9. 番外編?サブカプ誕生?
風が冷たくなってきた頃、お茶会の場所は居間に移動した。その日は特別に居間への出入りが認められた。
裏口から様子を伺い、いつものように使用人がいなくなったのを確かめてから、普段は立入禁止である区画へと向かう。
「ああミナトやっときたか。見てくれ」
部屋の窓際にあるテーブルにはティーセットが用意されている。フェリクスが椅子から立ち上がって私を出迎えた。しかしそのテーブルと私のいるドアとの間にある物が問題だった。
大量のレディース服。
トルソーに着せられた、きれい目ワンピースが数着。それとラックにかけられている服はその倍の数はある。これは全てドレスと呼ばれる類いではなかろうか。
「どうしたんですかこれ」
「正装は不要だと言っていただろう。だからアフタヌーンドレスやカクテルドレスを用意したんだ。ひとりでも着られるくらい簡単な服だけにしておいたぞ。別の部屋に商会の連中を待機させているから、気に入ったものがあればすぐに買ってやろう」
「……僕は男ですが」
「知っている。今日はこの服を着て茶会をしよう」
「いやそうではなく(女装男子。BLではありがちな展開だけども。だけども!)」
「さあ着替えてくれ。まずはそうだな、これにしよう」
フェリクスが淡い桜色の服を手に取った。フリルが巻き付くように使われているアシンメトリーなフレアスカートに、袖はレース状でひらひらし、首から肩にかけて開いているので抜け感も出ていて、裾に小花の刺繍が施されており、大変愛らしい。
それは良い。その服は認めよう。しかしだ。
「いやです」
「なんだと? 命令でもか」
王族というだけで大抵のことはまかり通る。特に平民相手には。
しばらく押し問答した後、私は負けたのだった。
「何をしている。早く着替えろ」
「……試着室とかないんですか」
「あるわけないだろう。女みたいなことを言うな」
さすがに着替えだけは見られるわけにいかないので、先程の件をのんだ代わりに部屋を出ていってもらうことに同意させた。
「そろそろか?」「まだです」「終わったか?」「待ってください」などのかくれんぼな会話をドア越しにしながら着替え終え、フェリクスを招き入れると、満足げな顔を浮かべて頷いた。
「思った通り、よく似合っている」
そして、私の目の前に来ると突然抱き締められ、好きだと告白された。
(えー……、本編と続編の合間にイベントですかぁ?)
ここで私が付き合う選択をした場合、ハイリスクハイリターン。付き合わない選択をした場合、ローリスクノーリターン。
「すみません。僕女の子が恋愛対象なのでお付き合いできません」
言わずもがな即答である。
私は告白ごときでドギマギするような柔なアラサーではなかった。さすがにもういい歳なので、こんなことで「きゃー☆まさか推しが……?!」などといちいち動揺することはない。
また、こういう時に妙な同情で「嫌いじゃないけど……」とか「私より他にいい人が……」などとなだめるとトラブルに発展しかねないことも知っている。付き合えないことを即座に伝えることが、相手を傷付けず、かつトラブルを招かない最良の対応なのである。
推しをなるべく傷付けないように、関係性がぎくしゃくしないように、という思いやりの方がお姉さんにとっては優先度が高い。もちろん断ること前提で。だからこその即答だ。
私には、世界で一番推しが好きだとしても、諦めきれない夢がある。
フェリクスは悲しげに了承すると、これからも友人として付き合っていくことで、私たちは合意した。ノーリスクハイリターンの最高の結末だ。
それから数着試着を繰り返され、その度にフェリクスから褒められ、恥ずかしい思いをした。
そして事件は七着目の試着の時に起こった。
(もういいだろ……。女装男子してもCPにはなれんのよ……)
いい加減疲れた私は、そろそろ断りを入れようかと決めかねていた。交際を断った手前、それなりの礼は尽くさないと、とフェリクスの自己満足に合わせていたが、さすがに連続女装はキツい。
「うーむ……。それではこれで最後にしよう」
ようやくフェリクスが諦めてくれた。
私はのろのろと服を脱ぎ、七着目のドレスに足を通した、その時だった。
「そういえば、最後にこのアクセサリーを……」
とドアが開いた。今までドア越しにやり取りしていたのに、突然、何の前触れもなく。
固まる私とフェリクス。
「……ミナトおまえ……女だったのか……」
夢の終わりは呆気なかった。
読んでいただきありがとうございます。毎日更新頑張ります。
星ひとつでもいただけたら励みになりますので、よろしければ応援ください。
感想はお気軽にどうぞ。