3. 出番はなくてもいればいい
主人公を追って魔石を取り返そうとする輩は、主人公に返り討ちにされる運命にある。いわば脇役の雑魚。その一人が私だ。
(ストーリーは絶対変えたくないよね! 魔石を取り返す振りはちゃんとして、あとは適当に住み着いてしまえば良いわ)
なにしろアルカディア=理想郷。
魔物は知を得、人と意志疎通ができ、皆が助け合って暮らし、土地は豊かで果実はたわわに実り、反対側には穏やかな海、野には花が咲き乱れ、山には温泉が湧き、清い川が流れる。
私はそれを知っている。
果ての地に名はない。だから誰にも尋ねることはできないし、地図にも載っていない。果てに一番近い転移魔法陣からスタートしたとはいえ、辿り着くのは容易ではなかった。
出遭った魔物に何度も話しかけ、その度に魔物を殺した。そうして三日目の朝に出会った魔物にまた話しかける。
「すみません、ここはどこですか?」
「ん? 外から来たの? 珍しいね。この地に名はないよ」
果てに到着したようだ。
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陛下の命により参上したことを王子殿下に挨拶し、力ずくで帰還を促すも、あっさりと負けた私は、王子の近所に居を構え、虎視眈々と機会を狙って……いる振りをして彼の肉体を鑑賞する毎日を送った。
(良き良き♪)
しばらくはこの安穏とした日々が続く。
この地で出会った果ての少年とともに生活し、心を通わせていくハートフルな展開だ。バカ正直でクソ真面目で善人すぎる嫌いのある彼は、この地での暮らしに素直に適応していくのである。
この物語は決してラブな内容ではない。むしろ友情やら家族愛やらの感動話である。
ではなぜメンズラブの教本と称されるまでに至ったのか。それは、腐女子に対して包囲網を敷いたキャラクター設定にあった。
王子殿下は聖人君子な王子様。悪く言えば愚直なトラブルメイカーだが、それは主役として当然あるべき姿である。学友たちもまたそれぞれ個性的で、ガサツだがいざというとき頼りになる男子や、甘いマスクなのに特殊魔法で王子と渡り合う男子や、気弱で優しすぎて王子の味方しちゃう男子や、王子をライバル視するクール系男子がいた。完璧すぎるゴレンジャーである。
国王陛下は典型的なイケオジ。物腰柔らかい紳士でありつつ、睨みを効かす様はぞくりとする。王弟は二人いて、色気むんむんセクシー担当と、ワイルド系マイルドヤンキー。独立しているミドルたちは妙な威厳を備えており、枯れ専でない私ですら魅力的に感じた。
果ての少年と第二王子は同世代。王子は女の子のように華奢で守ってあげたい系で、果ての少年は明るいムードメーカーでマイペース系。犯罪的ショタではなく良い塩梅の少年のため、薄い本に登場することも少なくなかった。匂わせに定評がある。
このように、10代~40代が揃って包囲しているため、どこかで撃ち抜かれるのである。
私は第一王子殿下推し。だったのだが、クライマックスに初めて登場したキャラクターに一目惚れした。ここにいれば、居続ければ、あのシーンに立ち会える。
彼に相見える。
(それまではとにかく現状維持よ! 優先すべきは目立たず観察することね!)
転生後にありがちなストーリー改編をしないよう細心の注意を払い、理想郷を堪能するのだった。
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