してくださいね」
もう面倒だなぁと思う。だが、静香はなかなかかっこいい機体を作るのだ。分体とか言っていたから貰うのは少し怖いが、他の武器はどうやら普通の武器らしい。まぁ、ゲーム仕様が本当に普通かと言われると頭を捻るが。
ならば、このまま武器供給を続けてもらおうではないか。契約交渉はツヴァイに任せようと考える面倒事を嫌う遥である。
「契約金は私の命を救ってくれたことでいいわ。給料は歩合制ということでお願いね」
「ようは今までと変わらないということですか? がめついですねぇ」
売り上げは自分のポッケに入れるつもりらしい。会社に利益を出すつもりはないのだろうか? 契約社員なのに。
「会社の利益は私が武器供給を続けることでどうかしら? 後は数パーセントの売り上げの一部を上納するわ」
数パーセントとはがめつすぎる。しょうがない人だなぁと嘆息してしまう。
「健康診断は定期的に受けてもらいますからね? もしも力が制御を超えそうなときは」
「えぇ、またスーパーヒロインさんに助けてもらうわ」
フフフと笑う静香である。遥も、まぁいいかと思うことにする。若木コミュニティへの説明は全てこの詐欺師に放り投げよう。
そんな雑談をしながら移動していたら、ようやく若木コミュニティが見えてきた。
「おでん屋さん、繁盛しているかなぁ」
繁盛していても、水無月姉妹だけでまわしていけてるだろうか?
「私は疲れたから、おでんで一杯ね」
空気を読まない静香が背負われながら、遥に言う。
「お酒は怖いのでは?」
そう静香に面白げな声音を混ぜて皮肉を言いながら、人々がたむろしているおでん屋を視界に入れるゲーム少女であった。




