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異世界ラーメン  作者: さいとう みさき
6/7

第6話始まりの街:アルカティアの場合

んー、ラーメン?

ラーメンだよ、ラーメン!

そうかぁ、らーめんかぁ~。


「ねぇねぇ、聞いた? 魔王が勇者様に倒されたんだって! これでこの街も安心だね」



 同僚のファルリーナはそう言って嬉しそうに仕入れたパンを持ってくる。

 

「まあ、私たちには縁の無いお話だし、こんな初心者ばかりの集まるようなしょぼい街に魔王軍が来るとも思えないけどね」

  

 私はアルカティア。

 「始まりの街」と言われるこの初心者冒険者が集まる街で飲み屋のウェイトレスをしている。

 

 「始まりの街」と呼ばれるここは王国の南方に有って、隣国とも良好な関係上、可もなく不可もない立ち位置の街である。

 近隣は王国や隣国の騎士団のお陰で治安はいいし、南方に位置するここは作物の出来も良い。

 

 なので非常に安定している代わりにこの街で冒険者に依頼がある内容はどれもこれも簡単なモノが多い。

 故に冒険者になりたての新米は自然とこの街にに集まる。


 結果「始まりの街」と呼ばれるようになったとか。


 まあ、そんな事はこの街に住む私たちにはどうでもよかった。

 重要なのは日々の安定と商売繁盛。

 初心者でも何でもお客さんがお店に来てくれればそれでいい。

 どうせここで飲んでいるお客さんはそのほとんどが駆け出しの新米冒険者。


 オーナーもそれを知ってか、うちのお店は比較的お安い価格帯になっている。



「もうやってるのか?」


「あ、いらっしゃーい。大丈夫ですよ」


 いつも通りに準備をしていたらどうやら本日最初のお客さんのようだった。

 仕入れた食材はファルリーナに任せて私は接客をする。



「何じゃ、こんな所で飯か?」


「ん、たまにはこう言うのもいいだろう?」



 この辺では珍しい黒髪に黒い瞳のそのお客さんは、娘さ……んにしてはちょっと大きいかな?

 女の子を引き連れてお店に入って来ていた。

 私は案内しながらテーブルについてもらう。


 黒髪の男性は見た感じ三十路前かな?

 冒険者にしてはやたらと軽装だけど……

 一緒に居る女の子は見た感じ十二、三歳くらいで真っ赤な髪の毛でドキッとするほど美しい。

 でも、年齢に似合わない大胆に胸元が開いた露出の強い服装をしている。

 

 冒険者じゃないよね?

 冒険者は成人となる十五歳にならなければなれなれないはず。

 この女の子はどう見てもそこまで年齢は行ってなささそうだし。


「えっと、メニューです」


「おう、あんがとさん」


 とりあえずメニューを渡して注文を取る。


「うーん、この辺だとこんなもんか? とりあえずこれとこれ、それと酒を二つな」



「え? こちらの方はまだ未成年に見えますけど……」



 未成年でお酒を飲んではいけないと言う事は無いけど、子供の頃からお酒を飲むのは良くないとされている。

 何だったけ、確か発育に影響があるとか聞いたような気がする。


「大丈夫だ、こう見えてもとっくに大人になっているからな」


「え、あ、そうですか…… 分かりました少々お待ち下さい」


 ちょっと驚きながら女の子を見るけど、どう見てもまだ成人しているようには見えない。

 まあそれでもお客の要望だから持ってくるけど、大丈夫なんでしょうね?  

 

 まさか本当は未成年で酔わせてこの女の子を!?


 そんな心配を頭の片隅でしながらお酒のジョッキを持ってくると女の子は嬉しそうにそれを受け取り高々と掲げる。



「さあ呑むぞ! 酒は久しぶりじゃてな!!」


「おう、それじゃぁカンパーイ!」



 かちん!


 ぐびぐびぐび!


 

 私の心配をよそに二人はジョッキを打ち鳴らしてぐびぐびとお酒を飲む。

 その様子を見て私はほっとする。


 あの男の人が言っていた通り見た目は子供でもお酒を飲む様子は手慣れたもので、やっぱり成人を過ぎている様だった。


   

「ぷはーっ! うまい!! おかわりじゃ、ジャンジャン持ってくるのじゃぁ―っ!!」


「あ、はいはい、ただいま~」



 あんなに小さな体であんな早いペースで飲んで大丈夫なのだろうか?

 まあ、そんな事いちいち気する必要はないのだけどね。


 私は言われた通りまたおかわりのジョッキを持って空になったジョッキと交換する。



「お待たせしました~。空いたジョッキ下げますね」


「うむ、そうじゃつまみはどうしたのじゃ?」


「今お持ちします、少々お待ちください」


 そう言いながら私は慌てて厨房に戻る。

 そして出来上がったお料理を持って慌ててテーブルへ行く。



「おお、来たのじゃ! さあ食うぞぉ~!!」



 そう言って彼女は早速料理に手を着ける。

 そして料理を食べてからピタッと止まる。


「うーん、旨いは旨いのじゃがなぁ……」


「うん? どうしたネヴァリヤ??」


 彼女はフォークで料理をつつきながら言う。


「人間の食い物は確かに旨い。しかし貴様のらーめんを味わってしまうとどうもな。どれもこれも美味いのじゃが届かぬのじゃ、わらわには……」


「無茶言うなよ。ラーメンとこの料理じゃ方向性も何も違う。これはこれで楽しむ方が良いぞ?」


「そう、なんじゃろうがなぁ…… しかしわらわはおぬしの作ったらーめんの方が良いのじゃ!!」



 何だろう、うちの料理が気に入らないのだろうか??


 何となく私はそれにムッとする。

 うちのお店の料理は確かに高級料理ではない。

 でも、新人冒険者たちから大絶賛され、安くて量もあってそして味も美味しいはず。

 ある程度名の知れた冒険者だって年に何回かうちの味が忘れられなくてわざわざここへ来ると言うのに!



「あ、あの……」



「ちょっといいかい、お客さん。うちの飯が気に入らないって言うのかい?」



 何か言ってやろうと思ったらたまたま厨房から料理を持って出てきた料理長が傍らに立っていた。


「うっわぁ……」


 この人、料理に関してだけはうるさい。

 ましてや料理長の作った料理に意見なんかしたら……


「ん? なんじゃ、わらわに用か?」


「ああ、そうだよ、お嬢ちゃんみたいなガキにはうちの飯の味はまだわからなかった様だな、これ食ったらとっとと出て行きやがれ!」


 

 どんっ!



 あ~、あれって料理長の得意とする豚焼きだ。

 こんがりと焼いた豚肉にオリジナルのスパイスを刷り込んだやつでこの店でも大人気のやつだ。


「ふむ、どれどれ…… あ~む、もごもご…… なんじゃ、こんなものか。まあ不味くは無いの」



「なっ!?」



 かっち~んっ!



 料理長は彼女が一つまみ豚焼きを食べてそう言うと真っ赤になって額に血管を浮かべてみるみる機嫌が悪くなってゆく。

 まずい、ああ見えても料理長って昔は冒険者でそこそこ名の知れた人だったはず。

 このままではお客さんといざこざが……



「ふむ、確かにスパイスが効いていて不味くはないがそれだけだな。チャーシューのように中まで味が染み込んでいればな豚肉の臭みが消しきれてないな」



「なんだと!? おいこらてめぇ、お前に料理の何がわかるって言うんだ!?」



 うわぁ、もう駄目だ。

 これって絶対に面倒になる!

 早くオーナ呼んでこないと!!



「ちょっと待ってろ、よっと」


 しかし黒髪の彼は慌てず異空間を開いて何やら取り出す。

 それは片手鍋の様なもので、何かが入っている様だった。

 

 彼はそれを取り出しふたを開け何かの汁につかっていた肉を取り出す。

 それはどうやら糸か何かで縛り付けてあるようで、彼はその糸をほぐしながら薄切りにしてゆく。


「よし、これで良いか。ほれ食っていろよ。豚肉って言ったらここまで煮込まなきゃだめだ」


「てめぇ、俺に対して料理で…… ふん、まあいい、どれ……」


 料理長はそう言いながら薄切りにされた肉をつまんで口に運ぶ。



 ひょい、ぱくっ!



「・・・・・・ んむぅっ!?」



 変な声を出してしばし。

 そしておもむろに二口め、そして更に三口目。


「な、何だこれ!? 冷めていると言うのにとろけるような口当たり!? 更に旨味が中までしっかりと届いているだと!?」


「どうだい? チャーシューって言う料理だ。これだけでもつまみで行けるだろう?」


 黒髪の男はそう言ってニカっと笑う。


「あ、あんたこれ一体どうやって作った!? あり得ない、ここまで旨い豚の煮込みでしかも形も崩れないのに口に入れればとろけるような旨さ、一体!?」


「ああ、こいつは特別な煮汁でしっかりと一晩煮込んだ。型崩れしないように糸でしっかりと縛ってな」


「ふふふふふ、どうじゃわらわのラーメン屋が作った、ちゃーしゅーは! うまいじゃろう!?」


「何時から俺はネヴァリヤのモノになったんだよ? まあこいつを温かいラーメンの上に載せると更に旨いんだがな」


 彼がそう言うと料理長の目の色が変わる。


「い、いったいその『らーめん』と言うのは何なんだ? この煮込み豚が更に旨くなると言うのか!?」


「うーん、まあ今のはとんこつの仕込み中だがそろそろ良いかな? 食ってみるか?」


「是非!!」


 え、えーと料理長が他の人の作った料理を食べたがるなんて……

 一体どんな料理なのだか。


 私が驚いていると黒髪の男性は立ち上がり店の外に出て行く。

 勿論料理長もそれについて行くのだった。



 * * *


「へい、おまちぃっ!」


 どんっ!



 驚いた。

 黒髪の男の人は外に出ると異空間を開き小さな荷車を引っ張り出した。

 その荷車は改造が施されていて、何かの料理を作るようになっていた。


 その荷車の端に料理長は簡易椅子を出され座り、目の前にお椀に入った何やらシチューのような物が出される。


 その様子を見ていた私の鼻に何やら少し臭みがあるものの、おいしそうな匂いが漂ってくる。


「おい、ラーメン屋! わらわの分は? わらわもらーめん食いたいぞ!!」


「ちょっと待ってろよ、まずはこっちのお客からだ。ほれ食いにくいだろうからこれ使うといい」


 そう言って黒髪の彼は料理長にフォークを手渡す。



「う、うむ、それではいただきます!」



 料理長はフォークを受け取りながらそのシチューを食べる。

 なにかスープの中から細長いものが出て来るも、それを口にした料理長の背景が真っ暗になって怒涛の如く活火山が噴火した!?



「うーまーいーぞぉ――――――っ!!!!」    


  

 どっか~んッ!!



「はいぃいぃっ!?」


 何それ!?

 料理長がここまで大騒ぎするほどおいしいの?

 嘘でしょ?

 この辺の料理でうちの料理長に敵うお店なんて無かったのに?


「なんだこれは!? 今俺の体の隅々まで豚のエキスが駆け巡る!! 豚の旨味だけが飛び出たこのスープ! 濃厚でいてコクがあり、そして油っこいはずなのに嫌な油っこさではない!? いや、塩味が絶妙に加わっていてむしろさっぱりにさえ感じるだと!?」


「う~ん、まあ仕込み具合としてはこんなもんか。ほれネヴァリヤの分だ」


「よしっ! わらわは替え玉もいるのじゃ、バリカタで頼むのじゃぁーっ!」


 あの女の子もいつの間にやら料理長の隣であの食べ物を食べ始めている。



「ごくり」


 

 料理長はあっさりとその食べ物を平らげ、おかわりを要求している。

 あの料理長がおかわりだなんて……


「ねぇ、アルカティア。あれすごく美味しそうだよね……」


「う、うん、一体何なんだろうね……」


 何時の間にやら私もファルリーナもふらふらと匂いにつられて荷車の近くに来ていた。


「ん? なんだあんたらも食うか?」


 黒髪の男にそう言われ私もファルリーナも顔を見合わせ頷く。


「「是非にも!!」」


 こうして私たちはその摩訶不思議な食べ物を口にすることになるのだった。




 ◇ ◇ ◇



「ふう~、あれからもう三日かぁ……」



 あの黒髪の男の人、確か「ラーメン屋」とか言った。

 私もファルリーナもあの衝撃の味のせいでここ数日まともに仕事が手につかない。

 料理長なんか土下座してあの黒髪の男に弟子入りを懇願したけど、あまりにしつこいので一緒に居た女の子に殴り飛ばされて白目をむいた隙にどこかに行かれてしまった。



 本当に何だったのだろう……



 あの濃厚でいてコクがあり、それでいてしつこ過ぎずあっさりな塩味のスープ。

 

「かえだまばりかた」とか言う追加で入れるあの細長いもの、あのスープと合わさると何回でも食べられそうになる。

 

 そして上に載った煮込んだ豚肉の薄切り。

 口に入れればとろけるような旨さ。

 他にも見た事の無い黒いクニクニした食べ物や、エシャレットとは少し違う緑のやつ。

 ゴマだと思う炒ったのも香ばしくて美味しかった。

 シンプルに茹でたキャベツもちょうどいい箸休めになっていた。

 

 それと、茹でた卵も半熟だけど何かに漬け込んだ様でしっかりと味が染み込んでいて、あの女の子じゃないけど私たちもそれをおかわりしたくなるほどトロトロで美味しかった。



「はぁ~、『らーめん』もう一度食べたいなぁ……」


「ファルリーナ、それ言わないで。私も食べたくてうずうずしちゃうから……」



 まさに夢のような食べ物だった。


 


「ちょっと、今あなた『らーめん』て言わなかった?」


 

 ファルリーナがそうつぶやいてぼうっとしていたら、丁度お店に入って来ていたお客がそれに気づいて聞いて来た。

 見れば珍しいエルフの女性のお客さんだった。


「え? あ、はい、言いましたけど??」



「『らーめん』だって!? おいちょっとその話私にも聞かせてくれ!!」


 ファルリーナがエルフのお客さんにそう答えるとまたしても他のお客さんが声をかけて来る。

 冒険者風のその女性は大きく目を見開きこちらにやって来る。



「『らーめん』ですか? ちょっとそのお話、私にも聞かせてください!!」


 更に更に魔術師風の女性もこちらにやって来る。


「わわわわ、一体何なのよ!?」




「「「『らーめん』ってあの『ラーメン屋』ね? とにかく今彼が何処いるか教えて!!」」」





 見事に声がハモる彼女たちに唖然とする私とファルリーナだったのだ。

   

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