6. 進め!ミナト少年
無事に高等部へ進学でき、無事に入寮することができた。
フェリクスと同じ邸とはいえ、住まいは寮扱いとなった。敷地の隅にある元々物置小屋だったところが私の部屋で、小さな窓があるだけましのこじんまりした小屋。
あとは、厨房、洗濯室、洗面室、お手洗い、浴室が、お邸で私が出入り許可されているところ。だから他の部屋は知らない。
ちなみに食事は厨房で済ませている。寮の食堂がない代わりに食材使い放題なので作りたい放題なのだ。使用人の人たちがいない隙を狙って、お好み焼きもどきとか、餃子もどきとかを作っては食べていた。
使用人は、本邸から通いで来るだけで、常駐している人はいない。フェリクスが仕事で城に泊まり込むことが多いから、ここではさほど世話が必要ないのである。
王族にしては質素と評されているが、私には実に雅な生活であった。
入浴前後に使用人がいないことを確認しさえすれば、私の男装がばれることもない。むしろ個室があてがわれている分、中等部の寮より楽で、かなり自由にやらせてもらっている。
それに、週3で城の門番のバイトも始めて、なかなか高校生っぽい青春時代を得られていると思う。
進学後の生活でも、男装女子あるあるドキワクな展開は一切なかった。
心配なのは高等部の勉強だけだ。中等部とは全然違う、意識高い系の勉強を頑張るのだ。
休日は勉強に精を出し、夕方から夜は門番の交代要員で短時間バイト。順調な高校生活を送った。
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魔物を殺すことに抵抗がない私は、準備で武器を仕込む過程が一番わくわくする。特に好きだった授業は、森で過ごす野営訓練だった。食料の動物を捌くのも慣れたし、薬草の種類も結構覚えたし、魔物との実戦経験が積めたし、班別でも単独でもクリアする自信がある。
中等部はなかなかにサバイバルだった。
高等部はというと、外国語や歴史などの一般教養はもちろんのこと、魔術式学や戦術学や軍制学といったワンランク上の内容。面白いからいいのだけれど、私は士官を目指しているわけではないので、あまり為にはならない。
とはいえ、勉強は好きだし、考査ではきちんと上位をキープし続けている。一年半は絶対に退学したくない。
負けないこと、投げ出さないこと、逃げ出さないこと、特待生であり続けること、それがいちばん大事。
夏の定期考査でも成績上位に入れた私は、その日ご機嫌で帰宅すると、珍しくフェリクスと邸宅の玄関先でばったり出会した。
「丁度よかった。おまえに確認したいことがある」
「はい。なんでしょう」
「急だが今週末、もう明日なんだが、時間とれるか」
「はい、大丈夫です。用事は勉強くらいです」
「よし。歌劇に行くぞ。同僚から『行けなくなった』と譲られてしまってな」
「……歌劇鑑賞、ですか。僕でよろしいのですか? (超行きたいんだけどー!)」
突然の申し出に内心テンション爆上がりである。
「たまには息抜きもいいだろ。男同士で行くのもどうかと思うが……、まあボックス席だし気にするな」
「ありがとうございます。謹んでお誘いお受けいたします(ハイよろこんでー!)」
男同士でも全く問題ないのがこの世界。男と男が仲睦まじく触れ合っても、何ら不思議ではないだろう。
(男装してて良かったあ!)
ところで私は転生してから今まで王城内しか移動していない。街に行くのは初めてだ。果てに行ったときも王城内の転移魔法陣から行ったし、寮も学校もバイトも王城内。
実は、市井に出るのは怖い。物価とか治安とか、何も知らないからだ。さながら電波○年のヒッチハイク企画に近い。
フェリクスがいるからなんとかなる、と信じる。それに、楽しみの感情が大きすぎて、心配より歓喜で興奮冷めやらない。
当日は興奮しすぎて朝早く目を覚ました。
前日に焼いたパンの残りをつまんでから、休みなのに高等部の制服に着替える。歌劇に行く格好なんて分からないから、前世の知識で冠婚葬祭オールマイティーな、制服という無難な選択をした。念のため、今まで貯めたバイト代を持っていく。
邸宅の玄関先にスタンバってフェリクスを待った。
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サブタイは電波少年をもじってます。進め!より進ぬ!の時代でした。