4. 「南の果てのアルカディア」
小説本編です。
第一王子であるウィルフレドは、弟ティトを自由にするため、自らの意志で父に逆らった。
「父の手の届かないところに魔石を隠さなければ、何度でも弟を同じ目に遭わせるに違いない。そんなことは絶対に許されるべきではない」
ウィルフレドは高潔で実直な王子だった。
そしてやって来た南の果ての地。ここで果ての少年シエロと出会う。疲れ切って倒れていたウィルフレドをシエロが介抱したことがきっかけで、二人は一緒に暮らすことになる。
城とは全く違う生活に最初は戸惑ったものの、魔物たちと心を交わし、土地の恩恵を受け、生きるとはどういうことかを学んでいく。ウィルフレドは果てでの暮らしをいつの間にか楽しむようになっていた。
ある日のこと、とうとう第二王子ティトの魔力暴走が発現した。ティトは自らの魔力で転移陣を生成し、知るはずのない果てへと転移してきた。しかも塔全体を巻き込んで。
実はウィルフレドが果てに来たのも偶然ではなかった。彼が王城から盗み出した魔石"ロカルナ"がすべて導いた結果であった。
──王族には、魔力過多により暴走を引き起こす素質を持つ者が生まれることがある。
遠い昔、かつて同じことが起こった時、ある土地からある魔石を持ち出し、魔力を押さえ込むことに成功した。そこで祖先はその魔石を王国の珠玉として国に安置することにした。それがロカルナと呼ばれる特別な石のこと。土地につく魔石と云われており、土地から離せば離すほど魔石の周りで災いが訪れると伝承されている。王家はそれを無視し、数百年もの間、魔石を国から出さずに一族のために行使し続けたのである。
ここでウィルフレドの出生の秘密も明らかになる。彼の魔力も例外ではなかった。故王妃は、ウィルフレドの出産時に大量の魔力を失い、その後に人並みの魔力に回復するまで10年かかった。11年目にティトを身籠ったが、運悪く二人目も魔力過多だったため、命を失ってしまった。
ウィルフレドの魔力は、彼が成長する前に押さえ込むことに成功している。人格を分けることにより魔力を半減させ、もう一人の人格だけを魔石に封印する手法で──。
ティトの魔力暴走は、魔石の中の魔力を放出するトリガーとして丁度良かった。溜まりに溜まった魔力は、時に創造の域にまで達する。
魔力放出により具現化したのは、封印したはずのウィルフレドのもうひとつの人格であった。
彼はずっと魔石の中から見ていた。
華やかな装いの貴族たちが宴で踊るところを。
煌びやかな宝石や衣装が献上されるところを。
そして、両親が自分ではない息子を愛するところを。
彼はウィルフレドによく似ていたが、その髪も目も色素は抜け落ち、天使と見紛うほどの美しさを持っていた。その天使が、「全部壊れるがいい」と悪魔のようなこと言い、ティトの暴走に加担した。
その時、塔と共に転移してきた国王が彼を止めた。国王は、王妃が彼をとても心配していたことや、幸せになるよう願いを込めてフェリクスと名付け、両親とも愛していたことを伝える。彼らは和解し、本当の親子となった。
最後はティトを止める。国王と共に転移した王弟も含め、王族一同でティトの魔力を少しずつ封じ込める。しかしティトの魔力は凄まじく、もはや努力と根性でどうにかするしかない状況になっていた。
すると、今まで傍観していた果ての少年シエロが、ティトの前に現れる。シエロは、片手でティトから溢れた魔力を悠々と吸い取っていく。ティトはいとも容易く抑えられ、気を失ってしまった。
シエロはただの少年ではなく、この地の守護者であった。果ての地が理想郷なことも、守護者の力の一部で保っていたに過ぎない。しかし、突然果ての外から来た者たちによって、理想郷は破壊されてしまった。シエロは、数百年ぶりに帰ってきた魔石と一緒に、次の果てを求めてこの地を去ることになる。
ウィルフレドはシエロに別れを告げた。
「またいつかどこかで会えると信じている。永遠の友よ」
こうして物語は結末を迎えたのだった。
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そう、話は終わったのである。
シエロはどこかへ行ってしまった。私を置いて。
冷たくないかシエロ君。いちおう同じ地で暮らした仲間なのだから、一言誘ってくれても良いのではないか。そもそも転生して夢が叶うのが定石ではないのか。よもや失敗することはあるまいと、楽しみにしていた果て生活。
(転生してこんなことってある?! よもやよもやだよ!!)
"南の果てのアルカディア"で失敗したのなら、続編の"世界の果てのアルカディア"で再挑戦するしかない。
次の主人公は第二王子ティト。
果ての守護者を指名した上位の存在が登場し、いよいよシエロの正体と魔石の秘密が明らかになる。続編のエンディングは果ての地を去ったりしない。次がラストチャンスだ。必ずや果て生活を手に入れてみせる。
絶対にあきらめないぞっ!!!
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