5. 絶望の中の希望はやはり推し
続編が始まるまであと一年半。二年後には続編も終わる。
一年半後に第二王子ティトに「助けて」というシエロの声が届く。ティトがその声にしたがって向かうので、ティトがいないと果てがどこにあるのか私には分からない。とにかく王都から去るわけにはいかないし、同行するために騎士養成学校から離れるわけにもいかない。
幸い今回の騒動で功績を納めたことになり、高等部への切符が手に入った。
寮に戻り、ルームメイトたちに報告した。しかしそこで衝撃の事実に直面する。
「高等部に寮ないけどどうやって通うん?」
「は?! まさか?! 嘘だろ!」
(脇役で転生するとこんな突然ホームレスにされんの?!)
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高等部は生徒のタイプが全然違う。
近衛騎士候補の貴族とか、人脈目当ての商家のセレブ平民とかセレブ貴族とか、箔付けのための成金貴族とか、意識高い系しかいないのが高等部。王都に邸宅を構えられる人しかいないから、寮があるわけもなかった。王都に家がない私は、通うどころか、もはや王都にもいられない。食べていくためには王都を出て冒険者になるしかないだろう。
(嫌だ。私は負けない。こうなったら直談判だ)
果て生活で少しは気の置けない仲になった(と思う)第一王子の執務室へ初めて訪れた。予約必須だったので手紙を送って数日かかったが、なんとか約束を取り付けた。
「ご無沙汰しております、王太子殿下」
ウィルフレドは王位継承が決まったため、王太子となっていた。
「久しいな。果てにいた時のように私のことは名で呼んでもらって構わんぞ」
伸びた髪をかきあげながら、微笑を浮かべてそんなことを言う。無駄にいい男である。さすが私の初めての推しである。
「はい、ウィルフレド様。ありがとうございます」
それから早々に手紙に書いた内容へと話を持っていく。
「僕は平民で、王都に邸宅がないのです」
切々と窮状を訴えた。勿論それだけではなく、常に成績上位にいるので将来性があること、遠征において適応が早く即戦力になり得ること、冒険者でもやっていけるが敢えて国のために騎士団に所属したいという思い、などあることないこと訴えた。それこそ賞与面談のように。
しかし、結局は制度自体の改訂が必要で、改変には非常に時間がかかるため、私が高等部へ入る頃までに事が済むわけがないという結論しか出なかった。
私は落胆した。
転生してから、手に入れたチートなどない。自分で努力して技術を磨いて勉強してきたのだ。それなのにストーリーにも乗れやしない。これが雑魚キャラの運命とでもいうのか。
「だったら俺のところに来るか?」
そう提案したのは、同室で別の書類仕事をしていたフェリクスだった。ウィルフレドのもうひとつの人格フェリクスは、初登場時からの私の最推しである。
耳を疑った。
「俺は王位継承しないから別邸で好きに暮らしている。同じ城内だから学校には通いやすいだろう。どうだ?」
「……よろしいのですか? (いいいいいんすかぁ?!)」
「待て待て待て。平民を住まわせるだと?」
絶対正義マンのウィルフレドが口を挟んだ。
余計なことを言うな抜け作が。
「俺が許可したのだ。問題ないだろう。使用人は付けられないし、部屋は狭い物置しかないがな」
「当然です。僕ごとき平民を……置いていただければそれだけで……。感謝のしようもございません(ラッキィィイーー!)」
フェリクスは、渋い顔をしているウィルフレドの方に来て執務机に腰を置いた。
「ウィルフレド。将来騎士団に入ろうとする若者だぞ。温情くらいかけてやれ」
ウィルフレドは少し逡巡する素振りをしてから、長い溜め息をついた。
「果てにいた時の顔馴染みでもあるしな。よい。許可しよう」
これで夢の推し生活……ではなく果て生活を送れる算段がついた。
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タイトル変えました。迷走しております。
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